ペルソナ3 ムーン•オブ•スーパースター‼︎   作:事故フェウス

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今回文章が長くなってしまいましたが今後につながる要素がいくつか出てきますので、お楽しみいただければと思います。

余談ですがスーパースターアニメにペルソナ声優二人ほど出てきてるんですね……昨日の配信見て気づきました。


#05 My feelings of not giving up

〈4月10日 朝〉

 

「うぃっすー!」

 

翌朝、かのんに呼ばれて喫茶店にやって来た幼馴染、嵐千砂都はいつもの口癖の挨拶をしながら元気よく入店して来た。

 

「おはよう、マンマル〜!今日も見事なまるしてるね〜……!」

 

かのんの家に飼われているふくろうの『マンマル』にも挨拶を交わしながら、千砂都は謎の感動を覚えていた。

 

「それで、恋って人の弱点見つかった?」

 

「も〜、来たばっかなのに!」

 

「ごめん……なんでもいいんだよ?恋って人が敵対してるグループとか、実はオバケが大の苦手だとか……」

 

「ん〜……弱点は、一言で言うと……」

 

「一言で言うと……?」

 

恋の情報を期待していたかのんは千砂都の情報網を頼り、さっそく彼女の調べて来た情報に食いついた。

 

「弱点は〜……」

 

「弱点は……?」

 

「あ、朝はカレーで」

「朝からカレー!?えっと、昨日の夕飯の余り物でいいかしら……?」

 

「弱点は〜!」

 

「弱点はー……!?」

 

「ないヨ!」

 

「うぅ……!?がくっ……」

 

「ふぅ……ここのコーヒーは味が染み渡る……」

 

呑気に朝食をとっている理の隣で、かのんは目に見えて肩を落とした。

敵を知るところから、と言った張本人のくせにマイペースに事を進める理を少々羨ましげに見つめて、かのんはため息をつく。

 

「音楽科の子達にも色々聞いてみたんだけどね、みんな"頭もいいし、リーダーシップもあるし、むしろ頼りになる"って子がたくさん居るみたい。それに、理事長は彼女のお母さん、葉月花さんと知り合いらしいし……」

 

「なにそれ……ほぼ完璧じゃん、そんな型破りな人なんてそうそう居るの……?」

 

「まあ、それがあの葉月恋って人みたいだから……」

 

頭もいいし、リーダーシップもあって頼りになる人。

そんな人がそうそう現実にいるのだろうか?ふと考えて、かのんは隣を見た。

 

「すみません、おかわり」

 

「うそっ、もう食べちゃったの!?」

 

そういえば居たな、そんな奴。みたいな目線が理に突き刺さるが、本人は気づきもしない。

 

「だからあの子がダメって言うことをひっくり返すのは相当難しい……って聞いてる?かのんちゃん」

 

「あ、うん!聞いてる聞いてる!てか、理さんも聞いてる?他人事じゃないんだよ?」

 

「ああ、多分……あの子の弱点は闇属性」

 

「いや、そういう意味じゃないから……」

 

闇属性という言葉に首を傾げている千砂都に意味を説明するわけにもいかず、かのんは理からスプーンを取り上げて会話に参加させる。

 

「なんだか打ち解けてるね……君が噂の転校生でしょ?」

 

「そう、同じクラスの結城理くん。ウチの学校の将来的な共学化のための試験生ってことらしいけど、ちぃちゃん聞いたことある?」

 

「ううん、聞いたことないかな……それより月光館学園から来たってほんと!?」

 

千砂都は突然テーブルに身を乗り出し、理に興味津々のような様子で質問をした。

 

「そうらしいけど、俺は記憶が——」

 

「じゃあ巌戸台商店街は知ってる?あそこのたこ焼きオクトパシーってお店に興味があって行ってみたいなぁと思ってて!」

 

「ちょ、ちょっとストップストーップ!」

 

勢いにおされて理は身を縮めているため、千砂都を落ち着かせて話を巻き戻す。

 

「ごめんごめん、つい……それで話を戻すけど、部活の件だったよね。他の部で歌うんじゃダメなのかな?」

 

「えっ?」

 

落ち着いた千砂都は突然そんな提案をした。

 

「他の部で怒られずに活動を続けて、チャンスが来たらスクールアイドルを始めるとか……」

 

「つまり生徒会長に胡麻を擂るということ?」

 

「そうは言ってないよ!わざわざ反感を買うような事をしなくても、そうしたら確実だと思って……」

 

「それじゃダメっ!」

 

「っ!なんでっ!?」

 

「この状況を許したら、あの学校は全部葉月さんが好きにできる学校って事になる。それはダメっ!」

 

恋に対する対抗心から来る気持ちかもしれないが、かのんは幼馴染の千砂都に対してもはっきりと自分の意思を込めてそう言った。

 

「そうは言ったって、スクールアイドル部は認めてもらえなかったんでしょ?」

 

「ああ、だから君に情報提供をお願いしたんだけど……」

 

千砂都がいうには葉月恋には弱点と呼べる欠点がないらしい。

そんな完璧超人を相手にするとなると理も頭を抱えて悩むしかないのだが。

 

「だったら別の方法を考えようよ。可可ちゃんが困ってるんだから!」

 

「そうかもしれないけど……」

 

「そもそもそんな理由で他の部に行ったらその部に失礼だし、それに私……」

 

かのんは家族の顔や理の顔を見渡して、千砂都の目をしっかり見ながら言った。

 

「本気でスクールアイドルに興味があるの!」

 

 

「かのんちゃん……」

 

「今、なんて……?」

 

「おねえちゃんが……アイドル——!?」

 

かのんの決意表明を聞いた家族の反応を見て、理はそんなに驚くことだろうか?と思いながら朝のコーヒーを飲んでいた。

 

 

 

 

 

〈結ヶ丘 校門〉

 

「我々に自由を——!!」

 

学校に向かって結ヶ丘の女子生徒が通学する中、道のど真ん中で大きな台車が進んでいた。

『Let'sスクールアイドル』と書かれた台車の上にメガホンを持って可可が立ち、熱烈な抗議活動をしていたのだ。

ついでに台車を引いているのはかのんと理である。

 

「自由に部活動ができないなんて間違ってマス!部活動は常に平等であるべきです!そう思いますよね?」

 

「それ、俺も言わなきゃだめ……?」

 

「当たり前デス!!」

 

キーン、と耳鳴りが起こるほど強調された声で理の疑問はツッコまれた。

 

「こういうことじゃないと思う……てか、これ誰が作ったの〜……?」

 

「ジュネスっていう大型スーパーで売ってた台車を買って、一晩で……」

 

何処ぞの工作員の活躍なみの速度で昨日理は台車を改造し、今日に至るのだ。

 

「かのんさん!私の作戦、上手くいってマスヨネ!」

 

「うん……そだね〜……」

 

どうでもいいに言い換えられる返答をして、かのんは台車を引きながら恥ずかしさを我慢していた。

そのうち同級生に目撃され、かのんは署名活動を迫るが反応は芳しくない様子だ。

 

「まずいよ!葉月さんにバレちゃったらどうするの!?」

 

「どうでもいい……」

 

「うわ……」

 

生気のない目をしている理の姿に同級生達は見てはいけないものを見たような顔をして引いている。

 

 

「かのんちゃ——ん!」

 

 

可可率いる暴走戦車に挑んでくる勇者……ではなく、白い音楽科の制服を着た千砂都が慌てふためいた様子で走ってくる。

 

「かのんさんのお友達デスカ?」

 

「確か、かのんの幼馴染」

 

台車を動かす手を止めて千砂都が何を言っているのか耳を傾ける。

 

「理事長が!理事長が——!!」

 

 

「「「理事長が?」」」

 

 

 

 

 

〈理事長室〉

 

あれから3人は部活動の抗議活動に関して説明を求められ、葉月恋と共に理事長室へとやって来た。

 

「それで、署名活動をしていたわけね?」

 

「はい!やりたいことがあるのに、自由にできないのはおかしいと思いまして!」

 

理の学力の知識とかのんの熱意が合わさった説得で、理事長も納得させられるほどの話ができたと思われる。

 

「……葉月さん。先程彼等の話に出たように、設立の許可を出さなかったのは事実なの?」

 

「部活の自由を阻害したつもりはありません」

 

恋は白々しくそう言うと、可可の『異議あり!』といった言葉に対しても「スクールアイドルだけだ」と反省の色を見せず睨み返した。

 

「部だけダメだっていうのデス?」

 

「理由は説明したはずです」

 

「……事情は大体わかりました」

 

「………?」

 

そう話した理事長は何故か横目で理の方を見ながら、恋の方に向き直った。

 

「葉月さん。あなたの気持ちもわかりますが、普通科の生徒がレベルはどうあれ、音楽に興味を持つことを止める権限はありません」

 

「ですが、母は!」

 

「お母様はここでは関係ありません」

 

「っ………」

 

理事長に窘められた恋は悔しげな表情を浮かべ、これまたなぜか理のことを強く睨みつけていた。

 

「音楽の方針に沿って、スクールアイドルの活動を禁止はしません。ただし、葉月さんの言う通り音楽はこの学校の大きな誇りです。課題を出します、今年行われるスクールアイドルフェスティバルにおいて1位を取ること、それがあなた達の課題です」

 

 

「「「1位!?(……?)」」」

 

 

その言葉にその場にいる全員が反応を示し、可可とかのんは硬直して理は首をかしげている。

 

「そうでなければあなた達の活動は認められません」

 

きっぱりと言う理事長に対して理とかのん達は渋々「はい……」と返事をすることしかできなかった。

 

 

 

 

〈中庭〉

 

時間は昼休み、理は千砂都に理事長室であったことを報告し、部活動の条件がスクールアイドルフェスティバルの1位を獲得することであることを報告した。

 

「うーん、どんまい?」

 

「まだ終わってないけど……」

 

理がそう言うと、千砂都は苦笑いを浮かべて謝った。

 

「それで、これからどうするの?」

 

「その大会に出場するなら自分達で曲を作ってダンスを練習しないといけないから、ダンスの振り付けとかの講師を探してるんだけど……」

 

「ほうほう……それで、私に白羽の矢が立ったってことかな?」

 

「もしよければ、力を貸してほしい」

 

理が誠意を込めて頼み込むと、千砂都は腰に手を当てて立ち上がって言った。

 

「しょうがないなー、ちぃちゃんの授業料は高いよ?」

 

「……いくら?」

 

理が財布を取り出すと、千砂都は慌てて首を振って否定した。

 

「いやいや!お金はいらないよ!」

 

「わかった……」

 

「わかったってなんで脱ぎ出してるの!?」

 

「体が欲しいのかと思って……」

 

「欲しくないから!?体で払おうとしなくていいよ!」

 

冗談なのか本気なのかわからない理のボケに千砂都はすべてツッコんでいる。

かのんのツッコミとどことなく似ているのはさすが幼馴染だと理は思った。

 

「そうじゃなくて、巌戸台にいた時のことを教えてほしいんだ!ほら、朝言ったじゃん?私、月光館学園の制服とか、巌戸台のお店とかとっても興味あるんだ!」

 

「いいけど、俺もあまり覚えてないから……」

 

「覚えてない?どういうこと?」

 

理の言い方に疑問を感じた千砂都に、理は自分の事情を話した。

 

「記憶喪失……じゃあ自分の名前以外わからないってこと?」

 

「ああ、それとかのん達とスクールアイドルを始めることで自分のことがなにかわかるかもしれないから……」

 

「そっか。さっき言ったスクールアイドルフェスティバルって色んな所から人が来るし、君を知ってる人が居るかもしれないよね」

 

かのん達に協力する理由が曖昧なものでしかなかったが、先程の理事長の話を聞いて理は確かな理由を見出したのだった。

 

「わかった、そんな理由があるんだったら無理は言わないよ……」

 

「ごめん、でも、もし思い出したことがあったら君に教えるよ」

 

「ほんと?ありがとう!それじゃあ契約成立ってことで、これからよろしく、理くん!」

 

フレンドリーに接してきた千砂都に少々たじろぎつつ、差し出された手を握って握手に応じた。

 

「放課後時間ある?明日からの練習メニューを考えたいんだ!あ、理くんも参加してもらうからそこは覚悟してね!」

 

「ああ……よろしく」

 

千砂都の勢いに圧倒されながら、近くのファミレスに移動して遅くまで特訓メニューを千砂都と考えたのだった。

 

 

 

〈4月10日 夜〉

 

その日の夜、ジュネスの電器屋コーナーに寄って購入したテレビを屋根裏部屋の自室に置き、さっそくテレビを付けてみた。

 

八十稲羽から出張してきたとかいう若い店員の説明通り、テレビの映りは悪くなさそうだった。

チャンネルを回してどれも映ることを確認して、理はニュースのチャンネルに変えた。

 

『……最近多発している無気力症患者ですが、現在確認されている患者の多くが日常的にバスを使用していたという共通点が見られ、調査が進められています』

 

ちょうど気になるニュースをしていたため、理はその内容に注目した。

無気力症に関して理はおぼろげながら影時間に潜むシャドウの仕業であることを思い出していた。

影時間に迷い込んだ人間がシャドウに精神を貪り食われ、無気力症患者として発見されるのだ。

 

そういえばいつもかのんと一緒にバス通学していることを理は思い出した。

理は先程のニュースの内容と併せてかのんにバスに乗る時は周囲に注意するように言うと、かのんはどこか不安げな表情をしながら頷いた。

 

「そういうわけだから、これからしばらくバスを乗る時は注意して」

 

「また前みたいにシャドウっていう化物に堕とされるかもしれないからってことだよね……?」

 

「そうだけど、俺もその辺りの事をまだ思い出せていないから」

 

「……理さん!」

 

「……?」

 

かのんの自室を出て行こうとした理を、かのんは呼び止めた。

 

「やっぱり私も、一緒に戦うのはだめかな!」

 

「……戦う覚悟はあるの?」

 

「それは……」

 

この前の戦いを見て、理がしようとしている事は命をかけることだということはかのんも理解をしていた。

その戦いに理1人で戦わせて傷つけるくらいならとかのんは思うが……。

 

「っ………」

 

あのときの化物の殺意と、その恐怖がかのんの体を震わせた。

その恐怖を見抜いた理はかのんの進言を拒むように首を横に振る。

 

「気持ちはありがたいけど、これから忙しくなるであろう君を危険な目に遭わせるわけにはいかないから……」

 

震えたかのんをそっとしておくため、理は自室を出て行った。

 

「私……私は……」

 

理が傷つく姿を想像して、力を持つ自分が一緒に戦うことを考えるが、体は凍りついたように硬まって理の問いかけにも頷くことができなかった。

 

 

 

 

 

〈影時間〉

 

深夜0時、耳に着けていたイヤホンから音が消えてウォークマンが動かなくなったのを見て理は動きだした。

片手に木刀を持ち、腰のホルスターに召喚器を入れて着ているジャケットで隠した。

 

外に出るまでの道を大して意味はないと思いながら理は忍び足で出口まで進んだ。

かのんの両親とありあに影時間の適性がないことは確認済みで、適性があるかのんが起きているかと思い部屋に耳を澄ませてみたが、これといって物音は聞こえない。

 

「……行こう」

 

今日の理の目的はタルタロス内の視察で、数日前にかのんを助けた講堂以外の場所と構造を知るための探索をするつもりだ。

 

ドアベルを鳴らさないように鍵を開けてドアの外に出ると、理はタルタロスが出現しているであろう結ヶ丘女子高等学校の場所へと走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……理さん」

 

その様子を、かのんが見ていたとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈影時間 タルタロス内エントランス〉

 

入ってすぐ大きな広間のような形になっているエントランスに着いた。

数日前は上へと繋がっている階段を登らずに奥へと進むと、かのんのいる講堂へとたどり着いたことを思い出す。

普段の学校の構造的にそこに講堂があるのはおかしいため、タルタロス化したときの校舎の構造はバラバラになってしまうのだろう。

例えるなら迷路のような、普段とは似ても似つかない迷宮の形に変わってしまうのだ。

 

その原因は理も思い出せない。

思い出そうとすると、ノイズが走ったような砂嵐が流れる映像のように思考を乱されてしまう。

 

この塔を登った先に自分の記憶の手がかりがある…、理はそう考えて迷宮への階段を登る。

 

 

 

 

「ふっ!」

 

タルタロスの迷宮に入ると、徘徊していたシャドウとの戦闘になり、理は自身を見て襲いかかってきたシャドウに木刀を突き立てた。

 

通常の武器はシャドウに対して効果を発揮しないが、ペルソナ使いが扱えばその効果を発揮するのだ。

 

「オルフェウス!」

 

召喚器をこめかみに押し当て、引き金を引くと青白い光が弾ける。

その光からオルフェウスが現れ、シャドウに炎を浴びせると弱点を突いたらしく、シャドウはその場にダウンしながら消滅する。

 

「ふぅ……ここは、音楽室かな」

 

戦闘を終えて周囲を見渡すと、壁に有名な作曲家の肖像画がかかっているため間違いないだろう。

 

「ちょっとここで休憩していこうかな……」

 

肖像画の下で壁に寄りかかって腰掛け、理は息づく。

1階にあたる場所はすべて探索しきったが、記憶の手がかりとよべるものは見つからなかった。

 

「……本当に、ここで見つかるのかな」

 

理は冷静になると、記憶を持たないからっぽの自分に不安を感じた。

自分の記憶は本当に見つかるのか?そもそも本当に記憶なんてあったのか?

 

 

ふと目を閉じると、あの"声"が聞こえてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——約束、覚えてますよね!絶対に……絶対に帰ってきて!!

 

「………!」

 

誰かが叫んでいた。

自分の心にまで透き通る誰かの声、その声を聞いて理は目を見開く。

 

チャリ……!

 

「っ……!」

 

同時に、振り下ろされた攻撃を間一髪理は躱す。

 

ボロキレのようなコートを着込み、眼だけを出した布で顔を覆って大きな銃を二挺持ったシャドウ。

 

理の脳裏に思い浮かぶ名前があった。

『刈り取る者』、と。

 

「こいつは、やばい……」

 

直感的にそう感じた理は背を向けて走り出した。

音楽室を出て異様に長くなった廊下を走り続ける理の後ろから鎖の音を鳴らしながら刈り取る者は追ってきていた。

 

「オルフェウス!」

 

『————!』

 

「ぐぁっ……!!」

 

距離を引き離す為に足止めとしてオルフェウスを召喚するが、オルフェウスが竪琴を持って殴りかかった瞬間力負けしたように弾かれて青白い光となって消滅した。

自身のペルソナが破壊されたことで痛みがフィードバックされ、理は崩れるように倒れてしまった。

 

「っ……!?」

 

起き上がった頃には後ろに刈り取る者が浮かんでおり、理に銃口を向けていた。

目映い光が銃口から見えて拡散するように広がろうとしている。

 

光を見つめて理は自分が殺されることを確信した。

 

 

「やられる……」

 

無表情で呟きながら理解をして、ゆっくりと目を閉じていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ペルソナ!」

 

自分じゃない誰かが能力を叫んだ。

それと同時に炎の炸裂音がして、理は目を開けた。

 

「エウリュディケ……?」

 

目の前でギターに似た竪琴を持ち、刈り取る者に向かって炎を浴びせているペルソナが居た。

このペルソナの持ち主は『澁谷かのん』、棺桶のような模様の竪琴と彼女に似た特徴的な髪で思い出した。

 

「理さん!」

 

「えっ、かのん……?」

 

後ろから来たかのんに驚きながら彼女に差し出された手をとって理は立ち上がった。

 

「走って!」

 

「でも……」

 

理は無意識に刈り取る者の何かを目で追った。

 

(いちごのストラップ……?)

 

その何かとはボロキレのようなコートに挟まるように引っかかっている『いちごのストラップ』だった。

 

「理さん!命がかかってるんだよ!」

 

——死にたいの!?

 

「………!?」

 

その瞬間、理の意識はかのんの方を向く。

かのんの声に誰かの声が重なったような気がした。

 

「だから一緒に逃げよう!」

 

「……うん」

 

手を引かれ、理はかのんと廊下を走り続けて出口を目指した。

 

 

 

 

 

〈タルタロス エントランス〉

 

 

「はぁ……はぁ……!なんとか逃げ切れた……!」

 

タルタロスの迷宮を出ると刈り取る者は追跡をやめて戻っていった。

 

「危機一髪だったね……理さんは大丈夫?」

 

「ああ……」

 

理は無表情でそう返し、息を切らすかのんの後ろで涼しい顔をして立っている。

 

「なんで来たの?」

 

「なんで、って1人だと心配だからだよ。私も戦えるんだからこれからは私も探索に協力するよ!」

 

「ありがとう……でも、必要ない」

 

「え……」

 

その言葉にかのんは言葉を失い、固まった。

 

「タルタロスの探索は遊びじゃない。一歩間違えれば命を落とす……」

 

「遊び……私、遊びだなんて思ってない!」

 

「だとしても、経験がない人が出歩くのは危なすぎる」

 

「……どうして」

 

理はかのんとすれ違い、出口に向かって歩き始めた。

 

「どうして1人で戦うの!私達、仲間なのに……」

 

「……失うのが恐いから」

 

「えっ……?」

 

今度は理の言葉を聞き流してしまったかのように、かのんは理に聞き返した。

 

「……もう此処には来ないでくれ」

 

かのんを拒絶するように言うと、理はエントランスの出口まで歩き始めた。

 

「……理さん」

 

かのんも理の背中を見つめながら、エントランスの出口まで歩きタルタロスを出た。

その後、影時間が終わる前に気まずい空気が流れる中2人で家まで帰った。

 

 

 

 

 

 

〈4月11日〉

 

今日は学校が土日休みで、理は朝早くに体力作りで走り込みトレーニングを行なっていた。

サイクリングコースや野外ステージが近くにある道を走りながら今後可可達と行う特訓メニューを考えていると、通りかかった公園で見覚えのある人物がいた。

 

近づいていくと、それは先日出会ったかのんの幼馴染、嵐千砂都だった。

 

「よっ、ほっ!ここのリズムを……ステップ!」

 

一生懸命にダンスを行なっているようで、千砂都は軽快なステップを踏みながらポップなダンスを踊っている。

 

「練習に精が出ているね」

 

「あ、理くんじゃん!いやー、来週からかのんちゃんに教えることになるんだし、教える側がしっかりしないとと思って!」

 

「目標を決めて頑張ってるんだ、えらいな」

 

「そんなことないよ!ダンスは昔から習ってて得意だったってだけだし、今の学校に通うって決めたのはかのんちゃんの影響も大きいし…」

 

「いつもかのんとは一緒だったの?」

 

「うん。だって幼馴染だからね!私とかのんちゃんは何をするにしても一緒だったから」

 

「一緒に……じゃあ、かのんと一緒にスクールアイドルをしたいとか思わない?」

 

「えっ?」

 

理の提案に千砂都は先程からやっていたダンスの動きを止めて反応した。

 

「君のダンスはとっても上手だ。一人でもダンスの振り付けに知識ある人が居てくれたら俺としても心強いし、かのんとしても心強いと思うんだ」

 

「それは、違うんじゃないかな……」

 

「……どういう意味?」

 

理の言葉に対して否定を口にした千砂都の表情はなぜか曇っていた。

先程までかのんの事を明るく楽しそうに話していたのに、突然一変して否定を口にするなんていったい何があったのだろうか?

 

様子を伺っている理の視線に気づいたのか、千砂都はすぐに明るい表情を見せて訳を話し始める。

 

「ほら、私って音楽科でしょ?私なんかが参加したらかのんちゃん達に迷惑がかかるんじゃないかと思って…」

 

「……それはかのんに言われたのか?」

 

「まあね……」

 

理が話を聞くと、可可から一度その誘いを受けたらしく千砂都自身考えては見たものの、かのんから「これ以上迷惑はかけられない」と言われて止められたそうだ。

 

「君はどう考えてる?」

 

「私は……」

 

かのんの気持ちは理解したが、問題は千砂都本人がどう考えているかだ。

もし千砂都がやってみたいと思っているのであれば、理からもかのんに話して納得してもらおうと考えたのだが……。

 

「私はいいよ!実際バイトとかで忙しいしさ!」

 

「本当にいいの……?」

 

「うん!かのんちゃんには迷惑かけられないしね!」

 

そういうと千砂都は荷物を持って公園の外へ歩き始めた。

 

「……それに」

 

「それに……?」

 

「私はかのんちゃんが行きたかった場所にいるから、わがままは言えないよ……」

 

そう言うと千砂都は公園を出て、家の方へ歩いていった。

 

 

 

 

 

〈4月12日〉

 

日曜日の朝、理はかのんを連れて千砂都と待ち合わせている公園までやって来た。

 

「それじゃあまずは2人の実力を見るよ!簡単なステップから!」

 

その日から千砂都を先生にしてダンスの練習が始まった。

理も参加し、3人でダンスの基礎たるステップ練習に励んでいたのだが……。

 

「ばたり……」

 

「可可!?」

 

突然可可がばたりと倒れた。

3人か可可に駆け寄ると、可可は体力が尽きかけた顔をして起き上がる。

 

「スミマセン、一つ言い忘れました……クゥクゥは運動が苦手、デス……」

 

ばたり、と口にして可可は事切れたかのように倒れた。

 

「可可……」

 

「う、嘘でしょ————!?」

 

よくそんな体力でスクールアイドルを目指したなと思ったのはさておき、可可から告げられた事実を前にして3人は呆れ半分に硬まっていた。

 

可可が復帰するのを待って、理が練習メニューの変更を提案した。

 

「こうなったらマンツーマンで練習を進めよう。千砂都はかのんを頼む」

 

「かのんちゃんを任せてもらうのはいいけど、可可ちゃん任せて大丈夫?」

 

「ああ、多分大丈夫」

 

理自身陸上で行うトレーニングの知識を覚えていたため、それを活用して可可に体力作りを行わせようと考えていた。

 

そして、それから毎日欠かさずランニングを行い、ダンスにおける体力作りに励んだ。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……!ぐ、ぐるしい……」

 

「頑張れ、可可。体力がなかったらダンスどころか歌も歌えないから」

 

「が、がんばりマス……!」

 

毎日の練習で少しずつ可可の体力は上がっていき、ペースを持ち始めることが出来てきた。

 

一方、問題の曲作りや歌詞作りに関してだが。

 

「かのん、それは?」

 

「可可ちゃんに見せてもらった歌詞ノート。ちょっと見ただけでも良いなって思うフレーズがいくつもあったから、お父さんに辞書を借りて翻訳していこうと思って……」

 

「……その作業、手伝うよ」

 

「え?ううん、いいよ、そんなことまでしなくて……!」

 

そう言って遠慮するかのんの隣に座り、理は可可のノートの内容を覗き込んだ。

 

「スクールアイドルを行うのはかのん達だから、そういうサポートは俺に任せてパフォーマンスに集中してほしい」

 

「理さん……」

 

最近気まずい空気が流れ続けていた2人だったが、毎日行なっている練習の中でお互い絆が深まりつつあった。

 

「わかった、理さんを信じて任せるよ」

 

「ああ、任せて」

 

理はかのんに頷くと、翻訳作業を交代して可可の書いた歌詞の内容を読み始めた。

影時間の探索は日中の練習の疲労もあるため無理はせず、調子が良い時にタルタロスに入って探索を行うといったペースで行なっていた。

そうしてかのん達との練習、喫茶店の仕事、日々の学業、タルタロス探索を卒なくこなし、練習を始めてから3週間が経った日のこと。

 

 

 

〈5月2日〉

 

理はかのんに差し入れとして作ったハンバーグの食器を洗っている時のことだった。

 

「できた————!!」

 

突如かのんの大きな声が聞こえてきて、それが最近ずっと取り組んでいた曲作りの完成を示す声だということを理は即座に理解した。

 

「理さん!ついにできたよ!私達のオリジナルの曲が!」

 

理がかのんの自室のドアを開けると、徹夜の疲れを感じさせないような喜びに包まれたかのんが飛び込んできた。

 

「っ!?はわぁ!?ご、ごめんなさい私!つい喜ぶあまり!」

 

「いや、別に……」

 

顔を赤らめて窓際まで下がるかのんを落ち着かせつつ、理はかのんの朝食にパンと皮を剥いたリンゴを乗せた皿をテーブルに置いた。

 

「あ、りんごだ!」

 

「かのんの好きな焼きリンゴではないけど、昨日スーパーに寄って買ってきておいた」

 

「理さん、ありがとう!それじゃあいただきます!」

 

喜々としてかのんは朝食を始めた。

その様子を眺めていると理は胸の中で感じる暖かいものに気づいた。

 

「どうしたの?」

 

不思議そうにしていた理の表情に気づいたのか、かのんが尋ねてきた。

 

「なんだか胸が暖かい……かのんが嬉しそうにしていると、なぜかそう感じたんだ」

 

「……きっとそれって理さんも嬉しいって思ってるんじゃないかな」

 

「嬉しい……?」

 

「最近の理さんを見ていて思うよ?私や可可ちゃんと同じく一生懸命にするときは真剣にしてくれるし、私がダンスをやってて楽しいって思ったときも理さんも楽しそうにしてる」

 

「確かに……悪くないって思う」

 

理は窓際から差す朝日を見つめながら、どこかぼんやりと考え込むような様子でかのんが言ったことに頷いた。

 

「こういうの、楽しいって言うんだよな」

 

「楽しいって思ってくれてよかった。最初の時の理さんはどうでもいいばっかり言ってたから」

 

「だって、ほんとにどうでもよかったから……」

 

「ひどい!なにそれ!?」

 

「あ、ごめん……」

 

「……ふふっ、冗談だよ」

 

怒った様子を見せて迫るかのんにたじろぐと、その様子がおかしかったのか理を見てかのんは笑った。

 

「理さんのことはまだよくわからない所がいっぱいあるけど、私、背中を押されて始めてよかったって思う。でないと、今の私は始まらなかったから」

 

「ああ、そうだな……」

 

「だからこれからもよろしくね!理さん」

 

そう言ってかのんは微笑みを浮かべ、理はかのんとの間にほのかな絆を感じた。

 

 

「おーい!」

 

「あ、見て!」

 

かのんは窓からする声に気づき、窓の下から可可がこちらに手を振っているのに気がついた。

 

「よーし、朝食も食べたことだし!理さん!」

 

「ん?」

 

「一緒に走ろう!」

 

「……ああ」

 

差し出された手を見つめて、ほのかに表情を緩めながら理は頷く。

ジャージ姿で3人並んで理、かのん、可可は朝方の街を走っていくのだった。

 

 

 

 

 




「かのんさん!」

「可可ちゃんを守るために戦わないと……!」

「背中は任せた」

「守られるのを待ってたらダメだから!」

「新しい、ペルソナ……!?」

次回、「High priestess ordeal」

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