しばらくみことと話しながら彼女の家に着く。
もっと早くに来てみたくはあったけれど、仕方ないかなみことが可愛くて、抑えきれない場合もあっただろうし。
なんて自分に言い訳しながら神妙な顔で敷居をまたぐ僕。流石にゲームを見せてもらうだけなのに、ふらちな事はしないだろう?
なんて心の中で言い聞かせてる姿なんか、みことには見せたくないなぁ。
なんて独りごちていると、みことから元気な声がかけられた。
「お兄様は海鮮丼作ったら食べるよね?ちょっと待っててね」
そう言って実家から貰ったらしい魚を取り出す。
鼻歌でも歌いながら魚を捌いていくみこと。
「可愛いなぁ」小さく独りごちる僕。
みことさえ僕を意識してくれたなら…。男として見てくれたなら、根回しは万全なのに彼女は意識してくれない。
家族としては愛されているだろうけれど、異性としては見てくれていない気がする。
なんなら男としては壁すら作られてる様に感じる時がある。
どうでもいい女性にはモテている自覚はあるけれど、唯一無二の存在であるみことでないと、モテたって意味はないのに。
叔父さんや叔母さんには、「みこと結婚してもいいよ」と言うなら、応援すると言われているし、彼女の言動に想いの他僕が振り回されてるのを楽しんでいる節がある。彼女といると少し僕の大人の様な態度が壊れるらしい格好悪いな…。
ふと、みことを見ると、真剣な顔をして魚を捌いている。
僕もなにか手伝えれば良いけど、必要性がなくて料理はあまりした事がない…。
そういえば簡単に作れるお汁としてとろろ昆布のレシピをこの間教わったな…。
「わけぎととろろ昆布ある? あと、顆粒だしと塩と醤油があれば…。 以前知り合いに教えてもらった簡単なおすまし僕も作って見ようかと思って…」
「お兄様の作ったものって、初めてかも! 今すぐ準備するね! すごく楽しみ」
「期待するほどの事は出来ないよ」
そう言って僕は、お椀にとろろ昆布を多めに盛り付ける。その上に顆粒だしと塩と醤油を回し入れてわけぎを乗せる…。
僕だけならともかく、みことも口にするのだから慎重に。お椀を二人分作って、それにお湯を回し入れる。
「シンプルな味付けなんだけど、簡単で美味しかったから、作り方を聞いておいてよかったよ」
僕がそういうと、「すごい」と喜んでくれみことが可愛い。
「私も冷蔵庫にあったマグロ切って、甘海老剝いていくら乗せただけだけど食べて!」
「いただこうか。頂きます」
そういうと「食べる前の挨拶まで出来るとか、日本人のお嫁さんも貰えちゃうね!」
「初恋の人が日本人だからね」
みことからそんな言葉を聞きたくなくて、つい本音がこぼれ落ちてしまった。