さて、何のかんのと迎えた初遠征の日。
準備する物やことは殆どない。それなりの船団を組んで出向するので、準備も当然それなりの規模になる。
全体でまとめて決めてやってしまうので、一人一人がする旅支度と言えば、着替えと個人の嗜好品ぐらいのものだ。
そして私といえば、下にも置かれぬ扱いのお嬢なので、着替えだのなんだのも準備される側なのだ。
一応、事前にチェックしたらやたらとフリフリの服が数枚あったので取っ払っておいた。
奥さん、自分戦場に行くんですよ。こんな動きづらい服着てて万一転んだら一発でお陀仏ですよ。
突き返されたお姉さん方は、かわいいのに~と唇を尖らせながら去っていった。
しかし、可愛いだけじゃ生き残れないのだ。この世は無情である。
さて、服はいつもの着物と袴でいいとして、個人の嗜好品の方も正直私は余り準備が要らない。
単純に持ち物が少ないのだ。ぬいぐるみの一つでも持っていったら子供らしいのかもしれないが、そのうち本物に近い人たちであふれかえるのを知っていると、いまいち意欲がわかない。
では変わり種ではどうかと思ったが、恐竜だなんだに関しては、つい先日鉄製のマジもんを見たばかりである。
今度龍のぬいぐるみとかねだってみるか……いや、ファザコンすぎて引かれるかもしれないからやめておこう。
そんな風にうだうだ考えていると、コココン、と小刻みに規則正しいノックが扉をたたいた。
「開いてるよ、キング」
「支度は済んだか」
「うん。持っていくものも無いしね」
私の言葉にキングは部屋をぐるりと見まわし、本当に何もないなと呟いた。
つられてわたしもじぶんのへやを確認する。
ベッド、衣装ケース、本棚には数冊の絵本と海の戦士ソラのスクラップブック、子供サイズの机といすに、お勉強のための教材。
以上だ! ……以上だ。
我ながらびっくりするぐらい何もない部屋だった。ちょっと殺風景すぎる。
「必要なものはそろってるよ」
言い返して首をすくめてみせると、キングは少し呆れた様子だった。
自分でもこれはちょっとあんまりな気がするので、そのうち増やしていくことにしよう。
さて、やたらと足の長い彼の後ろをちょこちょこついていけば、いよいよ船の上。
しばらくはここで生活することになる。しかも当然、私と父上は同じ船に割り振られた。なんなら部屋も向かい側だ。
いくら巨大とはいえ、閉ざされ限られた空間である。これなら張り付き放題というわけ。
しかし、無暗について回っては前回の二の舞だ。あと思い返すと普通に迷惑だったと思う。ごめん父上。
反省を踏まえ、今回は邪魔にならないよう一定の距離を保つこととする。具体的には同じ部屋にはいるけど、相手の視界には入るか入らないぐらいの感じだ。
ずっと見られているのも気が散るだろうし、見ている事もなるべく隠したい。幸い、キングから暇つぶし用の本を貸してもらえたので、これを読みながらチラ見することとする。
……何か方向性が間違っている気がするが、こういうのは気にしたら負けだ。
ちなみにキングの本は、一応娯楽小説ではあったけれど子供向けでも何でもなく、普通に一般小説だった。
少なくとも子供が理解して楽しめる語彙と内容ではない。彼は私の年齢を知らないのだろうか。
いや、中身は10歳を過ぎてるんだけどね、多分。
さあ、いざ会議室。本来なら限られたメンバーしか入れない部屋だが、無論私は顔パスである。私の歩みを止められるのは、今のところ父上とクイーンとキングぐらいだ。
なるべく静かにドアを開けると、丁度何か話し込んでいる最中だった。勿論、邪魔はしませんとも。
部屋の隅にあった椅子に飛び乗り、本を開く。
――ちらり。
飛び交うのはいくつかの島の名前と、目的地であるトーカイ海域の周辺情報。
内容から察するに、航路について話し合っているのだろうか。
グランドラインの天気や気候は気まぐれという言葉では片付かないので、さぞかし大変なことだろう。
――ちらり。
父上は何やら棚から資料らしきものを引っ張り出してきて、数冊並べている。
ちゃんとしてますね、そういうところが本当に尊敬できる。そう、私の父上とても真面目なんです。
迷わずページをめくっているところを見るに、相当読み込んでいてどこに何が書いてあるか、大体把握しているんだろう。
憧れちゃうなー!
――ちら、
ぱち、と父上と目が合った。
……まあそうなりますよね、盗み見るとはいえ滅茶苦茶見ちゃってたもんね、そもそも、わざわざ部屋にはいって来てたしね。私の馬鹿。
「ヤマト、何か用か?」
「別に」
「……来い」
手招きされるままに近寄ると、軽々抱き上げられる。片手で。
そのまま膝の上にちょこんと収まった。
何事かと頭上の顔を見上げると、テーブルの上を見るよう促される。
そこには海図と、何冊かの資料、いくつかの永久指針。
「ワノ国はここ、今俺達がいるのはこのあたり、そして目的地はここだ」
太く逞しい指先が、繊細な動きでするすると紙の上をすべる。
とにかくなにも見逃すまいと、目を見開き、瞬きすら惜しんだ。
一瞬の間で酷く緊張して、喉が渇く。
なにせ、こんな風に何かを教えてもらうなんて、初めての事だから。
「どういう航路を行こうとしてるかわかるか?」
「えっと……」
まずいまずいまずい、盗み聞きはしてたけど、言ってたことは正直1割も理解できてない!
パニックで体が固まり、脳みそが空回りにフル回転する。
馬鹿の考え休むににたりとはよく言うが、休んでいたら体が回復する分まだマシじゃないだろうか。
どうにか極端な一般論に縋りつき、導き出した結論は考える必要もなかったぐらい、単純そのものだ。
「こう、かな」
いくつかの島を経由するように、指で線を引く。
「何故そう思った?」
「補給とかいるし……永久指針の磁気も拾いやすいかなって」
聞いてきた声が思っていたよりもずっと優しかったので、どうにかつっかえずに理由を話す。
海上で自分の居場所が分からなくなる=死だ。それは前の世界でもこの世界でも違いはない。
なるべく陸地を経由していけば、その不安は限りなく減る。
実際、結構最近まで向こうの世界は、海岸線沿いに航海するのが鉄則だったというし。
ところで、素晴らしいことに数学を使えば、いくつか点から方向を割り出し、線を引き、その交点を求めればどこにいるのか一発でわかるらしい。
残念ながら私は数学が苦手だったのか、三角関数を使うらしいということしか覚えていない。
多分クイーンあたりは出来るんじゃないだろうか。
「発想は悪くないが、間違いだ」
父上が指で線を引き直す。さっきまで散々みんなと話し合っていたとは思えない。
いや、だからこそだろうか、迷いなく滑らかに指先は滑っていく。
私がひいたものよりもずっとシンプルで、立ち寄りも少ない。
「なんでかわかるか?」
「……そんなに補給は頻繁じゃなくていい?」
「そうだ。商船や遊覧船じゃねぇんだ、そんなにゆっくりはしてられねぇ」
そういうとぐりぐりと頭を撫でられた。体格に差がありすぎるので、撫でる、というより覆うのに近い。
ほんのりとした、温かい体温に頭全体が包まれる。本当に、安心する温かさだ。
「俺がやってることが気になるなら、そう言え。
いくらかは教えてやる」
「……ありがとう」
照れくさくて顔を伏せたので、父上や周りの表情は分からない。
が、ほほえまし気な感じなのではなかろうか?
そんな風に考えていた私は全くあずかり知らない事だが、この日の出来事は次のように周囲には伝わっていたらしい。
曰く、カイドウさんはヤマトお嬢の
日間二次創作ランキング4位ありがとうございます。
驚きすぎてスマホぶん投げてしまいました。