求、父親の自殺をやめさせる方法   作:麻寿津士

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全体的にかなり書き直しました。


求、命の危機から身を守る方法

さて、前世の記憶を取り戻した私だったが、その表現は実のところ的確ではない。

実際には前世というものがあったという記憶と、漫画ワンピースに関する知識を取り戻した、というのが正しい。

なぜなら、私には前世の私というものに関する記憶が一切ないからだ。

 

具体的な思い出などは勿論の事、どういうところで育ったのか、両親についてや兄弟の有無。

好きな食べ物や苦手な食べ物、お気に入りの場所や音楽、趣味や特技。

それどころか、自分自身の名前すら憶えていないのだから。

 

学校の成績や無駄なトリビアなど断片的に覚えている個所もあるけれど、余りにもばらばらでとりとめがなく、私がどういう人間だったかを確認するのは不可能だ。

ワンピースに関する知識は覚えてる限りしっかりあるので、かなりお気に入りの作品だったとは思うけれど、それだって推測に過ぎない。

 

今の私は私ではあるが、この性格や自我だって前の私と地続きとは限らない。極論、全くの別人かもしれない。

前世の私は、間違いなく終わってしまって、消えてしまっている。

多分、死ぬとはそういうことなのだ。

なんのかんのといったって、結局はそこでおしまいで、その人自身は、何一つ残りはしない。

 

思い出せないことの多さに気づくたび、私は前の私の事を考えて、地面が消えうせるような、底冷えのする恐ろしさに冷や汗をかく。

 

だから私は、父上に死なないでほしいのだ。

終わり方にこだわってそこから先を捨てるなんて、滑稽にもほどがあるじゃないか。

死なないならそれに越したことはない。死が遠ざかればその分、一緒にいられる。

あんな何もないところへ行こうなんて、考えることすらしないでほしい。

 

とは言ったものの、今の私に父上を止められるようなものは何もない。

 

しいて言えばおでんの日誌ぐらいのものだが、あんな超危険情報は封印だ封印。

一応一通り目は通しておいたものの、文字通り世界が一変する様な情報のオンパレードで脳みそが裏返りそうだった。

あんな怖いものは扱えない。しかし、原作で必要なタイミングで出せなければ、それはそれで世界の在り方に関わってくるので捨てることも出来ない。

 

なので私はなるべく楽な方に逃げた。

すなわち結論を出すのは先延ばしにして、今すぐできることをすること。

具体的にはキングの組んだメニューにのっとり訓練を重ねて、強くなることである。

 

のだが。

 

「おばぼぼ……」

「キング様!お嬢が!」

「助けてやれ」

「はいっ!」

 

その逃げた先のトレーニングで絶賛死にかけています。

本当にどうしてこうなったんですか。誰か助けてください。

 

祈りが通じたというよりキングの指示が早急だったため、私はあっさりと海から引き揚げられた。

必死に自分の胸を叩いて海水を吐き出す。せき込むと塩辛く生暖かい液体が、口からびちゃびちゃと砂浜にこぼれた。

 

キングが知っているかは知らないが、水は大変に危険な物体で、足首がつかるぐらいの水深でも人は死ぬ。

心臓発作を起こしてペットの水飲みの皿に丁度顔を突っ込んでしまい、溺れ死んでしまった例があるぐらいだ。

本当にどうでもいいことばかりはっきり覚えているな。

 

いや、それは良くて、とにかくだ。

10歳の子供のトレーニング方法として、力尽きて溺れるまでとにかく泳がせるというのは絶対、絶対に間違っている。

他にも倒れるまで走り込みとか、倒れるまで正拳突きの練習とか、倒れるまで腕立て伏せとか。

 

今日日育成ゲームでももうちょっと体力考える。トレーニング失敗でバッドステータスつくぞ。

死んだらどうしてくれると思ったのも今回が初めてではないが、喜ばしいことに何とか息はある。

父上、ありがとう。あなたのおかげで娘の体は頑丈です。

 

しかし、だ。

 

「今日はかなり持ったな。記録が大分伸びたぞ」

「……そう」

 

しっかり力はついてるのでこん畜生。

この前走っていてうっかり他の船員とぶつかって、私じゃなく向こうがしりもちをついた時にはびっくりした。

まあ、向こうは私の倍はびっくりしただろう。大丈夫か声をかけて、手を差し出したら逃げられたのには普通にショックだった。

 

「まだまだこんなものでへばっていては、カイドウさんの足元にも及ばないぞ」

「わかってる」

 

後の四皇だぞ四皇、しかもあの白ひげやビック・マムをも押しのけて、『一対一(サシ)でやるならカイドウだろう』といわれてるんだぞ。

陸海空、生きとし生けるものたちの中で、『最強の生物』とまで言われてる。

原作でどれだけルフィたちがボコボコにされたと思ってるんだ。勝てるかあんなもん。

いや、勝てないと止められないんだが、主に特攻(自殺)を。

 

「……強く、ならないと。父上より」

 

もしそうなったら、多少喜ぶか面白がるかしてくれるかなぁ。

世の中に退屈してる部分もあったみたいだし、こう、後続の追い上げでやる気が……。

無理かなぁ、無理かも。多分、どれだけ強くなったとしても、流石に世界政府との全面戦争より面白れぇ女にはなれない。

 

「くっくっく……」

「……なんで笑ってるの、キング」

「いや、べつに」

 

まあそりゃ面白かろうよ、カイドウより強くなるとか世迷言もいいとこだもんね。

実際可能性としては天文学的確率なので、そのうちまた別の策を考えないといけない。

 

「どうしよ……」

「悩んでる所悪いが、そろそろトレーニングを始めて半年。

 正直予想以上だ。なかなか仕上がってきている。

 次の遠征には連れていくよう、俺からカイドウさんに相談しておいてやった」

 

は?ぱーどぅん?

いや、嬉しいよ。正直キングはあまり人を褒めるタイプではないから、そんな彼から予想以上なんて言ってもらったのは、本当にうれしい。

なんならガッツポーズを決めてしまったぐらいだ。

でもその後の言葉が頂けない。

何とおっしゃいましたか?遠征に連れていくと?

模擬戦どころかろくに武器も握らせてもらったことがないんだが?

 

「次の目的地はトーカイ海域……不満か?

 無理もない、なにせ、イーストブルー並と言われてるからな」

 

そうじゃない、そうじゃないんだキング。

ってか、新世界のイーストブルー並って絶対にイーストブルー並ではないでしょう。

前半の海をパラダイスなんて呼ぶセンスと感覚の連中だぞ。

絶対普通に死ぬと思う。今度こそ死ぬ。

 

「とはいえ、今のお嬢にはそれぐらいが適当だ」

「……本当に?」

「そう怒るな。安全も最低限、確保しねぇといけないからな」

「……分かった」

 

その言葉は最低限安全は確保してくれると受け取っていいんだよな?

約束だからね?キング?

破ったら針千本飲ませるぞ。怨霊にでもなんにでもなってやるからな。

いや、とはいっても律儀なキングがそういうなら、信じていいだろう。

死ぬ心配はほぼなくなった。多少大怪我はするかもだけど。

 

「……そういえば、父上はなんて言ってた?」

「楽しみだ、と」

 

よーし、その言葉でやる気百倍、元気出てきた。

頑張るぞ!

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