UMA COMBAT ZERO   作:名無子

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Q.時系列の乱れについてどう思う?
A.ウマムスキー粒子は時空を揺らがせる、それが答えだ。

Q.トンチキが過ぎるのでは?
A.ここは「レースで世界征服を企む悪の秘密組織」に近い世界線なんだよ、ロック。だから、この話はここでおしまいなんだ。



mission 03

朝日杯フューチュリティステークス。

『彼女』にとっては初の重賞。

 

この時、『彼女』と『嵐の女王』は初めて同じレースを走った。

以降、二人は全てのレースで激突し、激闘を繰り広げることになる。

 

この頃から『彼女』の負傷は常態化し、時と共に癒えるどころか、その数を増やしてすらいた。

出走記録だけを見れば、無理な連闘を重ねていたわけではない。

怪我をしやすい、治りにくい体質だったのだ。

そのような説明で片付ける事も出来るだろう。

実際、そのような傾向にあったことは間違いないはずだ。

 

だが、同時期。

この頃から、新たな噂が囁かれるようになる。

何者かの命に従い闇を走る『傭兵』の噂が。

 

■■■

 

史上初めて地方競バ出身のダービーウマ娘となった、生ける伝説。

だがその裏ではハゲタカとも呼ばれ、当時のレースの暗部にも関わっていた女。

 

ゴールドウィーバー(G o l d W e a v e r)

 

国営競バ解体後は司法取引により訴追を回避。

引退後の現在は小さなバーを開き、時折訪れる客を待ちながら日々を過ごしている。

 

――●REC

 

こんなとこで悪いね。

商売上、昼間は活動外なんだ。

 

当時の私の仕事はエスケープキラーってやつだ。

 

仲間だろうが、どんな事情を抱えた奴だろうが、命令とあらば差し切って置き去りにする。

用心棒みたいなもんさ。

跳ねっ返りがあんまり勝ちすぎて、賭場を荒らさないようにするためのね。

 

ああ、そんな顔しなくても分かってるよ。

私が言ってんのは『表』の話じゃあない。

『峠』の方さ。

 

あの日も出走命令が舞い込んできた。

別に特別なことじゃぁない。

でも、あの日に関してはちょっと違っていた。

目標は調子に乗ったそこらの素人なんかじゃなく、中央きってのトップエースが率いるチームだ。

そしてそいつは、わざわざ混戦状態のレースに殴り込んできやがった。

高額で賭ける大口顧客(ハイローラー)共が観るレースだぜ。

転がり込んでくる配当を考えりゃ、実質的にはルール無用の叩き合いさ。

そんな鉄火場にたったの2騎で殴りこもうってんだから、大概イカれた奴らだったよ。

まあ何でもいいさ。問題はそんなことじゃない。

そのリーダーが『三本脚』――例の化物だったってたことだ。

 

まいったね。

たった二人のチームの癖に暴風みたいな勢いで全員を掛からせやがって、巻き込まれたこっちはたまったもんじゃねぇ。

おかげでコース終盤にはガタガタのガス欠にされちまった。

私一人が辛うじて前の二人の後ろに張り付いてるだけ、このままじゃ普通に千切られて負けるのを待つだけってザマだった。

もしそうなったらこいつらの脚だけでも叩け――そいつが私の飼い主からの命令だった。

こっちの世界じゃ斜行も降着も存在しないんでね。

最後に試す手としちゃ、そう悪くない筈だった。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

最終コーナー。

なけなしの足を振り絞って仕掛けてやった。

そいつが私の運の尽きってやつだったわけさ。

 

私がしてやれる与太話はこれくらいだな。

守秘義務ってやつだ。

ああ、こう見えて契約は守るタイプなのさ。

そいつが長生きの秘訣だからな。

 

■■■

 

公道レース。

 

政府の監視を逃れ、非公式に開催されていた賭博競バ。

『峠』と称される曲がりくねった山岳道路を主戦場として繰り広げられたそれは、当時の常識においてすら出走者達の安全を軽視した危険な競技だった。

その代償として、『表』と呼ばれた国営競バ主催のレースとは比較にならない賞金が出走者には支払われていたという。

多くの記事においては、本来は安全確保のために投じられるべき資金が、そこに回されていただけだと指摘する。

だが、本当にそれだけだろうか。

『表』のレースで国営競バ、そして彼らに連なる者達が手数料(ハウスエッジ)と称して持ち去った額が、どれほどあったのか。

もしそれが出走者達に支払われていたとしたら、果たして非合法の賭博レースなど存在する余地はあったのか。

その点に言及した資料は、奇妙なほどに少ない。

 

『走り屋』と呼ばれ、夜を駆けた彼女ら。

最初から『峠』だけを走っていたもの、或いは地方競バで芽が出ず転向したもの――その出自は一様ではない。

日陰のレース、非合法の地下経済。

当時を知る関係者を辿ることには大変な困難が伴った。

必然、出所不明な裏情報にも手を出さざるを得なかった。

 

これ以降の記述には、証言者の名を伏せた情報が少なからず含まれる。

それが取材時の約束だからであり、或いは事実確認の困難な不確定情報であるからだ。

同時に、細部の多くが想像、あるいはバラバラな挿話の継ぎ接ぎとならざるを得なかったこともここに告白しておく。

一貫性のある記事として繋ぎ合わせるには、『彼女』を巡る記憶や記録は余りに断片的だったのだ。

 

ともあれ――当時密かに開催されていた公道レースには、大きく分けて2種類があったらしい。

個人戦とチーム戦だ。

前者については説明するまでもないだろう。

問題は後者だ。

所謂「地元の馴染みの走り屋たち」を起源として各地で自然発生的に形成された「チーム」は、やがて公道レースの最盛期において『首輪付き(カラード)』と呼ばれる枠組みの中で戦績を競うようになったという。

 

ある日を境に『彼女』は公道レースに姿を表し、個人戦とチーム戦の両方を荒らし始めた。

そう、それはまさに蹂躙と呼ぶに相応しい戦い方だった――らしい。

 

■■■

 

元カラード第9位 チーム『ガルム』2番騎 通称『PJ』

 

――●REC

 

え、名前の由来ですか?

大した理由はないですよ。

あの人の小さい頃の愛称と、これからやろうとしてたことを適当に並べたんです。

そう、「パーフェクト」と「障害競走(J u m p r a c e)」の頭文字をくっつけただけ。

 

さて、それはそれとして、ですね。

ええと、私があの人のチームメイトになったのは……そう、今の言い方で言うなら初等部の頃でした。

我ながらそこそこ才能はあったほうかな、とは思ってます。

ちょっと偉そうですかね、えへへ。

 

あの頃はもうホントに貧乏で、なんとかしてお金を稼がなきゃいけなくて。

トレセン学園に入る学費なんて絶対無理でしたし、子供がやれるアルバイトなんてのは、あの頃でさえありませんでした。

だからまあ、公道レースへの参加は必然でした。少なくとも、私の中では。

あの頃は私も結構尖ってた――っていうかただの生意気な子供だったんですけどね。

それでも自分の速さには自信があって、大抵のウマ娘には負けないって、勝てるって思ってました。

 

ちょうどその時にあの人と出会えたのは、ほんとに運が良かったと思います。

知ってます? 公道レースって、本格的に参加するには試験があるんですよ。

最低限、コースを走りきれる程度の実力はあるのかどうか、既に出走資格を持っているウマ娘の誰かと『峠』を並走するんです。

それがあの人との出会いでした。

 

そりゃもう、凄かったですよ。

こっちが全力全開で必死に走ってるのに、まるで散歩でもしてるみたいに私の斜め後ろにぴったりつけて。

どんなにペースを変えても、ライン取りを変えても、あの人との距離と位置が全然動かないんです。

『峠』ってこんな人たちが走ってるのか、と思って絶望しましたね。

まあ、あの人は試験官として私を観察する必要があったってだけで、それ以外の意図なんて何もなかったわけですけど。

で、走りきって力尽きて道路に転がってた私を見下ろして、あの人はチームを組まないかって言ってきたんです。

 

ああ、別に才能を見込まれたとかそういうんじゃないです。

チーム戦に出走するには最低2人が必要だったから――それだけです。

別に実力なんかどうでもよくて、たまたまそこに私が居たっていうだけ。

ふふ、ごめんなさい。

しかもそれを普通にぶっちゃけてくるんだから、今思い返しても酷すぎて笑っちゃいますよね。

 

もちろん、迷う余地なんてありませんでした。

その場で承諾しましたよ。

私はお金が手に入るなら何でも良かったし、あの人は単純に「勝てる」ウマ娘でしたから。

 

■■■

 

私は今、群馬県のとある山道を訪れている。

 

かつて『峠』の一つとして名を馳せた場所の一つだ。

我が愛車、カブの頑張りのお陰で、ウマ娘ならざる身の私でも彼女らが駆けた光景の幾許かは追体験できる。

(もちろん道交法は遵守している。そこはご安心いただきたい)

 

複数のヘアピン、緩く連続したカーブ、そして直線。

制限速度内で走破する分には全く問題はない。

だが、このコースを生身ひとつで――そして制限速度を遥かに超過した速さで駆け抜けるとしたらどうか。

 

古びたアスファルトには不規則なひび割れがあり、よく見れば小石や小枝、枯れ葉が散らばっている。

わずかに判断を誤っただけで――或いは、誤りなど無くとも簡単に足を取られ、クラッシュしてしまうだろう。

 

通常、公道レースは夕暮れから深夜の時間帯に行われた。

薄闇の中、月と街灯だけを頼りに駆け抜ける走り屋達。

その残滓は今もなおこの山道に刻まれている。

 

例えば、このガードレールだ。

大きく3つ、()()()()()()()()()()()()()()()()()ができている。

これは事故の痕跡ではない。

 

教えてくれたのは、かつてこの場に立っていたギャラリーの一人だ。

 

■■■

 

当時、一つのコースで同日中に開催される公道レースは――由来は不明だが――最大7試合までだった。

そして『表』のメインレースが11Rであるのに対し、「地下(basement)」のレースである『峠』の場合は、当日最後の第七レース――所謂B7Rがそれとされていた。

 

その峠をホームコースとするチームが外部の挑戦者を迎え討つ、その日最後の大一番。

チームの誇りをかけた絶対防衛戦略領域、B7R。

 

通称『円卓』

 

走り屋たちに与えられた最大の舞台。

そこには上座も下座もない。

条件は皆同じ。

所属もランクも関係ない。

最速の座を巡って、莫大な賞金を狙って、各地のエースが火花を散らす戦場。

『生き残れ』

それが唯一の交戦規定となる、過酷なレース。

 

――そして。

その日の『円卓』は、いつもとは違っていた。

 

迎え撃つホーム側はカラードランク第5位、チーム『ソーサラー』。

1番騎「ベディヴィア(B e d i v e r e)」率いる、総勢4名の精鋭部隊。

設立以来無敗を誇ったランク1位、チーム『ウィザード』の分遣隊として結成された彼女らは、本隊同様に各地の『円卓』を斬り伏せてきた実績を持つ強者達だった。

 

対する挑戦者はチーム『ガルム』

カラードランク第31位、誰一人として故も知らぬ無名のチーム。

メンバーは1番騎「サイファー(C i p h e r)」と2番騎「PJ」のわずか2名。

 

調子に乗った新入りの無謀な挑戦か、或いは単なる記念のつもりで挑んだだけの観光客か。

 

レースの開始と同時に、観衆はその答えを目の当たりにすることとなる。

 

■■■

 

――●REC

 

実際のところ、あの人が何を求めて走っていたのかは分からないままだったんですよね。

だって『表』の方でもあれだけ活躍していたのに、お金が足りなかったなんてありえないじゃないですか。

もしあのときに聞いてたら……教えてもらえたりしたのかな?







▶ 0:00●―――――――――――――――――――――――――――1:20

初見となる。
公道レースに参加し、すべての試合に勝利してほしい。
無論、表のレースについても、だ。
この挑戦は、賭博競バの前提を覆す、明確な叛逆行為だ。
それを理解した上で、私の言葉を聞いてくれ。
上層に居座る主催者達は法の目を逃れて膨大な富を蓄える一方、
少なからざるウマ娘たちは脚を失い、荒廃した余生を強いられている。

賭博競バを維持するために、ウマ娘の犠牲は更に深刻化し、
それは、これから生まれくるウマ娘たちの未来をすら侵食しはじめている。
賭博競バは、矛盾を抱えた収奪装置にすぎない。
このままでは、ウマ娘は活力を失い、諦観の内に壊死するだろう。
これは扇動だが、同時に事実だ。
それをよしとしないのであれば、俺の依頼を受けてはみないか?
勿論、報酬は払おう。
期待して待っている。

ああ、一応次回の連絡用に名乗っておこう。
そうだな……”一文字ハヤテ”とでも呼んでくれ。
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