黒き馬、世紀末を駆ける 作:馬券童貞は東京優駿に捧げた男
職場がどったんばったん大騒ぎ()しておりまして暫く書けず、年末年始になって漸く休みが取れたので頑張って書きました。
本当に、本当に申し訳ありません……
勝利ジョッキーインタビュー。
今日、その場は異様な熱気に、それと同じくらいの困惑に包まれていた。
『東京優駿』と言う、クラシック戦線の大舞台。
そのインタビューの舞台に、『2人』のジョッキーが、並んでいた。
インタビュワーが、意を決して、口を開く。
「えー……それでは、ダービーの勝利ジョッキー、アドマイヤベガの騎手である峪騎手、そして、ブラックテイルの騎手である鳥場騎手に、インタビューをさせて頂きたいと思います」
「宜しくお願いします」
「宜しく、お願いします……峪さんから、どうぞ」
「え、あぁ、はい。それじゃあ、僕からで」
「すみません。それではまず、峪騎手からインタビューさせて頂きます」
まず、1着が同着、という事が稀である。
そのうえ、GⅠの大舞台で、というのはJRA史上初。
故に、どこかぎこちない雰囲気のままに、インタビューが続く。
「では、まず……ダービー連覇、達成となりましたね」
「えぇ、そう、ですね。ちょっと首を傾げちゃいますけど、1着ではあるので、連覇になる……のかな?」
「戸惑われるかと思いますが、連覇となります」
「そう、か。それは、嬉しいですね」
「どうでしたか、アドマイヤベガは」
「今日のアドマイヤベガは、完璧な仕上がりでした。道中折り合いもしっかり付けられましたし。間違いなく彼らしい走りを出来ました」
「峪騎手からして、ブラックテイルはどう思われてましたか?」
疑問に思っていた事を口にする。
瞬間、峪穣の表情が険しいモノになる。
「……僕から見て、寒気がするほどの仕上がりでした。間違いなく今日の最大の敵だと、そう認識してました」
「なるほど……」
「アドマイヤベガも気にしていたんですよね。彼の方をじっと見て……きっと、アドマイヤベガはアドマイヤベガで、脅威として認識してたんじゃないかな、なんて思っています」
「事実、今日は2頭同着となりましたが」
「いやぁ、まさか第3コーナー入った所で仕掛けるとは思わなかったなぁ……反応に遅れてたら、逃げ切られたかもって、今でも思ってます。本当に、一瞬でも油断したら、間違いなく負けていたでしょうね」
「ありがとうございます。では、一度鳥場騎手のインタビューに移らせて頂きます」
「えぇ、どうぞ」
話を一度切り上げて、インタビュワーが鳥場弘に話をする。
「鳥場騎手、ダービー初制覇、おめでとうございます」
「ありがとう、ございます……正直、夢なんじゃないかと、最初は思いましたが」
「間違いなく、現実です。おめでとうございます」
「……世間では色々と言われてますが、僕もジョッキーですから。ダービーを取りたい、そういう気持ちは、ずっとありました。漸く、漸く、それが叶った……とても、嬉しいですね」
心から嬉しそうな、そんな笑顔。
それを見て、インタビュワーも自然と笑顔になる。
「では鳥場さん、ブラックテイルについてお聞きしても?」
「今日のテイルは、調子が良かったですね。折り合いがとてもつけやすい馬なんですけど、それとはまた別に、今日はいつも以上にやる気に満ち溢れてました」
「なるほど……」
「恐らく、相手にアドマイヤベガが居たのが一因だと思っています」
「と、言いますと?」
「アドマイヤベガとブラックテイルは、父が同じ、かつ、同じ牧場で生まれ育ったと聞いています。そして、そこでとても仲が良かったとも。ライバル意識を持っているんじゃないかな、おそらく」
馬同士の仲が良い、というのは初めての情報であった。
「馬同士の仲が良い、ですか?」
「えぇ、はい。生産牧場でずっと一緒に居るほど仲が良かったみたいです」
「そうなんですね、それは初めて聞きましたよ鳥場さん」
「峪さんは聞いた事無かったですか?」
「そうですね、僕は全然」
「なるほど……鳥場騎手から見たアドマイヤベガについて、お聞きしても?」
この話は、深掘りすると時間がかかる。
そう判断し、インタビュワーが切り上げる。
質問をされた鳥場弘の目が、鋭くなる。
「そうですね……落ち着き具合、馬体の仕上がり、どれをとっても他馬と比べて桁違いの仕上がりだ、そう思っていました。峪さんも物凄く集中されてましたし、これは今日最大の敵になるな、そう思っていました」
「なるほど」
「テイルも強く意識してましたね。じっとアドマイヤベガを見てました……レースの方でも、今日は逃げ切れる、そう思ってたのに、結果並ばれましたしね」
「馬の方もライバル視している、そんな関係だと」
「えぇ、間違いなく」
「今日の反応を見ると、間違いないんじゃないかなぁ」
「なるほど、ありがとうございます……それでは、これで最後にしたいと思うのですが、お互いに相手に伝えたい事など、ありますか?」
インタビュワーの言葉に、峪穣と鳥場弘が顔を合わせる。
視線で峪穣が先を譲り、鳥場弘が口を開く。
「峪さん、ダービー2連覇、おめでとうございます」
「……ありがとう、ございます」
「―――次は、逃げ切りますよ」
「じゃあ、僕からも。ダービー制覇、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「―――次は、差し切ります」
鋭い視線が、交差する。
しかし、それも一瞬の事。
互いに緊張を緩め、手を差し出す。
「今日は、ありがとうございました」
「こちらこそ」
互いに握手をしたところで、カメラのフラッシュが焚かれる。
―――こうして、第66回東京優駿、その幕は閉じた。
「―――すみません、
「金尾さん?どうかされましたか?」
「少し、相談したい事がありまして」
「テイルの今後、ですかね」
「えぇ、はい」
1つしか優勝レイなどが無い事もあり、別々に行われた表彰式。
それを終えた後、調教師である小鷹と、馬主である金尾が顔を合わせる。
「ブラックテイルは、菊花賞に挑めますか?」
「……断言はできません。菊花賞は今まで以上に距離が長いですから」
「3000m、ですもんね」
「金尾さんの馬で、菊花賞に挑んだのは……」
「居ませんね。挑むとなると、ブラックテイルが初めてになります」
馬主としての活動を始め、まだ数年。
それでダービー馬の馬主になるというだけでも凄い事ではある。
しかし活動が短い故、分からない事も多い。
「夏明けに一戦叩いて、菊花賞に挑むか決断する。それで大丈夫だと思います」
「間に一戦挟む、ですか」
「そうですね。直近で言えばセイウンスカイ、彼は京都大賞典を挟んで菊花賞に挑み、世界レコードを飾りました。古馬混合を避けるなら京都新聞杯がメジャーでしょうかね」
「なるほど」
小鷹の話を聞きながら、金尾が考える。
間を挟むか、挟まず直接出すか。
古馬と戦わせるか、否か。
色々と考える中で、1つ、思った事を口にする。
「―――毎日王冠は、どうですか」
「毎日王冠、ですか?」
「昨年はエルコンドルパサーやグラスワンダーなどの有力な4歳馬が出走していましたから、気になりまして」
「……距離が些か短いとは思います。毎日王冠に4歳馬が挑むのは、マイル戦に挑戦する場合、という印象が強い。毎日王冠を挟んで菊花賞というのは、あまり聞かないですね」
少し考えてから、小鷹が応える。
毎日王冠は1800m、対して菊花賞は3000mと差が大きい。
毎日王冠から菊花賞のルートを辿った馬というのは、あまり記憶にない。
探せば居るかもしれないが……というのが、小鷹の感想であった。
「古馬に挑ませるなら京都大賞典の方が、前哨戦としては良いかもしれません」
「なるほど………1つ、聞いてみても良いですか?」
「何でしょうか?」
「―――グラスワンダーが秋の初戦に選ぶとしたら?」
「―――」
質問の意味を、小鷹が考える。
数秒、幾つかの選択肢が浮かび、そしてたどり着いたのは……
「―――テイルを、グラスと?」
―――同厩舎の馬を、同じレースに出す。
全く無い、という事は無いが……
小鷹の言葉に、金尾が頷く。
「間違いなく、グラスワンダーは今の日本競馬のトップクラスであると思っています。そこに挑ませてみたい、という気持ちは少しあります」
「……もしも、私がグラスワンダーの秋初戦に選ぶとしたら、毎日王冠です。去年のリベンジ、という側面もありますから。ですが……」
「?」
「……グラスワンダーも、ブラックテイルも、主戦は鳥場さんです。乗り換え、という事になりますよ?」
「それを経験させる、というのも選択肢と考えます。同じ騎手に乗り続けて貰う事が一番ですが、そうはいかない事も今後出て来るでしょう。この一戦さえ終われば、またブラックテイルには鳥場さんに乗って頂きたい、そう考えていますが」
金尾の言葉に、小鷹が真剣に考える。
金尾の言葉は、分からなくはない。
だがしかし、目指しているのが菊花賞となると、毎日王冠はやはり距離が短い。
古馬との経験を積ませるにしても、とは考えてしまう。
「……グラスの馬主さん、鳥場さんにも、確認を取ってみます」
「よろしく、お願いします」
しかし、グラスワンダーとブラックテイルの真剣勝負、そこに魅力を感じないわけでは無かった。
故に、関係者の声次第、という形に小鷹は持ち込むことにした。
「テイルと、グラスを、ですか」
「えぇ。金尾さんは、鳥場さんにはグラスに乗って貰うことも承知の上で、と」
「……自分としましては、『あり』だとは思います」
「そうですか?」
「えぇ」
小鷹の言葉に、鳥場は頷いた。
「小鷹さんも恐らくは感じているでしょうけれど、テイルは常識を超えた賢さの馬です」
「えぇ、はい」
「人の言葉を理解し、己の幼馴染とも言える相手を理解し、ライバルへの闘争心を覚えている。であれば、グラスという先輩の事も、正しく認識しているでしょう。グラスと走る事で、新たな事を覚える可能性は、十分にありえるかと」
「ふむ……」
顎に手を当て、小鷹が考える。
鳥場の言葉については、『ありえる』と言える。
ブラックテイルという馬は、自分が見てきた馬の中で、桁違いに賢い……もはや異質とも言える領域の馬である。
自分の中にある馬の常識には収まらない。
『ブラックテイル』という完全な別物として考えるべき存在。
そんな彼ならば、そういう事も十分に考えられる、というのが小鷹の考えだった。
「……乗り換え、という事になりますが、それは」
「出来れば、手放したくないです。主戦として、全てのレースを乗りたいとも思っています……ですが、僕も1人の人間ですからね。怪我なり病気なりで、乗れなくなってしまう事はありえます。それに備えて、他人の感覚を覚えて貰う、というのは……賢い彼なら、分かってくれると、思っています」
「……分かりました。ブラックテイルの代わりの騎手を、私の方で探してみます」
「僕の方からも、声をかけてみますが……毎日王冠の日に東京競馬場に来る騎手、ですか」
「そうですね。いろんなところに声をかけてみましょう」
「えぇ」
『先輩先輩!俺、1着になれました!!!』
『おめでとう、テイル!』
『これで俺も、先輩に次いでこの厩舎2頭目のGⅠ馬です!』
厩舎に帰って来たテイルが、とても嬉しそうに僕に話しかけてくる。
それを見るだけで、僕も嬉しくなる。
テイルが、僕の大事なコーハイが、僕と同じくジーワン馬になった。
それが、とても嬉しい。
『ダービーに勝った、じゃあ次は、キッカショウ、だったかな?』
『はい!芝3000m、とても長い距離です……有馬よりも長い、厳しいレースになります』
『アリマよりも長い、か』
『【最も強い馬が勝つ】とも言われる、クラシック3冠、最後のレースですね』
キッカショウ、というレースが今度あるらしい。
アリマよりも長いレース……きっと、体力勝負になるんだろうな。
2500mでも大変なのだ、それよりも長いなんて、ちょっと考えられないな。
『でもまぁ、今から大体4ヶ月か5ヶ月も先です。菊花賞の前に1戦出てから本番らしいですけど、その1戦も夏が明けてから……まぁ、3ヶ月くらいは空きが出来ますから、暫くは休みですね』
『そっか、そっか。ゆっくり休んでね』
『はい!先輩は、もう来週にレースがあるんですもんね』
『ヤスダキネン、だったかな』
『東京競馬場、芝1600m。感じとしては、毎日王冠よりもちょっと短い位ですね』
自分のレースが、来週に控えている。
アリマと比べると、大分短い距離のレース。
その分、体力よりも瞬発力が大事になるだろう。
『テキが気にしてたのは、キングヘイロー、シーキングザパール、エアジハード、だったかと』
『ふんふん』
『キングヘイローは先輩と同年代の馬で、クラシック路線を走って来た馬みたいです。両親共に実績ある馬で、クラシック戦でも決して走れない訳では無いみたいです』
『なるほど……シーキングザパールは?』
『……去年、世界の舞台で1位を取った馬、だそうです。モーリス・ド・ゲスト賞というレースで』
『世界の舞台で?』
『はい。距離こそ短めのレースだったそうですけど、確かに世界1位に輝いた馬。それが、シーキングザパール』
……世界1位の馬、か。
それは、楽しみだ。
『エアジハードも、先輩と同い年の馬だそうです。キングヘイローとは違ってクラシックレースは走っていないみたいですけど、それでも前走はGⅡ1着、実力者なのは間違いありません』
『なるほど』
『それと……どうも、エアジハードの鞍上が、エルコンドルパサーの鞍上を今勤めている海老名さんみたいです』
『エルの?』
『はい。つまり、相手は先輩の事を良く理解している人になります。ここはちょっと懸念点……警戒するポイント、ですね』
『なるほど、なるほど……』
テイルからレース前に話を聞く事で、色々と考える事が出来る。
本当に、いいコーハイを持ったな、自分は。
『グラス先輩として、気になるのはどの馬ですか?』
『そう、だな……気になるのは、シーキングザパールかな』
『やっぱり、世界1位の馬だから、ですかね?』
『そうだね。短い距離のレースとはいえ、実力者みたいだからね』
世界の舞台で頂点に立った馬……エルも海外に行く、って聞いたし、その舞台で活躍した馬は気になる。
『先輩』
『ん?』
『信じてますよ。先輩ならきっと勝てる、って。俺にとって最高最強は、先輩ですからね』
『……ありがとう、テイル』
―――あぁ、なんて真っ直ぐな視線だろう。
そんな眼で見られて、走らないなんて選択肢は、選べない。
勿論、全力をもって走ってくるさ。
僕は、決めたからね。
『最速』を追い越せる走りを、身につける、って。
テイルが思い描く『最高』に、なってみせる、って。
『ヘイ、そこの君!』
『僕、かな?』
『そう、君だ。私の名前はシーキングザパール!!君の名前を聞いても良いかな?』
『君が、そうか……僕は、グラスワンダー』
『グラスワンダー、オーケー、覚えたよ!』
タイキジョで、僕に声をかける馬が居た。
ちょうど、気にしていた相手、シーキングザパール。
『色々なレースを走ってきて、なんとなく強い馬っていうのは分かるの。君、強いわね』
『どう、だろうね。世界の頂点に勝った君と比べると、どうだろうか』
『あら、私を知ってるの?』
『色々と教えて貰ったよ。世界1位に輝いた、確かな実力者だってね』
『えぇ、そうよ!私は世界のトップに立った!!……でもね、油断はしないわ。だってちょっと長いものこのレース。全力でいかせてもらうわ』
『あぁ、僕もさ』
うんうん、良いね。
勝ちたい、ってギラギラした目だ。
……他にも何頭か、そういう目をしている馬が居る。
―――あぁ、楽しみだ。
『さぁ、各馬ゲートイン、体勢完了……スタートしました!』
『さぁ先頭争いですが、これはアグネスワールド、アグネスワールドがハナを奪いました!2番手争いは内からオリエンタルエクスプレス、外からキングヘイローが加わります!!』
……囲まれた、かな?
前の方には5頭、6頭くらいか。
左右も囲まれていて、動きにくいな。
『2番手争いからはやや離れてエガオヲミセテ、後ろにはグラスワンダーこの位置、外からムータティール、内からキョウエイマーチ!』
ちょっと短いレースだから何とか前に行きたいな。
だけど、どうしようか……
取りあえず、鳥場さんの動きを待って……
「グラス、外から仕掛ける」
『了解です』
言葉で、どう動けばいいかを理解する。
外から、という事は……右に少し寄っておこう。
コーナーを曲がる時、どうしても身体が外に出てしまう。
そうして前に隙間が出来たら、そこに突っ込む!
『さぁ3コーナーに入って先頭アグネスワールド、キングヘイローが2番手につけている!しかし外からムータティールが上がってきています!そしてさらに外エアジハード!その内にはグラスワンダー囲まれてる中懸命に……いや、間を縫っている!?間からグラスワンダーだ!グラスワンダーがキングヘイローの外ムータティールの内、間に来ているぞ!!!』
コーナーに差し掛かって、やや膨らんだ前の隙間。
そこに突っ込んで、前へと進む。
『何だお前は!?』
『悪いね、横、通るよ』
『チィッ!!このキングヘイローの横を素通りとは、良い度胸をしている!!待てェ!!』
『さぁ先頭アグネス、いやエガオヲミセテ!しかし内からアグネス、外からグラスワンダーキングヘイロー!さらに外からエアジハードだ!そしてシーキングザパールが追い上げてくる!!!』
1頭、いや2頭、かなり追い上げてきている馬が居る!
今抜かしたキングヘイローじゃない、別の馬だ!!
「グラス、差し切るぞ!!」
『はい!!』
鳥場さんからの鞭が入る。
とりあえず、まずは前に居る2頭からだ!!!
そこを抜いて、あとはひたすら走り続けろ!!!
『先頭ここでグラスワンダー!グラスワンダー先頭!!外からエアジハードが迫っている!!』
『グラスワンダーか!?エアジハードか!?激しい競り合い!!』
『1馬身!!半馬身!!!どうだ!?どうだ!?クビ差まできた!!!だがしかしグラスワンダー!!!』
『少しの差で、グラスワンダー1着!グラスワンダー1着!!』
『これがグランプリホースの実力!!あと一歩を譲らず、GⅠ3勝!!!』
『やっぱ強かったわね、君。グッドレース!!』
『ぐっどれーす?』
『良いレースでした、って意味らしいわ?うん、そんな事聞いたことあるの』
『そっか。じゃあえっと、ぐっどれーす。今度テイルに聞いてみるよ』
『テイル?』
『僕の大切なコーハイさ。人の言葉が分かるんだって』
『オゥ、すごいわね』
寄って来たシーキングザパールと話をする。
そうしていると、1頭、近づいて来る馬が。
緑色のモノ……メンコ、を顔に付けた馬。
『キングヘイロー、だったね』
『あぁそうだ。お前、あの時俺の横を素通りした馬だな?』
『グラスワンダー。こっちはシーキングザパール』
『ハァイ、シーキングザパールよ』
『お前は最後の方に追い抜いてきた馬か……チッ、なぜ、なぜ勝てないんだ俺は……なぜあの人たちの期待に応えられない!なぜだ!!』
……勝利に対して、貪欲なんだな。
なら、言える事は……
『勝ちたいなら、そうだな……君に乗ってくれる人を、信じて欲しい』
『俺に乗っている人を、信じる?』
『うん。教えてくれたんだ、この人たちは、僕たちを勝たせてくれようと頑張ってくれているんだ、って。だから、信じて走るのが、勝つためにはなによりも大切なんだ、ってね』
『……覚えておこう』
『あぁ、覚えくれるだけでいいんだ。あくまで、こういう考え方もある、ってだけで、それ以外の走り方も、もっとあるだろうから』
『……ふん』
『先輩先輩、次のレース、宝塚記念、ですって』
『タカラヅカ?』
『有馬記念みたいに、投票で選ばれた馬が集まるレースですよ。1ヶ月くらいしたらレースがあるみたいです。芝の2200mだそうです』
『ふんふん』
なるほど、僕の次のレースはタカラヅカキネン、というレースらしい。
距離は、アリマよりも少し短い、といった具合。
僕としては走りやすい距離かな。
『多分出て来るだろう馬は、スペシャルウィークは出て来るだろうって言ってました』
『スペシャルウィーク……君の前のダービー馬、だったね』
『そうですね。去年のダービー馬です』
テイルがこの間勝ったジーワン、ダービーを1年前に勝った馬、か。
僕と同じ歳のダービー馬……
『先行や差しの位置を取る事が多いみたいで、鞍上は峪穣さん……サイレンススズカの鞍上を務めていた人です』
『そう、か。あの人が……』
『はい。前走は春の天皇賞、芝3200mで1位になった実力馬ですよ』
『3200mも走り切ったの?それは凄いな』
テイルが走る予定のキッカショウよりも長い距離だ。
それを走り切るなんて……すごい馬だな。
『強敵、だね』
『はい、そうなりますね……でも、先輩なら大丈夫です!』
『あぁ、大丈夫。きっと、勝ってみせるよ』
『はい!』
『まだ言えないよな、先輩には大きなレースが待ってるんだし』
『……先輩と、レース、かぁ……』
『秋の初戦、毎日王冠……そこで、先輩と……鳥場さんじゃない人と走って……』
『……楽しみ半分、不安半分、だな……頑張らないと、な』
ダービーインタビュー、安田記念、そして次走。
テイルの次走についてですが、色々と考えた末に決めさせて頂きました。
同厩舎対決、格上挑戦など、読者の皆様からすると「それはどうか」と思われるかもしれません。
ただ、この展開につきましては変更するつもりはありません。
そこは明言させて頂きます。