UMA COMBAT ZERO   作:名無子

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Q.ACなのかACなのかはっきりしろ。
A.どっちかというと今回はAC成分強めです。これだけははっきりと真実を伝えたかった。

Q.AC以外も混じってるよね?
A.ウマシャルD概念、ワイトも賛同します。


mission 04

 

[INTERVIEW FILE01]

[Those who witnessed the beginning of the legend]

 

誘導棒が振り下ろされた(レッドアラート)

 

そのとき俺達はスタート地点の両脇、ガードレール沿いに群がってた。

1番騎を先頭に鋒矢の形に並んだチーム『ソーサラー』、その姿を最高の角度からカメラに収めようとしていたんだ。

 

ああ、相手が誰かなんて意識もしてなかった。

何しろ『ソーサラー』と言えば、常勝無敗の代名詞みたいなもんだったからな。

 

周りの連中も皆、連中がどう勝つかを見に来てただけだった。

1番騎はあの「ベディヴィア」だ。

当時最強のチーム『ウィザード』でNo2を張ってたウマ娘が、直々に選り抜いた面子を率いて走ってる。

ぽっと出のチームなんぞに負ける理由なんてどこにもなかった。

だがその筈は、得体の知れない対戦相手の初手で消えたんだ。

 

蹄鉄がアスファルトを削る音。

気づけば、『ガルム』の1番騎がハナを切ってた。

 

嘘だろ、ってのが正直な感想だったな。

何しろ『ソーサラー』はハナを奪って、後は2番騎以下のメンバーが完全に敵チームを塞ぎ、1番騎が最後まで先頭のまま勝ち切るって展開が常套手段だった。

地力の違いで押さえつけ、後は高練度の連携で封殺する。それで終わりだ。

 

だが、あの日はそうならなかった。

 

力んで後先考えずに飛び出した――って風にはとても見えなかったよ。

当たり前みたいに、そよ風みたいな自然さで奴はアタマに出た。

その時点でとんでもねえっちゃとんでもねえんだが、まあ『ガルム』の1番騎はな……例の『三本脚』だ。

多少はそういうこともあるかもってのは、頭の何処かで思ってたよ。

それより驚いたのは、その後ろで影みたいにぴったりつけてた2番騎のほうだな。

どこからどうみても子供にしか見えねぇようなちっこい小娘だってのに、そいつは顔色ひとつ変えずに1番騎の後ろに貼り付いてた。

 

実際、何もかもが予想外だった。

 

あんまり驚いたんで、その時の写真は取り損ねちまってな。

まったく、惜しいことをしたよ。

 

[INTERVIEW FILE02]

[Those who witnessed the beginning of the legend]

 

《目標を確認した。ソーサラー1より全騎、最大推力で当たれ。帰還を考えるな》

 

どうよ、きっちり録れてるだろ?

かなり機材につぎ込んだからな。

あん? なんだアンタ知らねえのか。

『峠』のチーム戦はな、チームメイト同士は無線機で連絡を取り合うんだよ。

なんせ日が落ちて曲がりくねった山道だからな。

それに、俺達ギャラリーもこいつを使って自分達のセクションの状況を共有し合うのさ。

それがレース全体の実況代わりにもなるってわけだ。

 

名前の呼び方?

ああ、そいつはコールサインって奴だ。

何しろ当時の無線だから、暗号化はできてねぇわけよ。

で、そうなると警察(サツ)もそいつを聞きつけたり録音しやがったりするんでな。

通り名だって出来れば控えた方がいい。

だからまあ、とりあえずチーム名と番号で呼びあっときゃいいだろって話になったのさ。

 

そうだな、有名なレースだったら割と音源も残ってるかもな。

当時はギャラリー側にもチームを組んで「実況屋」を名乗ってる連中が居たからな。

コースの各セクション毎に仲間を配置して、ソイツらが交代でレース全体を実況していくのさ。

 

有名なレースだったり、質のいい音源は結構な高値で取引されてたもんだよ。

俺は自分が観に行った試合は自前で録音したもんだが、そいつが結構いい小遣い稼ぎになってなあ。

そう、その金で他の地方のレースのテープを買い集めたんだ。

ま、この書庫が俺の青春の証ってわけさ。

 

好きなもんを聞いてきゃいい――でも、こいつは違法行為の証拠そのものでもあるからな。

時効っちゃ時効かもしれんが、音源のコピーは止めてくれよ。

あんたには済まねえことだけど。

 

一部だけでも?

いや、アンタな――そりゃ俺だってできることなら……ああもう分かったよ。

切り取るのは名前や場所が出ない部分だけ、録音はそのスマホで間接録音するだけ、聞き取れない箇所があっても文句は無し。

それ以上はダメだ。絶対にだ。

いいな、わかったな?

 

■■■

 

複数のヘアピン、緩く連続したカーブ、そして直線。

全ての要素を兼ね備えたこのコースは、全長約4000メートルのダウンヒルとして使われていた。

スタートの短い直線を過ぎると、まずは2連続のL字カーブ、そして最初のヘアピンが待っている。

 

秋名山と呼ばれたこの山道をカブで辿りながら、私は協力者からコピーさせてもらった音声ファイルの断片を再生した。

その体験と、彼らが語ってくれた体験談を元に『彼女』が繰り広げたレース、その一つの再構成を試みたいと思う。

 

■■■

 

《ガルム1突っ込んだ!ガルム2続く!だがソーサラーも遅れてねぇ!》

 

L字程度のカーブなら、走り屋たちに取ってはほとんど直線と変わりない。

アスファルトを蹴りつける蹄鉄から火花を散らしながら、ウマ娘たちはガードレール越しに立つギャラリーの眼前を、ほとんど減速なしに駆け抜ける。

 

だから実質的に、最初のコーナーはその次だ。

第一ヘアピンカーブ。

『表』のコースではありえない異常要素の一つ。

もし通常の芝やダートにそんなものがあれば、誰一人としてまともに走り抜けることなど出来ないだろう。

だが、『峠』においてその常識は通用しない。

アスファルトという、極めて限定された条件下でのみ存在する技術があるからだ。

 

《スライディングドリフト!? 案外やるぜガルムの連中!》

 

シューズの蹄鉄部分のみで接地しつつ身体を倒し、足にかかる体重を瞬間的に抜くことで()()()()()()()()()()()()

薄闇の中、凄まじい擦過音と火花の煌めきが描き出す急激な旋回角は、『峠』のレースにおける最大の見せ場の一つだった。

足面と路面の角度を完全に固定し続ける足首の強靭さ、そしてなにより荷重とベクトルを完璧に制御し切る体幹の強さが要求される。

 

僅かにでもミスがあれば、その瞬間に全身を投げ出されることになるだろう。

山道のコーナーにおいてその先に待ち構えているのは、崖下だ。

 

だが、走り屋達にとってそんなものはただの前提に過ぎない。

大事なことは、如何に素早く無駄のないコーナーリングを決めるか、ということだ。

 

《ソーサラーも追いついた! 魔術師直伝の多重ドリフトだ!》

 

命知らずの高等技術。

中でも、高い技量で統率されたチームだけが繰り出す多重ドリフトは、ギャラリーを熱狂させる大技の一つだ。

峠の路面に、美しい火花の円弧が咲き乱れる。

最小限にロスを抑えた完璧なライン取り。

そして――

 

《ソーサラー2、4、先行しろ。連中を塞げ》

 

重奏する擦過音が、まるで()()()()()()()()()()()変化する。

 

《オイオイこんな序盤から仕掛け始めんのかよ!?》

《そんだけ相手がヤベェってわけか……おい、誰かチーム『ガルム』のこと知ってる奴居ないか!?》

 

コーナーリング中の隊列変更。

ランク上位のチームでさえ数える程しか成し得ない曲芸じみた絶技。

指示を受け、すり抜けるように隊列の前に出た2騎の背中に、残りの2騎が手を添え――思い切り押し出した。

 

《行け!》

 

射出された勢いのままに、2騎は脚を使うことなく、加速さえしながらコーナー明けを立ち上がった。

先行するチーム『ガルム』の背中がみるみる近づき、容易く射程圏内に収まる。

当然の理屈だ。

だが、誰もが順位の交代を確信した瞬間。

 

《えっと、ガルム2交戦します(E n g a g e)……でしたっけ?》

 

無線越しにひび割れ、なおそれと分かるほどに幼い声が割って入った。

 

[INTERVIEW FILE03]

[Those who witnessed the beginning of the legend]

 

新人……ましてやガキの動きじゃなかった。

 

《クソ――なんで!?》

《どういうことだ! まさかあのガキ――ウチらを()()()()()()()()()()()()!?》

 

2騎同時に仕掛けるってもな、どうしたって微妙な前後差は出るもんさ。

ガルム2はな、恐らく先に仕掛けようとしたソーサラー2の進路を一瞬早くブロックしたんだ。

そいつを避けようとしたソーサラー2が、ソーサラー3の進路をブロックするようにな。

ドミノ倒しみたいなもんだと言っちまうのは簡単だが、それができるなら苦労はねぇ。

 

流石に今の時代となっちゃ、中央の一流どころの連中ならそれぐらいはやれちまうかもしれんがな。

だがまあ、逆に言えばだ。

あの時代で、地下のレースで、あのガキはそれをやってのけたのさ。

恐らくまともなトレーナーもついてない、それどころかトレーニングの積み上げすら碌に始まってもないような歳でな。

 

あの頃だと、公道レースでのし上がってくるような奴は大抵『表』の中央でも走ってる場合が多かった。

ガルム1――「サイファー」だってそうだったろ。

申し訳程度に服装は変えてたが、あの走り方であいつが例の『三本脚』だって気付けないようなボンクラはいやしねぇ。

分かったからって、そいつを口に出すのは野暮ってモンだったがな。

だが、あのガキは違った。

結局最後まで一度も『表』じゃ見かけねぇままだったな。

 

まあ、よくある話っちゃよくある話だよ、あの頃は特に。

『峠』で頭角を表して、そのまま消えていくなんてことはな。

だが、強い奴がそうなっちまうのはなんていうか……やっぱ、惜しかったよな。

 

『峠』は『峠』――『表』とは別の世界だ。

そんで、『表』で強ぇ奴らは大抵の場合『峠』でも強ぇのさ。

プロとアマの地力の違いって奴なんだろう。

 

でもな、こっちで育った連中の実力だって、中央で走ってる奴らに負けちゃいねえんだ。

そのことを『表』に叩きつけて欲しい、世の中に見せつけてやって欲しいって気持ちも、やっぱどっかにあるんだよ。

 

まあ、ギャラリーのつまらん未練ってやつさ。

 

■■■

 

――●REC

 

さあ、どうなんでしょう。

私は『峠』しか知らないので、普通のレースと比べたらどう、とかわからないんですよね。

学校は全部公立で済ませてたんで、トレセン学園なんて見学すら行ったこと無いですし。

結局『峠』の方だって、最初から最後まであの人の言うとおりに走ってただけです。

走り方の内容ですか?

事前にいくつかの動き方を教えてもらって、あとはレース中の指示に応じてそれをやるだけでいいって言われてました。

えっと、確か……そうそう。

攻撃(アタック)防御(ブロック)離脱(イジェクト)特殊併走(スペシャル・アブレスト)

この4つだけです。

基本的に防御(ブロック)以外の指示は無かったから、大抵の場合はずっと後ろにくっついて、その指示を待ってるだけでしたけど。

まあ考えることが少なくて、楽といえば楽でした。

体力的にはすっごいキツかったですけどね。

いえ、別に相手チームとの競り合いがどうとかじゃなくて。

単純にあの人のペースについてくのがってことです。

一応あの人としては私が着いていけるギリギリの速度まで落としてたらしいですけどね。

もう、信じられないくらい速いんですよ。さすが中央の一流どころは違いますよね。

着いていくだけで大半のチームは千切れちゃうんですから、やっぱり本物は違うなって思いました。

それに比べたら私がやってた防御(ブロック)なんて、あの人の指示に従ってちょっと左右にライン振って、後続の相手チームにフェイントかけるくらいのことでしたし。

真っ当な競争ウマ娘が見たら鼻で笑っちゃうような代物だったと思いますよ、きっと。

 

だからある意味では、私がもらった賞金は全部あの人のおこぼれみたいなものです。

とは言え非合法な仕事ではあったから、何度か危ない場面もありましたけどね。

いざとなったら自分の判断でレースから離脱していいって、あの人からは言ってもらってました。

それに走り始める前にも、命に関わるような怪我だけはしないってティナとも約束して――

あっ。

ごめんなさい、名前出しちゃダメなんでした。

今の無しで。





「賭博競バによるウマ娘の搾取、その資金が流れ込む先への疑惑。怪文書(ゴシップ)による世論の誘導、か。やりすぎだな、駿川」
「よく言う。誰が手間を掛けさせたのか」
「すまんな、完璧主義者なんだ」
「……まあいい。これでやっと最初に戻ったんだ。時期もある、プランUを開始しよう」
「そのことだが……少しだけ待てないか?」
「例の『三本脚』か」
「ああ。速いだけの阿呆でもないようだ。既に声はかけてある。後は向こうの判断と――結果次第だな」

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