ペルソナ3 ムーン•オブ•スーパースター‼︎   作:事故フェウス

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アニメに沿っての展開と言ったので、アニメ放送の期間が開く間に何をしようか考え中です。
もしかしたらコミュ回とかもするかもしれませんので、その辺はお楽しみに。


#03 Show true feelings!

4月6日 夕方

 

「お母さん……」

 

とあるお墓の前で、音楽科の生徒は手を合わせていた。

お墓には「葉月花」と書かれており、生徒はその人物の娘だった。

 

「絶対、守ってみせるから……」

 

そういって、音楽科の生徒は拳を強く握り締めた。

 

 

 

 

 

 

4月6日 夜

 

 

「スクールアイドル?」

 

「うん、誰か興味ある人いないかと思って……」

 

その日の夜、かのんは幼馴染の『嵐千砂都』に可可のメンバー集めの相談を持ちかけていた。

彼女は音楽科に所属する生徒で、持ち前の明るさで誰とも仲良くなることが小さい頃からの特技だったため、彼女の知り合いにスクールアイドルに興味を持っている人物がいないかを聞きにきたのだが……。

 

「うーん、ちょっと知らないかも……それに探すのは全然いいけど、そういう人あんまりいない気がするんだよね」

 

「そっか……」

 

かのんも知っていることだが、音楽科には歌にしても楽器にしてもダンスにしてもそれ専門でずっとやってきた人物ばかりが所属している。

将来音楽家を目指しているような子ばかりいる音楽科で、スクールアイドルのメンバーになってくれる人物などそうそういないだろうとかのんも予測がついた。

 

「スクールアイドルそんなに好きじゃないって子もいて、特にあの葉月さんなんかはこの学校に必要ないって」

 

「葉月……」

 

その名前を聞いてかのんは頭にピンとくる人物がいた。

今日の昼間、自分や可可の意見を真っ向から全否定してきた生徒を思い出したのだ。

 

「もしかして、髪こうやって結んでる?」

 

「知ってるの?」

 

かのんが手であの少女の特徴的な高い位置に結んだポニーテールの髪型をジェスチャーすると、千砂都はお腹をおさえて笑い出した。

 

「あの人、私達の学校を創った『葉月花』って人の娘さんらしいよ」

 

「そうなんだ……あっ」

 

その瞬間かのんの頭の上に電球マークが浮かぶほどのひらめきが生まれ、千砂都に話す。

 

「じゃあその葉月花って人に相談すれば!」

 

「それは、まずいかも……」

 

「なんで……?」

 

千砂都の表情はかのんがびっくりするくらいに暗く沈んでいく。

 

 

「……亡くなったの、葉月花さんって人、10年前に」

 

 

「えっ……」

 

その言葉に衝撃が走った。

かのんの表情が唖然としたものに変わる中、千砂都はその事の詳細を話し始める。

 

「私達は小さい頃の時に起きた事らしくて、10年前に葉月花って人は事故死しちゃったらしいんだ、"月光館学園"って学校の前で」

 

「月光館学園………あっ!」

 

今日の朝出会った結城理という人物や、その人物の制服を見たときの葉月さんの表情を思い出した。

 

 

『……!その校章、月光館学園の……』

 

 

今思えば校章を見て落ち着いていく葉月さんの表情には一瞬だけ怨敵を見つけたかのような強い殺意に満ちた表情が込められているように思えた。

 

 

 

千砂都が働いているたこ焼き屋からの帰り、ふと通り過ぎた建物から可可の歌声が聴こえてきた。

それは外との繋がりを遮断するために着けているヘッドホン越しでも聴こえてきて、彼女が目標に向かって抱いているひたむきな気持ちがより鮮明に伝わってくる。

 

(私、ほんとにこのままでいいのかな……)

 

自分の胸に手を当てて己を見つめなおそうとするが、心から響く声はかのんの耳に届かなかった。

 

家に戻ってからは千砂都から土産として貰ったたこ焼きも食べる気力が湧かず、母や妹のありあに渡して布団の上に寝転がった。

 

かのんは自分の証だったアコースティックギターに手を伸ばすが、すぐに手を引っ込めてしまう。

 

『……本当にそれでいいのか?』

 

理から言われた言葉が頭の中に響いていた。

あの独特な雰囲気を持つ少年がどこか引っかかり、かのんが昔知らない人に助けられた時のことを思い出させた。

 

昔かのんは駅で家族とはぐれて途方に暮れていた頃、音楽プレイヤーを首から提げた学生に出会って交番まで連れて行ってもらったことがある。

ちょうどそれが10年前で、かのんも小さい時の事だったことからその人物の顔をよく覚えていないが、今日出会った少年『結城理』がその時の人物に似ているような気がしたのだ。

でも、かのんはそれはあり得ないことだとすぐに考える。

 

だって……。

 

「だって、あれは10年前の事だから……」

 

10年前の人間がかのんが見たときと同じ姿で居るはずがない、そう確信してかのんは自分の想像を否定する。

 

「ねぇ、お姉ちゃーん!」

 

「……なに?もう私寝るんだけど」

 

「お姉ちゃん、知ってる?最近流行ってる"無気力症"」

 

「……知ってるけど?」

 

かのんは上半身を起こし、部屋の前にいるありあにそう返事をする。

 

"無気力症"。

最近若者の間で流行している病気で、ここ最近そういった患者が増えてきているとの事だった。

 

「なんか最近失踪事件とかも起こってるらしいしさ、お母さんが気をつけてって」

 

「はいはい、わかってるから。……おやすみ」

 

適当な返事をしてありあを締め出すようにして部屋のドアを閉めた。

今は事件とかそういうことを聞く気分ではないし、自分の住む街で起こっていることだとしても自分には関係ないとかのんは割り切る。

それよりも今日は色々あって疲れていたため、かのんはそのままの格好で布団の上に寝転がって眠りについた。

 

 

 

 

 

 

4月7日 朝

 

翌朝、かのんや千砂都から『葉月』と呼ばれていた生徒は理事長室にいた。

 

「……本当に彼をこの結ヶ丘女子高等学校に転入させるのですか?」

 

「ええ、将来的にこの学校の共学化をはかるための試験生としてね」

 

「……どういう意図でそのようなことを?」

 

「私にもわからないけど、上の命令だから仕方ないの。それじゃあ彼のことをよろしくね、葉月さん」

 

「……わかりました」

 

理事長の話に納得しきれていないような表情を浮かべながら葉月と呼ばれた生徒は理事長室を出る。

そこで待っていたのは結ヶ丘学校の普通科を示す藍色の制服を着た理が待っていた。

 

理が着ている制服はファスナータイプのブレザーに変えられた物を着ており、下は制服の色に合う黒いズボンで、共学化をはかる上での男子用の制服となるであろう物が準備されていたのだ。

 

「ついてきてください。あなたの教室に案内します」

 

「……わかりました」

 

昨日の事など何もなかったかのように理は二つ返事で葉月の後ろをついていく。

 

(もしかして覚えてないの……?)

 

理の表情は終始無表情で、理が何を考えているのか葉月にはさっぱりわからなかった。

 

「……ここです」

 

音楽科の葉月が普通科のクラスの教室に来ていたため、それだけでも生徒の注目を浴びていたが最も視線を集めていたのは、

 

「ねぇ、あれって男子じゃない?」

「でも着てる制服ってうちの学校の制服っぽいけど……」

 

男子である理が一番注目を浴びていた。

 

 

「な、なな、なんで!?」

 

その生徒の中に聞き覚えのある声が聞こえたため、理はそちらの方を向く。

そこには結ヶ丘の普通科に通っているかのんと可可が立っていた。

 

哎呀(アイヤー)!?マコトさんもこの学校に通うんですか!?」

 

「よろしく」

 

「いやいや、男子!男子ですよね!?」

 

「そうだけど……」

 

「なんかよく見たら美形じゃない?」

「なんかちょっと物憂げな顔もいいよね〜」

「あ、こっち見たよ!」

 

どうやら周囲のウケは悪くないらしく、男子である理が女子校に来ていることに混乱しているかのんをよそに女子達は黄色い歓声を上げている。

 

 

 

〈普通科 教室〉

 

「……えー、ということで」

 

(どういうことですか!?)

 

かのんは内心で先生にツッコミながら、転入生に関する話を聞いていた。

 

「彼はこの学校で将来的に考えられている共学化のための試験生として転校をしてきたそうです。色々不安なことはあるでしょうから、皆さん仲良くしてあげてください」

 

先生がそう言い合えると同時に理は一歩進み出て、クラスの生徒達を見回す。

生徒の中には見知った顔の可可やかのん、それからクラスの中で目立つ金髪のロングヘアの生徒がいた。

 

「結城理です。どうかよろしく」

 

理は無表情で自己紹介を終え、クラスの生徒達は目を輝かせたり困惑したり獲物を狙う目になっていたりと反応は様々だった。

 

 

 

 

 

 

 

<昼休み>

 

休み時間になると、自分の席で弁当を開く理に向かってクラスの生徒は一斉に動き出した。

 

「ねぇ、結城さん、ちょっと聞きたいことが「結城くん彼女っているの!?」

 

波のように押し寄せるクラスの生徒達に、理に話しかけたかのんは押し流されて一気に理の周囲には人の集まりができる。

 

「彼女?……多分いない」

 

「どこの学校から来たの?」

「多分、月光館学園ってとこから」

 

「いいなぁ、あの学校小中高一貫校なんでしょ?あの有名企業の桐条グループの一人娘って人の卒業校っていうし」

「……多分そうだと思う」

 

「じゃあ前は巌戸台南区に住んでたの?」

「さあ……覚えてない」

 

「あそこの辰巳ポートアイランドって美味しいお店とかいっぱいあるんでしょ?よかったら色々教えてよ!」

「あんまり覚えてないけど、わかった」

 

「結城くん、趣味はなにかあるの?」

「多分……合体と受胎」

「へぇ、合体と受胎かぁ……えっ」

 

その趣味の言葉に怒涛に続いていた理への質問タイムが止まり、その場の人集りだけ時が止まったかのように沈黙した。

 

(合体と受胎ってなに……?)

(さ、さぁ、わかんない……)

(つ、つまり結城くんって経験者ってこと……!?)

 

みんなの反応は困惑したり、言葉の意味がわからず呆然としたり、何を想像したのか顔を赤らめたりと様々だった。

 

「い、今だ!」

 

時が止まったかのように沈黙している人集りを掻い潜り、隙間から手を伸ばしたかのんが理の手を掴んで教室の外へと連れて行く。

 

「あ、弁当が……」

 

「後でも食べられるから!お願いだから一緒に来て!」

 

そういってクラスのみんなから逃げるようにして、かのんは理の腕を引っ張って走り去った。

 

 

 

 

〈渡り廊下〉

 

「はぁ……はぁ……」

 

「かのんさん、ぶりりあんとデス!」

 

「ぶり……可可ちゃん、いったいどこでそんな言葉を覚えたの?」

 

「この前テレビに映ってる人が言ってマシタ!」

 

「はあ……」

 

かのんも聞いたことがないような言葉を言っている可可は置いておいて、3人で渡り廊下の横にある木の下のベンチに腰掛ける。

 

「何か用?」

 

「用っていうか、ほら昨日私も可可ちゃんに協力できることがあったらするって言ったでしょ?私達、朝のうちに興味ありそうな人がいないか探し回ってたから、その話を結城さんにも聞いてもらおうと思って……」

 

「協力してほしいってこと?」

 

「……してくれないんですか?あのとき一緒に居たのに」

 

理の反応を見てかのんはどこか訝しげな、不安そうな表情を浮かべる。

その表情を数秒間、無表情で見つめた後に「わかった」と理は返す。

 

「まあそれで、私は興味持ってくれそうな人回ってみたんだけど、誰も居なくて……」

 

「……そうデスカ」

 

「他のクラスは?回ったのが普通科だけなら、音楽科を回れば誰かいるかもしれない」

 

「うん。私も結城さんの言う通りだと思うから、根気強く探してみよ?」

 

「デスガ……」

 

「うん?」

 

可可はかのんの顔を意味ありげに見つめた。

その行動を見て、理は昨日の帰り道に可可がかのんに対して思っている事を思い出した。

 

「……なんでもないデス」

 

だが、それを理が言う前に可可の方から顔を逸らしてしまった。

理も頼まれたからにはなにか協力できることをしようとは思うが、何をしようか?そう考えていると、渡り廊下で見覚えのある人物が歩いているのを目撃する。

 

「澁谷さん、あれは誰?」

 

「ん?あ、同じクラスの『平安名すみれ』ちゃんだよ」

 

「同じクラス……」

 

それを聞くと、理はベンチから立ち上がってその生徒の元に歩いていった。

 

「ちょっといい?」

 

「……なんでしょう」

 

「スクールアイドルに興味ない?」

 

理は開口一番にそれを尋ねた。

凛々しさすら感じる歩き方で歩いていた彼女から威圧感すら感じる目つきで睨まれるが、理はそれに臆すことはなかった。

 

「私を誰だと思っているの!?」

 

「誰?」

 

「はぁ!?平安名すみれよ、す•み•れ!知らないの!?」

 

「……どうでもいい」

 

「なっ!」

 

自信満々にそう話していたすみれは顔を真っ赤にしながら、どうでもいいと言った理に対して怒り始める。

 

「ど、どうでもいいですってぇ!?」

 

「ちょ、ちょっと結城さん!?」

 

「スミマセン……」

 

「いや、可可ちゃんは謝らなくても……はっ」

 

かのんは反対側の渡り廊下から自分達が警戒すべき相手、『葉月恋』が歩いてくるのを察知する。

 

「可可ちゃん、撤退!一時撤退するよ!」

 

「ハイ!」

 

「待ちなさい!そこのアンタ!アンタの顔、覚えたわよー!」

 

平安名すみれはかのんと可可に左右の腕を引っ張られながら連れてかれる理を指差しながら、そう叫び続けていた。

 

 

 

〈放課後〉

 

あれから色んな人に勧誘を続けてみたが、期待できそうな反応を返すどころかほとんどの人からはっきりと断られてしまった。

 

「音楽好きな人が多いから、なんとかなるかもと思ってたけど……」

 

「厳しそうだな……」

 

「うん……」

 

その言葉にかのんは頷いて、可可はため息と同時に残念そうな顔をした。

 

「明日は他のクラスを回ってみようよ。ほら、途中まで道一緒でしよ?行こ!」

 

「かのんさん……」

 

そういって軽やかな足取りと共に明るく振る舞って見せるかのんだったが、理が見てもそれは無理しているように思えた。

 

「……言ってみたら?澁谷さんに」

 

「……はい………かのんさん!」

 

理に焚きつけられた可可はすぅっと息を吸って、大きな声で歩いていこうとするかのんを呼び止めた。

 

「やっぱり……やっぱりやってみませんか!スクールアイドル!」

 

「えっ……?」

 

呼び止められたかのんは足を止めて、その言葉に呆然とする。

 

「私、やっぱり迷っていたのですが、どうしても……どうしても……」

 

可可は一呼吸おいて、その言葉を出すことを少々躊躇った様子を見せる。

しかし可可の視界に映っている理が頷き、大きく息を吸って可可はその言葉を口にする。

 

 

「どうしてもかのんさんとスクールアイドルがしたい!」

 

 

「………!!」

 

かのんは言われた事をまっすぐに、聞き流す事なく受け止めた。

しかし、言われた事を理解したのか俯きながら、暗い表情をする。

 

「でも、それは……」

 

申し訳なさそうな顔をしながら、可可に向き直ってかのんは答える。

 

「昨日言ったでしょ?私、歌えないから……」

 

「かのんさんは歌が好きです!歌が好きな人は心から応援してくれます!可可はそんな人とスクールアイドルがしたい!」

 

「無理だよ……」

 

「お願いします!」

 

「無理だって……」

 

今回しかチャンスはないと見た可可は強く食い下がってかのんに迫っていく。

 

「……やってみないと、わからない」

 

 

 

「っ!わかるよ!!」

 

 

勇気づけようとした理の言葉と同時に自分の手を掴んだ可可を、かのんは咄嗟に払い退けた。

 

「あ……」

 

理もその光景に声を上げた。

咄嗟に払い退けた手が可可の持っていたチラシを吹き飛ばし、チラシが宙を舞って地面に落ちる。

 

その光景を3人は沈黙しながら見つめていた。

可可が自分で描いたであろうパンダとスクールアイドルの楽しそうな絵が今は物悲しく3人の瞳に映ってしまう。

 

「あ……ご、ごめん……っ……」

 

かのんは自分がやってしまった事を理解して咄嗟に拾い集めようとするが、それを躊躇ってしまった。

 

「がっかりするんだよ!いざって時に歌えないと周りの皆もがっかりさせちゃうし、なにより自分にがっかりする!そういうの……もう嫌なのっ!!」

 

その悲痛な声が桜の上に落ちたチラシを見つめている可可の耳にも届き、おそらくその心に響いているだろう。

そして、かのんは自分は責められると思っているのだろう、可可から完全に顔を背けて横を向いているかのんに対して可可は向き直る。

 

「……応援します!かのんさんが歌えるようになるまでっ!諦めないって、約束します!」

 

「………!」

 

その言葉に理は目を見開いた。

普通ならここまで言われてしまえばもう諦めるだろう、と正直思っていたため、可可の決して変わらない強い意思に理もかのんも驚いた。

 

「だからもう一度、可可と始めてくれませんか!」

 

「っ………」

 

その瞳には悔しさや悲しさが入り混じっていたような涙が浮かんでいたように見える。

なお食い下がってきた可可を置いて、かのんは白いヘッドホンを付けてその場から逃げるように歩き去っていった。

 

 

 

その後、理は風で飛んでいきそうになったチラシを手で掴み、チラシを拾い集める可可を手伝っていた。

 

「ありがとう、ございマス……」

 

理は何も言わず、集め終わったチラシを可可に渡した。

 

「あの、マコトさんはどうしてここまで手伝ってくれるんデスカ?」

 

「……どういう意味……?」

 

「いえ、深い理由はないんデス!ただ、マコトさんはクゥクゥを手伝わなくちゃいけない理由とかないのに、手伝ってくれてる気がして……」

 

「……俺もよくわからない」

 

「えっ……?」

 

その言葉に可可は思わず理の顔を見上げた。

理自身も自分のことながら不思議に思っていて、なぜかわからないが助けるべきだと直感的に思っていた。

 

「俺は自分の事は名前しかわからないから……」

 

「えっ?記憶喪失、ってことデスカ?」

 

「親の事も、友達の事も全然わからないから、大切にしなくちゃいけないって思ったのかもしれない。あの場所で一番最初に出会った君の事を……」

 

「大変、デスネ……でも、それだったら可可と同じデス」

 

「同じ……?」

 

今度は理の方から可可を見つめるが、可可はどこか理を励ますような微笑みで笑っていた。

 

「可可も日本に来て、右も左もわからないところから始まりマシタ。だから、可可もマコトさんと同じです!えへへ……」

 

可可は目に涙を溜めながら、健気に笑っている。

彼女の温かい気遣いを理もその身に感じて、可可の顔を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

〈???〉

 

「私、ばかだ。私の歌を大好きって言ってくれる人をあんな風に突き放して、一緒に歌いたいって人を蔑ろにして……私なんかに、音楽を始める資格なんかないよ」

 

道を歩きながら、半ば自暴自棄になってかのんは自分を責め立てた。

なんだか視界が暗くなっていく、何処かから自分を呼ぶ声がする。

うつろな目で歩きながら、やがてかのんは何かの光で我に返る。

 

「月の、光……?」

 

かのんの頭上には怪しい光を放つ大きな月が空に浮かんでいた。

いつ夜になったのだろうか?自分は夜になるまで数時間歩いていたのだろうか?いや、そんなはずはない。

ほぼ無意識で歩いていたとしても、まだ数十分程度しか経っていないことを知っている。

 

——じゃあ、いったいここは何処なのだろうか?

 

周りを見渡すと、明かりすら付いてない街中の路上に棺桶のような物が無数に立っている。

人らしき姿は一つもなく、まるでそこに生きているのは自分だけのような感覚をかのんに与えた。

 

「ここはいったいどこ……?やだ、こわいよ……!」

 

底知れぬ恐怖が湧き上がってきたかのんはその場にしゃがみ込み、震え始めた。

 

「お母さん、ありあ……ちぃちゃん、可可ちゃん、結城さん……!」

 

知り合いの名前を呼び続けてたどり着いた先は、

 

「なに、ここ……?」

 

奇怪な図形を瓦礫状に積み上げたような形状の、不気味な外観をした建物の前だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈4月8日 朝〉

 

翌日、理が学校に来て教室に入るとかのんの席が空いていた。

 

「澁谷さんは……?」

 

「澁谷さん?……あ、かのんちゃんのこと?さぁ、休みなんじゃないかな?」

 

一瞬かのんのことを聞いたときにかのんの事を忘れていたかのような素振りを見せた生徒が気になった。

嫌な予感がする、理は教室を出て可可を探すことにした。

 

 

 

〈校門〉

 

「スクールアイドルに興味はありませんかー!」

 

居た、今日も根気強く校門前でスクールアイドルの勧誘を行っていた。

 

「あ、マコトさん!」

 

理の存在に気づいて、可可は理の方に駆け寄ってきた。

 

「今日澁谷さんの事を見てない?」

 

「かのんさんデスカ?いえ、クゥクゥは見てないデス」

 

かのんは道が途中まで同じと言っていたことから、可可なら知っていると思ったが通学路でもかのんの事を見ていないらしい。

 

「どうかしたのデスカ?」

 

「嫌な予感がする……」

 

理は携帯でかのんの店の電話番号を調べ、その番号に電話を入れる。

 

『はい、もしもし?』

 

電話に出たのはかのんの妹のありあだった。

 

「この前お店に来た理ですけど、今日君のお姉さんは?」

 

『……おねえちゃん……?』

 

理がかのんの事を聞くと、ありあは一瞬何の事かわからないかのような反応を示した。

 

「君のお姉さんのかのんの事だ」

 

『っ!あ、そういえば、お姉ちゃん……!?』

 

我に返った様子になると突然受話器を置いたような音がして、電話の向こうでなにやら騒いでいるような声がする。

 

「もしもし?」

 

『す、すみません!理さん、お姉ちゃんは昨日から家に帰ってきてないです!』

 

「帰ってきてない……?」

 

理はその言葉に冷静に返しているが、内心驚いていた。

 

『昨日お姉ちゃんは深夜をまわっても帰ってこなくて……理さんの方こそお姉ちゃんの事知りませんか?』

 

「いや、わからない……昨日放課後に分かれてそれっきりだから」

 

そういうと、ありあは警察に連絡をしてみると言って電話を切った。

 

「マコトさん、今帰ってないって言ってましたケド……」

 

「澁谷さんが、昨日から家に戻ってないって」

 

「かのんさんがデスカ!?」

 

理が頷くと、可可は目に見えて慌て始めた。

 

「こうしちゃいられません!今すぐかのんさんを探さないと!」

 

「あ……」

 

理か呼び止める隙もなく、可可は生徒達からかのんの事を聞くために大慌てで校舎の方に戻っていった。

 

「なにか気になる……」

 

理はかのんの事を聞いた時のクラスメイトの反応やありあの反応が気にかかっていた。

教室でかのんの事を尋ねたときに、同じクラスの生徒は一瞬だけ彼女を忘れていたかのような反応を見せて、その反応は電話越しではあるが妹のありあからも感じた。

 

まだ開設したばかりで関係が浅いといえる生徒ならまだしも、長年一緒にいるであろう家族のありあがその反応を見せたのには理も不審に感じる。

 

 

「ちょっと、どうしたの?」

 

そう声をかけてきたのは昨日かのんが言っていた平安名すみれだった。

 

「澁谷さんが昨日から行方不明だって」

 

「澁谷?ああ、あのスクールアイドルがどうのこうの言ってた子と一緒にいる……」

 

「知ってるの?」

 

すみれはありあやクラスメイトとは違ってすんなりとかのんの事を思い出せたようだ。

 

「あの子の行方は知らないけど、もしかしたら最近噂になってる"アレ"かもしれないわね」

 

「"アレ"……?」

 

「あなた何も知らないのね、例の"無気力症"と"失踪事件"よ」

 

("無気力"……"失踪事件"……)

 

その単語を聞いた途端、理は冷や汗をかくほどの強い頭痛を感じたが不審に思われたくないためこらえる。

 

「最近東京の街の色んなところで発生してるみたいだけど、『全員何の前触れもなく行方がわからなくなる』って事らしいけど……ちょっとあなた、顔色悪いけど大丈夫?」

 

「……大丈夫」

 

まだ春先だというのに理は滝のような汗をかきながら、すみれの話を聞いていた。

何故だろうか?自分は昔そのような現象を異なる形で知っているような感覚がした。

 

「……ああ、それと、あなた月光館学園から来たんでしょ?」

 

「……そうらしいけど」

 

「らしい、って自分のことなのに変な反応ね。まあ、その月光館学園って学校にちなんでこんな噂が流れてるわね」

 

そういうと、すみれは雰囲気を作るつもりで理に対してその噂に出てくる言葉らしき内容をそれっぽく話した。

 

「"ねぇ、知ってる?1日は24時間じゃない"って」

 

「うっ!!」

 

「えっ!?ちょ、ちょっと!?」

 

その瞬間、激しい頭痛が理を襲った。

痛みに理は堪え切れず、その場に座り込んだ。

 

すみれが言った言葉を、自分は知っている。

どこか別の場所でその言葉を聞いた気がしたのだ。

 

"不気味な光を放つ巨大な月"、"棺桶のような無機質な物体"、"深夜0時を指す時計"、"暗闇に沈んだ街"。

 

見たことのないはずの光景が幾つも頭の中に流れ、理の冷静さを乱した。

そして、最後に顔にノイズがかかった赤い長髪の女性らしき人物の口から述べられる言葉が理の頭の中にはっきりと浮かんだ。

 

 

——『影時間』。

 

 

 

「ちょっとってば!」

 

「っ………!?」

 

理は我に返ると、その場に座り込んですみれに肩を揺らされていた。

周囲には何名かの生徒と先生が理の顔を覗き込んでいた。

 

「結城くん、大丈夫?」

 

「……はい、少し体調が悪くなっただけですから」

 

「体調が悪いなら無理せず帰ったら?」

 

「……ああ、そうだな」

 

すみれの進言に理は頷いて、その場を後にしようとする。

 

「……あ、ちょっと頼みがある」

 

「なに?いくら私があの平安名すみれだからって、家まで送ってなんていうお願いは聞かないわよ」

 

「それはどうでもいい、ちょっと借りたい物がある」

 

「一度ならば二度までもバッサリと切ってくれるわね……いいわ、このすみれに物を借りようっていうんだからそれなりの値打ちはするわよ!で、何を借りたいの?」

 

「それは——」

 

理は周りの人間に聞かれないようにするために、すみれに耳打ちをするのだった。

 

 

 

 

 

 

〈放課後〉

 

「かのんさん、いったいどこに行っちゃったんデスカ……」

 

夕陽に照らされる校舎の前で悲しみに明け暮れる可可が座っていた。

静寂に包まれているその場所の遠くからパトカーのサイレンが聞こえるため、おそらく警察が失踪したかのんの事を探し回っているのだろう。

 

「可可……」

 

「っ!理さん!」

 

その場に現れた理を可可は涙目で見上げる。

なぜか理は右手に木刀を携えており、まるで今から戦いに赴くかのような状態で立っていた。

 

「理さん……?どうしてボクトウを持ってるんデスカ……?」

 

「……気にするな」

 

「……このままかのんさんが見つからなかったら、クゥクゥは……」

 

1日かのんに会えなかった事で可可はひどく落ち込み、その目からは光すらなくなろうとしていた。

 

「周りの人に聞いてもかのんさんの事は知らないって言うのデス、まるでかのんさんは存在しない人みたいに……」

 

「そんなことはない……かのんはちゃんと存在している」

 

「クゥクゥだってそう思ってマス!あんなに音楽が好きで、歌が好きな人がマボロシなはずありません!でも、でも……!」

 

可可は手を握りしめてなんとか自信を持とうとしていたが、その肩の震えが彼女の本心を物語っていた。

 

「多分、彼女はなんとかなる……」

 

「えっ……?」

 

可可は涙を流した状態で理を見上げる。

その顔は冷静な雰囲気を漂わせる無表情な顔だったが、どこか安心感を覚える表情に可可は感じられた。

 

「詳しい事は話せない……だけど、彼女は大丈夫だと思う」

 

「ど、どうしてデスカ!?どうしてそう言い切れて……」

 

はっきりとそう言った理に対して可可は詰め寄るが、理の瞳がこれ以上の追及を拒んでいた。

 

「……理さんが何を知っているのかわかりませんケド、クゥクゥは信じマス!きっと、かのんさんは帰ってくるって!」

 

「……ああ」

 

可可の言葉を聞いて、理は歩き出した。

今の時間で探してもかのんが見つからないことを理は理解していた。

理は冷静な判断力で次に自分がするべきことを判断する。次に自分がするべきこと、それは、

 

深夜0時に起こる"影時間"でかのんを探す事。

 

理はそう確信して、深夜0時を待つために学校から立ち去るのだった。

 

 

 




「やめて、こないでっ!!」

「自分から逃げる事が正解じゃない……」

「あなたは、いったい……」

「さあ、始まるよ……新たな"運命"が」


「ぺ ル ソ ナ————!!」


次回、「Reach for that dream」
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