黒き馬、世紀末を駆ける   作:馬券童貞は東京優駿に捧げた男

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お待たせしました、ウマ娘編2話です。
主に触れていくのは、アドマイヤベガ周りです。


ウマ娘編第2話 ウマ娘『アドマイヤベガ』

ウマ娘の朝は早い……場合が多い。

と言うのも、やはり元が馬である影響があるのだと思う。

馬と言うのは朝早くに起きてトレーニングを始める物だ。

そういう事もあって、朝早く起きる子が多い。

―――まぁ、モデルをやっている某尾花栗毛のウマ娘みたいに、朝に弱いウマ娘もいるけど。

 

 

かくいう『私』、ブラックテイルもその朝早くから行動している1人だ。

この間はミークに起こされたけど、あれは『そうしよう』と決めていた日だからである。

早朝トレーニングをせず、ゆっくり寝る日。そういう日を設けていたのだ。

今日は早朝トレーニングをする日なので、外が薄暗い時間からもう行動している。

 

歯を磨いたりシャワーを浴びたり、身だしなみを整える。

そうしたら、ジャージで外に出てランニング……の前に、ある場所へと向かう。

トレセン学園には、敷地内に2つの寮が存在する。

名前は『栗東寮』と『美浦寮』……栗東トレーニングセンター所属のサラブレッドのウマ娘が栗東寮、美浦トレーニングセンター所属のサラブレッドのウマ娘は美浦寮に入っている、はずだ。

少なくとも、かつて美浦トレーニングセンター所属のサラブレッドだった自分は美浦寮に住んでいる。

そして、今向かっているのは栗東寮だ。

 

栗東寮へと向かうと、1人のウマ娘が丁度出てきたところだった。

鹿毛の髪をたなびかせ、青いイヤーカバーを右耳につけている。

そんな彼女は、私を見つけると、嬉しそうに微笑んだ。

 

「『クロ』、おはよう」

「おはよう、『リラ』」

 

私の事を『クロ』と呼ぶ彼女の名前は、『アドマイヤベガ』。

前世において、自分の数日前に生まれた、最初の友達。

そんな『彼』の生まれ変わり。

今生においては、幼馴染のウマ娘だ。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

―――『彼女』との出会いは、私が物心つく前にまで遡る。

『私』と『彼女』の家は隣あっていて、親の仲がとても良かった。

そして、偶然にも同じ時期に、『私』の母と『彼女』の母は子を授かった。

 

同じ病院に通院し、親同士で育児について情報を共有したりして。

―――とても悲しい出来事が、あったけれども。

『私』が生まれて、3日後、『彼女』が生まれた。

 

すくすくと育った『私』と『彼女』は、姉妹同然に育った。

同じ幼稚園、同じ小学校に通い、片方の親が用事で家を空ける時は、もう片方の家に泊まったりもした。

楽しい事も、辛い事も共有して、ずっとずっと一緒に居た。

 

『リラ』

 

私に『リラ』という呼び名を与えてくれた人。

 

『君がずっと感じている【それ】はね……【悲しい】、なんだよ。きっとね』

 

何も分からなかった私に、胸に残り続ける『悲しい』の理由を教えてくれた人。

 

『大切な存在が、居ない……それはね、【悲しい】事なんだ』

 

私の『悲しい』を、一緒に泣いてくれた人。

―――『ブラックテイル』、それが、『彼女』の名前だ。

 

 

 

私にとって、『彼女』―――愛称『クロ』は、とても大切な親友であり、感謝する恩人である。

幼い頃から、胸の奥で『何かが足りない』『悲しい』『寂しい』と、ずっと感じていた。

そんな私に、何故、どうしてそう感じているのか、教えてくれた人だ。

 

『リラ、君は、【彼女】の分も、生きなければならない……他人の命を背負って、生きていかないと、いけない』

 

その言葉を、私は重責と受け取った。

生まれた時から、私は1人の命を……それも、共に生まれるはずだった双子の命を、背負っている。

子供ながらに、責任を感じていた。

 

『―――私にも、背負わせて欲しい』

 

だからこそ、クロがそう続けた時に、肩にのしかかった重みが、軽くなったのを感じた。

 

『私は、リラという大切な友達と出会えた。私にとってリラはもう家族同然の存在だ。なら、家族同然の君の背負うモノを、一緒に背負いたい』

 

その眼差しは、真剣そのもので。

 

『リラ。私の大切な人。君が【彼女】の命を背負い、【彼女】に胸を張れるウマ娘になる為に歩む、長く険しい道のり……私も、共にさせてくれないか?』

 

その声色は、優しさに溢れていて。

 

『―――君を、支えさせてほしいんだ、リラ』

 

そっと私の頬を触れたその手は、とても温かかった。

ツゥッ、と私の頬を流れた涙を、優しく拭って、微笑むクロ。

そんな姿に、言葉に、優しさに……私は、涙が止まらなかった。

抱き付いて、胸に顔を埋めて泣き続ける私を、クロは優しく抱きしめ、背中を撫で続けてくれた。

 

 

 

「―――ねぇ、クロ」

「ん?どうしたのリラ?」

 

朝のランニングも終えて、一度別れて、食堂で合流して。

かなり早めに来たからまだ食堂の人以外誰も居ない、静かな食堂で一緒に朝食をとる。

窓から差し込む日差しに、青毛の長髪が美しく輝く。

切れ長の瞳をスッと閉じて、コーヒーの香りを楽しむ、大切な幼馴染。

しかし、私が呼べば、直ぐに視線をこちらに向けてくれる。

 

「……やっぱ、なんでもない」

「そう?」

「えぇ」

 

ずっと、幼稚園の頃から、一緒に過ごしてきた。

共に笑い、共に泣き、嬉しい事、楽しい事、悲しい事、全てを共有してきた。

そんな、大切な人と過ごす、静かな2人きりの時間が、私は好きだ。

 

「ん……うん、良い濃さで淹れられた。朝に飲むブラックコーヒーは良いね」

「貴方の好みは、少し苦すぎるわ……目は覚めるけど、楽しんで飲むのは少し難しいわね」

「だから言ったでしょう?『君の好みで淹れようか?』って」

「言ってたけど……」

「カフェさんでも『週1回くらいなら楽しめる』って言うレベルでピーキーな淹れ方してるんだから、好みがとても別れるのは仕方ないんだよ」

 

ちびちびと、舐めるようにコーヒーに口をつける。

クロの好むコーヒーは、彼女の名前にもある通りブラックコーヒー。

それも、濃くて、苦くて、酸味が少ない、そういうコーヒーだ。

 

「貴方の好きな味を、私も好きになりたいもの。慣れる為には、何回も飲まないと」

 

最初は、ミルクと砂糖増し増しにして漸く飲めた代物。

そこから何年も付き合って、漸くブラックでも飲めなくはない程度に慣れた。

偏に、『クロの好きなモノを好きになりたい』、その一心で。

私の言葉に、クロが頬を赤くして恥ずかしそうに視線を逸らした。

 

「……そう、言ってくれるのは、嬉しいけど」

「苦ッ……ほんと、よく好んで飲めるわね……」

 

親友ながら、このコーヒーの好みはちょっとどうかと思う。

もう少し薄く、苦みが抑えられてたら飲みやすいのに……

そんなことを考えながらコーヒーを飲んでいると、食堂のドアが開く音がした。

 

「やぁやぁ2人とも、おはよう!」

「お、おはようございますぅ~……」

「ドトウ、オペ、おはよう」

「……ハァッ。おはよう」

 

―――あぁ、静かな時間も、終わりか。

聞こえて来たやたら元気な声に、溜息を吐く。

同じ時期にレースデビューを果たした、2人のウマ娘が来たらしい。

 

「外は快晴、雲一つない青空ッ!僕を祝福するかのように太陽は輝き、僕を讃えるように小鳥が囀る……嗚呼、今日も世界は、僕は美しいッ!!」

「うん、今日も絶好調だね、オペは」

「勿論さ!そういう君はどうなんだい、テイル?」

「そうだね……親友、ライバルと共に、朝を迎えて朝食をとる……良い1日の始まりを迎えられたよ」

「成程、君も調子良さそう……相変わらず、『あの』コーヒーなのかい?」

「今日のは良い具合に淹れられたんだ。どうだい?」

「フッ……今日は別のモノを飲みたい気分でね……」

「飲めないんでしょう……貴女、子供舌じゃない」

「ウグッ……!」

 

この、朝1番から物凄いテンションのウマ娘は、テイエムオペラオー。

恐ろしいまでの自分への自信と、それを裏付ける確かな実力の持ち主。

己を『世紀末覇王』と呼称し、そうあらんと努力するウマ娘だ。

 

「わ、私は頂いてもいいですかぁ?」

「じゃあ、少し待っててね。ミルクと砂糖は?」

「て、テイルさんのお勧めはなんでしょうかぁ?」

「そうだね……少し多めにミルクを入れると、飲みやすいかな?用意するから、待っててね」

「い、良いんですかぁ?」

「うん、勿論」

「ありがとうございますぅ~」

 

それで、こっちのおどおどしたウマ娘は、メイショウドトウ。

素質は確かなモノがあるのだけれど、自信が全くない。

ドジで、おっちょこちょいで……色んな意味で、目が離せないウマ娘。

 

何の因果か、こうも濃い2人と、私とテイルは同じレースを走る事になってしまった。

他にも同時期にデビューしたウマ娘は居る。

けれど、個性的な、強く印象に残るという意味では、やはりこの2人が濃すぎる。

 

「ドトウ」

「は、はひっ!?あ、アヤベさん、どうかしましたかぁ?」

「その……コップの水、零れてるわよ」

「あ、あれ、あれれぇ?」

「とりあえず、机に置きなさい。持ったままだと、更に零れるだろうし」

「は、はいぃ~」

 

相も変わらず、モノを零したり倒したりしてしまうドトウを、まずは座らせる。

これで被害は軽減される。

 

「……他の人も来るから、もう少し静かにしなさい」

「まぁ、確かにそうだね!この僕の美しさに見惚れて食事をとれない観客が大勢発生してしまっては申し訳ない、ここは自重するとしよう!」

「……それで良いわ」

 

なんか頭が痛くなってきた……

この究極のポジティブシンキング、どうなってるのかしら……

ちびちびとコーヒーを飲んで、頭を落ち着かせる。

そうしていると、こっちに近づいて来る足音が聞こえて来た。

そっちを見ると、なにか微笑ましいモノを見るような、穏やかに微笑むクロの姿が。

 

「何してるの?」

「……あぁ、ごめん。邪魔をしちゃいけないかな、って思ってね」

「そんな事ある訳ないでしょう?」

「さぁさぁ、遠慮なんかしないで君も来たまえ!!」

「テイルさん、アヤベさんの隣へどうぞ~」

 

訳の分からない事を言っているクロを、皆で呼ぶ。

『邪魔をしちゃいけない』?

私、オペラオー、ドトウ。

この3人を上手く纏めているのは、貴女でしょうに……

 

「それじゃあ、失礼して、っと。はい、ドトウ、ミルク多め砂糖多め、甘めに作ったよ」

「ありがとうございますぅ~……ふぁぁぁ、美味しいです~!」

「そっか、それは良かった。オペ、同じのを君の分も作ったんだけど……」

「なら、頂こうかな?……うん、濃く、甘い!」

 

オペラオーと私は、そこまで相性が良い組み合わせでは無い。

私とドトウは……悪いとは言わないけれど、良いとも言えないだろう。

その辺り、間に入って繋いでくれているのが、クロだ。

クロを除いた3人でも、それなりに良い付き合いは出来るかもしれないけれど。

クロが入る事で、より円滑に、良好な関係を築くことが出来た。

 

「コーヒー濃い目だからね、多めのミルクを入れてもしっかりコーヒーの味がするでしょ?」

「うん、これは美味しいね」

「凄く美味しいですぅ~」

「……『テイル』、後で私にも」

「今飲んでるソレにミルクとか入れる?」

「これはこれで飲むわ」

「分かったよ、『アヤ』」

 

―――『リラ』という私の愛称と、『クロ』という彼女の愛称は、2人きりのときでしか使わない。

2人だけの『特別』にしよう、そう決めたから。

だから私は、他人が居る時は彼女を『テイル』と呼ぶ。

彼女は、私の事を『アヤベ』ではなく『アヤ』と呼んでいるけど、『こっちのほうが呼びやすいから』という事で『アヤ』と呼ぶらしい。

 

「今度の入学希望者の学園見学の話は聞いてる?」

「勿論聞いているとも!君は学園案内を担当するんだろう?」

「そうなんだよね、大役だから緊張するねぇ……」

「生徒会の他に、各チームを代表して1人ずつ、ね。私も担当するから」

「わ、私のチームは私じゃない人が担当します~」

「リギルからはヒシアマさんが担当するそうだ」

「あの人子供受けが良いというか、面倒見が良いからね、適任だよねホント」

 

他愛もない会話が、穏やかな時間が続いて行く。

同期のライバルが居て―――大切な、大好きな親友が居る。

 

(ねぇ、姿も、声も知らない、『私の半身』)

 

同じ日に生まれて、産声を上げる事すら叶わなかった、私の妹。

いずれ訪れる、会えるようになるその日まで、会う事叶わぬ人。

いずれ会うその時は、私が得たモノ、感じた事、全てを話す事になるだろう。

 

(―――私は今、幸せです)

 

だから、今感じているこの幸せを、大切にしよう。

『その日』が来て、『彼女』と初めて顔を合わせた時に、笑顔で、胸を張って会えるように。

 




この世界線では、アドマイヤベガはこんなウマ娘です、という紹介でした。
1人で背負うという選択肢を選ぶ前に、ブラックテイルが『じゃあ私も背負うよ』と言ってくれた為、原作での『孤高のウマ娘』という感じは大分弱めに。

ちらっと話に上がっていますが、この4人はそれぞれ違うチームの所属となります。
テイルはアルタイル、オペラオーはリギル。
アヤベさんとドトウもそれぞれオリジナルのチームに所属しています。
どんなチームなのかは大体決めてあるので、あとは詳細を詰めたら何時か書きたいと思っています。
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