黒き馬、世紀末を駆ける   作:馬券童貞は東京優駿に捧げた男

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仕事で死んでおりましたが、何とか投稿までたどり着きました。
営業の皆様は現場職の処理能力を考えて契約とかを取って貰えないだろうか……

今回はウマ娘回、ブラックテイル産駒達の紹介が主な内容となります。



ウマ娘編第9話 『広がる【黒】』

『アルタイルの後輩がデビューするので、レースを見に行きます。土日は北海道に遠征するので、何かありましたらトークアプリやメール、電話での連絡をお願いします』

 

そう告げてブラックテイルが離れたトレセン学園。

どこか寂しそうなアドマイヤベガやマンハッタンカフェが溜息を吐く姿が見受けられる、朝の食堂。

そんな中で、1人のウマ娘が辺りを見渡す。

 

「―――お姉様はエアグルーヴ先輩と話してるから、あんまり邪魔しない方が良い、よね。どうしよう……」

 

左耳に星の飾りを付けたウマ娘。

その視線の先には、『女帝』エアグルーヴと談笑するウマ娘――メジロドーベルの姿があった。

そんな彼女の背中が、ポンと叩かれる。

 

「―――よぉ『ラスぺルバ』!一緒に食べないか!」

「あ、ウオッカ、それにスカーレットも……えぇ、じゃあ一緒に」

「もう、通路にずっと立ってると他の人の邪魔になるわよ!あっちの席空いてるから、行きましょ!」

 

ウオッカ、そしてダイワスカーレット。

口喧嘩のあまり絶えない、しかし互いにライバルと認め合う2人。

そんな2人と共にウマ娘――『メジロラスぺルバ』が歩き始める。

 

「誰の事見てたんだ?」

「あ、その……お姉様を見つけたから、良ければ一緒にと思って。でも、エアグルーヴ先輩と話しているみたいだったから」

「ンだよ、声かければ良いじゃんか。『一緒に食べても良いですか』って」

「ラスぺルバはドーベル先輩の事を敬愛して尊敬してるんだから、邪魔しちゃいけないって考えたんでしょ?」

「う、うん……お姉様は、幼い頃からずっと敬愛してる、大切な人だから」

 

そう語るラスぺルバの脳裏には、今でも1つの光景が焼き付いている。

―――羊蹄山の麓、メジロ家に、彼の『メジロラモーヌ』以来のオークスレイを持ち帰った、メジロドーベルの雄姿が。

誰よりも輝いて見えた、その背中が。

今でも鮮明に思い出せる程に、記憶に刻まれている。

 

「ウオッカだって、もしもギムレット先輩がシリウス先輩と話してる所を見ても、割り込みにくいでしょ?そういうものよ」

「ン、そっか、そう言われるとまぁ納得だな」

 

そんな事を話しながら歩く3人。

そんな3人の前を、1人のウマ娘が横切る。

左耳にリボンを付けたウマ娘―――しかし、最も目立つ特徴はそこではなく。

3人が全員、かなり下の方を見ないと目を合わせられない程、小さなウマ娘であった。

 

「あ、おはよう、『アマービレ』」

「おはよう、ラスぺルバ。そしておはようございます、スカーレット、ウオッカ」

「よっ!おはよう!」

「おはようございます!アマービレもこれから朝食?」

「えぇ。でもカワカミやプリキュアと食べるから」

 

メジロアマービレ、それが彼女の名。

身体は小さく、小ささでトレセン学園内でも有名なニシノフラワーに並ぶ程。

しかし、彼女も立派なメジロ家のウマ娘であり―――

 

「―――お姉様方に憧れ、敬愛し、尊敬する気持ちは分かるけど……それだけでは駄目。分かっているでしょう?」

「―――うん、分かってる」

「私達は私達なりに、メジロのウマ娘としてやれることをやる……お互いに、ね?」

「うん」

「まぁ、貴方ならやれるわよ、きっとね……それじゃあ」

 

―――何処までも気高く、真面目な『メジロのウマ娘』であった。

 

「―――あの子の『愛』は、どう花開くのかしらね?」

「ッ……急に後ろから声をかけられると、流石に驚きます……ラモーヌさん」

「あら、ごめんなさいね?」

 

離れていく小さな背中を、どこか愛おしそうに見送るメジロラモーヌ。

伝説的な存在の登場に沸き立つ周囲を他所に、2人が話す。

 

「ラスぺルバ、そしてアマービレ……貴方達が目指しているのは、ティアラ路線。気にしないと言えば嘘になるわ」

「……史上初のティアラ三冠ウマ娘、ですからね」

「私の歩んだ道を辿ろうとする、可愛らしいメジロの後輩達……特にアマービレは、不思議な『縁』を感じているの。そうね、アルダンと似ているようで、少し違う……言葉に出来ない、不思議な『縁』」

「えぇ、知っています。貴方がアマービレを大事にされているのは」

 

微笑むメジロラモーヌが、しかし次の瞬間には真剣な表情を浮かべる。

 

「―――不思議な予感がするの、貴方達2人には」

「えっ?」

「『きっと、メジロに新たな風を吹き込んでくれる』……そんな、曖昧で、根拠もない予感。けれど、確かに感じているの」

 

ラスぺルバに対しそう告げると、クルリと背を向ける。

 

「―――頑張りなさい、ラスぺルバ」

「―――はい」

 

ラスぺルバの力強い返事に満足したのか、少し楽しそうな雰囲気を纏って去っていくメジロラモーヌ。

そんな彼女の背中を、ラスぺルバはじっと見る。

 

(―――そう、私が目指すのはお姉ちゃんやラモーヌさんと同じティアラ路線。そして、たぶんだけど……競い合う相手は、ウオッカやスカーレット達、だと思う)

 

直感めいたものだが、ラスぺルバは『デビュー時期がウオッカとスカーレットと被るだろう』と感じていた。

豪脚を以て相手を抜き去る走りを得意とするウオッカ、安定した先行力で他を捻じ伏せるスカーレット……間違いなく強敵になるだろう、とも感じている。

 

(だとしても、私は諦めない。どれだけ同期が、前後の世代が強くても、私は諦めたりしない)

(―――『あの人』のように、私は全力を尽くすだけ)

 

脳裏を過るのは、『メジロの至宝』メジロラモーヌでも、敬愛する姉であるメジロドーベルでもない、1人のウマ娘の姿。

同時期に実力者が多数存在する中、1レース1レースを全力で走り抜けた、『漆黒』のウマ娘。

メジロドーベルに感じているソレと似ているようで、どこか違う、不思議な『縁』を感じる存在―――

 

(―――『ブラックテイル』先輩、貴方の様に)

 

 

 

―――トレセン学園内のコースで、1人のウマ娘が駆け抜ける。

コーナリングを重視したやや細やかな足運びから、直線に変わった瞬間に広いストライドへ。

力強い踏み込みで、やや荒れた内ラチ沿いを踏み均すかのように駆け抜けていく。

何時の間にか定着している、ゴール板代わりのヒシアマゾン看板の前を通り過ぎ、暫く流して。

漸く止まったそのウマ娘に、1人、別のウマ娘が近寄る。

 

「―――お疲れ様。良い走りだったね」

「フゥ……あ、ありがとうございます」

 

葦毛のウマ娘の言葉に、青鹿毛のウマ娘が反応する。

 

「コーナリング、上手くなったね」

「『先輩』の走りを、ずっと見てますから」

「そうね、『あの人』の走り、見てきたものね」

「はい」

 

青鹿毛のウマ娘の左耳、そこに付けられたアクセサリーが揺れる。

 

「目を閉じれば、今でも鮮明に浮かび上がるんです……『先輩』の走ったレース、その全てが」

「力強く、出来る全てを全力でやって駆け抜けるあの人の背中が」

 

キラキラと、青い瞳を輝かせて、楽しそうに語るウマ娘。

そんな彼女を見て、葦毛のウマ娘が微笑む。

 

「フフッ……貴方が楽しそうだと、私も嬉しいわ……あの人が褒められることも、嬉しい」

「ホント、『先輩』の事好きですよね、貴方は」

「―――えぇ、勿論」

 

うっとりと、頬を赤らめる葦毛のウマ娘。

 

「あの人を見ると、胸の奥から想いが溢れて止まらないの。愛おしくて、愛おしくて、堪らない……始めて見たその時に確信したの、『運命の人』だ、って……この人に合う為に、この人と共に過ごすために生きて来たんだ、って……そう、『魂』が叫ぶの」

「なんというか、まぁ……そう思える位の相手と出会えて良かったですね、ホント」

「えぇ、えぇ、きっとそうね……あの人と出会って、全てが変わったもの」

 

まさしく『恋する乙女』、艶めかしさすら感じる表情で語られるその言葉。

それを聞きながら、青鹿毛のウマ娘は考える。

 

(『運命の人』、か……少し違うけど、確かに『先輩』には何かを感じるんだよね…)

(目の前のこの人に対して抱いてるソレと同じ、何かを……)

 

―――『運命的なモノ』、という言葉がウマ娘達の間で囁かれる時がある。

不思議な繋がり、奇妙な縁などと言いかえられるだろうか。

ある特定のウマ娘に対して、不思議とそう感じてしまう、そう言った類のモノ。

青鹿毛の少女がそう言った縁を感じるウマ娘は、2人。

1人は目の前に居る葦毛のウマ娘。

そして、もう1人は―――今はこの場に居ない。

しかし、目を閉じれば、刻み込まれた姿が脳裏に浮かぶ。

敬愛し、目標としている、青毛のウマ娘―――

 

「―――『ブラックテイル』先輩。いつか、貴方みたいに……」

「フフッ、闘志に燃えた、素敵な眼……頑張ってね、『グラスミッドナイト』」

「はいっ!」

 

 

 

「―――ミーティングがあると言ってあっただろう、バカ者めっ!」

「―――ゴメンゴメン、ほんとゴメンってエア(ねぇ)!テスト勉強頑張ってたら時間すっかり忘れちゃって!!」

「自分なりに勉強していたのは褒めてやる、だがそれとこれは別だ!」

「ヒーン!」

 

―――チーム『リギル』のチームミーティングが行われる部屋へ向けて、並んで歩く2人。

1人は鹿毛のウマ娘。赤のアイシャドウが目立つ、『女帝』の異名を持つウマ娘、エアグルーヴ。

そしてそんな彼女に謝り倒すもう1人のウマ娘。

青鹿毛の髪を靡かせる、健康的な色合いに日焼けした肌の少女。

チリン、と左耳に付けた耳飾りが揺れる。

 

「まったく……お前が憧れと公言する『アイツ』を見習え。時間厳守、むしろ先に着いて事前準備を率先して行うくらいの気概をだな……」

「ウグッ……それを言われると……」

「……ハァ。まぁ、今回は悪気は無かったのは認めてやる。次から気を付けろ」

「ハーイ!優しいエア姉だーいすき!!」

「こ、こらっ!抱き付くなバカ者め!!」

 

甘えてくるウマ娘を、エアグルーヴは口では否定するもあまり強く引きはがそうとはしない。

自分にも他人にも厳しい自覚がある彼女にしては、少し珍しい光景。

 

「……エア姉、エア姉」

「どうした?」

「……寂しい?『あの人』が居なくて」

「ッ、なッ、何を根拠にそんな事ッ!?」

「図星ィ?」

 

ニンマリと笑う少女に、しかしエアグルーヴは強く言い返せない。

拳骨でも振らせようかを拳を握るが、少しして力を緩めた。

 

「……少し、だがな」

「あ、認めるんだソコ」

「ま、まぁ、な。『アイツ』には普段から世話になっているし、良く話をする仲ではある。偶にだが生徒会の仕事も手伝って貰っているし、会長を休ませるために協力を仰ぐこともある。花壇の世話も手伝ってくれるし……そう言った相手が居ない分、少し、少し寂しさを感じるというのは認めざるを得ん」

「ふぅ~ん……へぇ~……」

「何だ?」

「べっつにぃ~……エヘヘ、何でも無いよっ!」

 

『やけに饒舌だし、少し頬を染めてるし、目つきも優しいじゃん』と言う言葉を飲み込んで、青鹿毛のウマ娘がエアグルーヴから離れる。

 

「ねぇねぇエア姉!『あの人』が戻って来たらぁ、3人でショッピングとか行かない?」

「む……『アイツ』とお前と、そして私か?」

「そうそう!この間タルちゃんから聞いたんだけど、府中で北海道フェアやるお店があるんだって!そこ行ってみたいんだぁ」

「タル……ホッコータルマエか。彼女の情報なら確かなのだろうが、それこそホッコータルマエと行ったりはしないのか?」

「私はエア姉と行きたいの!それに『あの人』とも!」

 

エアグルーヴの、苫小牧観光大使にまで任命されているウマ娘の事を思い出しながらの言葉を、しかし青鹿毛のウマ娘は明確に否定する。

確かに教えて貰ったのはホッコータルマエからだが、行きたいのはエアグルーヴと、そして『あの人』と呼ぶウマ娘なのだ、と。

 

「まぁそれに、シーナは何時も通り姉妹で行くって言ってたし、ゴルシとジャスは行動読めないし、ドンナはストレイトと行くみたいだし……偶々世代の子と予定が噛み合わないっていうのもあってぇ……」

 

『シーナ居なかったらヴィブちゃんと行くのも考えたけどー』とブツブツ言い始めた少女の頭を、エアグルーヴが優しく撫でる。

 

「―――分かった。『アイツ』の予定を聞いて、行けそうだったら、だがな?」

「良いの!?」

「まぁ、偶に息抜きするのも悪くないし……『アイツ』と出かけるというのも、まぁ、楽しみでは無いと言ったら、嘘になってしまうからな」

「エア姉ありがとー!」

「あ、あくまで『アイツ』の予定が合ったら、だぞ!?」

「きっと合わせてくれるよ!!」

 

上機嫌に笑いながら、青鹿毛のウマ娘が言う。

 

「じゃ、一緒に行こうね、エア姉!」

「……あぁ、分かった。じゃあまずは目の前の事から進めていかないとな―――『グルーヴトゥナイト』」

「はーい!」

 

 

 

 

「―――ロン、七対子ドラ4、ってところだな」

「うぇ、マジかよ……トんだわ」

「よーし終わり、っと。おいフェス、トんで最下位になったからには―――」

「分かってるさ、ホラこれだ」

「へへっ、サンキュッ」

 

ウマ娘達の寮、ある一室。

空き部屋であるソコを、複数のウマ娘達が連名で寮長に掛け合い使っている『遊戯室』。

そこで麻雀に興じている、4人のウマ娘が居た。

 

ニット帽をかぶったウマ娘、ナカヤマフェスタが勝者であるウマ娘に棒付きのキャンディーを手渡す。

 

「よーし、フェスをトバして勝つのがやっぱ一番『美味い』からな今回は」

「ンだよぉ、ゴルシちゃんが持ってきたお菓子が気に喰わねーってのかぁ!?」

「いや気に喰わないと言うか、単純に『マズい』んですよシップ―――メジロマックイーン嬢の秘蔵プリンなんて、食べたとばれたらどうなるか……」

「あぁ、あのメジロマックイーンの秘蔵の一品、しかも今日食事制限期間が明ける、本当に待ち望んでいたデザートだ……ゴルシをトバした奴がこれを食べる、食べないといけない……!!」

「あの高貴なる葦毛の君に怒られるというのも一興かもしれませんが、流石に命の危機すら感じますね……」

「お、あのジャスが葦毛を前に理性が働く、か……」

 

ツウッ、と『ジャス』と呼ばれたウマ娘の頬を汗が流れていく。

―――メジロマックイーン、『ターフの名優』と謳われるメジロ家の才女。

『強すぎて退屈』とまで言われる、スタミナと先行力で相手をすり潰すその姿は恐ろしさすら感じる……のだが。

些か以上に太りやすい体質だが本人はスイーツが大好物という問題を抱えており、時折周囲の協力の下、減量や食事制限を自らに課す事がある。

そして今日が今の食事制限最終日であり、ゴールドシップがこの賭け麻雀の舞台に持ってきたのはメジロマックイーンが食事制限明けの自分へのご褒美に用意したプリンであった。

 

―――『何故メジロマックイーン秘蔵のプリンの場所等をゴールドシップが知っているのか』、『どうしてそれをこの場に持ってきているのか』、という当然の疑問はゴールドシップ相手には通用しない。

ゴールドシップというウマ娘に常識は通用しない、そう言うモノであった。

 

「で、フェスが棒付きキャンディー、ジャスがドン○のバラエティパック、で、オレが手作りのクッキーと……なぁ、オレのヤツだけコスト高くない?」

「だから真面目にお前から巻き上げようとしてるんだよ、お前の手作り菓子美味いから」

「そうですね、貴方からするとシップ以外から狙うしかありませんが、私やフェスタからすると貴方を狙うのが一番良いんですよ」

「ジャスのバラエティパックも悪くないんだけどなー、今回スナック菓子だろ?ちょっと気分じゃ無い」

「私も今は棒付きキャンディの気分じゃないのでね」

「あたしもクッキー喰いてぇ」

「お前ら……」

 

ジーッと、3人がクッキーの入った袋を見る。

そんな3人を見て、クッキーも作って来たウマ娘―――青鹿毛の髪と、右耳に耳飾りを付けたウマ娘が、『ハァ』と溜息を零した後、獰猛な笑みを浮かべる。

 

「……ま、いいさ。取れるなら取ってみな、簡単にはくれてやらねぇがな」

「アウェー戦はお前の土俵だが……巻き上げてやるからな、『セレナ』……!」

 

ナカヤマフェスタの宣言に、セレナと呼ばれたウマ娘―――『グラスセレナーデ』が笑う。

 

「こっちのセリフだぞフェス!次もオレがお前を飛ばして巻き上げてやっからなぁ!!」

「よーし次やるぞ次!セレナのクッキーは絶対貰う!」

「盛り上がってる所申し訳ありませんが、次は私が勝たせて貰いますよ」

「―――よーし、ゴルシちゃんをわざと飛ばさせてやっから待ってろよぉ~」

「「「 止めろ、マジで 」」」

 

―――この後、何処からか噂を聞いたマックイーンの手によってゴールドシップが〆られるまで、4人の麻雀は終わる事は無かった。

 

 

 

「―――ヘックチュッ!!」

『―――風邪か?』

【あぁゴメンね、ちょっと鼻がムズムズしただけ……気にしないで】

『そうか、それなら良いんだが……長話も丁度良い区切りのタイミングだ、今日はこれまでにしよう』

【あぁ、もう10分以上話してたのか】

『すまないな、君と話す機会を得られると、つい長くなってしまう』

【気にしないでよ、君と話をするのは好きだよ、モンジュー】

『―――そう、か。そう言ってくれると助かるよ、テイル。君と直接会うのが楽しみだ』

 

―――トレセン学園から遠く、遠く離れた北の地で。

1人のウマ娘が、電話先の相手と談笑を楽しんでいる。

 

【今度、こっちに来るんだっけか】

『あぁ、日本で走ってみたいと言う後輩が居てな。現地を良く知っていて、日本語も話せる私が同行する事になっている……ジャパンカップを、目指しているそうだ』

【へぇ、ジャパンカップを】

『私と君、スペシャルウィークやグラスワンダーが走ったあのレース、あれを見て、憧れてくれたそうだ……嬉しいモノだ』

【それは嬉しいね……日程とか決まったら、教えてよ。エルさん達も呼ぶから、一緒に食事でも】

『それは良いな……うん、それは魅力的な提案だ。正式に決まったら、真っ先に君に教えるよ。私の後輩は、特に君と私に憧れたと言ってくれているからね』

【―――それは、光栄だね】

 

電話で使われるのは日本語ではなく、とても流暢なフランス語。

近くを通る人たちが耳を傾けても、内容を理解出来るものは誰もおらず。

だからこそ、好きに通話相手と会話を続ける。

 

『君さえ良ければ、私とその子、そして君の3人で出かけたりもしないか?』

【良いのかい?】

『異国の友と過ごせる数少ないチャンスなんだ……それで、どうかな?』

【喜んで君の提案を受けさせて貰うよ、モンジュー。何処か行ってみたい場所があれば、事前に調べておくけれど】

『そうだな、後輩に確認を取っておくよ……それじゃあ、また今度』

【うん、また今度】

 

電話を終えたウマ娘―――ブラックテイルのもとへ、1人のウマ娘が近付いて来る。

青鹿毛の髪を靡かせて近づく、右耳に耳飾りを付けたウマ娘。

 

「―――先輩。今、大丈夫ですか?」

「うん、電話は今終わったところだから大丈夫」

「……色々教えて貰って、あれなんですけれど……最後に、何かアドバイスとか貰えたらな、って思いまして」

 

ブラックテイルより僅かに背が低いだろうそのウマ娘の瞳に、僅かに迷いや戸惑いの色を感じて。

ブラックテイルは、真剣に耳を傾ける。

 

「技術とか、そういうアドバイスじゃないんです」

「これから、私はレースを走ります。チーム『アルタイル』の新人として、少し期待されて、私は走る」

「―――期待を裏切りたくない。レースに勝って、期待に応えたい。レースを見てくれる人たちを楽しませたい」

「―――それが出来なかったら、って、そう考えると……少し、怖い」

 

僅かに震えが混じった声で、言葉が紡がれる。

それを、ブラックテイルは無言で受け止める。

 

「―――先輩は、こういう時って、ありましたか?」

「あったら、どう乗り越えて来ましたか……?」

「それが、知りたくて……そうしたら、少しは、参考に出来るかな、って……そう、思って」

 

全て吐き出したのか、俯いたまま固まってしまった目の前のウマ娘の頭を、ブラックテイルが優しく撫でる。

ビクリと身体を震わせたウマ娘、それを気にせずブラックテイルが口を開く。

 

「―――君は、優しいね。細かな気配りが出来る、良い子だ」

「質問に答えるなら、『そういう時はあった』、かな。期待を裏切りたくない、期待や声援に応えたい、そう思う事は沢山ある」

 

ブラックテイルが、撫でる手を止めずに、優しく語る。

 

「そして、どう乗り越えたか、だったね……これは、グラスさんにも言った事がある言葉を、君に送ろうか」

「『精神一到、何事か成らざらん』。どんなに困難な事でも、それに対して精神を集中して取り組めば成し遂げられる、って意味」

「色々考えてしまう事があったとしても、一度頭から切り離して、今はただ、レースに集中して見るんだ」

「―――私達は、走る事を期待されてるんだからね。だから、今はただ、走る事に集中して」

「走る事は、そのレースを走っている時にしか出来ない。レースについてのあれこれを考える事は、レースの後でも出来るから、後回しにしちゃおうか」

 

どこか夢見心地な雰囲気で、ブラックテイルの言葉を聞くウマ娘。

 

「君のレースは、君だけの……君と、君と一緒に走るウマ娘達だけのモノ。一生に一度だけの、特別なモノ。だから、レースの1つ1つを、楽しんできて」

「―――はい」

「よし、いい返事だ」

 

最後にポンポンと頭を軽く叩いて、ブラックテイルが離れる。

「あ…」と、少し寂しそうな、悲しそうな声が聞こえたのを、意図的に無視してブラックテイルが話す。

 

「さ、行っておいで。これから、このレースから、君だけの物語が始まるんだ」

「―――はい、行ってきます!」

 

手を振りながらコースへと向かうウマ娘に手を振って、見えなくなるまで見送り。

ウマ娘の姿が見えなくなったのを確認してから、ブラックテイルが大きな溜息を吐き出す。

 

「―――ハァッ……多分、あの子……うん、一部のウマ娘と同じ感覚を感じたなぁ」

「運命的な何か、って言うんだっけか……ルドルフがトウカイテイオーに感じていたように、ライアンさんがメジロドーベルさんに感じていたように、きっと『そう』なんだろうね」

「―――『俺』の子供、その生まれ変わり達、か」

 

ウマ娘達の間で囁かれる、『運命的な何か』の正体。

それについて、ブラックテイルはある程度の目星をつけていた。

―――前世の血縁、産駒達である、と。

 

「前世だと直接見てあげられなかったからなぁ、やっぱ今生は出来る限り見てあげたいよね……親らしいことも、少しくらいはしてあげたいかな」

 

『競走馬の生態というかそういうアレのせいではあるけど、薄情な父で済まない』と呟きながら、関係者席へと向かう。

 

「―――前世の我が子達よ、君達の今生に、幸あれ……なんて祈るのは、烏滸がましい事だな」

「―――前前世は年齢イコール彼女居ない歴のただの会社員、前世は子を直接見る事叶わないサラブレッド、今生は精神的に男性のウマ娘。歪過ぎる生を歩んできた私には、君達は眩しすぎる」

 

―――吐き捨てるかのように言い切った言葉。

誰も、アドマイヤベガですら見た事が無い程に冷たい表情で、自分を『歪』と言い切って。

ブラックテイルは、少し重い足取りで関係者席へと歩いて行った。




ブラックテイル産駒達の物語―――そして、ブラックテイルの、ブラックテイルとなった『彼』の内心の一端。
自分が異質だと分かっている『彼』の本心、その一端。

次回は競走馬回になります。
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