エリザベートはラインハルトの事が気になるようです   作:ren1828

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第三話 エリザベートは苦悩するようです

 「「叛徒共が侵略しにくる…!」」

 

 帝国では空前の大作戦が執り行われていた。イゼルローン回廊側の帝国領にて敵を迎え撃つ迎撃作戦である。その全権をローエングラム元帥が任された。

 本来ならミュッケンベルガー司令長官以下、帝国の全力を挙げて敵の迎撃を行う総力戦となってもおかしくなかったが、"一介の"元帥府に任される事となったのも、ひとえに陛下のご信任厚い証拠とみなされた。

 

 

 「お前が会いたいと言っていたローエングラム伯は、まさに辺境の地で叛徒共と不毛な戦いに従事している。当分会う事などできん。」

 

 オットーは娘をラインハルトと会わせたくはなかった。

 無論、感情的な嫌悪感も否定はできなかった。

 しかし、皇帝の体調不良から来る帝位争いもそう遠くはない。仮に娘があの美男子を婿に欲しているのだとしても、まずは無事帝位に就けてからでなければ…

 オットーにとって娘のエリザベートはまさに玉《ぎょく》たる存在である。それまでは当分彼女の行動も自分の管理下に置きたかった。

 それ故、単なる鉄砲玉に過ぎないと見做しているとはいえ、潜在的に危険な存在でもあるラインハルトと軽々に会わせる訳にはいかなかったのである。

 

 「それより陛下に、おじい様に会ってあげなさい。」

 

 「おじい様…もしかして御病気なの?」

 

 「大病という訳ではないが、あまり長くはないとも聞く。近い内に立太孫の儀式も行われる事となるだろう。無論、それは儂が進めておくが、お前も次期皇帝としての振る舞いを意識しておくのだ。」

 

 エリザベートは、ラインハルトに会ってみたいという気持ちはひとまず置きつつ、祖父フリードリヒ四世に拝謁する事となった。

 

 

 

 「陛下、お身体の具合は…?」

 

 「大事ない。それよりエリザベート、先の事件ではそちも気の毒であったな。怪我はなかったか。」

 

 「それは…幸い家族も皆無事でしたから…」

 

 「余の身体もそう長くはない。いずれ次の皇帝も決めねばならんのだろう。」

 

 「そんな…おじい様はまだまだお元気なのでしょう?そんな悲しくなるような事を仰らないでください…」

 

 「すまぬな、余は元より無意味に延命しようとも思っておらんのだ。世に穢れをもたらす前に潔く滅びるが善い事だ、覚えておきなさい。」

 

 「…お父様より言付けを預かっております。皇太孫はどうなさるのかと。

 実は私はエルウィンでも良いのかなと思っています。男の子ですし…」

 

 「そうだな。国務尚書も同じことを聞く。

 だが国も人も、滅びるなら精々、華麗に滅びるが良いのだ。余は孫のいずれも苦しみの淵に立たせたくはない。許せ。」

 

 「その…おじい様は国が滅ぶとお考えになっておられるのですか…?確かに叛乱軍が侵略してきたと聞いています。いつでも帝都から疎開する準備をしなければいけないとも…」

 

 「それもあろう。委細はローエングラム伯に任せておる。あの者の実力が足らねばそういう事もある。

 しかし不死の人間がおらぬと同様、不滅の国家もあるまい。余が話すのはその事なのだ。

 そちはエルウィンが良いと申したが、いずれが皇帝になっても不幸な末路が待っているだろう。」

 

 「………おじい様は皇帝になって不幸だったのですか…?」

 

 「それは皇帝にならねば理解できぬ事よ。」

 

 「その…私も御進講の先生から授業で様々な事を学びました。それで、皇帝の権限は徐々に失われつつあると…

 おじい様、私はローエングラム伯に一度会ってお話ししてみたいのです。あの方が何かの糸口になるのではないかと…」

 

「それも良かろう。あの者は純粋だが、まだ子供だ。そして世を恨む目をしている。

 そちとは違う世界を見ているのだ。是非、話してやりなさい。」

 

 無論、未だ戦闘が続いており、ラインハルトと会う事は当分できないのだが、祖父フリードリヒ四世より面会の内諾を受け取ったと解釈した。

 いずれ機会は訪れるだろうと。

 

 

 

 帝国歴487年10月14日、フリードリヒ四世は急逝した。医師は心臓発作と発表したが、当初より暗殺説も浮上した。皇帝の急死は歴史上幾度もあり、それらの中には確かに暗殺も存在していたからである。しかし、元々体調は悪化しており、客観的には病死であると断定された。

 これにより周辺は騒がしくなる。

 故人を悼む暇もなく、「次期皇帝」を巡っての熾烈な宮廷闘争が展開されたからである。

 

 この点、ローエングラム伯は気の毒に思われた。元々彼は皇帝によって寵愛を受け、若くして帝国軍を指揮することとなった幸運の寵児ともみなされていたからである。

 それに加え、先の迎撃戦では叛乱軍を見事撃退するという大勝利を飾っていた。その戦勝祝賀会の規模を巡って、政府内では議論が交わされていたが、その矢先の出来事だったのである。

 彼は確かに帝国の英雄であった。だが門閥貴族の中には、その能力を渋々認めつつも、その偉才を見抜いた先帝をこそ称賛するといったささやかな抵抗も見られた。

 いずれにしても、そのような戦勝気運もすっかり失せてしまったのである。

 

 荘厳だが、心のこもらぬ葬儀が行われた。彼を心から尊敬し、心から崇拝している者はそう多くはなかった。無論暴君ではなかったし、惜しむ気持ちも無いわけではなかった。灰色の皇帝と呼ばれる所以である。

 彼の次はだれになるのか、その問題で皆頭がいっぱいだったのである。

 しかし、エリザベートはやや異なった感慨を抱いていた。生前の対話から、皇帝としての祖父の孤独さを感じ取っていたからである。無論孫としての親愛の情もあった。

 

 

 「エルウィンはまだ小さいでしょう?だから、私が次の皇帝になるのですって!」

 無邪気にはしゃぐサビーネ。

 本葬儀の直前、皇居内の庭園にてエリザベートとサビーネは"密会"していた。

 

 二人は共に帝位を争う立場にある。そしてブラウンシュヴァイク家、リッテンハイム家双方は門閥貴族を二分して争っていると見做されていた。

 実際はそれも表向きである。

 ブラウンシュヴァイク家の優越は明らかであり、そしてリッテンハイム家はブラウンシュヴァイク家に反感を抱く家をNo.2としてまとめている、門閥内野党の立場に過ぎなかった。そしてリッテンハイム侯も実はブラウンシュヴァイク公がいなければ一人では何もできない。

 とはいえ、リッテンハイム家がブラウンシュヴァイク家に次ぐ立場であるのも事実だった。

 サビーネは父親の虚勢を真に受けていたのである。

 

「あら、お馬鹿さんね…おじい様に代わって皇帝になるのは私よ…?」

 うつむきながら呟くエリザベート。

 誰かがおじい様の代わりに"籠の鳥"にならなければいけない。

 そしてできる事なら皇帝としての務めも果たしたいが、もはやそれが叶うかどうかも怪しい。

 ゴールデンバウム朝初の女帝となる"歴史的名誉"はあるが、それだけである。

 良くて父の傀儡、悪ければ陰謀によって暗殺されるだけだ。これまで露となって消えた名もなき皇族たちのように…

 

 「だって、お父様が仰っていたもの…!」

 「そんなの嘘よ。」「そっちこそ嘘よ…」

 議論は白熱(?)する。思いの外サビーネは純粋だった。まさか従姉に父の言を否定されるとも思っていなかったのである。

「えいっ!」「もぅ…!」

 庭池の水を掛け合ってじゃれつく二人。

 この時ばかりは、どちらが皇帝になるのかなど、もはやどっちでも良かった。こうして二人で同じ時を過ごせるだけでも嬉しかったのである。

 そして出来ればこのような関係も続いてほしいと。

 

 

 この二人のやり取りを見ていた者がいた。

 時の英雄ラインハルトである。

 

 「(あの二人は、まさにこの世の天使だ…!)」

 

 こうして銀河の歴史は変わっていく…

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