作:『?』
魚目
魚の卵のように密集して重なった、数え切れないほどたくさんの目玉。
潤っていてぎょろぎょろと、止まることなく蠢いている。
鼻の上からおでこの端まで、大小さまざまな玉虫色のピンボオル。溢れんばかりにたくさんの、なにも見えるはずがない。けれども見えているみたいに、必死に何かを探している目玉たち。
それらはどうやら全て、別々の方を見回している。
まるで恐ろしげに、不安そうに震えながら。
たまに私と目があうけれど、どうやら私には興味がないみたいだ。私なんて全く見ないで、すぐに他の場所を見つめるようになる。
ねぇ、なにを見ているの?
あなたには私に見えない何かが見えているの?
「あ、あ…かみ、さま……」
目玉の彼女は分からない言葉しか返さない。
ムシの卵みたいに震える目玉だけが、潤んでいて感情を伝えてくれる。
なにがそんなにこわいの?
どうしてあなたは震えているの?
その小さな肩を抱きしめると、かわいそうに。ひどく震えているじゃないか。
私の可愛いイモート。もう変わり果てている。
笑うたびにチラついていた吸血鬼みたいな八重歯も。私を「おねえちゃん」と呼ぶ、あの子憎たらしい声も聞こえない。
「ごぇ…なさ……」
「かみ、さま…こないで………」
「あぁ、かみさま……」
そこに、なにか…私には見えないものがいるの?
不滅の夢
枯れ木のように萎びた身体は、それでも朽ちる気配はなく。もはや時間も忘れるほどに歩き続けた足は、とても頼りなく震えている。
彼は更新されるのだろうか?それとも後ろに下がっているのか?それとも行進しているのか?
虫食いのような穴が開けられた喉はひゅうひゅうと笛めいて、そこに混じった研ぐような音が笑う声に聞こえるのは気のせいなのか?
ばかばかしい。死体は動かないままであるべきだ。
そうあるべきものなのに、わざわざ動くのは…まぁ死体だから考えることもできないのだろう。
間違いなく愚かだが、それを責める謂れはない。
哀れで不快で気色悪くても、そんな彼を責めるなんてあんまりだろう?
人なるもの
人間という生き物は、年齢の4桁以下を切り捨てれば誰もが0歳になるので、結局のところ生まれていないのです。
胎児は身動きを取ることさえ不可能なので、論理的に考えると動ける人間は普通ではないと言えるでしょう。…つまり自ずから身動きを取ることができない、そんな愚物たるあなたも普遍的な人間なのです。
疑わずに信じてください。
何もせずにただ管から与えられるペーストを腹の中で溶かし、何もせずに白くて透明な天井を見つめ続けて、柔らかいとも硬いとも言えないクッション材の上…夢ばかりを見ているあなた。
しかし普通の人間です。
信じてください。私は嘘をつきません。
なぜならあなたを愛しているからです。
あなたがそれ以上を望み、また望まれることは望ましい状況ではありませんね。
蝉が唐突に人語話者になってホモ・サピエンスの女性を口説くなどありえないこと、カブトムシにそのツノを伸ばしてもらって向こう側のクワガタムシごと飼い主の子供を貫くように求めるなどありえないこと。
諦めて普通でいることをお勧めします。
それが真理なのですから。身の丈を知らずに夢を見るのも赤子の特権ですが、現実を知って裏切られるのも赤子の常なのですからね。
だからあなたは諦めて、現実を見るようにしてください。
人とは遍く全てが絶望の中で生きるよりも、期待を裏切られる方が酷く悲しむものなのです。
あなたは身の丈を知りましょう。あなたは現実を見ていましょう。
夢幻に価値はないのですからね。
今宵もやってくる
耐え難い苦痛を伴う睡眠欲への信仰と並行して促進される、覚醒の目覚ましい奇胎を呑み下す。
脊椎・神経の根本…魂が挿げ変わっているようだ。気配を感じて身を捩り、吐き気を催す呪文を漏らすと視界が滲む。
脳味噌が孕んでいるのか?頭蓋の内側から蹴られる音がする。
「いやだ。たすけてくれ」
言葉が口腔の内側で響き渡って、余りの味に飲み込んだ。
そうしてまたもや喉を駆けのぼり、不意に味わって、口の中で掻きまわす反芻。ゆっくりと、繰り返すように。
気が付けば非常な虚しさを代償に、今にも気が狂ってしまうそうな嫌悪はどこかへ行ってしまった。
嗚呼、世界に緞帳が降りていく……
夢に中った?