黒き馬、世紀末を駆ける 作:馬券童貞は東京優駿に捧げた男
本作ですが、今の所有名な競走馬以外の名前を変える方針で行こうと考えております。
所謂キンイロリョテイ、ダイサンゲン化のようなモノです。
重賞未満ではこのような方向で進めようと思いますが、『本当の名前の方が良い』などの意見ありましたら、感想及びメッセージにて作者に伝えて頂けますと、修正し本当の名前で進める方針に切り替えるかもしれません。
宜しくお願いします。
8月上旬、俺は北海道の札幌市にある、札幌競馬場へとやってきていた。
と言うのも、自分の出る新馬戦、ここでやるみたいなのだ。
関東、本州すら離れて札幌まで来るのはちょっと予想外だった。
しかし、個人的、いや個馬的?
まぁ、俺としては、北海道というのは嬉しいところだ。
と言うのも、前世──つまり人間だった頃、出身地が北海道なのだ。
今生も北海道生まれだが、前世も北海道生まれ。何かの縁だろうか?
今が1990年代後半という事もあり、夏ではあるが気温はそこまで高くない。
日は差しているが、本州と比べると過ごしやすい。
「おはよう。調子は良さそうだね」
『おはようございます、鳥場さん』
今日、鞍上を務めてくれる鳥場さんが顔を出してくれる。
自分の出るレースは、昼過ぎだったかな?
まだ自分の出番は先だけど、鳥場さんは他にも幾つかレースで騎手を務めると聞いている。
忙しいだろうに、自分の所に顔を出してくれるなんて……。
「出番は暫く先だ。緊張しすぎないでね、ずっと緊張していると疲れるだろうから」
『分かりました』
「でも、気を抜きすぎないようにね、これから、君はレースに出るんだからね」
『分かってます』
鳥場さんの言葉に、軽く頭を縦に振る。
緊張しすぎないように、しかし気を抜きすぎないように。
過度な緊張は精神的に負担になる。しかし緊張感が無いといざという時に本気を出せない。
程よく緊張感を保つように、と。
「……この感じだと、大丈夫かな?それじゃあ、またレースの前で」
『いってらっしゃい、鳥場さん!』
手を振り離れていく鳥場さんの背中に、軽く声をかける。
『ヒヒンッ』といった具合の鳴き声に、鳥場さんが少し笑顔になったのが見えた。
今日の第1レースが始まる少し前、僕は今日乗る数頭の中から、ある1頭の様子を見に行った。
今日乗る馬の中で、その馬だけが初めてレースに出るから、気になったのだ。
様子を見に行けば、全体的にやや力が入っているようだけど、昂らず落ち着いているのが見える。
おはよう、と声をかければ、『ブルルッ』と軽く鳴きながら顔を上げてくれる。
彼の調教に付き合う中で、僕は彼が人の言葉を分かってると想定して話しかけるようにしていた。
僕の言葉に、仕草に、なにかしらの反応を示してくれる彼を、僕はもう疑っていない。
1人の人間を相手にするように、僕は普通に言葉を投げかける。
『緊張しすぎるな、しかし気を抜きすぎるな』と伝えると、彼は首を縦に振る。
その様子に、たぶん大丈夫だろう、と結論付ける。
手を振りながら、また、と言って背を向けると、僕の背に『ヒヒン』と鳴き声を投げかけてくる。
……馬の言葉は分からないけれど、今の鳴き声は、何となく分かった気がする。
きっと、彼なりに応援してくれたんだろう。
彼の方を見て、僕はもう一度手を振って、今度こそ離れていった。
『快晴の下、ここ札幌競馬場でのレースですが次は第6レース、3歳新馬戦が行われます』
『パドックを見ていきましょう。1枠1番、先頭を歩くのは青毛の馬体、ブラックテイルです』
『父サンデーサイレンス、母父ストームキャットの良血馬です。青毛の馬ということもあり、注目を集めています』
『2枠2番、オルランドレバリー。父タマモクロス、母父はノーザンダンサー産駒、ナイスダンサーです』
『3枠3番はウルティマスキー。こちらは父タマモクロス、母父はマルゼンスキー』
『4枠4番、オースミユニーク……』
パドック、という所を厩務員に引かれながらパッカパッカと歩いていく。
レース前にはここを歩いて、観客がこれから走るのはどんな馬なのか、状態はどうかを確認出来るようになってるらしい。
どうやら、俺は1番人気と言う奴らしい。
真っ黒な馬体、『青毛』の珍しさだろうか。
それとも、父サンデー何某の血を受け継いでいる事の期待だろうか。
もしかしたら、鞍上の鳥場さんへの期待かもしれない。
なにせ、俺はこれから初めて、人前で走るのだ。
俺こと『ブラックテイル』に対する期待というのはまだゼロだろう。
今後、結果を出す事で、『ブラックテイル』の事を応援してくれる人が出てくるかもしれないけれど、その第1歩がこのレースだ。
パドックを歩いていると、後ろの方からなんか視線を感じる。
カーブを利用してチラッと確認すると、後ろのウマがこっちをガン見してた。
あれは、えーっと……オルランドレバリー、だったかな?
何でガン見されてるんだろう、俺……。
鳥場さんに乗ってもらって、本馬場、レースが行われる場所に入っていく。
新馬戦ということもあり、観客席はだいぶスカスカだ。
でも、見ている人は、居る。
僅かだけど緊張した事が分かったのか、鳥場さんが軽く撫でながら言う。
「君なら、いつかもっと多くの観客の前で走れる。これくらい、気にしないで」
名手と言われている人の言葉に、安心する。
気休めの言葉だと分かってるけどね。
……そう言えば鳥場さん、フツーに俺に話しかけてるけど、自分が人の言葉を理解してるって思っての事なのかな?
それとも、鳥場さんのスタイルなのかな?
返し馬、というモノを行う。
レース場でのウォーミングアップ、と言うべきかな。
軽く走って状態確認をする訳だ。
一般的には、騎手による馬の状態と馬場の確認なんだろうけど……。
『ちょっと荒れてるかな?内側は走りにくいな』
俺自身もしっかり馬場を確認して、そこから鳥場さんの騎乗を素人なりに考える。
この様子だと内は走らないかな?とかその程度だけど、いくつかのパターンを想定しておけば、折り合いをつけやすいはずだ。
軽く走りながら色々と考えてると、返し馬はすぐ終わってしまう。
待機場をグルグルと歩いて、さぁゲートインへ!
『ちょいまち』
『ん?』
『そこの黒いの、アンタやアンタ』
ゲートの前、あとちょっとでゲートインというところで、横から声をかけられる。
黒っぽいけど、自分ほとではない。
青鹿毛、と言うのだったかな?
パドックで自分の後ろを歩いていた、ガン見してきた馬だ。
『ワイはオルランドレバリーっちゅーんや。アンタ、ブラックテイルやったな?』
『あぁ、そうだよ』
『ワイもあんたと同じトレセンから来とる。挨拶しとこ思うたんや。よろしく』
『ありがとう。こちらこそよろしく』
『遠目で見た事あったけど、近くで見るとホンマ黒いなぁアンタ。目立ってええやん』
『ここまで真っ黒なのは珍しいらしいね』
オルランドレバリーはどうやら同じトレセンだったらしい。
気さくで良い馬っぽい。
今度から見かけたら声をかけてみようかな?
『レースはお互い頑張ろうや』
『そうだね』
『ま、ワイが勝つけどな』
『──いや、ウチが勝たせてもらうよ』
オルランドレバリーの宣言に、彼の奥から声が聞こえてくる。
彼の奥、つまり3枠に入るのは……。
『なんやアンタ、割り込んできて』
『ウルティマスキー、だったね?』
『そう、ウチの名前はウルティマスキー……このレース、勝たせてもらうよ』
『いいや、勝つのはワイや!』
『いや、ウチやね』
『ワイや!』
『ウチや』
……2頭で盛り上がっているので、蚊帳の外になってしまったなぁ。
たしか、この2頭は父が同じ……タマモクロス、って馬だったはずだ。
血が半分同じ異母兄妹……半兄、とかだったかな?そういう関係にあたるんだろう。
血の繋がり故の仲の良さ?馬だけに『馬が合う』のかもしれない。
──でも。
『盛り上がっている所、悪いけど』
『あぁん?』
『ん?』
『──勝つのは、俺だ』
『──上等や。差しきったるわ』
『──勝利は、譲らないよ』
自分の未来のために。
父の、母の、鳥場さんの、調教師さんの名誉のために。
勝ちは、譲らない。
「第6レース、3歳新馬戦、今スタートしました!」
「出遅れた馬はいません。先頭を行くのは青毛の馬体ブラックテイル、1番ブラックテイルが先頭です。2馬身程離れて8番トロピックストーム、その後ろに4番オースミユニークと続きます」
「オルランドレバリーとウルティマスキー、競い合うかのように並んでいます、2頭の後ろをついていくキンイロベンチャー、いやカイゼルシチーです、カイゼルシチーがキンイロベンチャーの前、ベンチャーの後ろにテイエムライト、エイシンワーカーと続き、マイネシンディー、ロイヤルサファイア、コスモコロッセオ、マインダインとなっています」
馬には、大きく分けて4つの走り方があるという。
大雑把に、先頭を行く『逃げ』、逃げの後ろに『先行』、後方を行く『差し』、最後尾から一気に追い抜く『追込み』といった具合だ。
さて、そんな中で自分の走りだけれど、調教の中で分かったのは、『逃げ』『先行』がやりやすいように感じたのだ。
というのも、『差し』『追込み』の位置だと、前に居る馬が多すぎて【抜ける気がしない、もう無理】と弱気になってしまうからだ。
この辺り、今後走っていく中で変わっていくかもしれないけれど、現状は後方だと萎えてしまうのが自分の性格だと分かっている。
「第3コーナーにさしかかり、先頭は変わらずブラックテイル、後続も順番は変わっていないようですね」
「札幌競馬場は直線大凡270mと短いですからね、このコーナーでの位置取りが重要になります」
「第4コーナーに入り、後方仕掛ける!さぁ先頭を行くブラックテイルを追い抜こうと仕掛けていくが、ブラックテイルまだ余裕を保っている!!トロピックストームとの差は2馬身半といった具合!!」
今回、鳥場さんが選んだのは『逃げ』、つまり先頭を行くスタイルだ。
後方から響く蹄の音は怖いが、誰も前に居ない中走るというのは、何と言うべきか……ある種、快感すら感じる。そういうモノだ。
今も、自分の前には誰も居ない景色の中、最後の直線へとさしかかった。
「さぁどうだどうだ最後の直線!!ここでオースミユニーク、オースミユニークが迫る!!さらに後方からはオルランドレバリーとウルティマスキー、最初からずっと競い合っている2頭が並んで、その後ろからキンイロベンチャーも来ている!!」
『待たんかテイルゥゥゥ!!!』
『負けてたまるかぁぁぁ!!!』
あの2頭が、迫ってきている!他にも2頭来ているらしい。
音が、近づいてくる。
先頭を走り続けた為に、疲れてきているのが自分で分かる。
だが、負ける訳には!!!
『負けたく、ない……!!』
鳥場さんが、鞭を振るう。
ここで仕掛けろ、力を振り絞れと、鳥場さんの指示だ。
なら、応えよう。
力強く、1歩1歩に渾身の力を込めて、前へ、前へ、前へ!!
「しかし先頭は!先頭はブラックテイル!!ブラックテイルだ!!オルランドレバリーとウルティマスキーも懸命に追うが、追うが届かないか!?」
『追いつけ、ねぇ……!』
『速ッ……!?』
土煙すら上がるほどの、力強い踏み込みで。
前へ、前へ、もっともっと前へ!!
「先頭変わらずゴールイン!1着はブラックテイル!!」
「2馬身ほど開いて、2着はオルランドレバリー、ハナ差3着ウルティマスキー!!少し開いてオースミユニーク、キンイロベンチャーと続きます!!」
『あー……喧嘩売っといてこれは恥ずいわー……』
『ウチもや……』
『結構危なかった……けど、俺の勝ちだ』
勢いのままにゴール板の更に先まで走り切って、同じく走り抜けてきた2頭に、勝ちを宣言する。
実際、中々怖かった。
というのも、蹄の音がだんだんと近づいてくるのが結構怖いのだ。
そこに萎縮してしまったのはどうしても否めない。
その辺慣れていかないと、今後のレースに支障が出るだろうなぁ……
そんな事を考えていると、鳥場さんが労わるように優しく撫でてくれる。
「お疲れ、ブラックテイル」
『お疲れ様です、鳥場さん』
「どうだった?楽しかったかい?」
優しい声だった。
そして、その質問に対して、俺の答えは悩むまでも無い。
『あぁ、楽しかったよ!』
『ヒヒンッ』と、上機嫌に笑う。
怖かったのもある。疲れもある。
でも……レースで1位を取れた喜びや、レース自体の楽しさを感じた。
「……良かった。もっと、走ろう。もっと、勝とうな」
『はい!』
鳥場さんの言葉に、大きく頷く。
もっと走って、もっと勝って。
期待に、応えてみせよう。
「鳥場さん、どうですかねテイルは。レースを走らせて、何か感じましたか?」
「テキ、テイルにとって1200は短いですね。力を持て余してしまっているような気がします……最後のスパート、力が入り過ぎてるように感じました」
「力強いのはストームキャットの血かもしれないが……長い距離、2000以上で本気で走った時を知りたいね」
「2000以上も走れるようなら、クラシック路線にも行けますからね」
「そうなると、そこまで遠くない時期に行われる2000以上のレース……しっかり休ませたいから、1ヶ月くらい間を開けるとして……オープン、は飛ばし過ぎかな?」
「間を挟んだ方が良いかとは思います」
「となると、9月に行われる、500万以下か900万以下……そこに出そうか」
「えぇ、そうしましょう」
史実から戦績が大きく変わった競走馬
ブラックテイル
史実において、元となった馬は同新馬戦2着。暫く未勝利戦を走る事となりますが、本作では勝利。次回は9月のレースを走る事になる。
オースミユニーク
元ネタ馬は史実では同新馬戦1着ですが、主人公勝利+タマモクロス産駒と絡ませたいという作者の気まぐれにより4着に。
キンイロベンチャー
元ネタ馬は史実では3着。こちらも作者の気まぐれにより5着に。
オルランドレバリー
元ネタ馬は史実では4着。作者の気まぐれで2着に。
ウルティマスキー
元ネタ馬は史実では5着。作者のきまぐれで3着に。
主人公の過去について触れるのか、という感想を頂きましたが、深く考えてなかった事もあり、暫く触れない事にします。
良い感じに纏まりましたら、小出しする感じで触れていこうかと思います。