Q.ウーマード・コア for answer、ウィン・D・ファンションを演じるとしたら?
A.エアグルーヴ一択
Q.セレン・ヘイズを演じるとしたら?
A.エアグルーヴ一択
Q.ジュリアス・エメリーを演じるとしたら?
A.お前は何度同じ質問を繰り返すつもりなんだ
Q.ヴァオーは?
A.チケゾーが何だって?
幾つかのコーナー、ヘアピンを過ぎて、コースは既に半ばを消化している。
だがいまだに『ソーサラー』のメンバーは誰一人としてガルム2を抜くことが出来ずにいた。
《くそ……あの2番騎、やる!》
原因は単純、ガルム2のブロックが想定外に硬かったからだ。
まるで背中に目でもついているかのように、かわそうとする動き全ての機先を奪われ、進路を塞がれている。
《マジかよ……このまま勝っちまうのか? 新参の無名チームが!?》
《いや、だが見ろ! 差は確実に詰まってる!》
ギャラリーの指摘は正しかった筈だ。
メンバー全員が同時に走るチーム戦には、駅伝のようなリレー戦や通常の個人戦とは決定的に違う要素がある。
チームメンバーに「役割」がある、ということだ。
序盤から中盤にかけて敵チームとの競り合いを担うスプリンター、或いはクライマー。
一般的にはチームの1番騎と2番騎がこれを担う。
彼らが前衛、或いは先鋒として叩き合い、お互いの体力を削る。
勝った方は敵チームのそれを抜き去り、残った体力の全てをつぎ込んで本丸となる2名への競り合いを仕掛ける。
勝負を決めるのは、後ろに控えていた残りの2名だ。
アシスト――主に総合力に優れた3番騎が担当する――が風よけとペースメーカーを兼ね、その背に引くのだ。
チームの要、誰よりも速くゴールラインを踏み越える1番騎――エースを。
《頃合いだ。仕掛けるぞ》
レースの開始からチーム『ガルム』の後塵を拝し続けたチーム『ソーサラー』は、2番騎、4番騎が常にアタックを仕掛け続けた。
ガルム2の――いかに化け物じみているとは言え年相応の――体力はその分削られ続けていただろう。
そしてその推測は正しかった。
《……ここまでかなぁ》
《ごめんなさい。ガルム2、
順位が入れ替わる。
いや、
これまで常に先頭を走り続けてきた
3番騎を風よけにして脚を溜め続けた
《ソーサラー1、上がってきた!》
《すげぇ加速だ……この追い込み、ランク1にだって負けてねぇ!》
『ソーサラー』はこれまで先頭を譲り続けてきた。
それは常にハナを取り蓋をかぶせ続けることで敵の心を折る、彼女らのスタイルとは違う展開だったことは間違いない。
だが、それは彼女らの劣勢を意味しない。
単に、王道の戦略に立ち戻った、ということに過ぎないからだ。
だが、このコースにおいて地の利は『ソーサラー』にある。
コース終盤に控えた2連続ヘアピンの第一。
これまでに倍する凄まじい擦過音と共に、火花で
かつて走り屋達は、グローブを「第二の靴」としてレースに臨んだという。
耐摩耗性に優れた特殊強化繊維の生地で編まれたそれには手袋としての柔軟性など無いに等しく、そして掌の側には多数の頑丈な丸頭鋲が打ち付けられている。
スライディングドリフトは極端なまでに身体を内側に倒してバンク角を確保する高等技術だ。
だが序盤とは違い、十分に速度が乗り切った最高速で中盤以降のカーブを曲がり切るには、それだけでは足りない。
ではどうするか。
答えは単純、地面に片手を付けて滑ることで、更に深いバンク角を取るのだ。
一見安定性は高まるようだが、その危険性は単純なスライディングドリフトの比ではない。
速度差も加味すれば、アスファルトの路面は最大出力の
だというのに、走者はそこに限界を超えて身体を寄せ、接地した手には体重を預けさえする。
そして、
《満たしてくれるはずだ、貴様なら……!》
本来ならば曲がりきれる筈のない速度と進路。
ややオーバースピード気味に進入した次の瞬間、ギャラリーがどっと沸き立った。
《出たぁッ! 溝落とし!》
《最ッ高に痺れるぜ! こいつが見たくて秋名に通ってんだ!》
コーナー内側に掘られた無蓋の側溝。
コースを知り尽くし、技倆の粋を極めた者だけが成し得る狂気の技。
遂に順位が入れ替わる。
その瞬間、2人は視線を交わしただろうか。
■■■
――●REC
私、あの人が笑ったところって一回も見たこと無いんですよ。
怒ったところも泣いてるところも見たこと無いです。
そんなにべったり仲良くってタイプじゃなかったのかなって思います。
と言っても、私は最後まであの人の背中を追いかけることで精一杯だったから、どんな顔してたかなんてわからないですけどね。
悔しいとか勝ちたいとか、そういうのってあの人の中にあったのかな。
■■■
つづら折りの僅かな直線。
両者とも体勢を立て直したときには、既に前後は完全に逆転していた。
《さっすがソーサラー隊一番騎! そのままぶちかませッ!》
《次のヘアピンで最後だ! 後は単純なストレート、どう足掻いても差し返す余地はねぇ! こいつは決まった……!》
最後のヘアピンに向け、
当然、2度めの「溝落とし」で更に突き放すつもりだったろう。
勝利を確信してもいたはずだ。
コーナーが始まる直前に自分のアウト側をすり抜けていく影の存在など、想像の埒外だったに違いない。
譲り受けた録音にも、その瞬間はギャラリーの息を呑む音しか残されていない。
ムキになって掛かりすぎたか、脚の制御を失ったか。
完全なオーバースピード。
谷底への転落。
死の予感。
悲鳴のような蹄鉄の擦過音。
だがその直後、銃の3点バーストじみた凄まじい金属音が炸裂する。
その結果が、いま私が見下ろしているガードレールだ。
ヘアピンカーブの外周を覆うそれには、
観戦していた当事者達からその話を聞き、紛れもない痕跡を目の当たりにしてさえ、私にはそれを理解することができない。
いや、頭では分かっているのだ。
《バカな……あんなの、もうコーナーリングですらねぇ》
ギャラリーの誰かが呟いた言葉は正しい。
ガードレールを使った
信じがたい事に
一歩ごとに発生した反動は、10メートル以上の高さから落下したに等しいものであったろう。
それはもうコーナーリングではなく「自身というボールを、壁に激突させて横向きに弾かせた」と表現する方が近い暴挙だ。
超人的な身体能力を誇るウマ娘としてすら神がかった豪脚と言う他にない。
その結果として齎されるのは、ほとんど加速さえしたのではないかと思うほどの脱出速度。
最終直線など、もはや単なる消化試合に過ぎなかった。
《嘘だろ……『ソーサラー』が……あの「ベディヴィア」が……》
《お……おい、ゴール前! 状況どうなってる!》
《はは……何バ身差とかそういうレベルじゃねぇ。……大差だよ! 大差でチーム『ガルム』の圧勝だッ!》
■■■
同時期、中山。
『彼女』は選抜ハンデキャップに出走する。
戦術は単調ささえ漂う、相変わらずの大逃げ一択。
だがその結果はと言えば、スタート直後から競り掛けてきたトラックオーを返り討ちに磨り潰し、二度目の激突となる『嵐の女王』にすら3バ身半差を付けてのレコードタイムだった。
もはや世間は『彼女』の勝利になど興味はなかったろう。
いや、この言い方では語弊がある。
勝利など前提に過ぎなかったのだ。
次にどのレースに出走し、そのレコードを何秒塗り替えるのか。
『彼女』への期待とは、つまりそのようなものだった。
それと時を同じくして、時代の潮流は新たなうねりを見せていた。
経済の成長――或いは回復――に伴う、法制度の厳格化である。
良かれ悪しかれこの国を翻弄していた混乱は、一方で急激な発展と成長を遂げる起爆剤の役割も果たしていた。
それらが一段落を迎えつつあった時に起きたこの動きは、一般的には近代国家としてのさらなる発展を遂げるための下準備である、と説明されることが多い。
一方で、少しばかり辛辣な見方として、このような表現もある。
懐と腹が膨れたお陰で、綺麗事を謳う心地よさを思い出しただけの話だろう、と。
それが正鵠を射ているのかどうか、私には分からない。
だが、この頃から世間を賑わせるニュースに大企業、或いは政府の不祥事を報じる記事が増加傾向にあったことは間違いない。
国営競バもまた、その潮流から逃れることは出来なかった。
『彼女』はそれを、どう見ていたのだろうか。
■■■
『鋼の脚』
――●REC
競争ウマ娘ってのは、折れたら終わりなんだ。
脚の話を言ってんじゃない。
心が、ってことさ。
ただね、単純に負けてそうなるってことは、実は案外と無いもんだ。
ドンケツになっちまったって、そりゃ単に自分の未熟ってだけだ。
そんなときは尻尾巻いて地元に帰って、ひたすら練習に打ち込むだけのことさ。
問題は着順が悪くなかった時だ。
例えば、大差負けの2着になったときとかね。
調子は悪くなかった。
他の面子とは五角以上に戦えてる。
だってのに、そんなモンはガキの遊びだとでも言うみたいに、1着からは果てしなく遠く、突き放されるんだ。
おまけに何度挑んでも結果は同じときたらね。
そういうときは最悪だ。
今まで積み上げてきた自信とかプライドってもんが木っ端微塵に飛び散って、あとかたもなく燃やされちまう。
実際、あたしもそうなりかけた。
レースに出るたびに、たとえ『奴』とかち合ってなくても、その影がチラつくんだ。
1着が取れたからなんだ、どうせアイツが出てたら負けてただろってね。
そりゃあ怖いさ。
でも、レースから離れることはできなかった。
振り払おうと思って、目に付いたレースは片っ端からひたすら出走し続けた。
最初はそれだけで必死だったけど、途中からはなんとか気持ちの整理もついた。
結局、あたしは走ることからは離れられない、離れたくなかったんだって気付いたのさ。
全力で走って競り合って、勝ったり負けたりするのが好きなんだ。
あそこでは生きている証が得られるからね。
あたしは退役したが、今もターフを走ってる。
だけど寂しいんだ、広すぎて。
またアイツと走りたいもんだ。
――あんなことにならなけりゃ、その機会もあったんだろうがね。
「新参の走り屋が、『ソーサラー』を…?」
「はい。間違いありません、議員。カラードは情報の精度を確認しています」
「ふん……仮にも重賞ウマ娘、本来そういうものだろう」
「だといいがな。それで、
「その通りだ。