黒き馬、世紀末を駆ける 作:馬券童貞は東京優駿に捧げた男
ウマ娘編第1話 ウマ娘『ブラックテイル』
自分は、コロン、と横になっていた。
寝転がっていると、ウトウトと眠気が襲ってくる。
このまま、ひと眠りしようか……そんな事を考えていると、声が聞こえる。
「おはよう、そろそろ、時間」
あれま、呼ばれてしまったか。
よっこいしょ、と『手足』を上手く動かして、身体を起こす。
ググッと背を伸ばして、自分を呼んだ少女(?)の方を見る。
「おはよう、ミーク」
「おはよう、テイル」
少女(?)を一言で表すなら、『白』だ。
白い髪、白い肌、赤に少し近いピンク色の瞳。
アルビノ、という言葉が脳裏を過ぎる。
彼女の名前は『ハッピーミーク』という。
とても可愛らしい少女……と言いたいのだが。
頭の上でピコピコと揺れている『アレ』と、お尻のあたりで揺れる『ソレ』が、ただの少女とは言いきれなくしている。
そう、『アレ』……大きな耳。そして、『ソレ』……綺麗な尻尾。
彼女には、まるで馬のような大きな耳と尻尾がついているのだ。
ハッピーミークは、そんな特徴を持つ、『ウマ娘』という不思議な種族であり……
「テイル、尻尾に癖ついてる……梳かす?」
「あぁ、お願いするよミーク」
自分もまた、ウマ娘という種族の少女になっていた。
……なんで?
自己紹介をしよう。
自分の名前はブラックテイル。
人間として生活してたはずがいつの間にか競走馬に生まれ変わった、なんとも数奇な運命を辿った競走馬であった。
出会いと別れ、数多くのレースを乗り越えて、現役引退。
紆余曲折を経て、のんびり牧場で暮らしてたはず、なんだけど……
またも、ある日寝て起きたら、転生してしまったのだ。
しかも、今度はウマ娘なる種族の少女として、だ。
……なんで?
この世界に、『馬』は存在しない。
その代わりに、『ウマ娘』が居る。
しかも、『ウマ娘』だが、どうも前世……競走馬として過ごした自分の世界に居たサラブレッド達の転生体、らしいのだ。
なにせ、グラス先輩をはじめ、前前世で聞いたことがあるビッグネーム、トウカイテイオーなどの名を持つウマ娘が居たからね。そこは確信してる。
ただ、前世の記憶はないらしい……が、どことなく前世、つまりサラブレッド時代の『彼ら』を思い出させる時がある。
グラス先輩、前世ではたんぽぽをモリモリ食べてたんだが、この世界のグラスワンダーもたんぽぽが大好きらしい。たんぽぽの天ぷらやおひたしをモリモリ食べてた。
とまぁ、自分はそんな世界に、サラブレッド『ブラックテイル』の転生体、ウマ娘『ブラックテイル』として生まれたようだ。
前前世から前世では『人』から『サラブレッド』、前世から今生では『サラブレッド』から『ウマ娘』。
ついに、前前世から性別まで変わってしまった。
……いや、本当になんで?
「癖、とれた」
「ありがとうミーク……おや、髪、跳ねてるよ?さっきのお礼に、『私』が梳かしてあげよう」
「ん、お願いする……」
今生、ウマ娘としての生活も、もうそれなりになる。
美少女、美人揃いのウマ娘を相手にする事も、ある程度慣れてきた。
こうしてミークの身嗜みを整える手伝いをする事も、日常と化している。
「テイルの手つき……優しくて、好き……」
「そうか、そうか。そう言ってくれると、嬉しいよ」
なんだろうな……娘か、孫娘とか居たら、こんな感じなのかな。
ミークと居ると、そんな気持ちすら、抱いてしまう。
なんでかな?
「おはようございます、テイルさん」
「おはようございます、グラスせ……グラスさん」
「向かいの席、お借りしても?」
「どうぞ」
朝、食堂にて。
ミークはミークで友人たちと食べるとの事で別れたんだけど、グラス先輩に遭遇。
……今生では、グラス先輩はグラス先輩と呼べないんだ。自分の方が早く生まれたから……
どうも、この世界では生まれる順番なりなんなりがあべこべなのだ。
自分より前にオグリキャップが生まれているのに、その間の世代のはずのトウカイテイオーは自分の後輩だったりする。
「グラスさん、今日はスペさん達と一緒じゃないんですか?」
「スペちゃんはスピカの人達と一緒、エルはマンボの世話、キングさんは取り巻きの人達と一緒で、セイちゃんはまだ寝てるみたいですから」
「そうでしたか」
スペシャルウィーク、エルコンドルパサー、キングヘイロー、セイウンスカイ、そしてグラスワンダー。
後に『黄金世代』とも言われるサラブレッド達。
そんな彼等の転生体である彼女達は、親友兼ライバルとしてとても仲がいい。
良く一緒にご飯を食べたりしてるのを見る。
「そういうテイルさんは?」
「みんな、レースだったり、チームメンバーのレース見学で居ないですよ」
仲のいい面々の事だろうけど、今は居ない。
だからまぁ、のんびりと朝食を食べてた訳だが。
居たら確実に騒がしくなってたからね、主にとある1人のウマ娘のせいで。
駄弁りながらも食事は続いている。
ウマ娘はみな健啖家である。自分もそうだ。
人間の大食いの人達くらいは当たり前に食べ切るし、オグリキャップやスペシャルウィークといった極一部のウマ娘は腹の中にブラックホールがあるのか?と疑うレベルでよく食べる。
私の朝食は主にサンドイッチやホットドッグを山盛り、ヨーグルト、フルーツやサラダ、あとはコーヒーや牛乳といった朝食をとる。
人間時代、実家が『朝はパン』という生活だったので、この方が落ち着くのだ。
対するグラス先輩は純和食。
ご飯山盛りに焼魚、豆腐とネギの味噌汁、小鉢(とは名ばかりのどんぶり)にはたんぽぽの胡麻和え、小皿に漬物数種、納豆、そしてお茶。
パクパクモグモグと食べながら、近状報告したり、ちょっとした噂話に興じたり。
ときには互いの食べてる物を交換したり(今回はサラダと胡麻和えを交換した)。
グラス先輩との関係は、今生でも良好である。
ウマ娘達は、本能的に走ることが好きだ。
その大舞台が『レース』であり、レースを走るウマ娘達の教育機関が『トレセン学園』だ。
私は『中央トレセン学園』の生徒として、レースに向けてトレーニングしたりする日々を過ごしている。
さて、ちらりと話題に上がっていたが、チーム、というものがある。
大まかな認識として、前世で言うところの『厩舎』に近い。
ウマ娘達が複数人集まって、前世で言う『調教師』の役割を持つ『トレーナー』の指導の元切磋琢磨していく、そんな関係だ。
今日もまた、チームメンバーと共にトレーニングに励む。
というわけで、チームに与えられた部屋へと向かう。
「おはようございます」
「はい、おはようございます」
チームメンバーその1、グラス先輩。
前世での縁は健在、と言うべきか。
同じチームの後輩として、グラス先輩は入ってきた。
今生では後輩だけど、自分にとってグラス先輩はグラス先輩である。
「お、おはようございます、テイルさん!」
チームメンバーその2、ライスシャワーちゃん。
とても可愛らしいウマ娘、だけど長距離では物凄く強い。
不幸体質らしく、よく気にしている。
朝はパン派らしく、よく朝食を一緒に食べる仲。
「テイル、おはよぉぉぉ!!!」
チームメンバーその3、ビコーペガサスちゃん。
チームの元気印で、見てるだけで笑顔になる、そんなウマ娘。
特撮大好きで、『キャロットマン』という作品の大ファン。
自分も特撮は見てるので、話は合う。
ちなみに私は、3分しか戦えない巨人の方を好む。
「テイルさんおはようございます!あぁ、今日も朝日を受けて輝く青毛が美しすぎる……しゅきぃ……」
チームメンバーその4、アグネスデジタルちゃん。
なんというかとても変わった子で、ドルオタならぬウマ娘オタ?なウマ娘。
よくウマ娘を見ては恍惚の笑みを浮かべ気絶、失神している。
バ場、距離、なんなら国内国外すら問わぬ走りも含め、奇異と敬意を込めて『変態』と呼ばれている。
他にもいるけど、朝一で揃ってたのはこんな感じ。揃いも揃って実力者だ。
部屋の奥には、かつてチームに所属してたウマ娘の写真が飾ってある。
うちのチームは学園古参の一角、そんなチームの歴史の中で、重賞ウマ娘達はあんな風に飾られる伝統が出来たとか。
いつか自分も、チームメンバーもあそこに飾られるのかなーと思うと、すこし恥ずかしい。
そんな事を考えながらビコーの頭を撫でてると、部屋の扉が開く音がする。
入ってきたのは、30中盤、後半といった見た目の男性だ。
「おはようございます、『都播』トレーナー」
都播トレーナー。
そう、『とば』だ。
これも、なにかの縁なのだろうか?
「おはよう、みんな。今日も頑張ろうね」
『『『『『はい!』』』』』
この場にいる全員の、力強い返事。
個性派ばかりだろうと、走る事にかける情熱は本物だ。
だれもが、レースで先頭に立つことを目指してる。
その熱意が伝わったのか、都播トレーナーが微笑む。
「元気でなにより。今日はまず模擬レース、終わったら反省会、そして短所を補うトレーニング……この流れでやっていこうか」
全員で組み合わせを変えながら行う模擬レースだが、相手の長所と短所を走りながら探す、というモノだ。
相手の長所と短所を見抜き、己の長所をぶつけて行くか、相手の短所を突くか、レース中に判断できる思考力を作るトレーニングである。
こう、上手く隙を突いたりしていくやり方に、『鳥場さん』らしさを感じるんだよなぁ……
やっぱ都播トレーナーって、鳥場さんの転生体なのかな?
……いや、それは、重要なことでは無いな。
今生、私を導いてくれているのは都播トレーナーなのだ。
自分を見出し、鍛え、支えてくれた人。
恩義に応える為に、自分は走る。
それだけだ。
「分かりました。他のメンバーには私の方で伝えておきますので、トレーナーはゆっくりして下さい」
「良いのかい?」
「はい。他のみんなも、全員集まるまではゆっくりしてて」
トークアプリを起動して、チームの所を開き今日の予定を流す。
ついでに体調不良等で出られない人が居ないかを確認、あとどれくらいでチーム部屋に来れるかも確認する。
今日来るメンバーの脚質、性格、相性などを考慮して、1回目のレースの組み合わせを自分なりに構築。
そこから色々と入れ変えて3回目くらいまではレースの組み合わせを作って……
「やっぱ手馴れてるね、テイルは」
「嫌いじゃありませんから、こういうの」
「頼もしいね……『彼女』が、任せただけはある」
チラリ、と1枚の写真を見ながら、都播トレーナーが言う。
その言葉に、笑って答える。
「えぇ、任されましたからね……『アルタイル』を」
改めて、自己紹介をしよう。
自分の名前は、ブラックテイル。
前前世は一般ピーポー、前世はサラブレッド『ブラックテイル』。
中央トレセン学園の生徒であり……歴史あるチーム『アルタイル』の、現リーダーだ。
本編で触れていない所は書かないようにしつつ、ウマ娘となった『ブラックテイル』についてはこんな感じ、という紹介が主な内容となりました。
チーム『アルタイル』、またの名は『鞍上某氏の集い』です。
ビコーペガサス含め、1度でも鞍上を某氏が務めた競走馬たちがチームに居ます。
今後発展させるなら、殆どオリジナルウマ娘になってしまいますね……
なお、某氏が鞍上を務めた競走馬でも、一部はここに居ない事もあります。
そのウマ娘達がどこで出て来るかは、今後をお待ちください。