黒き馬、世紀末を駆ける   作:馬券童貞は東京優駿に捧げた男

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始めまして。『馬券童貞は東京優駿に捧げた男』と申します(当たりませんでした)
あらすじの通り、流行りものを書いてみた次第です。
テイエムオペラオー世代を題材として、頑張って書いていきたいと思います。


競走馬『ブラックテイル』
第1話 新馬戦前


自分は、コロン、と横になっていた。

寝転がっていると、ウトウトと眠気が襲ってくる。

このまま、ひと眠りしようか……そんな事を考えていると、遠くから声が聞こえる。

 

「おはよう、そろそろ時間だぞ」

 

あれま、呼ばれてしまったか。

よっこいしょ、と『4つの脚』を上手く動かして、身体を起こす。

ブルブルと身体を震わせ草等を落として、自分を呼んだその人に近づいた。

 

「お前さんはほんと賢いなぁ、良い子だ」

 

優しい手つきで、首のあたりを撫でられる。

心地良さに目を細めていると、目の前の人が自分の目を見ながら口を開く。

 

「もうすぐ、お前も『新馬戦』に……『レース』に、出るんだよな」

 

どこか真剣な眼差しで、自分が見られてる。

 

「体調は良好、調教も問題無し、鞍上には名手がついている……安心しろ。きっとお前は勝てるよ」

 

真剣な眼差しに、しかし混ざるのは不安の色。

……全く。どの口が言うんだか。

 

『安心してくれ。【俺】は、勝つよ。皆の期待に、応えてみせる』

 

そっと、優しく、『鼻先』を相手に押し付ける。

その仕草に、何かを感じてくれたのだろうか。

表情が、和らいだ。

 

「……本当に、お前は賢いなぁ。俺の方が気遣われちまったよ」

 

「ありがとうな」と、また首のあたりを撫でられる。

それを受けながらも、俺はある事を考えた。

 

『すっかり慣れちゃったなぁ……【馬】の生活に』

 

 

 

唐突だが、過去の話をしよう。

俺は、人間『だった』。

平成の日本に生まれた一般ピーポーだったが、ある日寝た後、気がついたら馬になっていた。

本当に、唐突に、人間から馬に転生していた。

 

人間として過ごしていた時、馬との縁はあまり無かった。

あるとすれば、子供の頃1度だけ乗った事があるのと、あと馬を題材にしたアニメがあるのを知ってるくらいだ。

そのアニメも、詳しくは知らない。めちゃくちゃ面白いらしいという事と、萌えであり燃えアニメだという事か。ガチガチのスポ根アニメだと、どハマりした友人から聞いている。

アプリゲームにもなって、友人は結構やり込んでたらしい。

 

それはそれとして。

寝て起きたら馬になっていたので、当時はとても混乱した。

数日の時間を経て、夢でないことを受け入れて、自分と接点のある人達の会話から自分の置かれている状況について情報を集めた。

 

とりあえず分かったのは、生まれた場所は北海道にある、とある牧場だということ。

『あと数年で20世紀も終わるなぁ』と言う会話から、1990年代後半だということ。

そして、自分は馬は馬でも、競馬を走る馬……サラブレッドだということだ。

 

話によると、自分は……なんだっけ、サ、サン……サンデー……

サンデー何某、という馬の子供らしい。

……いや、本当にすまん、今生の父よ。話す人みんな『サンデー』って言ってるんだ。何回かフルネーム聞いたんだけどそっちの印象が強いんだ。

とにかく、自分はそのサンデー何某の子供、という事で期待されているらしい。

凄い馬なのかな、サンデー何某。その辺詳しくは知らないんだけどね……何度も言うけれど、すまぬ、今生の父。

 

という訳で、俺はサンデー何某の子供として、周囲に期待されながら馬としての生活がスタートしたのだ。

いやぁ……慣れるまで大変だったんだよ?

草を食べる事に慣れるのからスタートし、その気は無いのに勝手に起きちゃうし、そもそも四足歩行に慣れないといけないし……

草は食べてみれば味覚はしっかり馬になってたようで美味しかったから良かったけど、睡眠については慣れるまでめちゃくちゃ大変だった。

どうやら、馬というのはそこまで長く眠れないみたいなのだ。

かといって起きていてもやることが無い。

馬の本能に逆らって、長く眠れるよう努力する日々が続いた。

 

今では、30分ほどの睡眠を、合計して4時間、5時間くらい取れるようになったんだ。

これは馬としてはめちゃくちゃ休んでいるらしく、関係者の人からは何度か『起きないけど大丈夫か?』『かなり眠るが疲れが溜まってるのか?』等と心配されたくらいだ。

今では慣れてくれたみたいだけどね。

 

そんなこんなで、スクスクと育って、馬として生まれてから2年ほど。

夏に開催される新馬戦というレースに、自分は出ることになった。

 

ちなみに、今は茨城県のどこかにあるトレーニングセンター、トレセンに居るよ。

調教師の人と一緒に、新馬戦に向けて調整の日々を過ごしている。

話によると、調教師の人は……G1?で良いのかな?まぁ、ジーワンという最高峰のレースに勝つような馬を管理しているという凄い人らしい。

彼の指示の下トレーニングを積み重ねているが、自分でも成長を感じている。

なので、調教師さんには感謝している。

 

感謝しているといえば、身の回りの世話を担当してくれる厩務員さん、つまりさっき自分を呼んだり撫でたりしてくれた人だ。

優しい人で、良く撫でてくれる。その撫で方が上手く、馬となった自分にとってとても心地いいのだ。

最近の楽しみは、トレーニングで走ったりするのもそうだけど、彼が撫でてくれるのを楽しみにしている自分が居る。

……ホント、馬生活が身についてしまったなぁ、自分……

 

と、とりあえず、自分の今の目標としては、『育成に携わってくれた人の期待に応える』、だ。

競馬というのは、大きなお金がかかっていると聞く。

父、サンデー何某の血を受け継ぐ馬として、多くの人が期待して、自分を育ててくれた。

ならば、その期待に応えるのが、今の自分に出来る精一杯の恩返しというものだ。

 

 

 

過去の振り返り、そして気の引き締めはこれで終わりだ。

厩務員さんが呼びに来たという事は、これからトレーニングが始まるという事だ。

それも、自分の初レースに乗ってくれる騎手とのトレーニング。

息を合わせる……何て言ったかな?『折り合いをつける』だったか。

とにかく、騎手の人とのコンビネーションが、レースでは大事だ。

自分が前に行きたいと思っていて、騎手が様子見したいと思っていて、どっちも譲らないなんて事が起こっては、レースを上手く走れないからね。

トレーニングを通じて、騎手の事を理解しないと。

 

「お前は大人しいな。サンデーの子供は気性が荒いって話だけど、お前を見ているとそうは思えないよ」

 

鞍を付けて、ウォーミングアップとして外を歩き始める。

早朝ながら、もう夏なので外は明るい。

 

父、サンデー何某の血を引く馬は、どうやら気性が荒い馬が多いらしい。

しかし、自分は中身に人間が入っているので、そう言う事は無い。

その辺り、関係者からは驚かれる事もそれなりにあった。

 

「大人しくて、賢い。良い馬だ……きっと勝てるさ。頑張れよ」

 

『頑張るさ』

 

ブルルッ、と応える。

そんなこんなでウォーミングアップを終えて、厩舎前に戻る。

調教馬場へと向かう前に、騎手と合流だ。

色々と調教師から指示を受けてたのだろうその人が、自分に近づいて来る。

 

「おはよう。今日も頼むよ」

 

『こちらこそ、お願いします』

 

「ははっ、お辞儀してくれる馬って、凄いよな、君は」

 

この人が、自分の騎手。

調教師が管理しているジーワン馬に今の所全て乗っている人、シュセン……主戦騎手?を務めている。

そんな人が、自分と共にレースを走ってくれるという。

 

「今は休んでいる『彼』も賢い馬だけど……君は、もしかしたら『彼』よりも賢いかもしれないな」

 

『彼』というのは、この厩舎に所属しているジーワン馬の事だ。

そんな凄い馬より、自分が凄いと言われると、おそらく世辞だと分かっているけど嬉しい。

そんな『彼』だが、骨折が判明して今は放牧されているらしい。

自分の初レースのちょっと後くらいに帰ってくるという話なので、会えるのが楽しみだ。

 

「さぁ、行こうか。今日は坂路を走るよ」

 

『ハンロ……坂道か』

 

木片、じゃなくてウッドチップを敷き詰めた坂道。

そこを走るトレーニングを行うらしい。

良し、頑張りますか!!

 

『よろしくお願いします、鳥場(とば)さん』

 

向こうには、ただの鳴き声にしか聞こえないだろうけれど。

自分なりに挨拶をして、調教馬場へと歩き始めた。

 

 

 

(自分から坂路の方に向かっている……君は本当に、僕の言葉が分かっているのかい?)

 

手綱で誘導すること無く、坂路へと歩いていく馬に、僕は鞍上で考える。

骨折が判明し、今は放牧されている『彼』と、同じ厩舎にやってきたその馬は、調教師によると『とてつもない程に賢い馬だ』という。

『彼』も、大人しく、賢い馬だ。だが、それを上回る、と。

半信半疑、初めて出会って、少し乗って。

僕は、調教師の言葉が本当であったと理解した。

 

この馬は、たぶん、人の言葉が分かっているのだと、僕は思っている。

『何を馬鹿な』と笑われてもおかしくない。自分でも、この馬に会う前だったら笑っていたかもしれないから。

 

しかし、話す度に相槌を打つかのように『ブルルッ』と鳴いたり。

反応を伺うと頷くかのように頭を軽く縦に振ったり。

嫌なこと、苦手な事を前にすると強く頭を横に振ったり。

そして、今もこうして、自分から坂路へと歩いている。

そんな姿を見ると、どうしても思うのだ。

『この馬は、人の言葉が分かるのかもしれない』、と。

 

「……坂路での練習、一本目は本気を出さないで。坂路で走る感覚を掴むのを優先しよう」

 

僕の言葉に、『分かったよ』と言わんばかりに、頭を縦に振る。

結局一度も誘導する事無く坂路の前で立ち止まり、順番が来るまで大人しく待ってくれる。

 

「さぁ、僕らの番だ」

 

僕の言葉で、『待ってました』と言わんばかりに、元気に歩き始める。

やる気に満ち溢れているその姿に、頼もしさを感じる。

馬自体のやる気は十分、馬体の仕上がりも良い具合。

ならば、あとは僕が君との折り合いをつけられれば、君のデビューは華々しいモノとなるだろう。

 

「行こうか、『ブラックテイル』」

 

珍しい『青毛』の馬に、合図をする。

グンッ、と加速していく頼もしい走りに、僕は笑みを浮かべた。




競馬素人ですので、色々と調べながら書きますが間違っている所が多々出て来るかと思いますが、その時は教えて頂ければと思います。
また、誤字脱字、競馬関係以外でも間違っている所などありましたら、その時も教えて頂きたく思います。
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