黒き馬、世紀末を駆ける 作:馬券童貞は東京優駿に捧げた男
今回も所々にオリジナルチーム紹介を挟みつつ、とある話も。
※ナリタトップロードがウマ娘化した事により、そちらに合わせた内容に修正致しました。
「トレセン学園の誇る学生寮、栗東寮と美浦寮。私の所属する美浦寮はヒシアマゾンさんが、栗東寮はフジキセキさんが寮長としてまとめ役をされています。どちらの寮も雰囲気が良いんですよ?」
「美浦の事情はあまり詳しくないですが、栗東はフジキセキさんが率先してイベントを開催してくださって……楽しませて貰っています」
昼も終わって、午後の案内。
寮の案内という事になるが、どういう方法で案内をするのだろうか?
そんな事を考えながら、まずは美浦寮の前に。
「―――待っていたよ!アタシが美浦の寮長、ヒシアマゾンさ!!」
「ヒシアマゾンさんだ!」
「かっこいい!!」
「お、ありがとうね!」
『女傑』とも呼ばれる、私の先輩。
……と言いますか、両寮長共にリギルの先輩だ。
「急遽寮の案内を任されてね、学園案内はディープに任せたけれど……どうだい?上手くやれてる?」
「え、あの、その……」
「少し硬い所こそあれど、出来る限りで頑張ってくれていますよ、ヒシアマ姐さん」
「テイルがそういうなら、安心だね!流石は学園案内最多経験者、って所だ!!」
「狙って出した記録じゃないんですけど……」
「『アルタイル』の前リーダーから任されて、所属した年の学園案内からずっとやってるんだろう?人の良さ、他人への接し方の上手さは流石としか言いようがないさ!」
……そんな記録を持っていたんですね、ブラックテイルさん。
「まぁまぁ、私の事はどうでも良いですから、寮の案内ですよ」
「おっと、そうだね。これから美浦寮の案内をさせて貰うよ!……と言っても、美浦と栗東で大きな違いは無いんだけどね。でもまぁ、そこは寮長の違いってモンだね!アタシは美浦、フジは栗東、それぞれの寮、そこに住んでるウマ娘の話が出来るから、そういう所を話させて貰うよ!」
「美浦の事情はあまり詳しくないので、私も楽しみです」
「……少し素直になったね、ディープ?……さ、アタシについてきな!」
私の様子に微笑んだ後、満面の笑みで見学者たちに後に続くよう告げるヒシアマゾンさん。
美浦の案内が、こうして始まった。
「……アドマイヤ、ベガさん。ちょっと、良いですか?」
「何かしら?」
「聞きたい事が、あるんですけど……」
昼を食べ終え、案内に戻るという段階。
離れた場所である寮へと向かったチームを見送って、学園内の施設案内をする為に残ったチームは、私達のチームと、ダイワスカーレットさんとオルフェーヴルさんのチーム。
そこで、オルフェーヴルさんに話しかけられた。
「いえ、カレンさんと案内中に会った、って聞いて」
「……そういえば、風邪、って理由で案内を辞退した、って話だったわよね……」
「えぇ、そこが気になって……」
「……今朝、私が部屋を出る時は、少しダルそうな感じにしてたけど……さっき会った時、元気そうだったわね」
『アンタレス』の学園案内担当だというカレンだけど、風邪で辞退したにしては、元気そうだった。
……さて、これは?
「……問いただす、必要が、ありますね……」
気だるげな表情から、苛立った表情に変わって。
スマホを取り出し、オルフェーヴルさんが電話をかける。
「もしもし、姉さん?……うん、まぁ順調、かな。それは良いんだけど、学園案内中にカレンさんが元気そうにしてたのを見たって情報があって……うん、ちょっと『〆て』貰って良い?」
………『〆る』?
「うん、うん。私は良いんだけど、姉さんにも迷惑かかったわけだしさ……うん、そうだね。デュランダルさんには……あ、姉さんが連絡入れてくれる?じゃあ、お願い。デュランダルさんにも迷惑かかってるからね……うん、ありがとう。それじゃあ」
ピッ、と電話を切って、深呼吸して。
振り向いた時には、気だるげな表情のオルフェーヴルさんに戻っていた。
「あぁ、すみません。とりあえず、これで大丈夫だと思います」
「あー……その、ほどほどに、ね?」
「大丈夫です。姉さん、その辺り加減出来る人ですから」
ニコッ、と笑うオルフェーヴルさんだけど……ちょっと、不安だ。
というのも、彼女の姉……『ドリームジャーニー』さんは、良くも悪くも荒々しい人と有名だから。
『アンタレス』というチームの評価を、今の形に固めてしまった第一人者。
……うん、ちょっと不安ね。
「すみません、お騒がせしました……」
「いえ、別に良いけれど」
「あとは『アンタレス』の問題なので、こっちで内々に『処理』しますので……それでは」
言い方が怖いわね、オルフェーヴルさん。
……カレン、大丈夫かしら……?
同室のウマ娘の事が、少し不安になった瞬間であった。
―――――少しして、何処からか可愛い悲鳴が木霊したが、真相は不明である。
「―――とまぁ、美浦は美浦で楽しい所さ!栗東には栗東の良さがあるのは分かるけど、美浦の良さがある、って言うのも言わせて貰うよ!」
「アヤから栗東の話は聞きますけど、やっぱ自分は美浦の生活好きですよ?」
「美浦は、エルコンドルパサーさんがよく話をされていますね。グラスワンダーさんとの事が主に、ですが」
「なるほどなるほど」
部屋はどんな感じか、など案内をして、美浦の案内がもうすぐ終わるという段階。
寮の入口の方へ歩いていると、1人、ウマ娘が見える。
「あ、学園案内の。テイルさん担当なのは予想通りだけど、リギルはディープさんなんだ」
「アタシが急遽寮の案内になってね!こっちになったんだよ」
「あーなるほどー……あ、皆さんどうもどうも!アタシ、アパパネです!」
「『レグルス』のアパパネさんだぁ!!!」
「私ファンです!!!」
「わわっ、ファンの子?ありがとうね!」
―――『レグルス』のアパパネさん。
ティアラ路線3冠ウマ娘にして、『レグルス』のリーダー。
「にしても、授業終わりにしちゃ早くないかい?」
「今日はちょっと早退なんですよ。これから病院行くから」
「―――そっか。右足の屈腱炎」
「そう。ドリームトロフィー行きたいから、今は病院通いなんだ」
屈腱炎。
頸靭帯炎と並び、ウマ娘達を唐突に、理不尽に襲う病。
アパパネさんは、ヒシアマゾンさんが言ったように、右足の屈腱炎でトゥインクルシリーズを諦めている。
屈腱炎にさえならなければ、更に活躍出来ていたのかもしれない。そう言う声も良く聞く。
「テイルさん、学園案内経験数最多継続?」
「狙ってないけど、まぁ記録更新だね」
「このまま学園記録更新頑張ってね!テイルさんは個人的にシンパシー感じてるからさ!」
「あー………うん。記録更新狙うつもりは無いけど、選ばれたら頑張るよ」
「それじゃあ、部屋に戻って準備するから!またねー!!」
手を振って去っていくアパパネさん。
その歩みはゆっくりとしていて、走る事を求めるウマ娘にとっては辛そうだ。
しかし……
「シンパシー、ですか」
「まぁ、私もちょっと感じるんだよね」
「そう、なんですか?」
「うん。私とアパパネさんは、URA史上ただ2組の『GⅠ競争同着判定』を起こしたウマ娘だから」
あぁ、と納得する。
ブラックテイルさんと、アドマイヤベガさん。
アパパネさんと、サンテミリオンさん。
前者2人はダービーで、後者2人はオークスで。
GⅠレースでの同着判定を起こしている。
GⅠ以外のレースでも時折起きているが、GⅠで起きたのは、この2つだけ。
特に、ブラックテイルさんとアドマイヤベガさんのダービーは、URA史上初、という事もあって大きく取り上げられた。
「今でも鮮明に思い出せるよ、あの時の事」
「そう、ですか」
「うん。たぶん、一生―――――いや、来世でも、きっとね」
「?」
「あぁ、うん、何でも無いよ」
最後、ブラックテイルさんが何かを呟いていたような……そんな、気がしたけれど。
本人に否定された事で、それ以上聞く事は出来なかった。
「―――さぁ、始まりました学園案内特別、芝1200m右回り!」
「学園内での投票で選ばれたウマ娘達によって行われる特別レース。勝利を手にし、ウィニングライブのセンターを飾るのはどのウマ娘か!?」
「1番、驀進する王者、サクラバクシンオー!」
「2番、世界に名を轟かす龍王、ロードカナロア!」
「3番、天駆けるが如し、ビコーペガサス!」
「4番、聖剣の切れ味、デュランダル!」
「5番、笑顔が咲き誇る場所へ、オレハマッテルゼ!」
「豪華メンバーによる短距離レース、間もなくスタートします!!!」
「―――感謝ッ!!!急な呼び出しに、しかしすぐ集まってくれた事、ありがとう2人共!!!」
「いえ、理事長からの呼び出しとあれば、直ぐに駆けつけますとも」
まもなく特別レースという時に、私とリラの所へと理事長秘書であるたづなさんが駆け寄って来た。
なんでも理事長から話があるという事で、学園内コースの近く、ある倉庫へと向かった。
帽子をかぶり、頭の上に猫を乗せた少女、秋川理事長の話は続く。
「些か急な話になる。だが、思いついたのがつい先ほどであったため、呼び出した訳なのだが……」
「内容は、なんでしょう?」
「―――提案ッ!!君達に、君達2人に、特別ライブを行って貰いたい!!」
「―――『winning the soul』を、という事ですね?」
「うむっ!!君達2人だからこそ出来る、特別なウィニングライブ!!」
―――この世界において、ウマ娘は前世、前前世の競走馬達の様に、レースを走る。
の、だが……レースを走った後、『ウィニングライブ』というモノを行う。
応援してくれたファンへの感謝を込めて、アイドルの如く歌って踊る。
今生で初めて見聞きしたときは『なんで???』となったが、もう慣れてしまった。
さて、そんなウィニングライブだが。
こと、私とリラのダービー、そしてアパパネさんとサンテミリオンさんのオークスの2レースは大分特別なモノとなっている。
と言うのも、GⅠレースにおける同着、それも牡馬3冠路線と牝馬3冠路線という華々しいレースで発生した同着という事もあり、同レースでのウィニングライブで歌われる曲の扱いに大変困ったのだ。
本来、ウィニングライブで歌い分けをするのは、1着~3着のウマ娘。
ところが、同着が発生すると、1着~3着で4人のウマ娘が居る。
躍る立ち位置、振り付け、歌い分け、全て1から考える必要が現れたのだ。
―――その辺り、機転を利かせてどうにか成功に収めた経験が、私には、リラにはある。
理事長が言っているのは、ダービーでのウィニングライブを、もう1度この場で行って欲しい、という事だろう。
「……アヤ」
「私は大丈夫。あの日の事は、今でも確かに覚えてる。少し時間さえもらえれば、大丈夫」
「うん……理事長。1つだけ、お願いがあります」
「うむ!言ってみると良い!」
「―――テイエムオペラオーと、ナリタトップロード。2人を呼んでください」
「―――良いじゃないか!未来の後輩たちの為に、僕たちにしか出来ないライブを見せてあげようじゃないか!!」
「―――それは、すっごく良いですね!私達にしか出来ないライブ!!」
「助かるよ、2人とも」
「振り付けは、2人は大丈夫よね?」
「私は2着の振り付け」
「僕は3着の振り付け、だね?」
「えぇ……じゃあ、テイル」
「頼むよ、アヤ」
呼び出された2人に確認をして、リラと向き合う。
―――今から行うのは、もしかしたら自分とリラ、幼い頃からずっと一緒に居た2人だからこそ出来る、そういう技。
ウマ娘としてダービーを走ったあの日、レースからウィニングライブまでの僅かな時間でライブ成功へと導く為に行った技だ。
「オペ」
「では……スタートだ」
曲が、流れる。
クラシック3レース、つまり『皐月賞』『ダービー』『菊花賞』の3レースのウィニングライブでのみ歌い踊る事を許された曲が。
曲の最初、左腕を天高く突き上げる動きから、センターを務める1着のウマ娘のダンスが始まる。
―――リラが左腕を突き上げる、それに合わせて、私は右腕を突き上げる。
鏡合わせのように、動かす手足を正規のダンスの逆にして躍る。
これこそが、私達がダービーでウィニングライブを成功させた技。
即興で左右反転のダンスを作り、覚え、2人センターでのダンスを踊り切る。
単純な様で、それでいてセンター2人の連携が大事となる技だ。
ただ左右反転させる、それで終わりじゃない。
どれ位の距離を取るか、相手の歩幅、腕の長さ等を考慮して、その場で合わせる。
そうした事も含めて、レース後からライブまでの短い時間で完全に練り上げた。
それが出来たのは、偏に私とリラの間に、確かな信頼があったからこそ、そう信じている。
「やっぱり、すっごく凄いですね、あの2人は!」
「あの時と同じだね。急な話に関わらず、1発で完璧なシンクロをしている」
―――周りの声など、気にしない。気にならない。
今この瞬間は、リラの事だけを見つめ、彼女に合わせる、それだけに注力する。
ほんの些細な動きすら見逃さず、身長や四肢の長さの違い以外、つまり腕の角度など、同じに出来る所は同じになるように。
勿論、私だけが合わせにいっている訳じゃ無い。
リラもまた、私に合わせる為に動いてくれる。
互いに相手の動きに合わせに行く。
「あれは、どうやっているんでしょうね?」
「互いを想い合っている、だからこそ出来る技さ」
「だとしても、その……オペラオーさん、真似出来ますか?」
「―――難しい、と言わせて貰おうかな」
まだ、まだ合わせられる。
リラもそう思ってくれているのが、視線で、たった1度のダンスからは想像出来ない程の汗の量で分かる。
そうだ、もっと、もっと高めあえる―――!!!
豪華なメンバーによる、この場でしか見る事の出来ないようなレース。
勝者をセンターに踊られる、素晴らしいライブ。
「―――オレハマッテルゼ、『笑顔を見せて』の見事なウィニングライブでした!皆さま、拍手をお願いします!!!」
2分にも満たない激闘の1200m、そしてこのウィニングライブ。
これを見れた、それだけで一生自慢できそうだ。
満足感に包まれた、ライブ終わり。
「さぁ特別イベントを終えて、この学園案内も終わりが……おっと、失礼。はい、たづなさん?どうかされました?」
名残惜しい、そう感じていた時に、何かが実況席で起きているのが聞こえる。
「はい、はい……えっ、それ本当ですか!?あのライブを!?」
実況を務められているウマ娘さんがとても驚いている。
一体、何が起きるのだろうか。
「皆さま、ここで急遽、特別ライブの開催が決まりました!!」
特別ライブ?
一体、それはどんな―――
「語るより、これは本物を見て欲しい!もう再現する事が二度と叶わない、『あの』ウィニングライブが、この日の為に、あの時のメンバーで、行われます!!!」
―――曲が、流れてくる。
クラシック3冠、『皐月賞』『ダービー』『菊花賞』の3レースのウィニングライブでのみ、歌い踊る事を許された曲が。
そして、ステージ上に映る人物。
―――『4人』の、ウマ娘。
―――『2人』の、センター。
「テイエムオペラオー、ナリタトップロード、アドマイヤベガ、ブラックテイル!!『4人』による『winning the soul』です!!!」
スポットライトで照らされる、センターの2人。
―――かつて、『奇跡の一戦』と呼ばれたクラシックレースがある。
それは、URA史上初めての、GⅠレースで起きた、1位同着のレース。
同着の2人が、ほんのわずかな時間で決め、仕上げた、最高のライブ。
鏡合わせの様に、左右反転した、シンクロした動きで踊る2人。
「光の速さで 駆け抜ける衝動は」
「何を犠牲にしても 叶えたい強さの覚悟!」
本来、3人で歌い分ける曲。
しかし、話し合いの末、そのライブでは2人で歌い分けたという。
『―――あの日、あの時、あの瞬間。最後の1ハロン、まさしく2人だけのレースだった』とは、誰の言葉だったか。
死力を振り絞った、1ハロンにも及ぶデッドヒート。それを讃え、2人に、2人だけに歌って貰う事になった、そう聞く。
「一度きりの」
「この瞬間に」
「「賭けてみろ!!自分を信じて!!」」
身長差、手足の長さの違い、様々な要素がある。
―――なのに、どうしてだろう。
2人の動きが、調和しているのが、一目で分かる。
「時には運だって 必要と言うのなら」
「宿命の旋律も 引き寄せてみせよう」
4人、ステージに立っている。
―――なのに、どうしてだろう。
私の目に、私達観客の目には、2人しか映っていなかった。
「「走れ!!今を!!まだ終われない!!」」
「「辿り着きたい場所があるから!!その先へと!!進め!!」」
観客の瞳を、そして記憶すら、独占してしまう。
これが、これこそが―――
「涙さえも!!強く胸に抱きしめ!!」
「そこから始まるストーリー」
「「果てしなく続くwinning the soul!!」」
―――『奇跡のウィニングライブ』
「「掴め!!今を!!変えたいなら!!」」
「描いた夢を 未来に掲げ!!」
「恐れないで 挑め!!」
URA史に刻まれた、史上初のライブ。
「「走れ!!今を!!まだ終われない!!」」
「「辿り着きたい場所があるから!!その先へと!!進め!!」」
誰にも真似出来ない。
この2人だからこそ出来たライブ。
「涙さえも!!強く胸に抱きしめ!!」
「そこから始まるストーリー」
「「果てしなく続くwinning the soul!!」」
―――私も、いつか、誰かの、みんなの記憶に残るような、そんな走りを、ライブを―――
「―――ねぇ、お母さん」
「何かしら?」
「私ね。トレセン学園、行きたい。今日の学園案内で、改めて思ったんだ」
「……そっか。なら、もっと頑張らないとね―――『アーモンドアイ』」
チーム『レグルス』:鞍上E氏が勤めた競走馬で構成。
ふと思った、『ウィニングライブに参加する、特に歌を歌うウマ娘の中で同着が起きたらどうなるんだろう?』という個人的な疑問。
それに対しての考えを纏めるのに時間がかかりました。
同着を想定した練習なんてするだろうか?など考えた結果、この様な形になりました。
『いやこうだろう』など思う所はあるかもしれませんが、本作ではこう、という事でどうかお許しを……(土下座
次回からは競走馬編に戻ります。