黒き馬、世紀末を駆ける 作:馬券童貞は東京優駿に捧げた男
今回は毎日王冠です。
「どっちも仕上がり、体調、共に万全。レースでもきっとこいつららしいレースが出来ます」
「グラスもテイルも、確かに」
「同厩舎対決……厩舎としてはどっちが勝っても美味しいですけれど」
「やっぱり自分は、テイルに勝って欲しいです」
「それを言うなら、自分はグラスですね」
「こればっかりは、本番でどうなるか、だね」
「……頑張れよ、2頭どっちも」
「ですね」
『うーん、グラス先輩とは離れちゃったな』
東京競馬場、自分は今日、グラス先輩との同厩舎対決に来ていた。
のだが、残念ながらちょっと遠い所に待機する事になった。
グラス先輩は近くの馬となにやら話している様子。
ちょっとウマノイヤーを向けてみよう。
『キングヘイロー、久しぶりだね』
『お前は……グラスワンダーか。この間のレースでも負けたが、今日こそは俺が勝つ!』
『タカラヅカキネン、君は確か……4着、だったね』
『スペシャルウィークにも負けたが、アイツにも俺は勝ってやる』
『フフッ、彼とはクラシックロセンで良く走ったんだったね』
『クラシックロセン?』
なるほど、あの馬がキングヘイローか。
様々なレースで好走をしている良血馬。
警戒すべき対象だな。
今日の毎日王冠、話を聞く限り結構な実力馬が揃っている。
グラス先輩は当然として、キングヘイローも人気所。
直近のレースで1着2着と調子のいいメイショウオウドウ。
去年の3歳牝馬GⅠ、阪神3歳牝馬ステークス1着馬のスティンガー。
鳥場さんがNHKマイルカップで騎乗して2着を取ったザカリヤ。
そして―――――
『―――ねぇ、そこの君』
『は、はい?自分ですか?』
『えぇ』
考え事をしていると、声をかけられる。
鹿毛の馬だ。
額が一部、白い四角になっている。
多分、牝馬だろうか。
『何と言うか、その……君、雄の馬、だよね?』
『そうですけど……?』
『今まで見てきた雄の馬と比べて、なんか落ち着いてて……ギラギラしてない、って言うのかな?なんか違うな、って感じたから、気になって』
『そう、ですかね……あ、自分、ブラックテイルって言います。貴方は?』
『―――メジロドーベル。よろしくね』
この馬が、メジロドーベル。
日本牝馬史上初のGⅠ4勝を成し遂げた、稀代の名牝。
毎日王冠を走る馬の中では、恐らくグラス先輩の次に実績のある馬だろう。
『……やっぱ、君、なんか他の雄とは違うね』
『そうですかね?』
『うん。私、その、あんまり雄の馬と一緒に居るの苦手なんだ。何て言うか、私の事を見る目が、ぎらついてて、怖くて……だから、雄と走るレースだと、ちょっと上手く走れなくて』
『ふんふん』
『でも、君はそういう感じが全然しないから、こうして話したり出来てるの』
『なるほど』
―――なるほど、だから実績の割に人気が低いのか。
菊村さんとかの話を聞くたびに『なんでそんな実績馬の人気がこんなに低いんだろう?』とずっと考えていたんだけれど。
牡馬混同になると、あまり成績が良くなかったりするんだろう。
そこまでは詳しく話してくれなかったから、今初めて知った。
『牡馬……雄の馬が、苦手なんですね』
『う、うん……そういうの、気にしないで走れたら良いんだろうけれど……』
『得手不得手―――あ、得意とか苦手とかって、どうしてもありますよね。そこは仕方ないんじゃないでしょうか』
『そう、かな……』
『はい。自分も後ろの方走るのは苦手だったりしますから』
『そっか……でも、やっぱどうにかしたいな。レースには、勝ちたいから』
なるほど、個人的、いや個馬的には気になっているのか。
しかし、さっきも言ったが得手不得手は誰にだってあるもの。
ぎらついた視線が苦手、という事だけれども……さて、どうしたものか。
『例えばなんですけれど、レース中は周りを別のモノと考えるとか』
『……どういう事?』
『周りの馬を認識するから視線が気になるんですよ。だから、全く別のモノだって思い込んでしまえば、気にする事も無いかと』
『うーん……言いたい事は、分かるけど』
『メジロドーベルさんにとって、落ち着くものってありますか?』
『落ち着くもの?えっと……世話をしてくれる人、かな。2人、私の世話をしてくれる人が居るんだ……1人は、もうずっと会ってないけれど』
『そう、ですか。その人の事を思い出してみる、っていう方法もありますよ。怖いって感じた時に、思い出して自分の気持ちを落ち着けるんです』
『あ、それなら、まだ……うん、今日のレースで、やってみる』
敵に塩を送る、なんて言葉が頭を過ぎるが、意図的に無視する。
こうして隣り合ったのも、きっと何かの縁。
困っているなら、何とかしたいと思っているのなら、その手助けをしてあげたい。
『ありがとうね、えっと、ブラックテイル君』
『いえいえ……レース、頑張りましょうね。自分、貴方と同じレースを走りますから』
『そうなんだ。それじゃあ、よろしくね』
『はい!』
「ブラックテイル。遂にレースだな」
『ですね、海老名さん』
「相手はグラスワンダーにキングヘイロー、メジロドーベルと強敵ばかり。頑張ろうか」
『はい!』
今日、自分が鞍上を務めるブラックテイルの首を軽く撫でながら、待機場を歩かせる。
遂に来た、グラスワンダーとの同厩舎対決の日。
ブラックテイルは賢く大人しく、自分の指示なんかをとても素直に受け入れてくれる。
だからか、短い付き合いだけれど、自分はそれなり以上にこの馬を信用している。
今日は先行策で行くつもりだ。
他の馬の傾向からして、おそらくアンブラスモアが逃げて行く。
その後ろ、2番手~4番手辺りにブラックテイルを付ける。
逃げも先行も出来る馬という事は知っているので、今日はこの作戦で行く。
ゲートの前で待機させていると、1頭、真っ直ぐに近づいて来るのが見えた。
「海老名さん、どうも」
「鳥場さん。ブラックテイルが気になりますか」
「まぁ、そうですね、気にならないと言えば嘘になります……テイル、今日の僕達は競争相手だ、宜しく頼むよ」
『鳥場さん、グラス先輩、胸を借りるつもりで挑みます!』
『テイル、お互いに全力で走ろう』
ブラックテイルの主戦騎手、鳥場さん。
当然の様にブラックテイルに話しかけているけれど……本当に、言葉が通じると信じているようだ。
自分と鳥場さんの下では、グラスワンダーとブラックテイルがお互いに何かを言い合うかのように小さく嘶き合っている。
仲が良い、とは聞いた事があるが、確かに仲が良さそうだ。
そんな事を見守っていると、更に2頭、こっちに歩いて来る。
「っと、キングヘイロー、そっちは……あぁ、どうもすみません。キングヘイローがこっちに来たがって」
「
「そう言うものですかね」
『グラスワンダー、こいつがさっき言ってた【コーハイ】って馬か?』
『うん、そうだよ。テイル、この馬はキングヘイローだよ』
『初めまして、キングヘイローさん。グラス先輩の後輩で、貴方よりも1歳年下の馬になります、ブラックテイルと言います』
『ほぉう……改めて名乗ろう、キングヘイローだ。お前、中々強いと聞いたが……今日のレース、勝つのはこの俺だ』
『いえ、自分が勝たせて頂きます』
『……生意気だが、良い目をしてる。じゃあ、後はレースで、自分の脚で決着をつけよう』
『はい。よろしくお願いします』
「あ、もう離れるんだな、はいはい……それじゃあ、あとはレースで!」
「えぇ、あとはレースで……それで、そっちはどうしたんですか、
「ドーベルがなんでかこっちに来たかったみたいで……ブラックテイルを、見てるのかな?」
「目立つ黒さですからね、珍しかったんでしょうか」
『ブラックテイル君、改めて、よろしくね』
『メジロドーベルさん、よろしくおねがいします』
『周りの視線が気になったら、落ち着ける事を考える、だよね?』
『はい。きっとそうすれば、貴方は上手く走れます』
『分かった、やってみるよ……ありがとうね』
『いえいえ、気にしないでください』
「何か言い合ってる、のかな……?」
「テイルと居ると良く見かけますよ」
「へぇー……あ、ドーベルの用も済んだみたいですね。それじゃあ」
「えぇ、それでは……名牝に気にかけて貰えるなんて、良かったな、テイル」
『ですね、海老名さん』
『―――テイル』
『え、あ、グラス先輩……?』
『―――良かったね、テイル。それじゃあ、あとは、レースで』
『あ、は、はい……なんだろう、なんか寒気がするな……』
『―――昨年に比べると少ないですが、それでも8万人を超える観客が集まっています東京競馬場。有馬、宝塚と両グランプリを制覇したグランプリホースグラスワンダーと、史上初のGⅠレース同着を起こした奇跡のダービーホースブラックテイル、同厩舎、主戦騎手も同じの2頭のぶつかり合いに注目が集まっています!!さぁ最後の1頭、大外メイショウオウドウがゲートに収まって……第50回毎日王冠府中1800m、スタートしました!!!』
『先頭を奪ったのはアンブラスモア、アンブラスモアが前走小倉記念と同じように先頭を奪いました!2番手はスティンガー、オークスとは打って変わって前に出てのレース並んでいるのはザカリヤこの馬も主戦は鳥場弘だが今日は
「後ろに付かれているな……取りあえず、この位置で行こうか」
『後ろにグラス先輩か……!』
「グラス、暫くはこの位置で」
『テイルの後ろ、か』
『視線は気にしない、気にしない……あの人たちの視線を思い出して……ブラックテイル君の視線を思い出して……』
「落ち着いてるな、ドーベル……よし」
目の前を走る漆黒の馬体に、どこか違和感を感じてしまうのは、今までずっと彼の上に乗っていたからだろう。
ずっと己の下に居た彼が、違う騎手を乗せて走っている……
少し複雑な気分だな。
海老名さんが選んだのは先行策のようだから、後ろを走らせて貰う。
『第3コーナー入って依然先頭はアンブラスモア、全体的に動きは無いまま第4コーナーへと進んで、いやここで動いたブラックテイル!やや外に持ち出して、抜き去る準備に入っている!』
「グラス、合わせて動こうか」
『そうだね、トバさん』
テイルが、海老名さんが、馬体を少し外に寄せ始めた。
早め先頭を狙うなら、動くタイミングとして間違いはないだろう。
そんな彼らを風除けに、自分たちも動き始める。
『さぁ大欅を越えてここで仕掛けたブラックテイル!前2頭の横に並んだ!そのまま抜き去った!先頭まで3馬身!!その後ろ合わせてグラスワンダーも上がって来た!!!メジロドーベルも上がって、キングヘイロー冨久山!!!』
音を聞く限り、他の馬達も動き始めている。
レースが動くのはここから。
『ブラックテイル先頭まで1馬身、半馬身、クビ差!!並ばず抜き去った!!先頭奪ったブラックテイル、しかしその外グラスワンダー!!グラスワンダーが既に捉えている!!!』
テイルが先頭を奪っている。
―――が、そこは既にグラスの射程圏。
テイルも、海老名さんも、きっと分かっているだろうが……
容赦は、しない。
「グラス」
『―――行こうか』
「来たか、グラスワンダー……!」
『踏ん張りどころだ!!!』
「気張れよブラックテイル!」
海老名さんの鞭が飛ぶ。
テイルはそれに応えている。
粘り強く、先頭をキープしようと、力を振り絞っている。
彼の背中に乗り続けて来たからこそ、それが良く分かる。
「―――だが、捉えた」
グンッ、とグラスが加速する。
直線に入った、この瞬間。
グラスワンダーが土煙が上がる程の踏み込みで、急激に加速していく。
『先輩……!』
『君を、追い抜くッッ!!!』
『さぁグラスワンダーその差は1馬身!差が縮まる!!半馬身!!止まらない!!クビ差まで来た!!ブラックテイル粘る!粘る!!しかしグラスワンダー並んだ!!並んだ!!抜き去った!!!』
『まだ、まだ……!?』
『―――グラス、ワンダァァァァッッ!!!』
『キングヘイロー?』
『今度こそ、お前を!!!』
『キングヘイロー飛んできた!?キングヘイロー飛んできた!!2番手ブラックテイルまで2馬身の位置!!!遅れてメジロドーベルも来ている!!!』
後ろから、ブラックテイルの他にも来ている。
恐らくキングヘイロー。もしかしたら、他にも居るか?
だが―――
『これ以上、縮まらない……!?』
『僕は負けないさ、キングヘイロー!』
グラスは、負けない。
数馬身の距離を保って、差を詰めさせない。
今のグラスワンダーには、それが出来る!
『しかしグラスワンダーだ!グラスワンダー先頭だ!!強い強いグラスワンダー!!ブラックテイルキングヘイロー必死に追いかけるが、しかし勝ったのはグラスワンダー!!!』
『やはりこの馬だ!!この馬だ!!グラスワンダー秋初戦、見事な勝利を収めました!!!』
『2着はブラックテイルとキングヘイローの写真判定、4着にはメジロドーベル、5着メイショウオウドウが入りました!』
『負け、か……』
『やるじゃないか、ブラックテイル』
『キングヘイローさん、貴方こそ』
『グラスワンダーが気に掛けるのも、何となく分かる。確かな実力……俺も、並ぶのでギリギリだった』
負けた悔しさを噛みしめていると、緑のメンコの馬が視界に入る。
並んでのゴールインとなった、キングヘイローさんだ。
『ハハハ……グラス先輩に、勝ちたかったです』
『俺もだ。アイツには何度も負けている……次こそは、必ず!』
『自分もです。次に走る事があるのなら、その時は』
並んでそんな事を話していると、こっちに近づいて来る鹿毛の馬。
自分の方に真っ直ぐ進んでくる。
『ブラックテイル君』
『メジロドーベルさん。どうでした……あ、4着!おめでとうございます!』
『雄の馬と走ったにしては、良いレースが出来た、かな……君のお蔭だよ』
『いえいえ、そんな事は。メジロドーベルさんが頑張ったからこそ、ですよ』
『うぅん、コツを教えて貰えたから……ありがとうね、ブラックテイル君』
スッと、頬と頬が擦り合わさる。
驚いていると、メジロドーベルさんが楽しそうに、そして少し寂しそうに言う。
『今後も、緊張したら、やってみるね……あと何回走るのかは、分からないけれど』
『結構長い期間、走っているんですもんね』
『うん』
『頑張ってください、応援しますよ』
メジロドーベルさんはグラス先輩の1歳上、つまり自分からすると2個上の世代だ。
たしかに、そろそろ引退の2文字が見えても可笑しくないだろう。
―――あ、そうだ。
『メジロドーベルさん。もしこれから先、フサイチエアーデルって馬と、トゥザヴィクトリーって馬にあったら、こう伝えてくれませんか?【応援してるよ、頑張れ】って』
『良いけれど……その2頭が、どうかしたの?』
『同じ牧場で育った、同じ父親を持つ馬で、仲の良い馬なんです。牝馬、えっと、牝の馬なので、メジロドーベルさんの方が会う機会があるかな、って思って』
『うん、分かったよ……それじゃあね。君も、頑張って』
『はい!』
離れていくメジロドーベルさんを見送って。
そうすると、丁度、電光掲示板が変わった。
『―――結果が出ました!!ハナ差2着にキングヘイロー、三着ブラックテイルで確定!!古馬初挑戦で大健闘したブラックテイルでしたが、最後キングヘイローに僅かに及ばずという結果となりました!!』
『自分の負け、みたいです、キングヘイローさん』
『俺の勝ちか……ギリギリだったな』
『末脚、お見事でした……ですけど、次は負けませんからね』
『フン、言ってろ。次はお前にも、グラスワンダーにも負けん』
そう言って、キングヘイローさんも去っていく。
……古馬相手に、ハナ差3着、か。
悪くはない、のだろう、きっと。
出来る限りは、やったはずだ。
でも……
『―――悔しいなぁ』
「―――そうでしたか。一度日本に戻したかったけれど、馬主さんの意向で……」
「えぇ。エルコンドルパサーを一度日本に戻して、もう一度向こうに送る。2ヶ月以上海外に居た馬は3ヶ月間、検疫などでレースに出られないですから……有馬に、グラスワンダーと最高の舞台での再戦をする為には、一度呼び戻したかった、と」
「輸送の影響を考慮するなら、現地に留まらせた方が良い、それは分かりますけれどね……」
「自分も、完全なグラスワンダーとエルコンドルパサーで決着を付けたい、そうは思いますけれどね」
レース後、海老名騎手と話をする。
話すのは、自分の元お手馬、海外遠征に出ていたエルコンドルパサーについて。
エルコンドルパサーと、グラスワンダー。
同じレースを走ったのは、去年の毎日王冠。
そう、サイレンススズカも交えた3頭で走ったあの日、ただ1度だけ。
グラスワンダーは怪我明けで実力を発揮し切れなかった。だからこそ、今のグラスワンダーとエルコンドルパサーで競い合いたい、そう言う気持ちは、無いとは言えない。
「凱旋門賞2着。間違いなく日本の競馬史に残る偉業です……世界の頂点が、見えたんですよ、あの時」
「……見たかった、ですね。世界の頂に1番近づいた馬であるエルコンドルパサーと、完全に復活したグラスワンダーの頂上決戦」
「えぇ……」
―――凱旋門賞2着。
それも、1着のモンジューとは半馬身差、3着の馬には6馬身もの差を付けての一騎打ちの末、だったという。
エルコンドルパサーを含めて4頭、挑んだ馬が居る。
だが、エルコンドルパサー以外は二桁の着順。
そんな中でのこの結果だ。
ヨーロッパ外の馬には堅く閉ざされている、凱旋門の扉を、開きかけた。
まさしく、大偉業。
だからこそ、是非グラスワンダーと、という気持ちは、やはり消せない。
そう考えていると、海老名さんが、自分の目を真っ直ぐに見た。
今日こうして話をしている中で、一番に真剣な眼差し。
そして、一瞬悩むような表情を見せて、それを振り切って、口を開いた。
「鳥場さん。エルコンドルパサーに乗って、そして今日ブラックテイルに乗って、だからこそ感じました」
「それは……」
「―――走れる。ブラックテイルの脚なら、きっと」
『何処を』とは、聞かない。
会話の流れで、それは、分かっているから。
「エルコンドルパサーはヨーロッパでは逃げや先行でのレースをしてきました。ブラックテイルに乗って走っていた時の感覚は、かなり近いものがありました……分かるでしょう、鳥場さんも。エルコンドルパサーとブラックテイル、どっちにも乗った事があるのは、自分と貴方だけです」
「……分かりますよ。そりゃそうだ。エルコンドルパサーには僕と貴方で半々乗っているんですから」
「もちろん、最終的に走るレースを選ぶのは馬主さんだっていうのは分かっています。けれどもし、もしも、ブラックテイルに海外遠征の話が出た時は、思い出して欲しい。『凱旋門賞に最も近づいた日本人ジョッキーのお墨付きだ』、って」
―――テイルが、海外を走る。
可能性は、0とは、言いきれないだろうけれど。
海老名さんが言った通り、テイルが走るレースを決めるのは、馬主さんの判断だ。
「……覚えて、おきますよ」
「えぇ、どうか」
自分がどうこう出来る話ではない。
それは分かっている。
―――ただ、どうしてだろうか。
ロンシャンを駆け抜ける漆黒の馬体が、鮮明に脳裏を過った。
毎日王冠、そしてとある話、でした。
今回も書きたい事詰め詰めしてしまいました、若干反省、後悔はありません。
この毎日王冠、グラスワンダーにキングヘイロー、メジロドーベルが出走している豪華なレースなんですよね……調べて驚きました。
毎日王冠の一週間前、10月3日にエルコンドルパサーの凱旋門賞が行われました。
エルコンドルパサーと共に駆けた感触がしっかりと残っているからこそ、という話。
次回は本編ならば菊花賞、ウマ娘編ならウマ娘世界線でのグラスワンダーとの絡みを書きたいなと考えています。