TSロリおにいちゃんといもうとちゃん   作:まるまるみー

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座高

 さて、1話から2話になったとしても、別にシーンが飛んだりはしません。

 

 ほかほかの朝ごはんが並んだテーブルに着いたいもうとちゃんは、いまだにほっぺをすりすりとさすっているおにいちゃんを見て、言います。

 

「ほらほらおにいちゃん、早くしないと朝ごはん、冷めちゃいますよ」

 

 ふむ。確かにせっかくご飯を作ったのだから、暖かい内に食べてもらいたい、というのはあらゆる料理人に共通する思いでしょう。私の母も、ゲームをしている私の『あと五分でセーブできるから!』という言葉にいらだっていたのを覚えています。

 

 しかしそんなことを危惧するのであれば、そもそもいもうとちゃんが、おにいちゃんのほっぺで遊ばなければよかったのではないでしょうか。

 

 おにいちゃんも、いもうとちゃんの言葉に何か釈然としないものを感じているのでしょう。「あー……?」と間の抜けた声を漏らしながら、口を半開きにして虚空を見つめています。残念ながら、おにいちゃんの脳みそという精々がセレロン程度の低スぺすーぱーこんぴーたーでは、いもうとちゃんの言葉にもやもやしてしまう理由が、理解出来てはいないようです。よく見ればアホ毛は"?"の形になっていますし。はたしてどういう仕組みなのかは、謎です。脳に繋がっているのかもしれません。怖いですね。

 

 しかし、おにいちゃんに取れる行動はひとつしかありません。妹想いのおにいちゃんは、いもうとちゃんの好意を無下にすることなど出来やしないのです。胸の内のもやっとしたものはいったん置いておいて、おにいちゃんもひとまずテーブルに着きま……いえ、着こうとしました。着こうとしたのですが。

 

「まーじかー……」

 

 呆然とイスを見上げるおにいちゃん。おお、何ということでしょう。今のおにいちゃんのミニマムボディでは、普段使っていたイスが高すぎて座ることができないのです。

 

 両手を上げてぴょんぴょんと飛び跳ねながら、必死にイスに登ろうとするおにいちゃん。

 ひじ掛けにしがみつき、けんすいの要領で何とか体を引き上げようと、宙に浮いた足をばたばたと動かすおにいちゃん。ああいけません、あんまり動くとパジャマがめくれて、まるだしのお尻が見えてしまいます。R-18に、R-18になってしまいます。

 

 わちゃわちゃと動くおにいちゃん、ハムスターかなにかの小動物のようです。しかし可愛らしいことは可愛らしいのですが、いつイスが倒れておにいちゃんがぺちゃんこになってしまうかと思うと、気が気ではありません。

 

 いもうとちゃんも同じ気持ちだったのでしょう。しばらくの間、悪戦苦闘するおにいちゃんを目を細めて堪能していましたが、やがてやれやれといった風に立ち上がると、おにいちゃんの背後にゆきました。ふんぬふんぬちょあー、と言いながら、ロッククライミングならぬチェアークライミングを続けるおにいちゃんの両脇に、いもうとちゃんが手を入れます。そして、

 

「お、おおー……?」

 

 ふらいあうぇい。おにいちゃんの体が浮かび上がり、

 

「お、おおー……」

 

 らんでぃんぐ。イスの上に着陸します。

 

「やー、ありがとうございますですよ、いもうとちゃん。……いやはや、小さい体というのは、ままならねーもんですな」

 

 少しだけ恥ずかしそうに、えへへと頬をぽりぽりかいてはにかみながら、お礼を言うおにいちゃん。そんなおにいちゃんの頭をぽんぽんと叩きながらいもうとちゃんが言います。

 

「これくらい、お安い御用ですよ。わたしたち、きょうだいではないですか。おにいちゃん」

 

 であれば、見てないで始めからやってあげればよかったのではなかろうか。

 

 

 

 

  TSロリおにいちゃんといもうとちゃん

   -座高-

 

 

 

 

 なにはともかくこれで、ようやく二人は朝ごはんを食べることが出来ます。いもうとちゃんも自分の席に戻り、二人とも両手を合わせ、

 

「いただきます」

「いただきますです」

 

 いいですね、礼儀作法は大事です。二人はよくわかっています。こういう細かいところで読者諸兄の好感度を稼ぐのです。千里の道も一歩から。コツコツ稼げばブクマ1万も、評価バー赤色マックスも、夢ではありません。やがて書籍化、コミカライズ、ひいてはアニメ化にたどり着くでしょう。そして目指すはハリウッドです。

 

 さて、もう湯気の立ち上らなくなってしまったおみそ汁を左手に持ついもうとちゃん。ずず、と飲もうとして、しかしそこで止まりました。いぶかしげに前を見つめます。いったいどうしたというのでしょうか。

 

 いもうとちゃんの視線の先を追ってテーブルの向こう側を見てみると、なんとそこにおにいちゃんはいませんでした。あったのはただ、悲しそうに揺れている一房のアホ毛だけ。

 

 いもうとちゃんは思います。

 

 ――おにいちゃんの座高が、足りない……。

 

 ふふ、と漏れる笑いをこらえきれないいもうとちゃん。

 

 座高。

 中学生の頃、友人に身長で負けて座高で勝ったことを思い出します。あれは屈辱の記憶でした。奴にはテストでも部活でも負けました。私が奴を上回っていたのはたったふたつ、座高と、卒業旅行で遊んだアイススケートだけです。もうこの話はやめましょう。

 

 ともかく座高が、おにいちゃんが朝ごはんにありつくための、最後の難関でした。

 

 考えてみれば当然でしょう。ファミレスなどでは子供たちのために専用のハイチェアが用意されています。逆に言えば、それが無ければ子供たちはテーブルの上の料理に手が届かないのです。そしてもちろん、一般家庭であるこの家に、そんなものはありません。一体どうすればよいのでしょうか。

 

 おにいちゃんは、自分の視線よりもわずかに上に並べられた食器を、恨めしそうに見つめます。おでこにしわを作り、むむむと念じてみてはいますが、特にサイキックに目覚めたりはしないようです。アホ毛が触手のように、おにいちゃんの自由に動いて食事を手伝ってくれるなどということもありません。おにいちゃんは単なる無力なTSロリであり、別にバケモンではないのです。

 

 隠れた力を目覚めさせることを諦めたおにいちゃん。はぁと息を吐き、今度は周りをきょろきょろと見回し始めました。そして、テレビの前に置かれたソファの方を見て、ぱあっと目を輝かせます。

 

 いもうとちゃんに座らせてもらったイスからぴょんと飛び降り、てててとソファに駆けて行くおにいちゃん。そのきらきらまんまるおめめに映っているのは、ソファの上に置かれたクッションでした。

 

 なるほど、おにいちゃんはクッションをイスの上に敷くことで、高さを稼ごうという考えのようです。

 

 いもうとちゃんは、おにいちゃんのそんな様子を見て思います。

 

 ――すごい。おにいちゃんかしこい。

 

 はたしてそうでしょうか。これはサルが棒と箱を使ってぶら下げられたバナナを取る知能実験と同レベル、いや、それよりも少し低レベルな気がするのですが。これでおにいちゃんをほめるのは、むしろバカにしているだけではなかろうか。

 

 ともあれおにいちゃんはクッションを手に入れました。ごまだれー、などと口ずさみながら、上機嫌でクッションをかかげ、くるくると回るおにいちゃん。後は、いもうとちゃんにもう一度イスに座らせてもらい、そしてお尻の下にクッションを敷けばミッションコンプリートです。

 

 が。

 

 何を思いついたのでしょう、無邪気に喜ぶおにいちゃんを眺めるいもうとちゃんの口に、邪悪な笑みが浮かびます。

 

 ふんふん鼻歌を歌いながらクッションを振り回し、てこてこ歩くおにいちゃんに、冷たくいもうとちゃんが言い放ちました。

 

「おにいちゃん、ご飯の途中に席を立ってはいけませんよ」

 

 おにいちゃんの足がぴたりと止まりました。ぎぎぎ、とその顔がいもうとちゃんのほうに向けられます。

 

「……ですが、その、今のミニミニなおにいちゃんは、こいつが無ければ、ご飯が食べれないのでしてー……」

 

「言い訳なんて聞きたくありません。立派なレディになれるようにと私にマナーを教えてくれたのは、他でもないおにいちゃんではありませんか。いつだっておにいちゃんはわたしのおにいちゃんで、いつだって立派な自慢のおにいちゃんでした。わたしはおにいちゃんに憧れて、今日この日まで一生懸命生きてきました。なのにそのおにいちゃんが、小さな女の子になってしまったなんて些細なことで、私の前でこんな不躾なことをするだなんて。ああ、そんな、わたしはとっても悲しいです」

 

 両手で顔を覆い、よよよ、と泣き崩れるいもうとちゃん。よくもまあべらべらとまくし立てるものです。

 

 そんないもうとちゃんを見て、おろおろし出すおにいちゃん。クッションを持ったまま、ソファとテーブルの間を行ったり来たり。

 

 騙されないでくださいおにいちゃん。どう見たって嘘泣きです。ほら、よく見て。いもうとちゃんは、指の隙間からあなたのことを見て、にやにや笑っているじゃあないですか。あなたが困っている様子が楽しいんですよ、あの畜生は。

 

 おにいちゃんはいもうとちゃんを見つめます。抱きかかえたクッションを見つめます。テーブルの上で、おにいちゃんに食べられるのを待っている朝ごはんを見つめます。ぐううとお腹がなり、もう一度だけいもうとちゃんを見つめます。

 

 そしておにいちゃんは、クッションをソファに向かってぶん投げると、両手を広げていもうとちゃんに言いました。

 

「お、おにいちゃんは……! おにいちゃんは、いつだっていもうとちゃんのお手本ですよ! だから、ご飯中に席を立ったりなど、そんなマナーの悪い行いはしないのです……! さあいもうとちゃん! おにいちゃんを連れ戻してくだせえ……!」

 

 おにいちゃんが叫び、それを受けたいもうとちゃんが立ち上がりました。もはや笑みを隠そうともしていません。泣いていたはずのいもうとちゃんの歪んだ笑顔におにいちゃんが困惑しています。「なぜ……笑っているのですかー……?」

 いもうとちゃんはガン無視です。答えはありません。そしてさっきと同じように、おにいちゃんの両脇に手を入れ持ち上げました。ああ、ドナドナ。テーブルへと連行されてゆくおにいちゃん。その目には名残惜しそうにクッションが映っています。どうして投げ捨ててしまったのでしょうか。別に持ったままでもよかったではないですか。

 

 ──なんてーか、ノリでやっちまいましたなー……。

 

 じゃあ仕方ねーな。

 

 そしていもうとちゃんは、おにいちゃんを持ち上げたままテーブルへ戻り、おにいちゃんのイスに座り、おにいちゃんを膝に乗せました。……おや。

 

「まったく、今日だけは特別ですよ、おにいちゃん。明日からはご飯の前に、ちゃんと敷くものを用意しておいてくださいね」

 

 もはや意味不明です。なぜあたかもワガママなおにいちゃんに仕方なく、といった風な言い回しなのでしょうか。が、個人的に女の子の膝の上に抱かれるTSロリというのは大変な好物ですので、深くは追及しないことにしましょう。

 

 ですが。

 いもうとちゃんの膝の上で頭を優しくなでられている、ほとんどぬいぐるみ状態のおにいちゃんが、きっ、といもうとちゃんに鋭い目を向けました。(やはり本当はとろんとした眠そうな目つきなのですが、おにいちゃんがわざわざ口で「きっ」と言っていたので、おにいちゃんの意思を汲んで、黙っておきます。)

 

「おかしい! おかしいですぞいもうとちゃん! なんかこう……なんか……なんでおにいちゃんがこう……いもうとちゃんにまるでなんか迷惑かけてるみたいな……なんかそういう感じなんですか!」

 

 おにいちゃん、語彙がアレです。おにいちゃんこんぴーたーはHDDもダメだったようです。CPUはセレロン、HDDは256GB。メルカリ辺りでフォートナイト起動確認とかなんとか謳われながら、よく分からんケミカルなライトを付けて、ゲーミングPC感をかもし出しつつ3万円くらいで売られてそうです。

 

「……」

 

 いもうとちゃん、心底めんどうくさそうな顔でおにいちゃんを見ています。ひでえや。

 少しの間、んーと考え、何かを思いついたように手をぽんと打ちました。そしてぷんすこぷんぷんしているおにいちゃんの顔に、いもうとちゃんの右手が伸びていきます。なんじゃらほいとおにいちゃんが両目で追いかけるそれがたどり着いた先は、

 

 ぐに。

 

 おにいちゃんの鼻、つままれました。

 

「ぷえー」

「……ふふ」

 

 鼻をぐにぐにされる度に、鼻声でぷえぷえと鳴くおにいちゃん。そしてそれを見て微笑するいもうとちゃん。

 

 なんかこう、アレです。いもうとちゃんはこう……人間性的な何かが、なんというか、アレな感じですね、いもうとちゃんは。ええ。

 

 

 そういうわけで、なんやかんや二人はご飯を食べ終えたようです。描写は省略です。まあ、ぱくぱく食べるおにいちゃんを、いもうとちゃんがほほえましそうに見てたんじゃないでしょうか。たぶんそんな感じです。

 

 そして今、おなかをぱんぱんに膨らませたおにいちゃんが、テレビを眺めながらソファに寝っ転がっています。

 

「けぷ。あー、くったくった。うまかった。されどもくいすぎて、ぽんぽんぺいんですぜー……」

 

 そんなおにいちゃんを膝枕しながら、頭をなでているいもうとちゃん。

 

「すみませんおにいちゃん。いつもと同じだけ作ってしまって。今のおにいちゃんなら、もっと少な目の方がよかったですよね」

「ややや、まー仕方ねーですよ。いもうとちゃんに相談もせず、唐突にちぢんじまったおにいちゃんにも、責任の所在がねーわけでもねーしなー。……はっ、そういえば」

「どうしました?」

 

 何か大事なことを思い出したかのように、跳ね起きたおにいちゃん。お腹がぽよんと揺れ、うげえと言いながら床に両手をつきます。

 

「……吐かないでくださいね?」

「おえっぷ……。言ってる場合じゃねーですよいもうとちゃん! 覚えていないのですか! いもうとちゃんがおにいちゃんを起こしに来た時、『遅刻してしまいますよ』と言ったことを!」

 

 びしっとテレビを指さすおにいちゃん。画面の左上には、09:24と表示されていました。

 

「やべーですよこれは! ほぼ100パーセント、遅刻間違い無し! 朝ごはんを食べるだけのことに、我々いくらなんでも時間を使いすぎました! この現代社会に生きる歯車の一つとして、到底許されることでは!」

「えー。いいじゃないですか、別に。学校とか会社とか、そういうのはナシということで」

「はえ……なし? な、ナシとは……?」

「こう、二人でゆるゆるにだらだら暮らしていく感じでいいではないですか、おにいちゃん」

「し、しかし、そんな……そんなことが許されてよいのでしょうか……。だらだらしているだけでは、電気が止められちまうのでは……」

「……可愛ければ許されるんですよ、おにいちゃん。こうやって二人で日常を過ごすだけで、許されるのですよ」

「ま、まじでか……? まじで、許されるんか……?」

 

 ふむ……。まあ、学校だの会社だのやりたくないので、許しましょう。

 

「許された」

「許されましたね」

 

 許しました。

 

「じゃあ、まあ……だらだらしてても良いというのであれば……」

 

 おにいちゃん、テレビをぶちぎり、いまだソファに座っているいもうとちゃんの方へ向かい、そして膝の上に頭を預け、言いました。

 

「……二度寝すっかぁ!」

 

 ……うらやましい限りです。

 

 

 

 

 

 

「ご飯のあと、すぐに寝てたら牛になってしまいますよ、おにいちゃん」

「……おにいちゃんが牛になったら、いもうとちゃんはおにいちゃんの事を嫌いになりますか?」

「そんなわけないじゃあないですか。幼女になっても、牛でも豚でも、おにいちゃんは私のおにいちゃんですよ」

「へへへ、なら、一度くらい牛になってもいいかもしれませんなー」

「まったく、もう」

 

 

 

 ちょっと最後に良い話っぽくするとは、二人ともわかっています。素晴らしい。ああ、美しき兄妹愛かな。

 

 

 

 

 




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