僕の名はアルフォンス・シュタルト・ウイルソン。
日本人の父とイギリス人の母を持つ、世で言うところのハーフだ。
父親には似ず母親似の為か、緩やかな流れを描く金髪と、初夏の新緑を映し出したような緑の瞳をしている。
僕には不思議な記憶があった。
銀髪の父を持ち、父に似たであろう美しい銀色の月を映し出したような銀髪に湖面を映し出したような瞳、美しい妹がいた記憶。
アルフォンス・シュタットと名付けられた僕。
緩やかなカールを描く金髪に緑の瞳。今の僕とあまり変わりはないように思う。
苛烈な月のような妹ビアンカだったが、記憶の中の僕にとっては、目に入れても痛くない程に溺愛していた。
妹のビアンカは甘やかして育った事もあり、我儘に育ってしまった。記憶の中の僕にとってはそれでも可愛くて仕方のない存在だった。
血が繋がってさえいなければ、この手に抱きしめてずっと離さなかったのに…。妹でなければ…何度そう願ったかわからない程だ。
それは父も同じで、苛烈で我儘であっても大切な母の忘れ形見である妹を愛していた。
そのせいもあってか、妹を止めたり叱りつけるようなことは無かった。
それが原因で彼女を毒殺されるとも思わずに…。
彼女を永遠に失うなんて思わずに…。
記憶の中の僕達で護りきれると思っていたんだ。そんなことはありはしないのに。
またいつかビアンカに会えるんじゃないか…、そんな思いを捨てきれず、彼女のいない世界を惰性で生きていた僕。
そんな僕に現実は残酷だった。
愛しい妹を喪う数年前の事だったか…。
僕が領地に行ってから1年ほど経ったある日の事。
ふと呼ばれる様にして、領地の屋敷のある一室に足を踏み入れた。
幼い頃に母が最後まで過ごしていた部屋だった。
見慣れない本があり、その中には手紙らしきものが挟まれていた。
『なんだろう…』そう思い手を伸ばすと、僕が赤ん坊の頃に亡くなった、双子の妹とその夫。本当の両親の事について書かれてあった。
今迄父と思っていたのは叔父であり、妹だと信じて愛していたビアンカが従兄妹……。
もしももっと早くに知っていたなら、王子の婚約者になどさせなかった…。
男の執事なんて付けさせなかった。男の友人なんて以ての外だ。
妹は我儘ではありながらも、僕を兄だと慕ってくれていた。今更従兄妹だと言って、愛を告げる訳には行かない。そして、苦しくはあったけれど、その事実を無かった事にした。
記憶の中の僕があの時、勇気を振り絞って伝えていたのならば、ビアンカは死なずに済んだのだろうか…。
今度があるならもう間違えない。
後悔するくらいなら、無理しても妹を傷つけても、諦めるのでは無かった。
何故そんな記憶が僕にあるのかわからない。だけどそんな思いが今でも僕の中に燻っている。