今回の作戦の結果は散々だった。
つままれ、持ち上げられ、放り投げられ……軽い脳しんとうでふらふらのところを、数人がかりで押さえつけられたものだからたまらない。
あと、多分、あれ以上くっついていたら、多少本気で父上に怒られていただろう。そうなると私にはどうしようもない。
対象のさじ加減でどうとでもなる作戦など、失策確定である。
しかし、発想自体は決して間違っていないはずだ、と思う。
オロチさんは作中でも屈指の策略家なのだから、あてにしていい。
こういう方向性で発揮されるタイプではないって? そうかも。
ただ、これから先この方針にのっとるにせよ、変えるにせよ、早急に改善すべき点がある。
それは、私自身の強さだ。
邪魔にならないぐらいに強くないと、自殺を止めるどころか、一緒にいることすらままならない。
と、ここまで考えてとある恐ろしい事実に気付いてしまった。
そもそも、最低限役に立つぐらいは強くないと、捨てられる可能性がある。
父上本人は流石にそんなことをしないと思いたいが、問題は他の船員たちだ。
基本、百獣海賊団はカイドウの圧倒的な強さとそのカリスマによって統率されている。
私が彼らから下にも置かない扱いを受けているのも、カイドウの娘だからというだけだ。
今はまだ幼いからいい。けれど、もしも大きくなっても、弱いままだったら?
言い換えるなら、彼らの期待に応えられないほど私が強くなかったら?
強さだけがヒエラルキーのこの組織、私の地位は一気に暴落するだろう。
そうすると父上としても、組織の運営のため私だけを特別扱いするわけにもいかない。
たった一つ絶対のルールが意味を失えば、あとは崩壊するしかないのだから。
どっと一気に冷や汗があふれてきた。
心なしかめまいまで感じる。
いや、落ち着け。いくら中身が別人とはいえ、今の私はヤマト。
あのカイドウの血を引いている、何もしなくても並以上には強くなるはずだ。
原作の彼(彼女)だって、20年間幽閉されてたくせにあんなに強かったんだし。
でもじゃあ、あの自称おでんが檻の中で大人しくしていただろうか?
答えは断然NO。
絶対何かしら謎の自主トレーニングを積んでいたはずだ。多分、おでんの真似をして。
当然私にその選択肢はない。
やろうと思えばできる。原作通り、おでんの手記はどういうわけか、私の手元にあるのだから。
しかし、父上の自殺を止めようとしているのに、その自殺の原因の真似をするのは、何か見過ごせない矛盾を感じる。
下手に面影を感じさせて『かっこいい死』への憧れを加速されても困る。
あとは単純に私がおでんの真似をしたくない。
そして多分彼の真似は、必要に駆られて、などという生半可な気持ちで出来るものでもないだろう。
ではどうするのか?
何も案が無いんだなこれが。
しかめっつらでうんうん唸っていると、部屋の扉がノックされた。
如何にも神経質そうな規則正しい、小刻みなリズムの主は一発でわかる。
丁度いい、彼に相談するとしよう。
「入っていいよ、キング」
「失礼する」
「なにか用?」
「今日は様子がおかしかったからな、気になった」
声のトーンが幼女を気にかけるそれではない。
内通者なんかをあぶりだす拷問官のものに近いと思う。
名探偵に詰められた犯人というのは、こんな気分なのだろうか?
「別に、なにも」
「便所の近くまで張り付いて行こうとするのが、何も、なのか?」
いいだろうが別に!こちとら10歳の可愛い可愛い女の子だぞ!
愛らしくていいじゃないか!パパ大好きって感じで!
と、言い返すことはできない。
なんてったって、10歳の女の子は絶対にそんなこと言わないからね!
「……」
「観念したようだな。一体、どういう目的だ?」
「……言わない。絶対」
「ほう。絶対、か」
興味深げかつサディスティックな笑みを浮かべないでほしい。
もれてるんだ、マスクから。
カイドウの娘の私に、彼が何かすることはないだろうが。
少なくとも、現時点では。
百獣海賊団には私の目的を言えない。
彼らがカイドウの自殺を黙認していた(という表現が正しいかわからないが)のもある。
しかし一番の問題は、彼らから父上の耳に入ることだ。
自殺をしないでほしいという私の願いは、恐らく父上に受け入れられないだろう。
なぜなら、あくまでも彼の人生哲学にのっとった、前向きな行動なのだから。
したいこと、するのが正しいと思っている人の考えを変えるのは、とても難しい。
説得するつもりで逆に逆鱗に触れてしまい、余計に意固地にさせることも多い。
それに、これは私のエゴだから、私が望んでいること自体知られるのが躊躇われた。
なまじ言っている事が理解はできる分、説得しずらい。
口に出すことが、彼の人生をまるごと否定することになるのではないか、と考えると怖い。
止めようとはしているのだから、口に出さなくても手は出そうとしているのに、我ながら勝手なものだ。
「……キング、目的は言えないけど、ヒントはあげる」
「ほう、お優しいことだな」
「私は強くなりたい。できるなら父上より」
「………」
彼が目を見開いたのが分かった。
楽しそうだ、とても。
思わぬプレゼントをもらったみたいに。
「なるほど、蛙の子は蛙……龍の子は龍、と言ったところだな、お嬢」
……ん?
何か返答がおかしい気がする。
一体何の話をしているんだ。
あれか?私も父上みたいな酒癖の悪いメンヘラになるって言いたいのか?
ならないよ、多分。
「そういうことなら俺はお嬢の敵になる」
「どうして?」
「俺がついて行くと決めたのはカイドウさんだからな」
どういうことだ。
自分がついて行くと決めたカイドウより、強い存在なんて許さないってことか。
いや、キングはそういう面倒くさい拗らせノリでもないだろう。
本当に何の話?
「とはいっても、カイドウさんの娘の頼みは断れない。
いいだろう、トレーニング内容を考えておいてやる」
「ありがとう」
「せいぜい強くなるといい」
どうしよう、キングがおでんみたいなこと言いだした。
そういう父上の傷をえぐるような真似をしないでほしい。
今の私は父上以上にその点敏感だぞ。
「ではな、メニューを用意次第またくる」
「わかった」
見聞色の覇気、なんてものを身に着けていない私は知らない。
扉の外でキングが何と言っていたかなんて、想像すらできなかった。
「まさか、ヤマトお嬢がカイドウさんを倒し、百獣海賊団の船長の座を奪おうとしているなんてな……」
現状
主人公(ヤマト)「父上死なないで」
クイーン「ヤマトお嬢の可愛げがなさすぎる件」
キング「さすがはカイドウさんの娘、と言ったところか」
オロチ「あのガキ、カイドウの娘だから無碍にもできねぇしめんどくせぇ」
カイドウ「かっこよく死にてぇ!」