黒き馬、世紀末を駆ける   作:馬券童貞は東京優駿に捧げた男

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祝!ウマ娘アドマイヤベガ育成実装&ナリタトップロードウマ娘化!!!!!(遅

皆様、お久しぶりです。
アヤベさんを天井してお迎えし、育成ストーリーも何もかもじっくりと味わって、ようやく戻ってきました。
アヤベさんの確度が大きく向上したので、今後の執筆に活かしたいと考えております。

それはそれとして、今回はグラスワンダーの宝塚記念、そしてもう1つお話を書かせて頂きました。


第18話 第40回宝塚記念+『勝負』

『先輩、いよいよ宝塚記念ですね』

『そうだね、明日、走る事になる』

『この為に先輩、しっかり頑張ってきましたからね。大丈夫ですよ!』

『うん、頑張ってくるよ』

 

「うーん、相変わらず仲良いですね、グラスとテイルは」

「本当ですね……顔を寄せ合って、小さく嘶き合って……」

「管理している身としては、とても楽をさせて貰ってるね、あの2頭は。大人しいし賢いし、ああして一緒に居ると機嫌も悪くならないから」

「厩務員としてもありがたいですよ、ホント……テイルを担当している時の感覚を、他の馬に持ち込まないように気を付けないといけないですけどね」

「それはそうだね……グラスもなんか賢くなってきてる気がするんだけど、気のせい、かな?」

「……気のせいじゃないと思いますよ、それ。小西さんも言ってましたし」

「やっぱりそうかぁ……」

 

この厩舎で、今最も勢いのある2頭を見ながら、厩務員の菊村君と話をする。

何かを話し合っているようにも見える、そんな2頭。

片方は既にGⅠ3勝、去年のアルゼンチン共和国杯から無敗というこの厩舎1の名馬、グラスワンダー。

もう片方は6戦4勝のダービー馬、今後にも期待出来るブラックテイル。

どちらも鳥場騎手のお手馬であり、とても仲が良い。

 

「……秋には、2頭が競い合う、か」

「そう、ですね……」

「どっちが勝っても、この厩舎としては良いんだけどね」

「……自分はやっぱ、テイルに勝って欲しいですけどね」

「そうだよね。きっと小西さんなら、グラスに勝って欲しいと言うだろう」

「そうなりますよね」

 

秋初戦、同厩舎対決になることが決まっている。

まだ発表はしていないが、大きな反響があるだろう。

同厩舎対決と言うだけでも話題になるが、それがグランプリホースと今年のダービー馬の対決となれば、かなりのものだ。

 

「楽しみだね」

「はい。ただ、その前に、宝塚です」

「そうだね。いよいよ、明日だ」

 

そう、同厩舎対決の前に、夏の休養前最後のレースである宝塚記念が待っている。

恐らく、最大の敵となるのは、去年のダービー馬、スペシャルウィークだろう。

好走こそすれど勝ちきれないステイゴールド、同じく好走はするが勝ちきれないキングヘイローは、ある程度警戒はしている。

前走の目黒記念で勝利しているローゼンカバリーも、もしかしたらいい線に来るだろうか。

だが、やはり一番警戒するべきはスペシャルウィークだ。

 

「春の天皇賞を勝って、勢いに乗っているスペシャルウィークが出て来ますね」

「どうも、ここ最近は峪騎手が最大の敵として立ちふさがる事が多いね……」

「峪騎手から見ても、もしかしたらそうかもしれませんね。クラシックではテイルが、古馬ではグラスが居ますから」

「かもしれないね……さて、今回も勝たせて貰いたいがね」

 

峪穣、才気溢れる騎手。

確かに、去年、今年とうちの厩舎にとっての最大の壁、とも言えるだろう。

―――だが、グラスワンダーが、鳥場騎手が、勝つ。

言葉にこそしないが、私はそう信じている。

 

 

 

 

 

『阪神競馬場にお集まりの皆様、いえ、全国の競馬ファンの皆様。快晴の空の下、何処までも先頭を走り続けた、1年前のサイレンススズカが思い出されます。そして、今年もまた、皆さまの、そして私の夢が、この阪神競馬場を走ります』

『皆様の夢は、スペシャルウィークか、それとも、グラスワンダーでしょうか』

『―――私の夢は、サイレンスズカ。叶わぬ夢ではありますが、ダービー馬やグランプリホースを相手取り、なお先頭を走るサイレンススズカこそが、私の夢であります』

 

 

 

 

 

『ねぇ、そこの君』

『僕かな?』

『そうそう、君。僕に乗ってる人が気にしてるからさ、ちょっと気になって。僕、スペシャルウィーク!』

『君が、去年のダービー馬の……グラスワンダー、僕の名前だ』

『グラスワンダー……聞いたような、ないような?僕の事、知ってるの?』

『うん。コーハイから教えて貰ったよ。僕とは同い年なんだってね』

『あ、そうなんだ』

 

ゲート前、1頭の馬が近付いて来る。

元気な馬……スペシャルウィーク。

僕と同じ歳の、ダービー馬。

3200mを走り切って1着を取っている、今回のレースでの最大の敵。

 

『君と走るのは初めてだね。今日は、よろしく』

『うん、よろしくね!よし、けっぱんべぇ!!』

 

「おっと…それじゃあ鳥場さん、あとはレースで」

「えぇ、レースで」

 

スペシャルウィークが去っていくのを見て、僕もゲートへと近づく。

僕は5枠5番、内側よりの位置だ。

外から抜き去る走りをする僕にとっては、なんとも言えない場所である。

でもまぁ、無理に外から内に寄せる必要がないのは楽だ。

なら後は、トバさんを信じて、走ろう。

 

「……グラス。今日も、勝とう」

『勿論さ。僕たちで勝とう』

 

天気は良く、馬場状態も悪くない。

ならば、後は簡単だ。

―――セイシンイットウ、ナニゴトかナらざらん。

最高の走り、それの為に、全てを捧げる。

その先に、きっと『彼』をも超える走りがあると信じて。

 

 

 

『さぁ、各馬ゲートイン……スタートしました。先頭を行くのはニシノダイオー、ニシノダイオーが先頭に立ちその後ろステイゴールド、ヒコーキグモが並んでその僅かに後ろキングヘイロー落ち着いているように見えます、そしてさぁスペシャルウィーク、グランスワンダー2頭並んでいますが、ややスペシャルウィークが前を行きます』

 

 

スタートは、やや前めの位置取りになった。

僕の前にはスペシャルウィークが居る。

なるほど、確かに力強い走りだ。

そして、キングヘイローは……うん、前見た時より落ち着いている様に見える。

 

「スペシャルウィークの真後ろだ」

『了解』

 

真後ろに入る。

テイルが言うには、スリップストリーム、と言うらしい。

前の馬を風除けにして、体力を温存する走り方だとか。

本当に色々と詳しいコーハイだ。

 

「この位置を維持するぞ」

『うん、分かったよ』

 

 

『さぁ第二コーナー入ったここで先頭から整理しましょう。ニシノダイオーが11頭引き連れて先頭です。そして4、5馬身程離れた2番手以降ご注目、ヒコーキグモが居てその後ろ、内からステイゴールドが不気味に、そしてその外スペシャルウィーク峪穣……おっと峪穣左右を確かめている?グラスワンダーを探しているのでしょうか?スペシャルウィークの隣にはキングヘイロー、そしてグラスワンダーは真後ろだ、真後ろにグラスワンダー鳥場弘!これと決めた時の鳥場弘ほど怖い騎手は居ませんが、今日はスペシャルウィークを徹底マークか!?』

 

 

(居ない……?いや、もしかしたら、真後ろから響くこの足音が、グラスワンダーか?それとも、見えない程後ろに下がったのか?)

『どうしたの?』

「……いや、僕たちは僕たちの走りをするだけだな」

 

「グラス、少しずつ外に……いや、このままだね。向こうから内に寄ってくれる」

『僕らは無理に動かず、前が空いたらそこを進めばいい、か』

 

「今日は結構応えてくれるな……よし、コーナーで行くぞ、キングヘイロー」

『なるほど、これが【乗ってる人を信じる】、という事か……!中々、走りやすい!!』

 

 

『さぁ第3コーナー過ぎて第4コーナーだ!ここでスペシャルウィーク、スペシャルウィークが早くも先頭に立った!その後ろグラスワンダーも上がって来た!2頭の一騎打ちとなるのか!!騒然となる阪神競馬場!!スペシャルウィーク先頭!スペシャルウィーク先頭だ!しかし後ろから黄色い帽子!グラスワンダーだ!!』

 

 

―――前が、空いた。

ここだ、このタイミングだ!!

 

「―――行け、グラス!」

『―――さぁ、行こう!』

 

鞭が入ると同時、僕は力強く、土煙が上がる程に力強く、踏み込む。

 

「来たか!」

『わわ、グラスワンダー君!?』

「スペシャル、抜かされるな!」

『分かってるけど、でも、速ッ!?』

 

僕が近付いているのに気づいたのだろう、でも、もう遅い!!

溜めていた脚を、解き放つ!!!

 

 

『最終直線入って穣の右鞭が飛んだ!もう言葉は要らないか!?2頭の完全な一騎打ちだ!!グラスワンダー並ばない!グラスワンダー交わした!!他を離した一騎打ちだが、先頭はグラスワンダー鳥場弘!!』

 

 

さぁ全力を出し切れ!

最高の、僕の走りを、見せつけてやれ!!

 

 

『やはりこの男だ!!やはり怖かったぞ鳥場弘!!グラスワンダー1着!!!』

『2着はスペシャル、3着はステイゴールド、そして4着はローゼンカバリーとキングヘイロー並んだか!?』

『やはり強い馬は強かった!強い馬は強かったが、勝ったのはグラスワンダー!グラスワンダー鳥場弘!!』

 

 

 

『悔しいー!!』

『良い走りだった。けど、今日は僕の勝ち』

『強いねぇグラスワンダー君!でも次は勝つからね!!』

『―――次も負けないよ、僕は』

『―――いーや、僕が勝つ!!』

 

「スペシャル、そんな睨まない睨まない……すみませんね、なんか」

「いや、睨むくらいだったら大丈夫ですよ、きっと」

「……鳥場さん、次は勝ちますよ」

「いえ、次も僕が勝ちます」

 

 

 

「勝利ジョッキーインタビュー、宝塚記念を制しましたグラスワンダーの騎手、鳥場弘さんにインタビューをさせて頂きます。まず鳥場さん、宝塚記念勝利、おめでとうございます」

「ありがとうございます」

「どうでしたか、今日のレースを振り返って」

「グラスワンダーらしいレースが出来たんじゃないかな、と思っています。折り合いもしっかり付けられて、道中しっかりと溜めて、最後に一気に抜き去る……うん、思い返しても、良いレースだったと思います」

「スペシャルウィークとの一騎打ちとなりましたが、どうでしたか?」

「第3コーナーあたりの手応えが向こう良さそうだったから、どうかなとは思ったけど……4コーナーあたりで思ったより伸びなかったみたいだったから、『行ける』と思いましたね」

「なるほど……グラスワンダーの今後、秋の戦線などは、陣営として決まっているんでしょうか?」

「聞かれると思って、確認はしていますね。毎日王冠を始動に考えている、と」

「毎日王冠、なるほど」

「ブラックテイル号も、毎日王冠を始動にすると言っていました。僕は、グラスワンダーに乗りますが、楽しみですね、今から」

「―――――えっ?ちょ、鳥場さん!?それって!?」

「―――同厩舎対決となります、はい。僕からはこれ以上言えることはありません」

「わ、分かりました……さ、最後に、ファンの方々に一言頂けますか?」

「グラスワンダーは、とてもファンの多い馬ですからね。グラスワンダーらしいレースが出来て本当に良かった、そう思っています。これからもグラスワンダーの事を応援、お願いします」

 

 

 

 

 

 

『―――僕と、テイル、が?』

『―――はい。先輩、次のレースは休養を挟んでの毎日王冠、芝1800m……俺もそこに出ます』

 

キューシャに戻ってきて、レースの結果を教えて。

そうして、テイルから言われた言葉に、衝撃を受ける。

マイニチオウカン、そう、サイレンススズカとエル、2頭と走った、あのレースで。

僕は―――テイルと、走る。

 

『鳥場さんはグラス先輩に乗る事になっています。俺の騎手を務めて下さる方も、この間決まりました』

『それは、誰、なんだい?』

『海老名正利さん。エルコンドルパサーの鞍上を務めていた人です』

『そう、なんだ』

 

テイルのキシュさんは、エルのキシュさんがやるらしい。

僕の事を良く知っている人だな……

 

『……先輩。1つ、宣言させてください』

『何、かな?』

『自分は、全力で先輩に挑みます。だから、手加減なんかしないで、全力で相手をしてください……自分からの、お願いです』

 

なんだ、そんなお願いか。

 

『―――勿論だよ、テイル。僕は、君を全力で抜き去ってみせる。最後まで諦めないでね?』

『勿論です!先輩と一緒に走れる、またとないチャンスですからね!!』

『ふふっ、今から楽しみだなぁ……!』

 

力強く、僕を見てくれる、最高のコーハイ。

君と走れるのが、楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

「―――先生。どうですか?」

「……恐らく、大丈夫だと思います。早期に発見されたのが幸いだったのでしょう……完治したと、思われます」

「では」

「これも、『彼』の血の起こした奇跡なのかもしれませんね……本格的な調教をしても、良いかと」

「それは、良かった……!」

「ですが、彼を蝕んでいたのはあの『屈腱炎』です。再発の可能性は、常に付き纏う……それだけは、お忘れなく」

「勿論です。ですが、馬主さんとも話をして、その上で決めましたから」

「分かりました……復帰戦は、何時を?」

「可能であれば、8月末の阿寒湖特別を予定してます」

「目指すは菊花賞、ですか……『彼』が出る事叶わなかった、最後の冠に」

「えぇ」

「しかし、騎手はどなたを?」

「実はそれが……『彼』の初年度産駒という事で、興味を持ってくれたようでしてね」

「それは、まさか……」

「えぇ……そのまさか、ですよ。美浦に来る予定があったという事で、今日、直接ノボグローリーを見て下さるそうです」

 

 

 

『よし、よしよしよし!脚ももう痛くない!もうすぐ、多分もうすぐ走れるぞー!!』

 

バボウ、っていう所の中で、僕は軽く足踏みする。

ずっと、ずっと痛かった、僕の脚。

『クッケンエン』って言うビョーキ、それが僕の脚にずっと起きていた。

ずっと痛くて、走る事だって全然出来ない位で。

どうにかしようとしてくれる人を信じて、あんまり動かないようにしながらずっと我慢し続けて。

痛みが、やっと、やっと消えた。

これでテイルに会える!テイルと走れるんだ!!

 

『早く走りたいな!って言うか、久しぶりに会うんだから、まずはお喋りし……………テイル、僕の事覚えてくれてるよね……忘れて、ないよね……?』

 

ずっと、会っていない。

どれくらいだろう?

テイルと会って、初めてレースに勝って、それから2回レースで走って……その前あたりで、ちょっと会ったけど、そこからずっと、ずっと会ってない。

 

『……なんか怖くなってきたかも……』

 

ションボリとしていると、僕のバボウに近づく音が聞こえて来た。

僕たち、馬の歩く音じゃない。

これは、人が近付いて来る音だ。

そっちの方を見てみると、僕の事を鍛えてくれる人と、見たことない人が、僕を見ていた。

 

「彼が、そうなんですか?」

「はい。ノボグローリーです……屈腱炎で長期休養してましたけど、今日の診断で、復帰しても大丈夫だろうと」

「そうか、それは良かった……穏やかな眼をしていますね、余り此方を警戒していない」

「分かりますか?結構人懐っこいヤツでして」

「それに、額の流星……確かに、どこかテイオーらしさを感じますね」

「貴方から見ても、そう感じますか」

「えぇ、はい」

 

……なんでだろう?どうしてだろう?

初めて見る筈なのに……なんでか、『懐かしい』なんて、感じる、ような?

気になるから、ちょっと近づいてみる事にした。

 

「ノボグローリー?近づいてきたのか」

「……近くで見ると、ますますテイオーの面影が……いや、それに……」

「……『彼』の面影も?」

「少しだけ、ですがね……うん」

 

……なんだろう?

この人も、なんか、僕の事を穏やかな眼で見ている。

うーん……?

 

「……15年、か。京都で3本指を立てた、あの日から、もう」

「『彼』の孫が、クラシックを走るくらいに、時間は経ったんですね」

「ですね」

「……復帰戦は、阿寒湖特別でしたね?」

「はい。そのままセントライト記念、菊花賞と進めたら、と」

「……テイオーが走る事の出来なかった、その場所に、行かせてあげたいですね」

 

テイオー、って、僕の父さんの事だよね?

僕の父さんを、知ってる人、なのかな?

 

「……騎乗依頼の件、受けさせてください」

「良いんですか?」

「えぇ。良ければ、どうか」

「是非、お願いします!」

「宜しく、お願いします」

 

なんか、話は終わったみたい?

知らないはずの懐かしい人が、僕の方をまた見る。

 

「テイオーの子供、ルドルフの孫……3代に渡って乗る事になるなんて、騎手人生で初めてかな」

 

僕の事を見て話すその姿は、やっぱり穏やかな顔だった。




宝塚記念、宣戦布告、そしてノボグローリー復帰となります。

ノボグローリーの鞍上を務めるのは、『あの方』です。
相変わらず悩みに悩んだのですが、今回はこのような形にさせて頂きました。


ここで、とある事について報告させて頂きます。
この度、ナリタトップロードウマ娘化に伴い、本作のウマ娘編に登場しているナリタトップロード周りの書き直しを予定しています。
少々時間はかかりますが、原作ナリタトップロードの理解を深めてから書き直しをしようと考えておりますので、暫くお待ちください。
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