エリザベートはラインハルトの事が気になるようです 作:ren1828
それは「運命的な出会い」だった。
転びそうになった二人の少女を青年が抱きかかえた。結果的に一緒に倒れ込んだが、三人はまるで抱き合うような格好となった。
「お怪我はありませんか、フロイライン」
絶世の美青年ラインハルトの「機転」によって、二人の少女、エリザベート16歳とサビーネ14歳は床との衝突を回避する事ができた。そういう意味では「命の恩人」であった。
一瞬、エリザベートも何が起きたかわからなかった。だが自分たちがよそ見をして侍女の方へ駆けていた矢先に、人とぶつかってしまった、その事をまず詫びなければならなかった。
そこでようやく、自分たちと倒れ込んでいるこの男性が、噂のローエングラム伯ラインハルト元帥であると気付いた。
確かにいつか会う機会があるだろうと思ってはいたが、まさかこうも突然に来るとは…さしものエリザベートも頭の中が真っ白になってしまった。
「フロイライン、お怪我は?」
再度尋ねられ、何か返答しなければと焦るエリザベート。彼の身体から離れ、謝罪の言葉を述べる。
「ご、ごめんなさい…!てっきりよそ見をしていたもので…そちらもお怪我は…?」
「いえ、こちらは大丈夫ですよ。あなたはエリザベート殿下ですね、そしてこちらはサビーネ殿下…」
「はい、私もごめんなさい…」
しばらくラインハルトの身体にくっついていたサビーネもようやく離れる。彼女は少しラインハルトの「男性的魅力」に魅了されているようでもあった。
「もしかして、あなたはローエングラム閣下でいらっしゃいますか?
実は前からお会いしたいと思ってはいたのですが、こんな形になってしまって…本当に申し訳ございません…
もしよければいつかうちの屋敷で償いをさせては頂けませんか…?もちろん、警備は厳重にしておりますから、あのような事件も二度と…」
「えっ、ローエングラムってあの!?」
それまで惚けていたサビーネが突如驚く。目の前の素敵な男性があの金髪の孺子《こぞう》であるとようやく気付いた。
「(ねぇ、エリザベート。この人ってあの金髪のこぞうなんでしょ?早く離れないと…)」
サビーネは一転してエリザベートの陰に隠れ、小声で耳打ちする。彼女にとって「金髪の孺子」と言えば悪魔の同義語か何かだ。彼の端正な顔、たくましい身体、美しい声、ほのかな匂いを感じても尚、父親の呪詛の言葉の方が脳内に蘇ってしまった。
「小官も非才の身ながら軍務に精励しておりますが、私を快く思わない者によって讒言が為されているようですね…門閥貴族共はいつも…あっいえ、まさかあなた方のような天使がこの世にいようとは思ってもおりませんでした。誤解を解く機会さえ頂けるなら、どこへでも…!
エリザベート殿下、ご招待の旨有難く頂戴致します。御父上にも…あっ!いえ、できる事なら元帥府に…!いつでも構いませんが、できれば殿下の方からこちらへ…!」
「(ねぇ、早くいこ?私怖い…)」
「(ちょっと待ってサビーネ)」「閣下も御多忙でしょうが…いずれその日が来ましたら」
ラインハルトとエリザベートのやり取りの間、サビーネはすっかり腰を抜かしてしまった。
ラインハルトは再度介抱しようと申し出たのだが、エリザベートはご辞退申し上げ、サビーネを支えながら侍女の許へと去っていった。
「(…怯える姿も可愛かったなぁ)」
ラインハルトには春が訪れていた。