エリザベートはラインハルトの事が気になるようです 作:ren1828
「この愚か者…っ!」
「申し訳ございません伯父上…!どうか、お力を御貸しください…!」
夜の屋敷に響き渡る怒号をエリザベートは耳をすまして聞いていた。
「あの孺子《こぞう》の跳梁を許すのも問題だが、それ以上に、この大事な時期に我がブラウンシュヴァイク家が疑われる事は決してあってはならんのだぞ!」
「心得ております…!幸いベーネミュンデ侯爵夫人も我らを疑う様子はございませんでしたが、何卒伯父上のお力であの女の処分を…」
以前よりラインハルトを憎んでいたフレーゲルは、皇帝の元寵姫であったベーネミュンデ侯爵夫人を焚きつけ、アンネローゼひいてはラインハルトを失脚させようと画策していた。
この目論見は失敗に終わり、侯爵夫人もその後処刑される事となるが、このような拙い陰謀をオットーは苦々しく思っていた。
オットーにとっての生涯の大事業は「皇統乗っ取り」である。その為に数多くの陰謀を巡らせ、特に障害となるライバルの皇族らを人知れず冥府へと送ってきた。
それだけに現皇帝の寵愛を受け、叛徒征伐に多大な武勲を立ててきたラインハルトは帝室を守る"盾"のように見え、確かに脅威ではあった。
しかしオットーの主戦場はあくまで宮廷闘争である。
あの金髪の孺子よりも、他の皇族や貴族、そして門閥貴族を冷遇する現政府の官僚共の方が余程現実的な脅威だったのである。
甥に尻拭いを約束し、彼を退室させるオットー。夜間の使用人達も主の不機嫌さを感じ取り、残る業務に際しても緊張が走っていた。
そんな中、エリザベートは今こそ父に自分の悩みを打ち明けるべきか、迷っていた。
エリザベートは父を尊敬していた。
確かに道義的に言えば父は悪人なのかもしれない。その全てを知っていた訳ではないが、同じ親族としてはその点全く知らない訳にもいかなかった。
その一方で、策謀に血を巡らせていない時の彼は懐の広い大人物でもあり、多くの貴族達が曲がりなりにも彼を頂点に仰いでいたのも、その人心掌握術の結果ではあった。彼に比べればリッテンハイム侯ですら、単に追従しておこぼれに預かるNo.2に過ぎなかった。
家庭内では身内に甘いが、それだけ面倒見も良かった。人を見る目も確かにあり、感情の起伏さえ抑えれば、大変知恵が回る。
まさに一世紀前の平時であれば、あれで通用した。
エリザベートは思い切って父の書斎に足を踏み入れた。そして父に尋ねた。「ローエングラム伯とお会いする事は出来ませんか…?」と。