求、父親の自殺をやめさせる方法   作:麻寿津士

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求、憧れの武器に相応しい心構え

子供の睡眠時間は長い。単純に体力がないというのもあるが、基本的に未成年の体は作りかけだ。

特に成長ホルモンは午後10時から午前2時の間にもっともよく分泌されるといわれている。

これに関しては前世の知識ではなく、クイーンから借りた本に書かれていたことだ。

 

思えば、暇つぶしをねだって、本と試作武器の二つを差し出され、本だけ手に取ったのは悪かったかもしれない。

しょうがないじゃないか。うっかり触ったら指全部なくなりそうな見た目してたんだから。

 

とにかく、父上を止める上で体が大きいに越したことはないので、私は当然10時までには寝ることにしている。

遠征でもそれは変わらない。早めに夕食をとる面々に混ざって、きっちり皿を空にし、なぜか船内に備え付けられている大浴場の女湯でお姉さん方にもまれ、部屋に戻ると丁度いい時間だ。

 

今日はキングのトレーニングがなかったため、体力に多少余裕がある。

いや、むしろ余っているぐらいだと、感じてしまう自分が怖い。

多少ねつきに不安はあるけれど、ベッドに入って目をつぶってしまえばどうとでもなるだろう。

 

風呂上りに髪を乾かし、自室へ向かって歩いていると、ちょうど部屋から出てきた父上とばったり出くわした。

そういえば、父上は今から食事の時間だったなとスケジュールを思い出す。

別にストーカーとかそういうわけでは決してなくて、航海の最中の食事時間はシフト制に組み込まれているので、何となくではあるが、全員お互いに誰が何時ぐらいからごはん、というのは把握している。

 

「なんだ、ヤマトもう寝るのか」

「子供だからね」

 

何がおかしいのか笑い出した父上の横で、最近すっかり聞きなれたキングの笑い声が聞こえる。

父上の体の影になって見えなかったらしい。大きいから仕方ないね。

ひとしきり笑った後、丁度良かったと父上は一瞬部屋に戻って、また出てきた。

 

「お前に用があってな、寝る前に間に合ってよかった」

「よう?」

「これだ」

 

ぽん、と何でもないように差し出されたそれは、そんな風に簡単に渡してよいものではなかった。

少なくとも、私にとってはそうだ。

吸い込まれるように手を伸ばし、触れる。金属製のそれはひんやりとして、冷酷な鈍い輝きを放っていた。

父上のものよりも細く、金属バットのような形状で、とげも丸くこぶのようなそれは、しかし間違いなく金棒だ。

ヤマトの、金棒だ。

 

持ち上げてみるとずっしりと重い。軽く振ってみたが、少し重量に腕が引っ張られてしまった。

使いこなすにはそれなりに練習を要するだろう。

しかし、それでも、なんにせよ、だ。

私の、武器だ。それも、父上とお揃いの。

 

「随分気に入ったようだな」

 

茶化すようなキングの言葉にはっとする。父上の方を見てみると、嬉しそうな、興味深げな、悪戯が成功した子供のような、にやりとした笑みを浮かべていた。

これは普通に恥ずかしいしいたたまれない。照れ隠しと顔を見られたくない一心で、礼儀正しく頭を下げる。

 

「ありがとうございます……」

「ああ、いい、気にするな。部下の武器の面倒を見るのも、俺の仕事だ」

「部下……」

 

確かに言われてみればなるほど、遠征に参加し、百獣海賊団の一員として戦うのだから、確かに私も父上の部下の一人になる。

心躍るような、気が引き締まるような、背筋が伸びるような、浮足立つような。

不思議な感覚とプレゼントの喜びに、なんだかふわふわと興奮が体を熱くする。

 

「しかし、まあよく振れたもんだ、50kgはあるって話だったが」

 

ん?ごじゅっきろ……50kg!?

それ私の体重より重くないか!? なんで普通に持って振れてるの!? おかしいだろ!?

寝てる間にクイーンに人体改造とか受けてたのか!?

 

まじまじと金棒を確認し、軽く叩いてみる。

驚いたことに、返ってきた音は空洞のそれではなく、みっちりと中にものが詰まっている感触がした。

こんなもので殴ったら人が死ぬのではなかろうか。いや、殺すための武器なので当然といえば当然なんだけど。

 

ちらりとキングを見れば、心なしかマスクの奥の視線は得意げだった。

そうですね、貴方のおかしなトレーニングのおかげですね、ありがとうございます先生。

今後はもう少し手心というものを覚えて頂ければ、幸いです。

 

「振れているといっても、まだ重さに腕がつられてます。

 ヤマトお嬢、明日からはその金棒で素振りをしてもらうぞ」

 

倒れるまで、という注釈が言われなくても聞こえてくる。

いいや、聞こえない、聞こえないですよ。

折角の父上からのプレゼントでテンションが上がっているのに、そんな寒気がするような現実を叩きつけないでほしい。私はもう寝ますので。

 

「いいな?」

「……わかってる」

 

わかってるからそんな風に確認をとらないでほしい。何のかんのといっても使い慣れない武器で参戦するほど、私も馬鹿じゃないのだ。

生き死にに直結してくる話なので、ここは大人しくキング先生の言う通りにすることとする。

 

「それじゃ、おやすみ、父上。キングも、明日からまたよろしく」

「おう、おやすみ」

「しっかり休んでおけよ」

 

その日、ベッドの中まで金棒を持ち込んだのは秘密だ。ひんやりしていたのがよかったのか、案外熟睡できた。

冷静になってから考えると、よくもまあベッドが壊れなかったものだ。

 

さて、次の日からのキングとの訓練は限られた船の上、これまでは鬼ヶ島のすみっこのほうでつつましくやっていたが、ここにきて普段手伝いをしてもらってる人達以外の船員の目にもとまることとなる。

最初はやんやと応援してくれていた彼らだったが、素振りの回数が400を超えたあたりから言葉少なになり、900を数えたあたりで完全に沈黙した。

すっかりドン引きである。しかし驚くなかれ、キングの訓練は倒れるまで続くのだ。

 

倒れるまでといったら、本当に倒れるまでだ。

汗だくになってある程度疲れたらとか、腕が上がらなくなったらとか、そういうことではない。

汗が干からびるまで振り絞り、上がらなくなった腕を無理やりにでも振って、体が一切動かなくなり、立っていられなくなって倒れるまで続く。

 

なので回数は成長の指標以外の意味を持たない。

終わる様子の無いトレーニングに、ギャラリーは死刑の執行か殉教者を見守るような何とも言い難い視線を向ける。

いいぞ、そういう目でもっと見てくれ。そしてキングにアピールしてくれ、こんなトレーニングは間違っていると。

しかし残念ながら、生粋のサディストであるところの彼には民衆の憐れみなど、一ミリも、一ミクロも、響かないらしい。

無情に淡々と回数を数えるのみだ。

 

いよいよ限界が来て、本当に倒れると救護班が呼ばれた。これもいつもの事。

取り囲んでいた船員たちは、号泣しながらある者は拍手し、ある者は両手を組んで祈りを捧げている。

ノリがいいね、君達。でもこれ今日限りじゃなくて、遠征が続く限り毎日だからね。

 

正真正銘指の一本も動かない体でそんなことを考えていると、ぐいっとやや乱暴な、けれど優しい手つきで抱き上げられた。

キングではない、彼はこんなことしないし、救護班はいつもタンカだ。

誰かと思って唯一動かせる眼球で何とかみると、あろうことか父上だった。

思わず慌てて立ち上がろうとするが、電池の切れた体ではどうしようもない。

 

「いつもこうなのか?」

 

問いかける声には呆れの色も、怒りの色も、関心の色も感じ取れなかった。

ただ、おしはかるようにこちらを見ている。

どうにか顎を動かして、こくりと頷く。

 

「なぜここまでやる?」

 

あなたの自殺を止めるため、とは口が裂けても言えない。

 

「……ひみつ。特に、父上には」

 

息も絶え絶えにそう言って、私の意識は途切れた。

心の中でどれだけ文句を言ったって、本当のところはちゃんとわかってる。

まだまだこんなものじゃ、全く追いつけやしないのだ。

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