黒き馬、世紀末を駆ける   作:馬券童貞は東京優駿に捧げた男

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お待たせしました、第11話です。
今回は主にグラスワンダー周りの話です。


第11話 有馬記念+目標

『アリマ記念、か……芝の2500m、この間のレースと同じ距離。このレースに出て来るのは、人のトウヒョウで選ばれた、高い実力を持った馬だけ、か』

 

テイルから聞いた話を、思い出す。

1年の終わりの時期に開催される、日本の中の実力を持った馬だけが集まって行われるレース。

それが、今から僕が出るレース、アリマ記念。

 

『出て来る馬で注目されているのは、僕と同い年のセイウンスカイ、2つ年上のヒンバのエアグルーヴ、1つ年上のメジロブライト、1つ年上のヒンバのメジロドーベルだったっけか』

 

他にもいろんな馬が居るけれど、人がトウヒョウで選んだ中でも、人気が高かった馬達。

特に、エアグルーヴ。

1番トウヒョウが多かった、注目の馬だという。

ジャパンカップというレースで、エルコンドルパサーに続いての2位に入った馬。

 

『……まぁ、関係ないよね』

 

人の期待を集めている、実力のある馬。

それは凄い事なのだろう。

―――だから、どうした。

 

『勝つのは、僕だ』

 

完全な復活を、ジーワンの舞台で示してやる。

そして胸を張って、僕のコーハイに言ってやるんだ。

『君のセンパイは、日本1の馬なんだぞ』ってね。

それに……

 

『サイレンススズカ、君を追い越せる走りを、見つけてみせる』

 

僕が見ているのは、最速の馬だ。

あの背中を追い越せる走りを、見つけてみせる。

 

 

 

 

 

『おい、そこのお前』

『ん?僕かい?』

『あぁ、そうだ……始めて見るから、気になってな。私はエアグルーヴと言う』

『それはどうも。僕はグラスワンダー、君からすると、2歳年下』

 

ゲート前、1頭の馬が近づいて来る。

今回のレースでも上位の実力馬、エアグルーヴか。

 

『と言うと……この間のやたら元気な馬と同じくらい、という事か』

『やたら元気……エルコンドルパサーの事?』

『あぁ、そうだ。あいつと同じくらい、という事は……その実力、楽しみだ』

『エルがこの間1位だったんだってね?……人が言うには、僕は彼と比べられる位には強いよ?』

『なら尚更楽しみだ……良いレースにしよう』

『それは同意見だ』

 

良い性格してるね、あの馬。

そんな事を考えながら、離れていくエアグルーヴを見送る。

 

『―――おぉ怖い怖い。もっと気楽にいきましょうよ』

『……君は?』

『セイウンスカイ、って名前でさぁ』

『あぁ、君が……グラスワンダーだ』

『自己紹介、どうも』

 

スッと、横から近づいて来る馬。

何と言うか、今までであった事の無いタイプの馬だ。

 

『よくまぁあの馬に喧嘩売れますねぇ。私にゃ出来ませんね、あんなこと』

『ふぅん……でもさ、君』

『なんでしょう?』

『―――勝つことは、諦めてないだろう?』

『―――さぁ、どうでしょうね?』

 

どこか弱気な言葉。

だけど、その眼はこう言っているのだ。

『勝つのは俺だ』、と。

 

『ま、お手柔らかに頼みますわ』

『それは、ちょっと出来ないかな』

『さいですか……………油断はしてくれねぇか』

 

最後の方は聞き取れなかったけど、何か言って離れていく。

……お手柔らかに、か。

そんな事、出来る訳無いだろうに。

 

 

 

 

『第9レースは、第43回有馬記念、芝2500mです。日本中のサラブレッド達の中でも、ファン投票で選ばれた優駿達で行われる今日のメインレース。多くのファンの夢が、祈りが、スタート地点へと凝縮されています。最後に16番のエモシオン、今ゲートインしていきまして、係員離れました……さぁスタートです!!』

 

悪くないスタートを切れた。

一番前を、セイウンスカイが走っていくのが見える。

うん、これは聞いていた通りだ。

 

『セイウンスカイが先頭を行きまして、そのうちに天皇賞馬オフサイドトラップ、1馬身差でオースミタイクーン、その外ビッグサンデー内マチカネフクキタル、エアグルーヴもこの第2集団に入っています、メジロドーベル外から上がっていく、中段に入りましてステイゴールドがこの位置、その外まわってエモシオン、ダイワオーシュウサンライズフラッグがいきます』

 

ッ、やっぱり年上の馬が多いとレースが速くなりやすいか?

先頭は……セイウンスカイ、彼か。

『お手柔らかに』とはなんだったのか、良い走りをするじゃないか。

 

「グラス、僕たちは僕たちのペースでいくよ」

『分かってますよ、トバさん』

 

 

『さぁ第1コーナー入りまして、先頭はセイウンスカイ単独のトップでいきます。6馬身ほど離れてこれも単独の2番手サンライズフラッグ、3馬身開いてオフサイドトラップ、少し遅れてオースミタイクーンとメジロドーベル、その後続いてビッグサンデー、離れてエアグルーヴですが先頭まで15馬身ほどでしょうか、それを追う様にステイゴールドとグラスワンダーです。その後ろにはエモシオンにマチカネフクキタル、1馬身離れてシルクジャスティス、ダイワオーシュウ、キングヘイローが外から来ている、離れてメジロブライト、最後方ユーセイトップランです』

 

 

だいぶ後ろの方になったかな。

トバさんは……うん、焦っている感じはしない。

なら、落ち着いて、彼を信じて走るだけだ。

 

 

『さぁ、第3コーナー入りますが先頭は変わらずセイウンスカイ、セイウンスカイが先頭ですが後続との差が詰まってきました!』

 

 

『ちっ、年上ってのはやりにくいですねぇ……!』

 

「グラス、仕掛けるよ」

『行くんだね、ここで!』

 

少しずつ、前が固まってくる。

それを見て、トバさんから指示が出る。

外側へ出て、前に前に進んでいく。

 

 

『早めに追い始めたメジロドーベルが2番手、オフサイドトラップとサンライズフラッグが続きます。600m切りましたが、外からグラスワンダー、グラスワンダー抜けて来た!後ろからは虎視眈々とエアグルーヴが差を詰めてきます!!』

 

 

『付いて来るか、エアグルーヴ』

『お前に無くて私にあるもの、それは経験だ。仕掛けるならここと判断したまで!』

『なるほどね……』

 

トバさんの指示に合わせて動くが、エアグルーヴが後ろから来ている。

最後の直線、ここからレースは大きく動くはずだ。

 

「いくぞグラス、君の力を見せる時だ!」

『あぁ、見せてあげよう―――僕の力を!!』

 

 

『セイウンスカイ逃げる、逃げるが差が無くなってきたぞ!さぁ外からグラスワンダー、外からグラスワンダー!!』

 

 

『速ッ……!!』

『手は、抜かないよ!!!』

 

トバさんから鞭が入り、グンッと加速する。

先頭を走っているセイウンスカイの横を、交わして前に出る。

 

『前へ、前へ、前へ―――!!!』

 

力強く地面を踏み抜き、更に加速していく。

まだだ、まだまだ速く、速く走れるはずだ!!

 

 

『グラスワンダー完全に抜け出した!2番手にメジロブライトだが、グラスワンダー速い!速い!!グラスワンダーが今ゴールイン!!!2着メジロブライト、3着にステイゴールドが入りました!!!』

 

 

今まで走ってきた中で、最高の走りだったと思う。

―――けれど、まだ駄目だな。もっと先があるはずだ。

 

 

『昨年の3歳チャンピオン、怪我明け初戦、そして前走アルゼンチン共和国杯と段々と調子を取り戻してきましたグラスワンダー、この有馬の舞台で完全な復活を示しました!!見事、見事ですグラスワンダー鳥場弘、完全復活です!!!時計は2分31秒8、2分31秒8!ダイユウサクが生み出した驚異のタイム、2分30秒6には及びませんが、歴代3位の記録となります!!!』

 

 

「グラス」

『何?』

「お疲れ様、良い走りだった」

『でしょ?』

「今日この瞬間は、お前が日本一の競走馬だ……おめでとう」

『じゃあ、トバさんは日本一のキシュさんだね……おめでとう』

 

 

 

 

 

「エルコンドルパサーが、海外に……!?」

「それも、凱旋門賞を狙うらしいね……グラスには決着をつけさせたかったがね」

「凱旋門賞ですか……」

 

新年、あけましておめでとうございます、ブラックテイルです。

グラス先輩が有馬記念を勝利したと知った時には思わず2本足で立ち上がって『ヒヒーン』と大きく嘶いてしまったが、そんな事もあってしばらく経った。

今、ウマノイヤーで聞いているのはテキの会話だ。

エルコンドルパサー、海外に行くらしい?凱旋門って事はフランスか。

 

「長期遠征だって話だ。4月頃日本を発って、何戦か走らせてから凱旋門賞へ挑むそうだ」

「半年近く、それはまた……有馬に出なかったのは、これを見越して、ですかね」

「恐らくはそうだろうね」

 

4月から半年……凱旋門賞、っていうのは10月あたりなのかな?

にしても海外の競馬かぁ……

自分の脚は、母父の血が上手く働けば海外向きになるかも、って話だけど。

海外向きの脚ってどういう事なんだろう?

聞いた話から色々考えると、多分力強さが必要、って事なんだろうけど……

 

「どうなるかな、エルコンドルパサーは……ジャパンカップを勝っただけに、距離だけを見れば問題なさそうだけど」

「2400mで同じですからね。ただ、海外の芝ですから」

「気になるところはやっぱそこだね。日本の芝とはモノが違う。それに慣らすための長期遠征、凱旋門賞前のレースなんだろうけど」

「今年はシーキングザパールがモーリス・ド・ゲスト賞で、タイキシャトルがジャック・ル・マロワ賞で優勝してますから、海外レースへの注目は高まる可能性は高い……現に、タイキシャトルが年度代表馬に選ばれましたからね」

「確かに、そうだね……日本の競馬が世界に届くかどうか、って話だ」

「中距離路線での海外遠征ですもんね」

 

2400m、洋芝のレースに通用するかどうか、か。

……グラス先輩と比較される程の名馬だから、期待してしまうけれども。

 

『どうかしたの?』

『あぁ、グラス先輩……エルコンドルパサーが、海外のレースに出る為に日本から出るらしいです』

『エルが?』

『はい。4月に日本を出て、10月まで海外で活動するみたいです』

『そっか……少し、寂しくなるね』

『エルコンドルパサーが日本に戻って来た時、【お前が居ない間に俺はこれだけ勝ったぞ!】って言えるように頑張りましょう。驚かせてやりましょうよ』

『……うん、そうだね』

 

グラス先輩の反応は、結構寂しそうだった。

一度だけ、『あの』サイレンススズカも交えた3頭で走った仲間が、居なくなる。

その寂しさが、出ているのかもしれない。

 

 

 

 

 

(エルが居なくなるなら、僕は……やはり、僕が見るべきは『最速(サイレンススズカ)』、君なんだね)

 

テイルから聞いた話を、思い返す。

エルコンドルパサーはカイガイ……遠く離れた場所で、レースに出る。

だから、暫く一緒に走る事は出来ない、と。

ならば、僕が競い合うのは、かつて見せつけられたあの『速さ』しかない。

 

(アリマ記念での走りでは、まだ駄目だ……まだ、君は追い抜けない)

 

もっと速く、鋭い走りでなければ、君は捉えられない。

 

(なんて高い目標だろうか……)

 

―――あぁ、なんて、挑み甲斐のある目標なんだろう。

サイレンススズカ、君の背中を追い越せる走りを身に着けてみせる。




グラスワンダーの有馬記念、そしてグラスワンダーの目標について、となりました。
次回は少し作中時間を飛ばしていこうと思います。
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