初陣での働きを父上に褒められ、浮かれ騒いで1週間。そこからさらにもう少ししてからのこと。
膝の上という至近距離で久々に泣き上戸を見せつけられ、大粒の涙に服を濡らされ、文字通り私は冷や水を浴びたような気持ちになった。
父上の死にたがりは一向に変化を見せないのであるから、未だ私は何も成し遂げられていないのだ。
というわけで、今回の作戦はリサーチから開始することとする。
調査対象は百獣海賊団の船員から無作為選出、といえば聞こえがいいけれど要するにすれ違った人会った人、一人一人に片っ端から聞いていくスタイルだ。
サンプル数はいい感じの案が固まってくるまでとする。専門家が聞いたら鼻で笑って吹き飛ばしそうだなこれ。
テーマは簡単、自分がされて嬉しいこと、喜ぶこと。
日々の生活に喜びがあれば、死のうなどとはなかなか思わなくなるだろう。
いやまあ、父上の自殺願望はもっと人生哲学的な、理想的な、根幹の部分に関わってくることなので、そう単純にはいかないだろうけれど。少なくとも遠ざけることはできるはずだ。
というか、この北斗の拳並みに人の命が軽い末法の大海賊時代に、自殺願望とか改めて考えると、舐めてんのかって感じだな。普通死にたいとか思う前に死んでる。やっぱり私の父上桁違いに強い、強すぎる。
さて、不思議なことに最近は、ぶっ倒れてもなかなか意識が保てるようになっている。
そのうち立ち上がれるようにもなるんだろうか、そうしたらまたぶっ倒れるまでトレーニングなのだろうか。
なんだろう、そういう地獄を聞いたことがあるような、ないような気がするぞ。
そういうわけで最初の調査対象はキング先生だ。
「キングは……」
「なんだ?」
「何があったら喜ぶ?」
質問が何だかアンパンマンの歌みたいになっちゃったな。
なんだっけ、確か、なにがきみのしあわせ、なにをしてよろこぶ、だったか。
少し怪訝そうな顔をして、キング鬼教官先生はしばらく考えてからこういった。
「カイドウさんに認められることだな」
父上大好きか貴様。
「それ以外で」
「なんだ、我儘だな。質問の意図がわからねぇ」
「父上が関係していないことで、嬉しいことや喜ぶことが知りたい」
「拷問だな」
早速参考にならないイレギュラーにぶち当たってしまった。
もういいです、次!
「クイーンにとって嬉しいことって何?」
「うおっ、なんだよヤマトお嬢、突然だな」
「何?」
「詰め寄り方が厳しい!質問内容とかみ合わねぇ!
しかし、嬉しいことねぇ……まあ、そりゃあカイド」
「父上が関係していないことで」
「なら、期待以上の研究成果が出た時だな」
続きまして参考にならない。
これ私の聞き方が悪いのかな。
次!
「嬉しいこと? なら何といってもカイ」
「父上が関係していないことで」
「じゃあ、いい武器が手に入ったときですかいね」
「ありがと、じゃあね」
はい次!
「嬉しいことと言ったら、勿論カ」
「父上が関係していないことで」
「う~ん、それじゃあ、美味しいものを食べたときですね」
百獣海賊団の船員って父上大好きな人しかいないのか?
……多分いないね、考えなくてもわかることだった。
次!
「嬉しいこととか、喜ぶことって何? 父上に関すること以外で」
「そうね、私はお宝が手に入ったら嬉しいわ。ものすごいやつ」
次!
「俺的には……」
次!
「某は……」
ほぼ半日聞きまくって聞き漁って、かなりいろんな意見を聞けた。
これはなかなか参考になるかもしれない。今後も活用していくとしよう。
色々な案が出たが、初めの方にも出た三つがやはり全体としても出た割合が多かった。
まず、いい武器に関して。これは嬉しい、かなり嬉しいがあまり現実的ではない。
ワンピースの武器は、使い手と共に成長していくという側面があるものもある。特に、覇気の使い手が扱う刀がそうだ。
父上の金棒もかなり使い込まれているようだし、手に馴染んでいるということまで考慮すると、現在でも将来でも、あれ以上のものを用意するのは現実的ではない。
次に、お宝に関して。これもなかなかいいとは思うけれど、父上が喜ぶとなるとポーネグリフ、それも赤いロードポーネグリフ並みのものでないと駄目だ。こちらもやはり現実的ではない。
人材的なお宝と言えばパッと思いつくのはシーザー・クラウンだけど、彼に関しては私が今から情報を集めるより、クイーンが探した方が早いだろう。顔見知りっぽいし。
最後に、美味しいもの。今の段階ではこれが一番実現可能だ。
とはいってもやはり私では、準備できるものには限界がある。そこで、カイドウの娘であることを全力で活用させていただくことにする。
題して娘の手作りお菓子作戦。これなら求められるクオリティは一定以上、そこまで高くない。
さっそく逃げに入っている気がするが、まだ小さいの女の子なので何事も限界はある。仕方がないのだ。
ではなぜ料理ではなくお菓子に限定したかと言えば、大きく分けて理由は2つある。
1つ目は、一品で完結すること。料理だとどうしてもメイン、主食、副菜と色々準備するものが多くなってくる。
一品だけでもいいと思うかもしれないが、そうなると今度はプロの料理人のものと並ぶことになるわけだ。
これはちょっと分が悪いどころではない。
2つ目は、作りやすさとクオリティ。お菓子は分量をきちんと量って手順を全うしなければ、絶対に失敗する。これは、逆に言えば分量と手順さえしっかりできていれば、必ずおいしいものができるということだ。
無論、私個人の意見ではあるけれど、少なくとも私はそう思う。そういう確信がある。多分、前世の経験上。
そういうわけで、次は初心者におすすめなお菓子レシピを探すこととする。
幸い、ワンピース特有の謎技術で、オーブンは前世並みに温度調整も時間調整もボタン一つで完璧なものがあるし、冷蔵庫だって冷凍庫だってある。ハンドミキサーすらもある。
大抵のものは作り放題だ。プロの材料だって厨房には揃っている。
ああそうだ、大前提としてコックさんたちに許可をもらわなければ。
まあ私から直々のお願いだと少し断りづらいかもしれないので、卑怯だけども仕方がない。
目的のためには手段を選んではいられないのである。
次回、チョコブラウニー作り。デュエルスタンバイ!