黒き馬、世紀末を駆ける   作:馬券童貞は東京優駿に捧げた男

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お待たせしました。
今回はタイトル通りジャパンカップです。


第23話 第19回ジャパンカップ

『あの、すみません』

『……なんだ、テメェ』

『ステイゴールドさん、ですよね?』

『……だとしたら?』

『少し、話をしたくて』

 

ジャパンカップ当日、東京競馬場。

自分は運よく、とある馬の隣に来る事が出来た。

自分の2つ年上となるその競走馬―――ステイゴールドさんが、ギラリと目を見開いてこっちを見る。

 

『確かに人間どもは俺をステイゴールドって言うが……』

『自分はブラックテイルと言います』

『ふぅん、ブラックテイル、ねぇ……なんつーか、妙に親近感が湧く』

『親が……父親が同じだから、でしょうね。自分も、貴方も、同じ父親を持つ馬ですから』

『アァ?父親が同じだァ?……詳しいなお前』

『自分、人の言葉が分かるものでして』

『―――へぇ、面白いじゃねぇの。人間どもの言葉が分かるってのは』

 

自分の言葉に、見開いていた目をスッと細めて。

ステイゴールドさんが、言葉を重ねていく。

 

『なぁテメェ……ブラックテイルだったな』

『好きに呼んでください、ステイゴールドさん』

『じゃあ俺の事も好きに呼びな、ブラック。ブラックは人間の事どう思ってるんだ?』

『人間の事、ですか?』

『あぁそうだ。多分俺もお前も同じだろう?人間の都合で走らされて、鞭で叩かれて、そんな生活してるんだ。正直面倒くさいったらありゃしねぇ。【走れればそれで良い】だなんて変わったヤローも知ってるが、お前はそういうバカとは違うっぽいが……どう思ってるんだ』

 

ふむ、と一考する。

どう答えるべきか……と言うのも、【人の言葉を理解出来る競走馬ブラックテイル】としてか、【人間の前世を持つ競走馬ブラックテイル】としてか、という問題だ。

人間がどういうモノかの理解度を、どこまで表して答えるべきか……悩むな。

さてさて、どうしたモノか―――

 

『……本音で話しやがれよ?』

『え?』

『勘だ。テメェ、俺の質問に悩みやがっただろ?……本音で話しやがれ、ブラック』

 

射貫くような、鋭い視線。

それを見て、どう答えるべきか、決めた。

 

『―――確かに、自分勝手な都合で俺たちを振り回しているように見えるでしょうね。そこは否定しませんよ、ステイさん』

『―――ほぉう?』

『ただ、その【人間側の都合】の中にも、色んな想いが、期待が、願いが詰まっているんです……俺は、それを知っている』

『……良く分かんねぇな。もっと詳しく話しやがれ』

 

―――『人間の前世を持つ競走馬ブラックテイル』として、話してみよう。

 

『俺達の父親は、レースでの実績もある凄い馬だったみたいです。そして人間は、その走りを見てこう思ったんですよ……【その子供が走る姿を、レースを勝つ姿を見たい】、って。だから多くの子供を産ませて、レースを走らせる。そう言う事が色んな馬で起きていて、だからこそこんなにも多くの馬が生まれて、レースを走っている……ここまでは良いですか?』

『あー……なんとなく分かった。続けろ』

『ステイさんは知らないと思いますけど、俺達は【馬】の中でも【サラブレッド】という括りの生き物です。人の手によって、人を乗せて走る為に調整された【馬】の1種……俺達は、人と共に生きる事を前提に生まれてきているんです。人間の手を借りないと生きられない、そういう生き物ですよ』

『……………うん、思った以上に色々知ってるな、お前?』

 

そりゃそうだ。

なにせ、前世は人間だ。

競馬にも、馬にも詳しくはないが、多少は知っている。

 

『人と共に生きて、人の力を借りて走る。それが俺達サラブレッドです……そして、それは人間にも言えます』

『人間にも?』

『俺達に関わっている人たちは、俺たちを走らせ、勝たせることで生きていけるんですよ』

 

そう、仕事だからね。

俺たちのレースの賞金が、自分たちの給料だったりに活かされるわけで。

 

『だからまぁ、人間の事をどう思ってるか、って言うと……【仲間】、ですかね』

『仲間、だぁ?』

『えぇ、そうです。俺は人の力を借りる、人も俺の力を借りる、互いに互いを助け合う仲間ですよ』

『―――――なる、ほど、な』

 

俺の答えを聞いて、ステイさんが目を見開く。

 

『お前、だいぶ変わってるなぁ……』

『ですよねー』

『……だけどまぁ、面白い話を聞けた。あんがとよ、ブラック』

『お気に召しましたか?』

『俺を走らせてる連中が、実は俺が勝たねーと生きてけねぇんだろ?笑えるぜ!』

 

上機嫌に笑うステイさん。

……生きていけない、は言いすぎだろうけど、給料なりに関わってくるのは事実だろう。

だからまぁそこは言わないでおこう、ウン。ステイさん楽しそうだし。

 

『いやぁ面白い話だったわ。今日のレースは少し機嫌よく走れそうだな』

『あ、自分同じレースで走りますから、よろしくお願いしますね』

『あ?同じレース出るのか?』

『はい!』

『へぇ……んじゃ、お前の走りを見せて貰うか。人間を【仲間】だって思ってる変わった馬の走り、って奴をよ』

『えぇ、幾らでも見ていってください』

 

 

 

 

 

「さて、テイル。作戦は分かっているね?」

『勿論、忘れてませんよ』

「よし、頷いたね……さぁ、行こうか」

『はい!』

 

時間が経つのは早いモノで、ゲートインが始まる前になった。

ここで、俺は1頭の馬を見つける。

さり気なく近寄って、声をかけてみる。

 

『失礼』

『君は……?』

『初めまして、モンジューさん』

 

凱旋門賞馬、モンジュー。

声をかけてみて分かったが、馬の言葉はどうやら各国共通で通じてくれたようだ。

助かった……これでフランス語とかだったら詰んでた。

 

『ブラックテイルと言います。少し、話をしたくて』

『まぁ、構わないが』

『まず最初に……遠い日本まで、来てくださった感謝を』

『人間に連れてこられただけだ、気にしないでくれ』

『それでも、です……エルコンドルパサー、この名前に憶えは?』

『あるとも。この間のレースで、素晴らしい走りをしていた。負けてしまうかもと焦ったよ、間違いなく彼は強かった』

 

聞きたかったことを、聞けた。

エルコンドルパサーの走りは、凱旋門賞馬が認めるほどのモノだった、と。

それが聞けただけで、だいぶ満足―――

 

『―――エルが、どうかした?』

『君は?』

『グラスワンダー。こっちに居るのは、スペシャルウィーク』

『どうも!スペシャルウィークです!……えっと』

『黒い馬はブラックテイル、僕のコーハイ……そっちは?』

 

グラス先輩と、スペシャルウィークさん。

2頭の馬が、近づいてきたようだ。

 

『先輩、この馬がモンジューさん……凱旋門賞の勝ち馬で、エルコンドルパサーに勝った馬です』

『えぇ!?エル君に勝ったの!?』

『君が……』

『ブラックテイル、彼らは?』

『エルコンドルパサーと共に走った事のある馬ですよ』

『ふぅん、なるほど……いや待てよ、確かエルコンドルパサーが言ってたような』

『エルが?』

『エル君が?』

 

モンジューさんの言葉に、3頭で耳を傾ける。

 

『【俺と熱いレースをしてきた馬は沢山居る。グラスやスペシャル、スズカとかな。凄い馬だぞ】、とな……なるほど、君達が』

『エル、そんな事を……』

『エル君……』

『………エルコンドルパサーは、俺やグラス先輩、スペシャルウィークさんにとって、少なからず縁のある馬でした。そんな馬を破り、頂点に輝いた馬である貴方に、言いたい事が1つあるんです』

『ほう?』

 

モンジューさんの事を、真っ直ぐ見る。

 

『―――日本へようこそ、凱旋門賞馬。今度はこっちのホームで、貴方をお出迎えさせて頂きます』

『―――宣戦布告、確かに受け取った』

『では、後はレースで』

『あぁ』

 

クルリと背を向け、離れていく。

グラス先輩が俺の横に並び、少し後ろをスペシャルウィークさんが付いて来る。

 

『彼がモンジューか……どう思う?』

『身体の調子は別として、気迫とでもいうべきものは確かです。世界の頂点だ、って言うのも納得です』

 

啖呵を切ったその時の視線、そして気迫。

世界を取った馬、というのも頷けるものだった。

ただまぁ、少し身体のハリとかは少し微妙な様子だったが……輸送疲れだろうか?

飛行機を使っての超長距離輸送という事もあって、疲労が抜けてないのだろう。

 

『……エルコンドルパサーとの縁は、自分は少ししかないです』

『テイル?』

『鳥場さんが、海老名さんが乗っていた、ただそれだけ……それだけの縁です』

 

そう、エルコンドルパサーとの縁は、それだけしかない。

騎手が同じ、ただそれだけの僅かな縁。

 

『―――それでも、彼を破った馬が、目の前に居る。それに何も思わない程、俺は薄情ではないつもりです』

『テイル……』

『俺は、勝ちたい。あの馬に勝って、海老名さんの悔しさを、少しでも晴らしたい』

『……そう、だね。エルの悔しさを晴らす事が出来るなら、僕も』

『エル君に勝った馬……うん、僕も勝ちたいな!それに、グラス君、君にもね!!』

『もちろん、それは僕もだよ、スペシャルウィーク……勝たせて貰うよ、君にも、モンジューにも』

 

空気が張り詰めていく。

バチバチと火花が飛び散る幻影が見えそうな、2頭の視線のぶつかり合い。

ゾクリ、と寒気がする。

―――が、感じた恐怖を理性で捻じ伏せる。

 

『先輩方、今日はよろしくお願いしますね』

『ッ……あぁ、勿論だよ、テイル』

『君……うん、よろしくね!』

 

負けるつもりなんて、微塵も無い。

全員蹴散らす、そのつもりで挑むのだ。

 

 

 

『世界の頂にたどり着いた馬、モンジューが参戦。あのエルコンドルパサーと激戦の末差し切った凱旋門賞馬は、この東京競馬場でどのようなレースを見せてくれるのでしょうか』

『第19回ジャパンカップ、1頭出走取消がありまして行われます。解説の吉田さん、よろしくお願いします』

『よろしくお願いします』

『吉田さん、今日の展開はどうでしょう?まぁ分かり切っている事があるとすれば……アンブラスモア、だと思いますが』

『まぁそうですね、あの馬が逃げる、これは確実かと思われます。そこで他の馬が付いて行くのか、付いて行かないのか、こういった駆け引きになるかと思います』

『展開の鍵はアンブラスモア、と』

『そうですね……ジャパンカップっていうのは、時には独特な展開になるときがありますから、その辺りもどうなるのかな、と楽しみですね』

『さぁ英・愛・独・仏・日と5か国のダービー馬が揃っています、豪華メンバーと言って過言ではありません!世界の強豪を迎える日本馬もこれまた実力馬揃い、誰が勝っても可笑しくありません!第19回ジャパンカップ―――今、スタートしました!!!』

 

 

「―――さぁ、行くぞ!」

『了解です、岡部さん!』

 

 

『概ね予想通りアンブラスモアが先と、いやこれはブラックテイル!?ブラックテイル先頭だ!ブラックテイル先頭!そのすぐ後ろにアンブラスモア、少し離れてスティンガーとインディジェナス、そのすぐ後ろにステイゴールドといった形!!』

『逃げも出来る馬ではありますが、ここで逃げを打ちますか……これは一気に展開が分からなくなりましたね』

『開幕から波乱の展開となりましたジャパンカップ、先頭を取ったのは今年の日本ダービー馬、ブラックテイルです!』

 

 

―――今頃、周りは驚いているかもしれない。

何かと先行策続きだったから、ここ一番の大舞台で作戦変更、と言うのは驚く人も居るだろう。

だが、これが今回の俺と岡部さんの作戦だ。

 

 

「先頭を取った、少し抑えよう、少しね」

『はい!』

「よし、いい感じいい感じ……これをキープだ」

『えぇ、この位置を(・・・・・)キープします』

 

 

 

 

 

『漆黒の馬体、ブラックテイルが先頭です。後ろやや離れてアンブラスモア、そのすぐ後ろにスティンガー、外半馬身ほど離れてインディジェナス、2頭のすぐ後ろにはステイゴールドが居ます。ステイゴールドに並びかけようとタイガーヒル、少し離れてオースミブライトです。モンジュ―は後ろからの競馬となります』

 

 

(逃げ、か。アンブラスモアに並ぶ、どころかそれより前を取るなんてね)

 

ポーン、と前に出た、見覚えのある漆黒の馬体。

それを見ながら、僕とグラスは自分たちのポジションを決める。

 

『此処だね?』

「今回は此処にしよう、グラス」

 

丁度中間の辺り、今回はそこに陣取る。

最優先に警戒しているのはスペシャルウィーク。

そして、次に警戒しているのは―――テイル、彼だ。

身内贔屓、と言われても仕方の無い事だが、彼の持つポテンシャルは凄まじい。

それがかの『名手』の下でどう花開くのか……恐ろしくもあり、楽しみでもある。

 

 

『さぁ改めて先頭から見て行きましょう。先頭はブラックテイル、半馬身程離れてアンブラスモアが追走していきます。3馬身離れてスティンガー、そこから開いてインディジェナスここで1000m通過しました1分少々といった具合、インディジェナスのすぐ後ろにタイガーヒル、ステイゴールドと続きます。1馬身離れてオースミブライト、やや後ろにハイライズ、11番フルーツオブラブ、そして注目の面々、3番人気グラスワンダーが居てそのすぐ後ろにラスカルスズカ、やや離れて2番人気、日本総大将スペシャルウィークが此処にいる!』

 

 

警戒対象であるスペシャルウィークはすぐ後ろ、そして彼をマークして動いているのが凱旋門賞馬モンジューだ。

片方を気にし過ぎてはいけないとは分かっているが、少しスペシャルウィークの方を重点的に見ておこうかな。

周囲の出方を警戒しながら、周りに合わせて進む。

 

 

『1馬身離れてボルジア、そしてその外並んでいるのが1番人気モンジュー!モンジューが此処に居ます!内からはウメノファイバー!そして最後方スエヒロコマンダーといった形でありますが―――』

 

 

………なんだ、この違和感は。

何か、何かが起きている、そんな気がする。

するのだが、一体何が……

 

 

『―――1400m通過88秒?スローペースの展開となりましたジャパンカップです!!』

 

 

 

「……スペシャル、早めに仕掛けるよ!」

『えっ?もう?』

 

スペシャルウィークの僅かな動揺が、手綱を、こっちを少し見るような仕草を通して伝わる。

しかし、僕はそれを意図的に無視して、仕掛けるよう鞭を振るう。

 

遅すぎる(・・・・)……!」

 

どこか感じていた違和感は、この段階で確信に変わる。

このジャパンカップ、あまりにも遅い。

逃げて、ペースを掌握して、意図的に遅くした存在を睨み付ける。

後続のアンブラスモアに2馬身、アンブラスモアから次の馬までは5馬身程か。

悠々と先頭を駆ける漆黒の馬体、そしてその鞍上。

 

「峪さんが動い―――まさか!?」

『トバさん?』

「グラス、動くぞ!」

『え?』

ハメ(・・)られた!そうか、この違和感はあの時(・・・)と同じ……!!!」

 

僕らの動きに、何かを感じたのだろう。

鳥場さんとグラスワンダーも動き始めた。が、そこは初動の差、僕らが少し先を行く展開。

―――今動いていない陣営は、ハメ(・・)られている。

逃げ馬二頭の競り合いが起きているのに、遅くなっているなんて思ってないのだろう。

『名手』岡部……ジャパンカップの大舞台で、まさかこんな事をするなんて。

 

「―――幻惑の逃げ、まさかここで仕掛けてくるか!」

 

 

 

「脚は残ってるな?」

『当然!』

「よし、行こうか!」

 

 

『さぁ縦長の展開どうなるか―――ブラックテイル加速した!ブラックテイル加速した!!後方からスペシャルウィークだモンジューだ!!レースが一気に動き出した第4コーナーへの差し掛かり!!』

 

 

【―――最初に逃げる。先頭を奪ったら少しずつペースを落として体力を残す。そしてロングスパートを仕掛ける。君の得意な舞台を、こっちから作るんだ】

 

 

岡部さんの作戦、今のところ上手くいっているな!

理想的な展開ではある―――だからこそ、ここから先勝てるかは自分の努力次第!!

グッ、と力を込めて、遅くしていたペースを一気に速くしていく。

こっちの持久力と、周りの末脚との力比べだ!!!

 

 

『大欅を最初に超えてブラックテイル先頭だ!アンブラスモアが2馬身程か、後続が詰め寄ってくるがその差は広い、かなり広いぞ!?漆黒の馬体が4コーナーを曲がっていく!!!』

 

 

体力は問題ない、温存するための作戦だったから。

だから後は全力で駆け抜けるだけ!!

 

 

『単独で最終直線入って来たブラックテイル!!アンブラスモアやや伸び悩んでいる!タイガーヒル、ステイゴールドが詰め寄るが!!外からスペシャルウィークだ!!!グラスワンダーだ!!!その後ろからモンジューが来ているぞ!!!』

 

 

「―――来た!来たぞ!!」

『来ましたか!』

「踏ん張りどころだぞ、テイル!!」

『分かっています!!』

 

岡部さんが鞭を振るう。

これはつまり、後ろから来ているという事だ。

末脚自慢の馬が―――

 

 

『先頭ブラックテイル!しかし外から!!外から!!最強の3頭が襲い掛かる―――!!!』

 

 

―――彼らが、来ているという事!!!

 

『―――ハハッ、やってくれるじゃないか!!!』

『テイル、捉えたよ―――』

『待て待て待て待てェェェッ!!!!!』

『誰が待ってやるか……!!!』

 

寒気がするほどの、鋭い視線を浴びながら、懸命に脚を動かす。

ため込んでいた余力を全て注ぎ込む。

ひたすらに、前に、前に、前にッ!!!

 

 

『懸命にブラックテイル逃げる!しかし差が詰まって来ているぞ!スペシャルウィークだ!スペシャルウィークが1番速いか!?その内からグラスワンダーだ!!外モンジューはやや伸びが苦しいか!?』

 

 

『クッ、走りにくい……ッ!?』

『僕は負けない、負けて、たまるか……!!!』

『―――よぉし、いっくぞぉぉぉぉぉぉ!!!』

 

かなり迫って来てる!?

チィッ、古馬相手はキツイな!!

だが負けてたまるか!!振り絞れ全力を!!

 

「正念場だぞ!」

『分かってますよ!!』

 

 

『粘るブラックテイル!!しかしスペシャルウィークだスペシャルウィークだ!!2馬身!!1馬身半!!1馬身!!!並びかけた!!!グラスワンダーも迫っている!!!』

 

 

あと1ハロン―――――

 

『―――ぉぉぉおおお!!!』

『スペシャルウィーク……!!』

『今日は、僕が勝つんだ!!!』

 

 

『並ばない!!並ばず抜き去った!!スペシャルウィーク先頭だ!!グラスワンダーも後に続く!!!』

『懸命に追いかけるブラックテイルグラスワンダー!しかし勝ったのはスペシャルウィークだ!!スペシャルウィーク峪穣!!!内国産馬の意地を見せつけました日本総大将スペシャルウィーク、グラスワンダーを抑えてジャパンカップ制覇!!!』

『1馬身差で2着グラスワンダー、更に1馬身差でブラックテイル!!2年連続で上位3着を日本馬が独占です!!4着に凱旋門賞馬モンジュ―が意地を見せ、5着には伏兵インディジェナスが喰い込みました!!!』

 

 

 

『ゼェ……ゼェ……』

「お疲れ、テイル」

『岡部さん……』

「完敗だな。間違いなく引っ掛けた、その筈だが……」

 

作戦自体は、上手くいった筈だ。

先頭を奪い、ペースを自ら作り、自分の走りを完遂した。

―――それでも、勝てなかった。

 

(悔しい……!)

 

全力を出した。その筈だ。

それでも、届かなかった。

 

『テイル』

『先輩……』

『良い走りだった。ギリギリだったよ、もう少し動くのが遅かったら、負けていたかもしれない』

『……負けちゃいましたけどね』

『フフッ、そう簡単に負けるつもりはないからね……でも、そうだな』

『?』

『もしも君が同い年だったら……同じ位に経験と鍛錬を積んでいたのなら、もしかしたら……』

 

グラス先輩が慰めてくれるが、悔しさは取り除かれない。

自分でも思った以上に負けた事が響いてて驚いてる。

 

「岡部さん、やってくれましたね」

「これだけ賢い馬ですからね。細かな指示に的確に答えてくれるから、つい」

「……確かにテイルの賢さを考えると、あり、なのか?一考の余地はありそうですね」

「しかしまぁ、今回は捉えられてしまったけどね。もう少し気付くのが遅かったら逃げ切れたかな」

「峪さんが動いたからこそ、自分は気付いた形ですね。あの人の体内時計凄いな……」

「穣君か、なるほど……」

 

体内時計……そうか、どれ位のペースで走っているのか、分かっていたのか。

だからどこかのタイミングで遅いペースになっている事に気が付いて、早く仕掛けて来た……

 

『―――グラス君!』

『スペシャルウィーク……今日は、僕の負けだ』

『今日は、僕の勝ちだね!えへへっ、勝てて良かったぁ!!』

 

む、噂をすれば、という感じか。

今日の勝者、スペシャルウィークさんが来た。

 

『君……えっと、ブラックテイル君!君も今日はありがとうね!良い走りだったね!!』

『ハハッ……ありがとうございます、スペシャルウィークさん。先輩ダービー馬には、勝てなかったです』

『センパイ?』

『去年のダービーを勝ったのが貴方で、今年のダービーは自分が勝った、そういう事です』

『あ、あのレース!セイウンスカイ君とかキングヘイロー君とまた走りたかったなぁ!!』

『うーん、スペシャルウィークさんが出られるのはあの1回だけなんですよ。4歳の馬限定なので』

『エーッ!?僕、あのレースにもう出られないの!?』

 

ダービーは4歳の馬限定なので、スペシャルウィークさんはもう出られない。

ダービーに出られるのは1度だけ……その年に、出られる実力を持った馬だけが出られる。

『最も幸運な馬が勝つ』と言われる一因だ。

そんな事を思っていると、1頭、近づいて来る馬が。

 

『―――楽しいレースだったよ、ありがとう』

『モンジューさん』

『モンジューで良い。同じレースを走った仲だろう』

『……こちらこそ、ありがとうございました、モンジュー』

 

凱旋門賞馬モンジュー。

彼は……4着。自分の後ろに居た訳だ。

 

『ここの芝、なんだか軽いというか……随分と変わっているな?』

『モンジューの普段走っている所と、ここの芝は大きく違うんだ。向こうの方が重い、そう聞いてるよ』

『なるほど、やっぱりね……慣れていたら、また違ったのかもしれないが、どんな要因があったと言え、負けは負けだ』

『ハハッ……貴方の場合は、遠い所から来た疲れもあるでしょうね』

『物知りだね、君は。確かに、私は遠い所から来たが』

 

人の言葉が分かるから、まぁそれは。

その辺り説明する時間も無いので、そこは内緒にしておく。

そんな事を考えてると、モンジューがジッとこちらを見ている事に気が付く。

 

『モンジュー?』

『……今度は、君からこっちに来てくれると嬉しいな』

『―――』

『私の全力を、見せてみたい。そう感じたよ』

『……覚えておくよ、モンジュー』

『あぁ、覚えておいてくれ……次会う機会があれば、その時は、全力で競い合いたい』

『俺もだよ』

 

 

 

『あれが、人間を仲間と認識する馬の走り、か』

『人間のコマケー要求に応えて、キュークツそうに、でも【やりきった】って顔で走りやがって……』

『………ありゃ、俺には真似出来ねぇわ。ゼッテー走りにくいだろうしな』

『―――もしアイツが好きなように走ったら、どうなったんだかな』




逃げて、意図的に遅くして、ロングスパート仕掛ける。
逃げ馬2頭で最初競り合い、少しずつ少しずつばれない様に遅くしながら競り合っている様に装いましたが、体内時計が正確過ぎる人が居たのでばれました。

次回はウマ娘編を予定しています。
そして予告となるのですが、『史実に存在し無い馬のウマ娘』を出します。
読者の方々の中には気になっている方も居る……かもしれない、『ブラックテイルの産駒』達の中から1人出す予定です。
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