黒き馬、世紀末を駆ける   作:馬券童貞は東京優駿に捧げた男

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お待たせしました(土下座
PS5を入手したのが最大の原因です、はい……
今回はやや短めとなっています。


第26話 今年の方針+『同期一同』

『―――2000年、世紀末、かぁ』

『セイキマツ?』

『100年ごとに区切りがあるんですよ。ちょうどその区切りの年なんです、今年1年は』

『そうなんだね』

 

先輩の有馬記念から数日。

何事も無く平和に年を越し、今年は2000年、20世紀最後の1年に突入した。

 

『兄ちゃんは、カイガイ、って所に行くんだよね』

『うん、本当に遠い所で、行ったら暫くは会えなくなる……俺が居ない間も、お前はお前で頑張るんだぞ』

『分かったよ』

『まーまだ先の話だけどね』

 

今年は自分の弟、ブラックジーンズのデビューの年にもなる。

自分は海外遠征に行くし、兄弟もデビューするし……大変な1年になりそうだなぁ。

フッフッフッ……やる事が、やる事が多い……!

 

『―――ブラックテイル、さん』

『あ、はい!何ですか?』

『いえ、その……カイガイ、って所には、自分も一緒に行くんですよね?』

『はい、そうなります。よろしくお願いしますね―――グラスファッションさん』

『よろしくね』

 

自分の正面の馬房から顔を出す、1頭の牝馬。

やや黒っぽい灰色―――葦毛の馬で、名前はグラスファッションさん。

同い年の牝馬で、名前から分かる通り、先輩の馬主さんの所の馬だ。

 

帯同馬、というモノがあるという。

遠征する馬が寂しがったりしないよう、一緒に遠征させる馬の事だそうな。

自分の海外遠征に際し、テキが色々頼み込んで、自分のイギリス遠征の帯同馬を探したらしい。

その時OKを出してくれたのが、グラス先輩の馬主さん、春沢さんという事だった。

 

『長い間ここから離れる事になります。グラスファッションさん、大丈夫ですかね?』

『うーん、分からない、かな?』

『ですよねー……何かあったら、隠したりしないで自分に言ってくださいね?』

『う、うん……』

 

―――そもそも、馬というか、人間以外の動物にとって、閉所に閉じ込められ長距離移動するというのはあまり良い事では無い。

閉所でストレス、車なり飛行機なりの音でストレス、環境変化でストレス……ストレスの原因の宝庫なのだ。

その辺り自分は前世人間なのであまり気にはしない。

……いや、音は人の頃に比べたらキツイけど。ウマノイヤーは地獄耳なので音はちょっと辛い。

けどまぁ恐らく普通の……『前世』を持たない、普通の馬には、かなり厳しいのだろう。

 

そこで更に、馬というのは孤独なのもストレスになりやすい……それだけでも回避するために、帯同馬というモノが生まれたのだろう。

うーん、巻き込んでしまって申し訳ない。

 

『それで、先輩はたしか……春の天皇賞、3200mへの挑戦、でしたね』

『うん。流石に未知の距離だから不安はあるけれど……スペシャルウィークも走ったレース、興味はあるね』

『3200m、菊花賞よりも長い、日本屈指の超長距離レースですね』

 

グラス先輩は、春の天皇賞、そして宝塚記念を目標として活動する。

―――グラス先輩、実は引退させる話もあったのだという。

実際、グラス先輩は朝日杯3歳S、有馬記念、安田記念、宝塚記念、有馬記念とGⅠ5勝のスーパーホースなので、種牡馬としての価値は十分、十二分に有ると断言出来るレベルだ。

更に、日本で主流となっている種牡馬……今生の父サンデーサイレンスの他、トニービン、ブライアンズタイムと言った種牡馬達とはまた違う新血統、言わば『グラスワンダー系』の祖になれる可能性すら秘めている、価値のある存在だ。

そりゃまぁ、種牡馬にさせる為引退させる、という選択肢は十分にあり得るだろう。

 

ただ、先輩は現役続行となった。

と言うのも、今このタイミングで種牡馬になると、とある馬と種牡馬になるタイミングが被ってしまうのだ。

具体的に言うと、スペシャルウィークとエルコンドルパサー、この2頭だ。

スペシャルウィークは『父サンデーサイレンスで、ダービー制覇、春秋天皇賞制覇等の実績持ち』という事で血統価値が高い。

エルコンドルパサーは『日本の主流血統とは違う血、海外GⅠ制覇、凱旋門賞2着等の実績持ち』と、こちらもまた種牡馬として期待されている。

これら2頭と競合してしまう事を考慮し、現役続行してレースを勝ち、種牡馬としての価値を高める方を選んだ、という事だろう。

 

『とりあえず、ニッケイショウ、ってレースで1戦して、そこからテンノウショウ、だったね』

『中山2500m、そこから京都3200mですね』

『2500mはアリマキネンと同じ距離だから問題は無いかな……』

『ですね。となると問題はやっぱ天皇賞の3200mですね……』

『だね……ヤスダキネン2回分、だもんね』

 

日本のレースでも屈指の長さを誇るレース、それが春の天皇賞だ。

グラス先輩の言う通り、安田記念2回分、菊花賞より更に1ハロン長い。

スタミナ勝負になりそうだ……

かつて鳥場さんと走っていたライスシャワーという先輩は、春の天皇賞を勝っているんだっけか。凄いな。

 

『頑張ってくださいね、先輩。俺に出来る事なら、手伝いますから』

『うん、頑張るよ』

 

先輩との会話が終わり、さてこれで一段落―――

 

「―――テイル、ちょっと良いか?」

『テキ?どうかしましたか?』

「折角だからお前に色々教えておこうと思ったんだ。ちょっと色々話すぞ」

『はい』

 

テキが話しかけてきたので、そっちに耳を傾ける。

 

「まず、だな……実は、お前が最優秀4歳牡馬に選ばれたんだ」

『―――俺が?』

「テイエムオペラオーと票が分かれたらしいが、凱旋門賞馬モンジューに先着している、そこを評価されたらしい。まぁ、なんだ……おめでとう、テイル」

 

最優秀4歳牡馬……俺が、4歳牡馬の中で、一番良かった、そう思ってくれる人たちが居る。

そう言われると……嬉しいな。うん。

 

「まず、それが1つだな」

『なるほど』

「で、次なんだが……実は、お前を名指し指定で、追い切りの依頼が来ててな」

『?』

「他の厩舎からの依頼だよ。『お前を併せ馬の相手にしたい』、ってな」

 

ふむ?

併せ馬、は分かる。

追い切り調教で、他の馬と走らせる、って事だ。

それは分かるけど……他の厩舎から、名指しで指名?

 

「3週間に渡って、各週1頭ずつなんだがな」

『え?そんなに?』

「1月12日の水曜日に、高天(たかま)調教師の所の『ノボグローリー』と。16日の日経新春杯前の追い切りだそうだ」

『グローリーと併せ馬、か』

「で、19日の水曜日、こっちは羽取(はどり)調教師の『オルランドレバリー』。23日の平安ステークス前だな」

『レバリーか。ダービーグランプリの4着から燃えてたからなぁ……』

「最後に、26日。加河(かがわ)調教師の『イシノフォーチュン』と。30日の東京新聞杯前」

『イシノも富士ステークス3着で、次は勝つって張り切ってたな』

 

全部知ってる馬だった。

 

「どうも、まぁ……調教とかで同じ所走る、ってなった時、仲良さそうにしてるのが目についたらしい」

『あー……』

「……どうする?自分としては、受けてみるのも悪い選択肢ではないと思うが」

『良いんですか?』

「暫くレースも無いし、お前の頑丈さは随一だし……仲の良い相手と走る、って言うのは、気分転換になるんじゃないか?」

『……走り、たい、です』

 

少し考えて、首を縦に振る。

グローリーとは、走る機会は今後もあるかもしれない。

が、ダートを主戦場とすることになったレバリーや、短距離マイル路線に舵を切ったイシノとは、もう同じレースを走る機会は来ない可能性が高い。

走れるのならば、走りたい。

 

「お、縦に振ったな……よし、馬主さんにも話はつけておく。お前はしっかり併せの相手として、役目を果たす事だけ考えるんだぞ」

『良いんですか?』

「走りたい、って思っている内容を走らせた方が良いだろう。直接確認出来るなら、尚更な」

『うーん、それで良いのかなぁ……』

「深く考えすぎるなよ、お前変に考えすぎる傾向にあるっぽいからな」

 

考えすぎ……なの、かなぁ……?

余りにも普通とはかけ離れた存在である自覚があるから、気を付けているつもりなのだが。

それでいいんだろうか……うーん……

 

「で、だ。最後なんだが」

『あ、はい』

「夏前の遠征の流れが大体決まった」

『おぉ!』

 

ちょっと悩んでいた事が吹き飛ぶ。

自分のレースの流れについて、これは聞き逃せない。

 

「最大目標は6月21日に行われるプリンスオブウェールズステークス。前走に6月9日のコロネーションカップを予定してて、イギリス遠征で走るのはこの2つのレースだ」

『ふむふむ』

「首を縦に振ったって事は分かってるって事だな、続けるぞ……日本を出発するのは4月を予定してる。検疫とか色々あるからな、その辺りも考慮してやる事になるが……まぁ、そこはこっちで上手くやる、あんまり気にしないでくれ」

『はい!』

「イギリスでの受け入れ先もある程度絞ってある。ハリー調教師という方が受け入れてくれそうだ。管理馬を日本に、それもジャパンカップに出した事もある調教師だ」

『ほほー……』

 

取りあえず今覚えておく事は、『イギリスでは2戦』、『4月に移動予定』、といった辺りか。

 

「で、ここがちょっと重要かな。4月頭に日本で1戦走らせる予定だ」

『日本で走って、そこから遠征、と』

「4月2日の産経大阪杯、阪神芝2000m。ここを走ってから遠征、って流れになる。ここで弾みを付けて行きたい、って事だな」

『分かりました』

 

産経大阪杯と言えば、グラス先輩が去年勝ったレースだ。

ここで勝てば、グラス先輩と合わせて厩舎、騎手にとって2連勝となる。

グラス先輩の1番の後輩として、負けるわけにはいかない……!

 

「―――良い目だ。大阪杯、ここを勝って、大手を振って海外に飛ぼう」

『はい!』

「よし、頼むぞテイル」

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

『ほーらグローリーこっちこっちー』

『待て待てー!』

『そうそう、グローリーはそうやって歩幅を広く、1歩1歩飛ぶ感じで走った方が良さそうだよ』

『うん、なんか走りやすいかもー!!!』

『カーブの時は少し歩幅を狭くして、ラチの近くを走る様に心がけるんだぞー』

『やってみるー!!!』

 

「……なんか、活き活きしてるな、グローリー」

「明らかに動きが良かったですね……テイル、お前、何かやったか?」

 

 

 

『―――さぁノボグローリーが追い込んでくる!ノボグローリーが最後尾から一気に上がってくる!!』

『1頭2頭3頭と、ノボグローリーが追い抜いて!!峪穣とマーベラスタイマーも上がってくるが、ノボグローリーが一気に上がる!』

 

―――1歩1歩、飛ぶように!

―――曲がる時は歩幅を狭くして、外に広がらないように!

 

『先頭トキオアクセル伸びが悪いか!?サンデーセイラも苦しい!先頭躍り出たのはメイショウドトウだ!メジロサンドラも続く!しかし一気に来たぞ後続勢!!!』

 

『―――最後の直線、いっくぞぉぉぉ!!!』

「行け、グローリー!」

 

『岡部が鞭を一発、二発!ノボグローリーだノボグローリーだ!!垂れる馬を躱して先頭集団に突っ込んでいく!!』

 

『わわわっ!?後ろから来てるぅぅぅ!?』

『今日勝つのはぁ、僕だぁぁぁ!!!』

 

『―――並ばないで抜き去った!勝ったのはノボグローリー!!』

『トウカイテイオー初年度産駒、これでGⅡレース2勝目です!!』

『メイショウドトウは半馬身差の2着、ハナ差3着にマーベラスタイマーです!』

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

『ダートは芝に比べてどうしても踏ん張りがなぁ……どうにか出来へん?』

『踏み込みを強くするのと……滑らないように、蹄全体で踏みしめるのはどうだろう?こんな感じで……』

『こうやって……こうっ!?な、なんか今のええ感じやったわ!』

『よし、今の感覚を忘れないで』

『力入れやすいわぁこれ!おっしゃ頑張るでぇ!!!』

『あ、でも脚に違和感……痛みとかが出ないよう、使う時は注意して。そうすればきっと、この走り方は君の力になる』

『ありがとなぁテイル!』

 

「レバリー?……急に、動きが良くなった、よう、な……?」

「……テイル?」

 

 

 

『―――先頭変わってオースミジェット!シアトルブリッジとデピュティーアイスが続く!そして後ろからオルラントレバリーだ!』

 

 

―――あれからギリギリを見極めたんや。

―――最後、真っ直ぐ走る時。そこくらいやったら、『コレ』で行けるってなぁ!!!

 

『―――こっから全員、ブチ抜いたらぁ!!!』

 

 

『―――オルラントレバリー凄い脚だ!?オルラントレバリーが一気に突き抜けた!!他馬を一気に抜き去って、先頭オースミジェットに2馬身1馬身!』

 

 

「―――抜けっ!!!」

『勿論や!!!』

 

 

『―――躱した躱した!オルラントレバリーが躱してそのままゴールイン!!』

『最後の直線、一気に追い上げてきましたオルラントレバリーが、一気に突き抜け重賞初制覇を飾りました!タマモクロス産駒、久々の重賞制覇となります!』

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

『テイル、自分の走りは、どうだった?』

『イシノ自身はどう思ってる?』

『……悪くはない、はずだ。ただ、もっと良くなるんじゃないか、って思っている』

『そうだなぁ……素人目線だけど、良いんじゃないかなとは思うけど、なんかちょっと【堅い】かな?』

『かたい?』

『うん。こう、なんというか、必要以上に全身に力が入ってるように思うんだ。少しリラックス……余裕を持って走ろう。そうすれば周りの様子を確認したり、騎手さんの指示にも余裕をもって反応出来ると思うよ』

『ふむ、ふむ……余裕を持つ、か。分かった』

 

「イシノとテイルは仲良いですね、ほんと」

「ですねー……テイル、お前なんかしたのか?」

『イエ、ナニモ』

 

 

 

―――君と走っている時、君と話している時、そういう気持ちを思い出して―――

 

『―――後ろから2頭くらい一気に上がって来ていて、他はまだ離れている。前には4頭―――』

「―――前は外に膨らむ、内を突くぞ!」

『この手の動きは、左の柵に寄れば良いんだね?』

 

―――キシュさんを信じて、後は全力で!!!

 

 

『さぁ最終コーナー!ロードアヘッドが沈んでいく!他2頭も沈んでいく!!ダイワカーネリアンとバイオマスター、その内からイシノフォーチュン!イシノフォーチュンが前に行く!!!』

 

 

「行け!行け!!」

『前へ、前へ!もっと、前へ!!!』

 

 

『3頭叩き合いか!?しかしイシノフォーチュンがやや有利!粘る!!粘る!!まだ粘る!!!』

『―――イシノフォーチュンだ!!!イシノフォーチュンです!!!1着は、イシノフォーチュン!!!』

『遂に、遂にッ……オグリキャップ産駒、遂に重賞、初制覇―――!!!』

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「―――テイルと併せやった馬、全部勝ったんだが……」

「……テイル?」

『~♪』

「そっぽ向いてますねアイツ」

「……なんかやったんだろうなコイツ」

「……偶々、偶々3頭揃って勝った……そう、思っておこうか」

「ですね……」

 




テイル達、小鷹厩舎の方針纏め。
そして、テイルの美浦同期組の始動となります。

当小説を書くにあたり調べてて驚いた事に、オグリキャップ産駒の成績があります。
『名馬の子が名馬になるとは限らない』とは聞きますが、調べ始めた当初はとても驚きましたね…

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