黒き馬、世紀末を駆ける 作:馬券童貞は東京優駿に捧げた男
グラス、テイルだけではない色んな所に触れつつ、ラジオたんぱ杯です。
「グラスの次走ですけど……走り自体は、もう完璧です。どうしますか?」
「……ジャパンカップは、回避しようと思っている」
「理由を聞いても?」
ウマノイヤーで聞き耳を立てているのは、グラス先輩の次走についてだ。
ジャパンカップ、エルコンドルパサーが出るという話のレースだ。
どうやら、テキはそれを回避するつもりらしい。
「……サイレンススズカの件が、レース中の故障という言葉が、どうしても頭から離れなくてね。情けない事に、グラスがそういう事態に陥るのが、怖いんだよ」
「テキ……」
「ここをしっかり休ませて、万全の状態で暮れの中山に送り込む……弱気と笑ってくれても、構わないよ」
「いえ、その判断を笑う競馬関係者は、今は居ないと思いますよ。それ程に、あれは衝撃的でした」
「テキ、しっかりグラスを休ませてやりましょう。グラスは完璧に復活したんです、その強さを有馬で、多くの観客に見せてあげましょう!」
「……ありがとう。その言葉で、決心がついた。グラスはジャパンカップを回避して、有馬記念出走に向けて調整を行う。取りあえず暫くは疲れを取らせることに集中し、回復次第、調教を行う……これで、行こう」
なるほどなるほど、グラス先輩の次走はアリマ記念、と。
暮れ、って言ってたから年末のレース、1ヶ月半くらい先かな?
今回のアルゼンチン共和国杯が毎日王冠から3週間くらいと短い期間での出走だったし、休みを入れるというのは良い選択だと思う。
……それに、サイレンススズカの件、というのは、衝撃だったからね。
最強馬が、故障により予後不良。気になっても、しょうがない事だ。
「さて、と。そうなると、テイルのラジオたんぱ杯が12月26日、グラスの有馬が12月27日……うちの厩舎の年末は、大きいのはこの2つかな?」
「オープンより格上なのは、そうですかね」
「年末年始に向けて、頑張らないとね」
うちの厩舎では、そんな感じに動くらしい。
グラス先輩のアリマ記念というのが、多分厩舎の年末最大のイベントになるんだろうな。
ふっふっふっ、今から楽しみだ……!
まぁ、その前に自分のレースなんだけどね。
芝2000m、皐月賞と同じ距離。ここをしっかりと走り切る。
気を引き締めないとな。
「グラスワンダーはジャパンカップ回避、か」
「……テキ、エルコンドルパサーを有馬に出すのは……」
「予定通り、エルコンドルパサーは秋2戦で休養に出す……来年からに、備えてね」
「……グラスワンダーは、出るって話です。決着をつけないで、良いんですか?」
「……私も、決着をつけさせてやりたいさ。完全復活したグラスワンダーと、エルコンドルパサー、どちらが強いのか」
「なら」
「……世界的に見ると、日本のトップレースはジャパンカップだ。そこに出すのだから、有馬にまで出る必要は、あまり感じられないと、馬主からの御達しでね。エルコンドルパサーが仮に有馬に出るとすれば、それはジャパンカップで結果を出せなかった時だろうね」
「……そう、ですか……」
「気持ちは分かるけど、仕方ないさ……今は、ジャパンカップに向けて、やれることをやろう」
「……はい」
「そうか、グラスワンダーはジャパンカップ回避か……」
「……スペシャルウィークに乗れてたら、グラスワンダーがジャパンカップに出てきていたら……ははっ、最高の舞台に、なったんだろうなぁ……エルコンドルパサーも居るんだ、4歳の頂点を決めるレースに、なったんだろうな」
「……あぁ、そうだな。何時までも気落ちしてるから、その『もしかしたら』すら、出られないんだ……」
「……ごめんな。あの時、最後まで前に行こうとした『君』に、合わせる顔が無いな、今のままじゃ……」
「迷惑も、かけちゃったからね……休みを使って、切り替えないと……………」
「………スズカ………」
『グラス先輩!エルコンドルパサーがジャパンカップに勝ったらしいです!!』
『ジャパンカップ?』
『芝の2400mで、世界中の強い馬が集まるレースみたいです!そこで、日本の馬が3位まで独占したって!』
『へぇ……で、1位がエルなんだ?』
『はい!エルコンドルパサーが1位、2位には先輩よりも2つ年上の牝馬のエアグルーヴ、3位には先輩と同い年で今年のダービー馬のスペシャルウィークが入ったみたいです』
『ダービー……えっと、クラシックロセン、のレースだっけか』
『はい!先輩が出れないレースですけど、そこでしっかり成績を出した強豪ですよ!』
『……負けてられないね』
『ですね!』
「じゃあ、エルコンドルパサーは、有馬に出ないんですね……」
「『日本での格付けは、この2戦で問題なく終わった』、だそうだ」
「……終わってないじゃないですか。日本にはまだ1頭、居るじゃないですか……!」
「……そう、だよな。私も、見たいな。見たいんだよ、2頭の決戦を……でも、駄目なんだ……!」
「テキ、正直、悔しいですよ……」
「……私もだよ。万全では無いグラスワンダーを一度抜き去っただけで、満足なんて出来ないさ」
「です、よね」
「……チャンスは、まだある。来年だ。来年の暮れに、チャンスはある。そこで、エルコンドルパサーを中山に連れていくぞ。決着をつけるなら、そこだ」
「はい!」
「……すまないね、アドマイヤベガ」
『タニさん、久しぶりだね』
「また、君の背中に乗せて貰えることになったよ……前のような失敗は、しない。約束だ」
『……手の震え、小さくなったね。うん、伝わってくる【カナしい】も、少なくなった』
「一緒に、走ってくれるかな?」
『良いよ。一緒に走ろう、僕のキシュさん……胸を張って、会いに行けるその日に向かって、僕は走りたいんだ』
『アリマ前日、俺の初めての芝2000m……遂に、その日が来たんだなぁ』
時が経つのは、早いモノだ。
12月26日、阪神競馬場。芝2000m右回り。
ジースリー、ラジオたんぱ杯3歳ステークス。
この日の為に、しっかりと仕上げて来た。体調もバッチリ、睡眠もしっかりとった!
さて、今日のレースは第11レースという事で、かなり後半のレースになる。
馬場は期待しない方が良いだろう。毎度の事だけど。
幸い、天気には恵まれている為、ドロドロとかではない。
やはり重要なのは走るコース取りかな?
そして、気になるのは馬場や天気だけではない。
自分と同じく、このレース……芝2000mへと挑戦してきた、ライバル達。
どんな相手が居るんだろうか?
同じレースに出る馬達の中に、クラシック路線で争う相手も居るだろう。
将来、戦い続けるかもしれない相手が、ここに居る。
キョロキョロと、辺りを見渡す。
どんな馬が居るのだろうか……ん?んん?
なんか、視線を感じる、よう、な……………あっちかな?
『……………リラ?』
思わず、呟いた。
だって、視線の先、じっとこっちを見ているその馬は。
俺にとって、幼馴染とも言える馬。
同じ父を持ち、同じ牧場で数日違いで生まれ、ずっと一緒に育ってきた。
今生最初の、友達の姿があった。
『やっぱり、クロスケだったんだね。こんな綺麗に真っ黒な馬、他には居ないと思ったよ』
『リラ!君も今日此処でレースに出るんだね!!』
『あぁ、そうなんだ。クロスケもそうなんだ』
『そう、今日ここでレースを走るんだ』
友達との再会に、テンションがあがる。
しっかりと見れば、牧場で最後に見た時から比べ、はるかに立派になっているのが分かる。
『どのレースを走るんだ?』
『なんだったかな……ラジオ、タンパ?だったかな……?』
『ラジオたんぱ杯!それじゃあ、同じレースだな!』
『……クロスケと、僕が、同じレースを?』
『あぁ、そうだよ!』
同じレースに、リラが出るのか!
それは楽しみだ!
『……そっか。君と、レースで走れるのか……』
『あぁ……リラ、1つだけ、言っておくよ』
『何?』
『君は、友達だ。一緒に牧場で過ごしてきた、大切な友達……だけど、レースでは、1頭のライバルとして、君を見る。君に、勝ちに行くよ』
自分に言い聞かせるように、宣言する。
リラは大事な友達だ。それは胸を張って言える。
だけど、レースにおいては、共に先頭を巡って争うライバルだ。
『……分かった。僕は、走るよ。僕のキシュさんと一緒に……胸を張って、キョウダイに会える、その日の為に。君を相手にしても、全力で』
『あぁ。お互いに、手加減はしないで、全力で、だ!』
『うん』
お互いに、誓い合う。
全力を出して、勝利を競い合う。
レースでは、自分たちはライバルだ。
『あ、そうだ。名前、教えるよ』
『クロスケじゃあ、駄目?』
『クロスケでも良いけど……ブラックテイル、それが君のライバルの名前だ。覚えてくれ』
『ん……アドマイヤベガ、僕の名前だよ。母さんの名前を、貰ったんだ』
『そうか、そうか……アドマイヤベガ、ね。忘れないでおくよ』
『明日に有馬記念を控えております年末競馬ですが、ここ阪神競馬場では、これから今日のメインレース、ラジオたんぱ杯3歳ステークス、芝2000mが12頭立てで行われます』
『3歳馬達の2000m以上で行われる重賞という事もあり、クラシックに向けての前哨戦としても見る事が出来ますね。過去には皐月賞馬ナリタタイシンも走っていますから。今日の出走馬の中に、未来の皐月賞馬、ダービー馬、菊花賞馬が居るかもしれません』
『パドックを見ていきましょう。1枠1番、先頭を歩きますのはタヤスタモツです。前走エリカ賞では4着ですが、このレースではどうなるか。
『2枠2番はタヤスキチジツ、前走から代わって
『3枠3番、マイネルサクセス。3週間前に新馬戦を勝った勢いに乗れるか?鞍上は
『4枠4番、1番人気アドマイヤベガです。鞍上の峪穣騎手ですが、新馬戦では斜行による騎乗停止になるなどありましたが、復帰後再びコンビを組み前走では見事勝利を収めてます』
『5枠5番、2番人気ブラックテイルです。新馬戦、コスモス賞と距離を伸ばしつつ無敗、芝2000mへと挑みます。鞍上は鳥場弘、今日も折り合いは付けられるか?』
『6枠6番……………』
「テイル、今日は逃げようか」
『逃げ?』
「君の強みは、先行も逃げもどちらも出来るその走りの幅だ。今後の布石として、今回は逃げよう」
『成程……やってみましょうか』
「縦に振った、って事は、大丈夫かな。じゃあ、まずは先頭を取ろうか」
『はい!』
逃げ、先行を使い分ける戦法って事か。
確かに、自分は追込みと、差しは苦手。先行と逃げはどっちも行ける。
なら、それを使い分ければ、相手に走り方を読ませない動きが出来るか。
「……警戒するのは、4番、7番、10番。特に、4番だね」
『アドマイヤベガ……リラ、か』
鳥場さんの言葉に、少し嬉しくなる。
友達が、何よりも信頼している鞍上から評価されているのだ。
嬉しいなぁ。
「多分、差しで来ると思う。最後の直線で仕掛けてくるよ」
『末脚をどこまで発揮してくるか、か……』
「セーフティリード……追いつかれない程に逃げる、って出来れば一番だけど、いけるかな?」
『どうかな……出来る限りで、やってみます』
「また首を縦に振ったね……よし、頑張って逃げるよ」
『はい!』
『各馬ゲートイン……スタートしました!先頭、スッと前に行くのは青毛の馬体、5番ブラックテイルが逃げを打ちます。後ろに居ますはゼンノスピリット、少し離れてマイネルサクセス、ワンダーファングが居ます、後ろにタヤスタモツ、並んでボストンポセイドン、1馬身離れてマチカネキンノホシ、その斜め後ろにアドマイヤベガが控えています!オースミブライトとマチカネカイセイが並んで後ろ、コスモプラズマが2頭の後ろ、最後尾にタヤスキチジツ!』
「良し、良い位置だ。このまま行くよ」
『了解です』
良し、ハナを取る事に成功した。
今回は逃げと決めていたので、ここを確保するのが重要だ。
逃げ馬同士の競り合いに敗れた逃げ馬は、馬群に沈むと言われている。
ここでハナを取れれば、逃げる馬達を潰せる、なら取れるに越したことはない。
どうやら、逃げに近い走りをしているのが1頭、自分の後ろに居るかな。
そこからは少し音が離れている……問題ないな、今のところは。
取りあえず現状維持。すぐ後ろの馬が抜きに来るようであればペースを上げ……
「……テイル、少しずつ、少しずつ、ペースを上げられるかい?ほんの少しずつだ」
『?……やって、みます、けど』
どういう事だろうか?
まぁ、きっと何か考えがあるのだろう。
言われた通り、少しずつ少しずつ、パッと見じゃあ分からないように気を付けながら、速度を上げていく。
『第1コーナー曲がって2コーナー、先頭は依然変わらずブラックテイル、後続も今のところ順番が変わった馬はいません。ペースはどうでしょうか、やや速いという印象ですがここからどう出るか。ブラックテイル、落ち着いて走っている様に見えます』
「よし、良いぞ。そのまま第3コーナーまで、少しずつだ」
『まだ速くするんですね』
「そうそう、そのくらいのペースで」
『第2コーナー抜けて直線に入ります。先頭ブラックテイル、これはどうでしょう、少し掛かっているかもしれません。速いペースで進んでおりますラジオたんぱ杯、ブラックテイル先頭は変わりませんが、2番手ゼンノスピリット、少し疲れている様に見えます』
「……少し、抑えようか」
『前、離れちゃうよ?』
「これは多分、鳥場さんの作戦だ。焦らず、僕たちのペースでいこう」
『……うん』
「騎手が落ち着いてても、馬はどうかな?3歳馬なら、ペースが乱れても可笑しくないんじゃないかな?」
『馬狙いの作戦?』
「さて、ここからもう一手……テイル、少し抑えるよ」
『抑えるんですか?』
「僕たちが抑えた時、他の馬はどう出るかな?僕の予想通りなら……」
『第3コーナー手前、おっとブラックテイル失速か!?ゼンノスピリットが一気に隣に来ました!後続もここがチャンスとばかりに詰めてくる!!』
「抜かれるなよ、テイル!」
『馬使いが荒いんじゃないですか鳥場さん!?やりますけど!!』
「そうだ、抜けると思え、思い込むんだ……!」
『失速したかと思われたブラックテイル持ちこたえました!持ちこたえたがゼンノスピリットと横並び、さらに後続マイネルサクセス、ワンダーファングが1馬身、その斜め後ろにボストンポセイドンが控えている!!第4コーナー入ったがこれはどうなる!?5頭が固まってコーナーを曲がっていきます!!』
『え、周りが一気に抜きに……って、そういう作戦!?』
「よし、【壁】は確保した」
『他馬を【壁】って言ったよね鳥場さん!?』
「テイル、一気に突き放すぞ!君の脚なら最内を行ける!!」
『あぁもう、分かりましたよ行きますよ!!』
囲まれた、とはいえ、先頭は自分だ。
前には誰も居ない。
僅かに抑えた事で確保した体力を振り絞り、最後のスパートをかけていく。
徐々に速くした事によって、想定よりも速いペースになっただろう。
それで体力を消耗させた所で【これ】だ。
抜きにかかった事で残っていた体力を消耗させれば、どうなるか?
失速して後ろに下がっていく、4頭の【壁】が生まれる事になる。
スパートと言い張るには遅いとしても、【壁】を挟む分俺が有利になる!
踏み込みの力にモノを言わせ、荒れた内ラチ沿いを進む。
鳥場さんの作戦通り、強引に抜こうとして失敗した馬達が失速していき、後続の前に立ちふさがる。
『ブラックテイル抜け出しました!!最後の直線、先頭は変わらずブラックテイル!!!迫った4頭徐々に失速して、いやマイネルサクセスは踏ん張っています!他3頭は失速!!』
『さ、流石にキツい……!』
「最後の直線だ、踏ん張れよテイル!」
『頑張ります、けど……!』
「ペースを保っていた連中が差しに来る、逃げ切るぞ!」
「行こうか、アドマイヤベガ」
『あぁ、行こう……クロスケ、君の背中を、追い抜く』
「君の脚なら、差しに行ける……!」
『失速する馬を交わして、アドマイヤベガ突っ込んできます!その後ろ続くようにマチカネキンノホシ、オースミブライトが迫ってきます!差し切るか!ブラックテイル逃げ切りか!?』
1度離れた蹄の音が、近づいて来る。
失速した馬達じゃない、その更に後ろ、ペースを保っていた馬達が来たんだ!
最後の直線、最後に待ち構えているのは坂!!
疲れてるって言うのに、よりによって上がり坂が最後に待っているんだよなぁこのレース……!
文字通り鞭を打って、気合を入れて一歩一歩しっかりと踏み込んで進んでいく。
『ブラックテイル懸命に逃げる!アドマイヤベガが末脚を発揮する!後続2頭も詰めてくるぞ!!』
「差せる、差し切れるぞ!」
『背中が、近づいてきた……!!』
「逃げきれ、君なら行ける……!』
『音が、近づいて……でも、まだ俺の後ろだ!!』
来ているのが分かる。
確実に、近づいている。
あと1ハロンにも満たない筈の、ゴールが遠い……!
『クロスケ……!!』
リラの声が、聞こえた気がする。
が、そっちに意識は傾けない。
今は少しでも前に出る事、それに全てを!!!
前へ、前へ前へ、1歩でも、1cmでも、前へ出ろ!!!
『負けたく、ない!!』
『君に、勝ちたい!!』
『アドマイヤベガか、ブラックテイルか、どっちだ!どっちだ!?並んだ!並んだ!!並んだ!!!並んだままゴールイン!!!完全に、完全に並んでのゴールインです!!!3着はマチカネキンノホシ、4着オースミブライト、5着マイネ、いえ5着はマチカネカイセイです!』
最後、完全に並ばれた……
駄目だ、『勝った』って、言い切れない。
『差し切られた』って、どうしても思ってしまう。
『クロスケ……』
『リラ……』
『……逃げ切られた、そう、思ってる』
『俺は、君に、差し切られた、って、思ってるよ』
『はは……お互い、そうか』
『あぁ……【勝った】って、言えないんだ』
隣に来ていたリラに、そう言う。
『……君に、勝ちたい。そう、走ったんだけどね』
『俺もだ……君に負けたくないって、そう思ったよ』
『だね』
「峪さん、凄い末脚ですね、アドマイヤベガは」
「えぇ、本当に良い脚を持ってます……ブラックテイルも、3歳馬とは思えないスタミナですね」
「ですね。テイルは良い馬ですよ……今回、どっちが1着でも可笑しくないですね」
「僕としてはやっぱ、差し切れたと言いたいんですけどね……並んでたからなぁ」
「逃げ切れたと思うんですけど、言い切れないんですよね……」
『やっぱ、騎手でも今の勝敗は分からないってさ』
『そっか……どう判断するんだろう?』
『写真判定……えっと、人の方で、さっきゴールにどっちが先に入ったのか、判断してくれるんだ。だから、それが分かるまで待機かな?』
『うん、分かった』
リラと並んで、電光掲示板を見つめる。
写真判定、どうなるんだろうか……
全力疾走の反動か、緊張か、心臓の音がうるさい程に聞こえる。
待つ事数分、結果が表示された。
Ⅰ 4
\
ハナ
/
Ⅱ 5
『僅か、僅か数㎝の決着!!ハナ差の勝利をもぎ取ったのは4番アドマイヤベガ!!先を行くブラックテイルを、見事差し切りました!!』
『勝ちタイムは2分3秒5、2分3秒5!!ロイヤルタッチが記録した2分2秒7には及びませんが、かなりの好タイムであります!!!』
『同タイムでゴールしていましたブラックテイルも見事な逃げでありましたが、あと僅か、僅か数㎝及びませんでした!!』
『……リラ。今日は、君の勝ち、みたいだ』
『僕が、勝った……?』
『あぁ』
初の黒星、か。
……悔しいなぁ。
『クロスケ』
『ん?』
『……全力で競い合ってくれて、ありがとう』
『こちらこそ』
『これから先も、一緒に走ろう。今日のレース、とても楽しくて、とても熱くなれたから』
『……あぁ。次は、君に抜かせない』
『次も、抜き去ってあげる』
……楽しい、か。
確かに、そうだな。
悔しさもあるけど、友達と共に走れた、そういう楽しさは確かにあった。
……ただ、この楽しさを分かち合うには、俺も、リラも、良い成績を残さなければならない。
そこだけは、忘れないでおかないといけないな。
「芝2000m、問題なく走れましたね」
「良いレースだったね。最後は疲れが出てたけど、この調子で調教していけば、ダービーまでは問題なく走れるんじゃないかな?流石に菊花賞の3000mはまだ判断出来ないけど」
「そうですね……取りあえず、皐月賞に向けての動きをある程度決めておきましょう」
「そうだね。優先出走権を狙うのがやっぱり良いと思うんだけど」
レース後、鳥場騎手と調教師が話す。
「そうなると、弥生賞か、若葉ステークスか、スプリングステークス……」
「レースの格を考えると、GⅡのレースを走らせた方が良いとは思う。その場合は弥生賞かスプリングステークスになるね」
「2つのレースの場合……弥生賞の方が、皐月賞まで長いですね。テイルを休ませる場合は、こっちの方が良いですよね」
「同じことを考える陣営も居るだろうね。そうなると、有力馬が集まる可能性が高くなりそうなのは弥生賞かな?」
皐月賞の優先出走権を狙える、3つのレース。
どれを狙うかという話の中、ふと鳥場騎手がある事を思いついた。
「僕としては、スプリングステークスですかね」
「どうしてかな?」
「……僕は、このレースに出た馬で、皐月賞に勝ってますからね」
「……そうか、ドクタースパートか」
「えぇ。まぁ、ドクタースパートは3着でしたけどね、スプリングステークスは」
「験を担ぐ、と言うのは良いんじゃないかな?それに、君が菊花賞を取った『彼』も、たしかスプリングステークス出走馬だったね」
「……えぇ、そうですね。スプリングステークスを走ったのは、僕じゃなくて柴谷(しばたに)さんでしたけどね」
「そうだったか。でも、君がクラシックを取った馬達にあやかって、スプリングステークスを走らせるというのは良いと思うよ」
「そう、ですね。馬主さんの判断もありますけど、狙ってみますか」
「うん、そうしよう。テイルの次走は、スプリングステークスを推そう」
後日、馬主側とも話し合った末、ブラックテイルの次走はスプリングステークスと決まった。
史実と成績が変わった競走馬
アドマイヤベガ以外の競走馬
2着にブラックテイルが入った事により、全体的に着順が下がっている
マチカネカイセイ
元馬は本来5着なので6着になる所、マイネルサクセスがブラックテイル&鳥場騎手の作戦により消耗させられた為、沈んだところを交わして5着に。
マイネルサクセス
本来は4着、そのままなら5着になる所、ブラックテイル&鳥場騎手の作戦により消耗させられた為マチカネカイセイに交わされ6着に。
次回はウマ娘編を予定しております。
主にアドマイヤベガ周りについて触れていく予定です。