黒き馬、世紀末を駆ける   作:馬券童貞は東京優駿に捧げた男

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遅くなって本当に申し訳ありませんでした。
職場が大フィーバー()しまして、もう、ね……

今回はイシノフォーチュンのプリンシパルステークス、そしてもう1つ、という感じです。



第15話 プリンシパルステークス+『()は、(貴方)と』

『先輩ぃ……4着に終わっちゃいましたぁ……』

『そっか、そっか』

 

皐月賞、4着。

厩舎、というか馬房に戻った瞬間にはグラス先輩に報告していた。

 

『どんな馬と走ったんだい?』

『まず、自分と同じ牧場で生まれて一緒に育ってきた、同じ父親を持つ馬……アドマイヤベガ。彼は差しや追込みの位置から末脚を発揮して一気に抜き去ってくる怖さを持つ馬、なんですけど……今回は体調を崩していたみたいで。今度ダービーで走る時には体調をしっかり戻すように約束してきました』

『なるほどね……気にかけているんだね、その馬の事』

『同じ牧場で、色んな事を共にしてきた友達なんです。だから、一緒に走れるのが楽しいんです』

『……羨ましいね、そういう関係の馬が居るのは』

 

グラス先輩は外国産馬、日本にそういう馬は居ないだろう。

 

『他の馬はどうだった?』

『美浦トレーニングセンターの馬で、イシノフォーチュンという馬が居ますね。彼の父親は昔日本でとても有名だった馬……オグリキャップという馬です。彼はその父の名に恥じぬ活躍をしたいととても頑張っている。そこに好感が持てるので、彼とも走りたいと思ってます』

『父親、かぁ……気にした事は無かったな、僕は』

『まぁ、人によりけり、馬によりけりだと思いますよ。他には、今回初めて会った2頭の馬、ナリタトップロードとテイエムオペラオー……彼らもまた実力有るサラブレッドでした。クラシック路線、そしてその先も競い合う相手になると思ってます』

『君に先着した馬、か』

『えぇ』

 

どちらも、強い馬だった。

オースミブライトも2着に入っていた馬だったが、彼よりも先に挙げた2頭の方が印象に残っている。

……この先、多くぶつかり合うだろう。

彼らは、まさしく『優駿』だ。

 

『競い合う相手か……エルが居なくなったから、僕には今は分からないな』

『そう、ですよね……エルコンドルパサーは海外に行ってしまって、目ぼしい相手が……』

『次の僕の目標は、確か安田記念だったかな。そこで、誰か出会えると良いな』

『きっと出会えますよ。共に走ってて楽しいって思える相手が……だからこそ、勝ちたいと思える相手が、きっと』

 

自分にとっての、リラのような存在。

きっと、グラス先輩にとっては、エルコンドルパサーであり……サイレンススズカ、彼だったのだろう。

今のグラス先輩には、ライバル、強敵という存在が欠けているのかもしれない。

だからこそ、この間のレースでサイレンススズカの幻影を追ってしまったのかもしれない。

……そんな存在に出会えたら、競い合う中でグラス先輩はもっと強くなれる、そう思う。

何時かグラス先輩がそんな相手に出会えますように、そう心の中で願った。

 

 

 

『テイルー!!』

『レバリー、久しぶりだね』

『久しぶりやな!!』

 

ダービーに向けて調教、と思った所、1頭近づいて来る馬が。

オルランドレバリー、新馬戦で競い合った相手。

 

『聞いたでテイル!アンタ、なんか凄いレース出たんやって?』

『皐月賞、って言ってね。とても注目を集めるレースなんだけど……4着だったよ』

『アンタでも4着、って……そんな強い馬ばっかりやったんか』

『あぁ。俺よりも強い馬は沢山居る……まだまだ頑張らないと』

『そう、か……』

 

俺の言葉を聞いて、少し俯くレバリー。

 

『どうかしたの?』

『いや、その……この間のミショーリセンってのは勝ったんやけど、そこからずっと勝ててなくてな……』

『そう、なのか』

『あぁ……アンタと次走る時は差し切る!なんて言っといて、このザマや……アンタの背中が、どんどん遠く感じるわ……』

『レバリー……』

 

……なんと、声をかければ、良いのか。

騎手さんを待たせる訳にもいかないから、何か、何か……

 

『……レバリー。1つだけ、言わせて欲しい』

『なんや?』

『俺と走る事、それ【だけ】を目標にするな。君が一番走りやすいレースが、君が一番楽しめるレースが、俺の居る場所にあるとは限らない』

『……どういう事や?』

『俺は、君には君が最高の走りを出来るレースを走って欲しい、そう願ってる。俺と走る事だけに目を向けて、君の最高の走りが出来ない、そんな事は……俺は、望んでない』

『テイル……』

 

可能性を、狭めないで欲しい。

その願いを、精一杯伝える。

 

『違うレースを走ったとしても、お互いにこうして会って【どうだ、俺は凄いだろう】って言いあう事は出来るだろ?だから、君は、君の出来る最高の走りを、して欲しいんだ』

『……同じレースじゃなくても、か』

『うん。たとえどんなレースであっても、最高のレースをして勝ったら、それは胸を張って言う事が出来るだろ?でも、無理して苦手なレースを走って、それで勝てなかったら、どうだ?【苦手なレースだから負けた】って、負け惜しみをするのか?』

『……それは、嫌やな』

『だろ?』

 

自分の中で、最高の走りをして、それで勝つ。

苦手なレースを無理して走るのは、自分の為にならない。

……まぁ、レースを選ぶのは調教師や馬主なんだけどね。

でも、無理をして身体を壊してしまっては、レースを選んだ人たちを苦しめる事にも繋がってしまう。

 

『お互いに、自分の走るレースを、目の前のレースを、全力で走ろう。そうしたら、またこうして会った時に自慢しあおう』

『………せやな。ワイは、ワイの走るレースを全力で走って、勝ってくる。アンタと走れたら良いなとは思うけど、あくまでも思うだけにしとくわ』

『あぁ。次に出るレース、最高の走りをして来い』

『あぁ!お前に【スゲェ】って言わせたるわ!!』

 

……落ち込んだ雰囲気は、消えたようだ。

レバリーには、レバリーの走るレースがある。

俺には、俺の走るレースがある。

たとえ違うレースだろうと、同じレースだろうと、胸を張って誇れるレースにしたい。

全力で走って、勝ったら喜んで、負けたら悔しんで、でもそれをバネに次へと進める、そんなレースに。

 

……正直、皐月賞は素直にそうとは言えないレースになってしまった。

だから、次こそは。

ダービーは、誰に対しても誇れるような、そんな走りをしてみせる。

 

 

 

 

 

「イシノは、どうですか?」

「体調は万全、そう言っても過言じゃないですよ。間違いなく今までで一番の仕上がりです」

「それは安心ですね……皐月賞以来、折り合いが付けられてるように思えてます。今日も上手く折り合いをつければ……」

「……尾西さん。どうか、お願いします。こいつを、ダービーの舞台に」

「任せてください、テキ」

 

1人の男が、自分が乗る馬の事を撫でながら言う。

 

「このレース、『主役(Principal)』はコイツです」

『ブルルッ……』

 

 

 

『ダービートライアル、プリンシパルステークス。芝2200mを走り抜き、主役の座を、ダービーへの出走権を手にするのはどの馬なのか?』

『1番人気はオーディーウィン、峪穣とのコンビ。前走は2400m1着、この結果に期待が集まっております』

『2番人気に入りました、イシノフォーチュンと尾西直人。前走は皐月賞10着、しかし1着のテイエムオペラオーからは1秒以内と決して悪くはありません。父オグリキャップの走る事叶わなかったダービーの舞台へと躍り出る事は出来るのか?』

『3番人気は………』

 

 

 

このレースを走り切ったその先に、『彼』が待っている。

最も注目を集めるというそのレース。

自分の父が出る事叶わなかったという、とても大きなレース。

その舞台で、自分は……ブラックテイル、君と、走りたい。

 

「やる気十分、だな、イシノ」

『キシュさん』

「……勝つぞ、イシノ。俺とお前で、ダービーに出るんだ」

『分かった。自分と、貴方で、ダービーに!』

 

キシュさん、自分は、貴方を信じる。

信じて、全力で走り抜く。

だから……一緒に、行こう。ダービーへ。

 

 

 

『各馬ゲートイン、体勢完了……スタートしました!!』

『先頭はデイスプリング、続いてウインスポットが1馬身の位置、並んでマイネルトレジャー、キングズウィッシュで3頭横並び、やや離れてモンテカルロ、その後ろこれまた3頭並んでいる、クラシックステージ、マイネルバイエルン、エイシンユーダイ3頭横並びそしてその後ろに2番人気イシノフォーチュン!』

 

 

自分の前には、8頭か。

すぐ後ろには……1頭、いや2頭?

 

「暫くこの位置だ。焦るなよ」

『この手の動きは……まだ、前には行かないのかな』

 

キシュさんの引っ張り方で、動き方を確認。

この動き方は、前に行こうとしたらもっと引っ張られたから、取りあえずこれくらいで走ろう。

 

「よし、良いぞ……第3コーナーで、一気に外に出る」

『ちょっと右側に寄れば良いのか?分かったよ』

「よし、よし」

 

少し引っ張られた方に寄って、あとは真っ直ぐ。

前に行きたいけれど、ここは我慢だ。

テイルが言っていた。キシュさんは、自分を勝たせようとしてくれるんだ、と。

だから、ここは信じて、前には行かないでおく。

勝つためには、こうするのが大事なんだろう?テイル。

 

 

『向こう正面入って、先頭は変わらずデイスプリング、しかし後ろからモンテカルロ上がってるがこれは掛かっているか?』

『2番人気イシノフォーチュン、落ち着いて走っています。どこで仕掛けてくるのか?』

 

 

「よし、外に出るぞ」

『横を抜けるんだね』

「ここからが勝負所だ……行くぞ!」

 

クイッと、引っ張られた方へと身体を寄せる。

そうすれば、前を走る馬達の少し横を通る道が見える。

グッと、脚に力を込めて―――

 

「―――行け!」

 

力強く、踏み込んだ。

 

 

 

『さぁ第3コーナー入って……おっと動き出した!動き出したのはイシノフォーチュン!!』

『クラシックステージを抜いて、マイネルバイエルン、エイシンユーダイの横に並んだ、そのまま抜き去った!!まず3頭!!!』

 

 

まだだ、まだだ、まだだ!!

もっと前へ、前へ、前へ前へ前へッ!!!

 

 

『キングズウィッシュ捉えられた!粘る!粘るが、イシノフォーチュン抜き去った!!力強い走りで、前へ前へと突き進む!!!』

『マイネルトレジャーとモンテカルロ並びあっているが、後ろから迫っているぞ迫っているぞ!!』

 

 

まだ行ける、まだ行けるんだ!

自分が目指すのは、もっと先!!

ここで、止まる訳にはいかないんだ!!!

 

 

『マイネル抜かされた!!粘るモンテカルロ、しかし!しかし!!イシノフォーチュン抜けた抜けた!!!』

 

 

あと2頭!

 

「行け!イシノ、行けェ!!!」

 

キシュさんがムチを振るう。

ここで本気を出せって事だな!

勿論だ、自分が目指す場所は、約束の場所は、この先にあるんだから!!!

 

 

『ウィンスポット並んだ!並んだ!!抜かれた!!イシノフォーチュン、先頭デイスプリングまであと1馬身!!!』

 

 

あと1頭、1頭抜き去れば―――!!!

 

『自分の―――邪魔を、するなァァァッ!!!』

 

 

『足色は衰えない!衰えないぞイシノフォーチュン!!半馬身!クビ差!!ハナ差!!!並んだ!!!並んだ!!!並んだ!!!抜け出したァ!!!イシノフォーチュンゴールイン!!!』

『第3コーナーから実に8頭抜き去って、主役を名乗り出たのはイシノフォーチュン!!父が出る事叶わなかったダービーの舞台へと登りました!!!』

 

 

「―――イシノ、行こう、ダービーに」

『あぁ、キシュさん。一緒に、行こう」

 

 

 

 

 

―――1999年、6月6日。

4歳馬達の中から選ばれた18頭が、東京競馬場に集まる。

世代の頂点を決める、クラシック3冠。

『最も速い馬が勝つ』【皐月賞】、『最も強い馬が勝つ』【菊花賞】。

そして、もう1つ―――『最も幸運な馬が勝つ』【東京優駿】。

 

 

「いよいよ、今週末だ」

『ですね』

 

―――という話を、俺は鳥場さんから聞いていた。

調教も終わって、今日は休むだけ、という段階。

テキに話を付けた鳥場さんが、自分の馬房に寄りかかって、自分に色々と話してくれる。

 

「東京優駿、まぁ日本ダービーの方が有名かな?僕とテイルが出るレースは、そういうレースだ」

『なるほど、なるほど……幸運な馬が勝つ、か』

「当日万全のコンディションを発揮する、最高の馬場状態を引き当てる、などあるんだろうけど……結局のところ、1番良い走りを出来るかどうか、それに尽きる」

 

ほうほう、と頷きながら話を聞いて―――

 

「―――実は、僕はまだ1度も取ったことが無いタイトルなんだ、テイル」

『え?』

 

思わず、首を傾げる。

名手と謳われる鳥場さんでも、取った事の無いタイトル?

 

「何度か近づいた事はあるさ。でも、逃してしまった……クラシック3冠で、唯一取った事の無いタイトル、それがダービーだ」

『なんと……』

「……………テイル、1つだけ、過去の話をしよう。僕の、話だ」

 

目を閉じて、何かを思い出すように。

天井を……いや、その先、何処か遠くを見るように、上を向いて。

鳥場さんが、口を開いた。

 

「―――ライスシャワー、という競走馬が居た」

「綺麗な黒い馬だったよ。黒鹿毛の、小柄な馬だった」

「だけど、とてもスタミナのある馬だったんだ」

 

ライスシャワー、と、心の中で名前を繰り返す。

 

「そんな彼の前には、とても大きな壁が立ちはだかってね……ミホノブルボン、と言うんだ」

 

ミホノブルボン……確か、あれか。

坂路調教で鍛えられた馬って、テキが言ってたような……

 

「とても強い馬だった。皐月賞で敗れ―――ダービーでも、僕とライスシャワーは彼に敗れた」

『そんなに強い馬が……』

「僕とライスシャワーにとって、ミホノブルボンは超えるべき壁だった。だから、努力して、遂に菊花賞で僕とライスシャワーはミホノブルボンを破った」

『さすが鳥場さん!』

 

鳥場さんの言葉を、自分は素直に受け止めた。

負け続けて、でも諦めないで、打ち勝つ。

流石は名手だなぁ、と思って―――

 

「―――ライスシャワーを讃える人は、とても少なかったんだ」

『え?』

「ミホノブルボンが目前にしていた【無敗3冠】の記録を、最後の最後で打ち砕いたからね……」

『そんな……』

「ライスシャワーとはね、もう1つ、偉業を前にした競走馬を破った事がある。春の天皇賞3連覇という偉業を目前にした、メジロマックイーンという競走馬だ……あの時は、峪さんの5連覇も、かかってたか」

『同レース3連覇、騎手の5連覇……』

「偉業を打ち破るもの、『レコードブレイカー』だとか、2頭が栗東の馬でライスシャワーは美浦の馬だったから、『関東の刺客』だとか……『悪役(ヒール)』だとか、呼ばれるようになってしまったんだ。僕自身も『ヒットマン』だとか呼ばれるようになったね」

 

―――偉業を、打ち砕いた。

強者を打ち砕いた事で、ライスシャワーという競走馬は……自分にとっての大先輩にあたるその競走馬は、悪役と呼ばれるように、なってしまったのか。

 

「―――悔しかったんだ、僕は」

『鳥場さん……』

「僕とライスシャワーは、ライスシャワーの調教師の井塚(いづか)さんは、全力で勝ちに行っただけだった。ライスシャワーを全力で鍛え上げ、勝たせるため作戦を練って、折り合いを付けて挑んで……その果てに、ミホノブルボンを、メジロマックイーンを差し切った……だけど、そこを見てくれなかった。それが、僕は悔しい」

『……』

 

―――あぁ、この人は。

本当に、俺を、自分が乗る競走馬を、勝たせようとしてくれているんだ。

 

「テイル。僕は、テキは、君とダービーを勝ちたい……だけどね、また1つ、偉業が立ちはだかっている。峪さんのダービー連覇、日本競馬史上初の大偉業だ」

『ホント凄い騎手なんだな峪さん……』

「僕は、君に、君にも、『悪役(ヒール)』を背負って欲しくない……でも、僕は、僕は……勝ちたいんだ、テイル……」

 

成程、成程。

なんて優しい騎手なんだろう、鳥場さんは。

―――あぁ。この人と、俺も、レースに勝ちたい。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

人の言葉を理解している、そう思っている僕の相棒。

そんな彼に、僕は思いのたけを語った。

勝ちたいという気持ちと、しかしその先に待つだろう、『悪役(ヒール)』のイメージを押し付けたくないという気持ち。

どちらも本心であり、だからこそ、この馬には話しておきたかった。

 

ヒヒンッ、という嘶きが聞こえる。

そちらに顔を向けると、テイルが、こっちを見ていた。

じっと、真っ直ぐに僕を見つめている。

勝手な想像かもしれない。だけど、その瞳に、何かの意思を感じた。

 

(そういえば、馬主さんも確か……)

 

ふと、テイルの馬主さん、金尾(かねお)さんの言葉を思い出す。

ここ最近馬主として活動を始めた人だと聞いている。

 

『馬を選ぶとき、目を見るようにしてます。目つきの良い馬はまだ分からないですけど、目つきの悪い馬はなんとなく分かりますからね』

 

自分なりの選び方を決めている人。

そんな彼が、ブラックテイルという競走馬を選んだ理由を、聴かせて貰った。

 

『物凄く落ち着いた馬だな、って最初思ったんです。だから、気になって目を見に行きました』

『―――知性、って言うんですかね。馬の目を見て、それを感じたんですよ』

『それを感じた瞬間、【あぁ、こいつはきっと走るな】、って思ったんです』

 

―――【これ】だ。

この瞳から感じる【これ】を―――彼の知性を金尾さんは信じたんだ。

 

「テイル……君は、僕に、何を伝えたいんだ?」

 

テイルに、近づく。

目を逸らさないテイルに、そっと手を伸ばした。

 

「君が、僕の言葉を分かるというのなら……教えてくれ、君の出来る方法で」

 

馬鹿な事を、と笑われるかもしれない。

しかし、僕やテキなど、テイルに関わる人の多くは、彼が人の言葉を理解していると信じていた。

だから、僕は彼にそう問いかけ―――

 

ベロンッ、と頬を舐められた。

 

「テ、テイル!?こ、こらっ!」

 

2、3度頬を舐められて、慌てて距離を取る。

そんな僕を見て、テイルはまるで人の様に歯を見せて笑った。

噂に聞くダイタクヘリオスみたいだな、なんて思いながら、この行動と笑みの意味を考える。

少し考えて、『これだろうか?』と思った事を、聞いてみた。

 

「………気にするな、って事かい?」

『ヒヒンッ』

 

嘶きと共に、首を縦に軽く振るテイル。

『あぁ、やっぱり言葉を理解してるのか』なんて頭の隅で考えながら、僕は更に問いかける。

 

「本当に、良いんだね、テイル?」

 

僕の問いかけに、テイルは無言で首を振るう。

さっきまでの笑みは消え、レース前のような真剣さを帯びた瞳で、僕を真っ直ぐに見つめてくる。

―――そこまで信じてくれるのならば、僕に出来る事は、ただ1つだ。

 

「―――ありがとう、テイル。僕は僕の出来る限りをもって、君を勝たせる為に頑張る。だから、僕を信じて、一緒に走ってくれ」

 

僕の言葉に、力強く頷くテイルを見て、迷いは晴れた。

―――僕は、君と、レースに勝ちたい。

そう、強く、強く、心の底から思った。




美浦所属、黒い馬、鞍上某氏。
大きさの違いなどあれど、どこか重ねてしまう所がある―――そういう話でした。

イシノフォーチュン、ダービー参戦!
このプリンシパルステークスは、史実では『とある馬』が勝っているレースです。
本作では、そこにイシノフォーチュンが入る形に。

今回は投稿が遅くなってしまいました事、本当に申し訳ありませんでした。
多少職場も落ち着きましたので、投稿ペースは少しは戻るかと思いますので……

次回、『第66回東京優駿』
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