ペルソナ3 ムーン•オブ•スーパースター‼︎   作:事故フェウス

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実は作者、前の虹ヶ咲アニメの時間帯にあると思い込んでテレビのスーパースター‼︎1話を見逃してしまって…Youtubeの見逃し配信でなんとかなりました。

それと今回謝罪する事があり、前回予告に書いた場面が一部載っておらず、次回に出てくる所があります。
アニメストーリーに沿った展開構成なため、思ったよりも長くなる事があるためそういった事がある場合が多々ありますが、ご了承ください。

前回に比べて今回は文章が長くなっておりますが、1万前後を目安に文章を作っていこうと思っていますが、読者の皆様に楽しんでいただけることを目標に頑張っていきますので、どうかよろしくお願いします。


#02 Feelings without a name

〈???〉

 

「ふぇ……ここ、どこぉ……?」

 

幼い少女は暗闇の迷宮で目を覚ました。

母親の姿を探し、泣きじゃくりながらゆっくりと歩き続ける。

 

「ひっ……」

 

道の途中、曲がり角で見かけた黒い泥のような"怪物"に対して少女は竦む。

本能的にこの"怪物に捕まれば自分は死ぬ"と直感した。"怪物"の持っている鋭利な武器がそれを行う為の物だと無知な少女の思考でも察する事ができた。

 

「お、おかあさん……」

 

道を引き返し、母親を探そうとした矢先の事だった。

 

——出会ってしまった。

別の方角から来たもう一体の怪物に。

 

怪物の泥の体に張り付いた仮面の顔がニヤリ、と笑った。

 

「ひっ、い、いや!いやぁ……!」

 

声を抑えることはできなかった。

少女の声に気づいた怪物は黒い手を振り回しながら、少女を追い始める。

 

「おかあさん!おとうさん!」

 

家族の名前を呼んで叫ぶが少女が知る、人のカタチと呼べる生き物は存在しなかった。

居るのは先程と同じ黒い泥の怪物達、少女の声に反応した個体が次々と少女を追い始め、やがて群れを作って少女を囲み始めた。

 

「やだ……おかあさん……怖いよ……!」

 

祈るように少女は胸の前で手を握る。

自分の家族が現れて怪物から助けてくれると信じるが、少女の元に家族は一向にやってこない。

 

黒い泥が盛り上がり、白銀の馬に乗った甲冑の騎士のような姿に変わる。

その白銀の馬が少女を助けに来た王子などではなかった。

 

甲冑の騎士の怪物は手にしている槍を少女に向かって振り上げた。

 

「いやぁぁぁ——!!」

 

少女は目をふさぎ、恐れをなしてその場にしゃがみ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「——オルフェウス!」

 

 

突然聞こえてきた声、それと同時に目の前に現れた人型の存在。

その存在が手に持っていた大きな堅琴を振るい、目の前の怪物を殴り飛ばした。

 

「え……?」

 

涙で潤んだ瞳のまま、顔を上げて少女は目を開いた。

黒いファスナータイプのブレザーの背中、首から提げたイヤホンが視界に映る。

 

「待たせたね」

 

横顔を少女に向け、安心させるように柔らかく微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほんのちょっぴり悲しいときなら、背筋伸ばして声を飛ばせば——」

 

あのとき見た堅琴を持った存在の様に、少女はアコースティックギターを持って音楽を奏でている。

 

「希望くれた歌——手をつなごう——」

 

歌い切った少女は満足そうな表情を浮かべ、最後の音を奏でた。

 

 

 

 

 

 

場所はかわって、少女の自室。

スマホの画面には眼鏡をかけて、しかめっ面の表情をしている自身の顔が写り込んでいた。

 

「……ばーか、歌えたら苦労しないっつーの」

 

少女はとある新設校の課題曲の実技試験のときのことを思い出し、持っていたスマホをソファに投げ出して1人で悪態をつく。

 

「おねえちゃん、おねえちゃーん!」

 

「むっ……」

 

「もー、いるんだったら返事してよ!」

 

自室のドアを開けて入って来たのは悪態をついている少女の妹、『澁谷ありあ』だった。

 

「あー……」

 

「なに?あー、って!今日入学式でしょ、遅刻するよ!」

 

「わかってまーす」

 

「早く!」

 

「はーい……」

 

その後、少女は自身が入学する高校、結ヶ丘女子高等学校の制服を着て鏡の前に立つ。

その首には大きなヘッドホンが提げられており、「普通科」を示す藍色の制服に身を包んだ橙色の髪の少女が映っている。

 

「……よし」

 

準備を終えて母親と妹のありあと言葉を交わし、少女は家を出る。

同時に耳に首に提げていたヘッドホンを装着して曲を流す。

 

曲の名前は『Burn My Dread』、あの日出会った少年のイヤホンから流れていた曲だった。

 

「……よし、これでなにも聞こえない」

 

やや大きめの音量で再生し、少女は歩き出す。

 

同じ曲を聴いていればきっと大丈夫、きっとあの人のようになれる。

そう信じると同時に、少女はこの曲を周囲に対するフィルターとして聴き続けている。

 

「あっ、かのんちゃん!」

 

「わわっ!?お、おはよう!」

 

曲に集中して歩き続けていると、顔見知りの同級生に遭遇して慌ててヘッドホンを外す。

その同級生の着ている制服は『音楽科』を示す白色の制服だった。

 

「わぁ、いいなぁ。2人とも制服似合ってる〜!」

 

「あ、ありがと。かのんちゃんの着てる、普通科の制服もいいよね!」

 

「そ、そう?」

 

「うん、似合ってるよ!」

 

明らかに気を遣い合っているであろう会話をしてしまい、お互いに苦笑いを浮かべている。

 

「えっと、ご、ごめんね……変な意味で言ったわけじゃなくて……!」

 

「あー、大丈夫大丈夫!もう気にしてないし、普通科の方が気楽だしね!」

 

「……まさか、かのんちゃんが音楽科落ちちゃうなんて……」

「私達、かのんちゃんの歌ずっと好きだったから……」

 

「………うん」

 

それはお世辞でも嬉しい、嬉しいけれど改めて言われるとどうしてもその時のことを引きずってしまう。

その場しのぎの言い訳すら思いつかず、返答を考えていると最近よく見かける猫を目撃し、「それじゃあまた!」という言葉とともに逃げるようにして猫の方へ走った。

 

同級生達の気まずそうな「あ……」という声が聞こえても、少女は足を止めなかった。

 

 

 

 

「ごめんね、君のおかげで助かったよ……」

 

少女の意思を感じてなのか、明るい声色で猫が鳴く。

 

「会えるよね、きっとまた……私、あの人にお礼が言いたいから」

 

耳にヘッドホンを装着し、"彼"の顔を思い浮かべる。

 

『待たせたね』

 

——待ってるよ、ずっと……あなたの事を。

 

心をときめかせる少女、『渋谷かのん』はその頃の気持ちに戻ったかのように舞い上がり、歌を口ずさむ。

 

「ちょっぴり悲しいときなら、背筋伸ばして声を飛ばせば——!」

 

頭にリズムが流れ、ヘッドホンから流れる曲に構わず歌を歌い、自然と足はステップを踏んで舞い踊る。

 

「希望くれる歌——!歌が——」

 

「はぁぁぁっ………!?」

 

その時かのんは気づかなかった。

すれ違ったグレーのボブカットの髪型の少女が自分を見つめて目を輝かせていることに。

 

 

 

 

 

 

 

あれから1日が経った。

理は近くの宿泊ホテルに泊まり、1日を過ごした後で再び自身の記憶探しをしていたのだが……。

 

「ん……?」

 

突然聞き慣れぬ言語、中国語とわかる言語が東京の街中で聞こえてきた。

声の聞こえてきた方向を振り向いた理はつい足を止めた。

 

そこには昨日、『唐可可(タンクゥクゥ)』と名前を名乗ったボブカットの髪型の少女と、橙色の長髪の少女が話していた。

 

「に、ニーハオシェイシェイシャオロンバオザイチェン!」

 

「あっ!」

 

橙色の少女は困惑した様子で適当な中国語を喋り、逃げ出すかのように走り出した。

学力が"天才"レベルまで高めている理なら可可の言っている言葉は理解できた。

 

「こわいこわいこわい!」

 

「待ってくださーい!」

 

可可は少女を追いかけて走り去ってしまう。

 

 

 

 

 

「うーん、どこへ行ったんでしょう……?」

 

理が後から追いかけると、少女を見失った可可が周囲を見渡して立ち止まっていた。

 

早上好(おはよう)

 

早上好(おはようございます)!……!?」

 

反射的に中国語で返してた可可は挨拶を投げかけてきた人物を見て目を見開いた。

 

「マコトさん!?びっくりしました!」

 

「さっきの子は?」

 

「そうなんです!私、スバラシイコエノヒトヲミツケテシマイマシター!」

 

「落ち着いて……近い」

 

興奮するあまりカタコトで話し、距離をぐっと詰めてくる可可をおさえて理は先程の出来事の詳細を尋ねた。

 

「私、あのスバラシイコエノヒトとスクールアイドルがしたいと思ったのですが、なぜか逃げられてしまったのデス……」

 

「……でも、同じ制服を着てたし君の学校で彼女と会えるんじゃない?」

 

「はっ、そうですよね!私、またあのスバラシイコエノヒトを見つけて誘ってみます!」

 

そういうとまた昨日のように可可は慌ただしく走り去っていった。

 

「……ちょっと気になるな」

 

直感的に可可と橙色の少女から縁的なものを感じた理は可可の走り去った道を追っていく。

やがてたどり着いたのは『結ヶ丘女子高等学校』と書かれた建物の場所で、理はその建物の前で可可と橙色の髪の少女の姿がないか周囲を見渡した。

 

「あ、居た……」

 

2人は校舎から少々離れた場所にある坂道の下のベンチの付近でなぜかお互い息を切らしてダウンしている。

 

「何があった……?」

 

「と、突然朝から私を追いかけて……きて……」

 

ヘッドホンを首に提げた橙色の髪の少女は体だけを起こし、理の方を見上げた。

 

「………」

 

理の方を見上げてから、少女はまるで時が止まったかのように身動きを停止している。

 

「……どうかした?」

 

「っ……い、いえ、あの!」

 

少女が理に対して立ち上がり何かを言いかけた直後、可可が突然間に入って懇願するかのような瞳で少女に対して迫る。

 

「ひぃっ!?」

 

可可は理も聞き取れない早口のスピードで中国語を話しており、少女を困惑させてしまっている。

このまま可可のペースで話を進めてしまえば状況がより混乱するだけだと考えた理はひとまず可可を少女から引き離す事にした。

 

「落ち着いて……」

 

「あっ、失礼しました……」

 

理に促され、必死のあまり浮かべていた涙を可可は手で拭う。

 

「とりあえず自己紹介から始めよう。俺は結城理、君は?」

 

「澁谷かのん、です……」

 

少女はどこか恐る恐るといった様子で名前を名乗る。

視線は横目がちで理に注がれているが、理はその視線に気づく事はなく、次に可可が口を開く。

 

「改めまして私、可可(クゥクゥ)唐可可(タンクゥクゥ)と言います!突然ですがかのんさんの歌声は素晴らしいです!なので、クゥクゥとスクールアイドルを始めてみませんか!?」

 

「スクールアイドルって……学校でアイドルってやつでしょ?」

 

「スクールアイドルがやりたくて、日本に来ました!かのんさんの歌は素晴らしいです!ぜひ一緒にスクールアイドルを!」

 

「…………」

 

「………?」

 

その瞬間、かのんの瞳がどこか悲しいものに変わったのを理は見逃さなかった。

 

「……ごめんね、やっぱり私は遠慮しておく」

 

「なぜですか?」

 

「こういうの、やるタイプじゃないっていうか……」

 

「そんなことありません!スクールアイドルは誰だってなれます!それにかのんさん可愛いです!」

 

「はっ!?」

 

「マコトさんだってそう思いますよね!?」

 

2人の会話を見守る姿勢を貫いていた理に対し、突然反応を求められた理は少々眉をひそめながら正直な気持ちを話す。

 

「俺は……正直、どうでもいい……」

 

「どうでもいい、って……」

 

自分の容姿に対して、どうでもいいと返されたかのんは眉をピクリと動かしながら反応したが、可可はお構いなしに話を進める。

 

「私はかのんさんの事をとってもかわいいと思いました!」

 

「か、かわいくはないと思うけど……」

 

「……自信がないのか?」

 

「……別にあなたには関係ないと思います」

 

先程のどうでもいい発言で理に対してマイナス的な印象を抱いた様子のかのんは理から顔を背ける。

 

「歌が、お好きなんでしょう?」

 

「……!?……嫌いじゃ、ないけど?」

 

「絶対好きです!可可わかります!だからかのんさんと始めたい、その素晴らしい歌声をぜひ、スクールアイドルに——」

 

 

「このチラシを配っているのは、あなたですね?」

 

可可の熱烈なスクールアイドルの勧誘が続く中、突如3人の後ろから別の声が投げ掛けられた。

 

「「ん……?」」

 

「誰……?」

 

坂道の階段を降りて3人の前に現れたのは、可可やかのんとは別の色の制服を着て、黒髪をポニーテールにまとめてどこか凛とした雰囲気を漂わせる少女だった。

 

「勝手にこんな勧誘を……理事長の許可は取ったのですか?」

 

「あ、すみません。可可はただスクールアイドルを始めたいと思いまして……」

 

「スクールアイドル……」

 

その単語を聞いて黒髪の少女の表情が目に見えて険しくなる。

 

「いけませんでしたか?この学校は音楽に力を入れると聞きましたので、ここに——」

 

「音楽に力を入れるからこそ、勝手な事はやらないでほしいのです」

 

可可の言葉を待たずして、黒髪の少女は強気な口調でそう答えた。

 

「……ちょっといい?」

 

同じく強気な眼差しで前に出たのは先程から可可に勧誘をされていたかのんだった。

 

「いきなりそんな事を言ったらかわいそうなんじゃないかな?海外から来たばっかなのに……」

 

「あなた達は?この生徒と何が関係あるのですか?」

 

「関係……」

 

「……関係がなければ関わっちゃいけないのか?」

 

「「………!」」

 

2人の目線が理に向けられる、同時に黒髪の少女の鋭い視線が理の方を向いた。

 

「……あなた、他校の生徒の方ですよね?いったいどういう成り行きで我が校の事情に首を突っ込んだのかお聞かせ願いますか?」

 

明確な苛立ちを少女から向けられつつも、"漢"級の勇気を持つ理はそれに怯む事なく反論する。

 

「事情はわからないけど、彼女も彼女なりの考えで行動していたし悪気はないと思う。だから、そこまで言う必要はないんじゃないかと——」

 

「事情がわからないなら首を突っ込まないでください!あなたはいったい誰ですか!」

 

「結城理です、どうぞよろしく」

 

(そこで自己紹介するの!?)

 

怒った様子を見せる少女に対し、理はマイペースさすら感じさせる様子で名前を名乗り、少女に向かって握手を求める手を差し出した。

 

「……!その校章、月光館学園の……」

 

理を強く睨みつけていた少女だったが、理が着ている黒の制服の右胸に付いている校章を見て驚いた様子を見せて、だんだんと落ち着いていく。

 

「……とにかく、あなたにも言っておきます。この学校にとって音楽は()()()大切なものです。生半可な気持ちで勝手に行動する事は謹んでください」

 

「生半可かどうかなんてわからないでしょう!」

 

立ち去ろうと背を見せた少女に対し、かのんは声を張り上げた。

 

「なんでスクールアイドルがだめか、ちゃんと説明してあげなよ!」

 

「……相応しくないからです」

 

「相応しいって何?スクールアイドルのどこが相応しくないっていうの?」

 

「少なくともこの学校にとって良いものとは言えない」

 

「どうしてそうと言い切れるのっ!!」

 

2人の間に一触即発ともいえる緊迫した空気が流れ始める。

数秒間黒髪の少女とかのんが睨み合い、やがて黒髪の少女の方から口を開いた。

 

「あなたはどうなの?」

 

「えっ?」

 

「やりたいのですか?スクールアイドルを」

 

「私は……」

 

理を含めた3人の視線がかのんに集中する。

スクールアイドルをやりたいのか、やりたくないのか。その返答がかのんの口から出るのを待っていたが、かのんは下を向いて押し黙ってしまった。

 

「……とにかく、今日は帰ってください。音楽科の生徒の邪魔にならないように」

 

痺れを切らして再び苛立ちの表情を浮かべた黒髪の少女がそう言って今度こそ理達の前から立ち去っていった。

 

「………」

 

"スクールアイドル"という言葉、かのんにしても黒髪の少女にしても普通ではない特別な反応をしていると感じた理は両者からスクールアイドルに対する何かしらの理由を感じていた。

 

「……かのんさん、ありがとう」

 

そう考えているうちに、俯いた状態のままのかのんに対して可可が微笑みかける。

 

「……ううん、気にしないで。私ね、音楽科の受験落ちたんだ」

 

「えっ……」

 

突然かのんが告げた衝撃の事情に、理も驚きを隠せなかった。

 

「ほんとは大好きなんだけどね、きっと才能ないんだよ。だからもう、歌はおしまい……」

 

かのんは悲しさや寂しさ、名残惜しさなどが入れ混じっているであろう表情でそう言うと、地面に落としていた鞄を拾って坂道の階段を登り始めた。

 

「かのんさーん!」

 

「………?」

 

かのんの寂しげな背中を、可可は呼び止める。

振り返ったかのんに向かって大きく息を吸い、そして——。

 

「おしまいなんてあるんデスカ!好きな事を頑張る事に、おしまいなんて、あるんデスカ!?」

 

その言葉に目を見開き、かのんと可可はお互いを見つめ合って沈黙していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わって、〈かのんの実家〉。

かのんの家は喫茶店を経営しており、店内はお洒落に感じる綺麗な内装をしていた。

 

「わぁ、ココア……!あぁ、チョコワタルシミ……」

 

「それをいうなら沁み渡るって意味で……」

 

「わざわざ訂正しなくていいですから」

 

正しい日本語を教えようとした理を遮ってかのんは話を始める。

 

「あのね、やっぱり私はアイドルには向いてないと思うんだ……」

 

「そんなことないです!スクールアイドルは誰だってなれます!」

 

 

「アイドル!?」

「アンタが!?」

 

店員として働いていたかのんの母と妹の耳にその言葉が入り、2人に衝撃が走る。

 

「うるさいなぁ!話聞かないでっ!」

 

「かのんさんの歌声は素晴らしいです!朝見た時、この人だーって思いました!」

 

「いやいや、私を見て思うでしょ?アイドルーってガラじゃないし……」

 

「そんなことないです!かのんさんはすっごくかわいいです!」

 

 

「かわいい!?」

「お姉ちゃんが!?」

 

「もー!聞かないでって言ってるでしょ!」

 

家族にここまで驚かれるなんてよほど家では女子力がないとかの理由でしか考えられないが、さっきからずっと否定し続けるかのん自身の理由も理は気になった。

 

「……どうしてそこまで向かないって思うんだ?」

 

「それは、その……」

 

理が理由を尋ねると、先程黒髪の少女と言い合っていた時に浮かべたような複雑そうな表情を見せる。

 

「俺は実際に君の歌を聴いたわけじゃないけど、音楽が好きなのに歌は歌いたくないのか?」

 

「歌いたくないというか……歌えない?」

 

「歌ってましたよ、素晴らしい声で」

 

「あれは、ああいうところでなら大丈夫というか……」

 

「……?どういうことです?」

 

「……つまり、人に注目されていないところでなら大丈夫ってこと?」

 

理がかのんにそう尋ねると、かのんはゆっくりと頷いた。

 

「私さ、いざって時になると歌えないの。声が、出なくなっちゃって……」

 

「そんな……」

 

にわかに信じられない、といった様子の可可に対してかのんはその時のことを思い出すかのように空を仰ぎ、話し始める。

 

「最初は小学校の時でね、大勢の人を前にして失敗した時のことを想像しちゃって、緊張のあまり倒れてしまった事があるの。それ以来、特別な時ほど声が出なくなっちゃって……中学の時も歌唱部入ってたんだけど、大会とかはだめで……」

 

「……それがトラウマで、今の学校を受験するときも……」

 

「……うん、失敗しちゃったんだ」

 

理の呟きにかのんは反応し、苦笑いを浮かべた顔で頷いた。

 

「……歌が、好きなのに?」

 

「好きなのにね……」

 

「……ごめんなさい、何も知らずに可可は……」

 

「ううん、気にしないで」

 

「でも……」

 

申し訳なさそうに可可は謝り、明るい表情を見せてかのんは立ち上がる。

 

「私、可可ちゃんに協力するよ。力になりたい……だから、スクールアイドルに興味ありそうな子がいたらすぐ紹介する」

 

「ほんとですか!?」

 

「もちろん!だって、歌は"大好き"だから!」

 

「……そんな大好きな歌を、ほんとに諦めていいのか?」

 

3人分のコップが乗ったおぼんを持ってかのんが立ち上がったとき、理に投げかけられた言葉を聞いて動きが止まる。

 

「……さっきも言ったじゃないですか、私はアイドルに向いてないだろうからって」

 

「……本当にそれでいいのか?」

 

「はい、もう失敗しちゃった事だから……もう、どうでもいいんです」

 

そういって、かのんは顔を伏せてしまった。

理から見えたかのんの瞳は自分にそう言い聞かせて、迷いを隠そうとしているかに見えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陽が沈み、かのんの家の喫茶店を出て理と可可はかのんと別れた。

行く宛もないまま昨日利用した宿泊ホテルを目指し、可可と途中まで帰り道に同行しようと考えた理は俯く可可の隣を歩く。

 

「……澁谷さんの事が気になる?」

 

「……はい」

 

理の言葉に頷き、可可は表情に曇り模様を浮かべている。

 

「どうでもいいって言われただろ?」

 

「でも私、ほんとにかのんさんが歌を諦めてしまったようには思えなくて!でも、どうしたらいいか可可にはわかりません……」

 

「………」

 

確かに理もかのんが本当に歌を諦めてしまったようには思えなかった。

だが、スクールアイドルを始めるかどうかを選択するのはかのん自身の問題だ。

彼女の考えを尊重し、選択を見守ってあげる事が自分のできる事だと理は考えた。

 

「……澁谷さん自身は協力してくれるって言ってるし、マイナスに捉える必要はないはずだ。……前向きに考えていこう」

 

「……はい、ありがとうございます。マコトさん」

 

理の励ましに可可はほんの少しだけ元気を取り戻したかのように見えた。

やがてそれぞれの帰り道で別れ、理は昨日利用した宿泊ホテルに到着した。

 

「……結局、自分の事に関してはわからない事だらけだな」

 

今日1日のことを振り返り、理はため息をついた。

人の事に首を突っ込んでいたのだからわからないままで終わるのが当然なのだが、理は可可やかのんの事情を聞いて何故か放っておけなかった。

どうでもいいと考えてみようともしたが、自分の中の何かが引っ掛かってその考えを妨害した。

 

「……とにかく、今日は1日色々あって疲れたな……」

 

1日を思い返しているうちに疲労が重く体にのしかかり、ベッドに横になるとすぐに眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗闇が広がる意識の中で、突如聞き覚えのある声が響いた。

 

『我は汝……汝は我……』

 

その声を耳にして、理はゆっくりと目蓋を開ける。

 

そこは部屋全体が青で彩られた不思議な部屋だった。

時折部屋の外から眩しい光が差し込み、常に部屋全体が動いてるかのように振動している。

 

>ここは……エレベーターの中……?

 

周囲を見渡すまでもなく、何故か無意識にそう感じた。

部屋の中央にはテーブルが置かれ、奥でこの部屋の主人らしき鼻の長い老人が長椅子に座っている。

 

「ようこそ、ベルベットルームへ。貴方様を再びこの部屋にご案内する日が来ようとは……」

 

その人物には見覚えがあった。

確か名前は、"イゴール"という名前の老人だった気がする。

 

「ベルベット、ルーム……?俺はいったいどうしてここに……」

 

「どうやら貴方は新たな定めに出遭われたご様子。フフ……実に面白い……」

 

イゴールは不敵な笑みを浮かべ、理の方を見据える。

 

「もう気付いていらっしゃるかと思いますが、貴方はかつて得た"絆の力"を失い、多くの力が封じられた状態になっておられる」

 

「絆の力……?」

 

おそらくその言葉は自分にとってかけがえのない大事な物だったということはわかるが、それをはっきりと思い出さずにいる。

もどかしさに包まれてつい頭を抱えそうになるが、イゴールが不敵に笑いながら口を開く。

 

「そう焦らずとも、貴方は"力"を磨くべき運命にあり、からっぽにすぎない力を満たす時が来る。その時、必ずや私の手助けが必要となるでしょう」

 

「……どういう意味だ?」

 

言葉通り"からっぽ"の記憶しか持たない自分にはその言葉の意図を理解する事ができない。

再びイゴールは不敵な笑みを漏らし、理を見る目を細めた。

 

「心配なさらずとも、"我、自ら選び取りし、いかなる結末も受け入れん"、この部屋を利用するにあたってこの約束だけは違わぬという事。お客人が何を選び取ろうとも、私はそれに従ってまいります。そう……いかなる結末に結びつこうとね」

 

よくわからない、と理が呟こうとしたが、

 

「では、また会う時まで……ご機嫌よう」

 

イゴールのその言葉と同時に理の視界は暗転していった。

 

 

 

 

 




「どうしてもかのんさんとスクールアイドルがしたい!」

「昨日言ったでしょ?私、歌えないから……」

「かのんさんのほんとの気持ち、聞かせてください!」

「ねえ、知ってる?1日は24時間じゃないって」

「ここ、あのときの場所……!?」

次回、「Show true feelings!」
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