黒き馬、世紀末を駆ける 作:馬券童貞は東京優駿に捧げた男
ギャグ回と言っていたな……あれは嘘だ(土下座)
最初はギャグ回のつもりでしたが、書いてるうちにいろいろ筆が走ってしまい……
気が付いたらギャグとはかけ離れた内容になっていました。本当に申し訳ない。
今回はウマ娘編、ブラックテイルがデビューする前のどこかの時間軸です。
「―――朝」
ピピッ、ピピッ、という周期的な電子音。
アラームで目が覚めて、私はモゾモゾと布団から出る。
少し肌寒い風が吹くようになってきた、ある日の朝。
ベッドの上で軽く『伸び』をして、立ち上がって―――違和感を覚える。
なんか、変……そんな気がして、首を傾げながら、部屋を見渡そうとして……そこで、違和感に気が付いた。
「……………テイル?」
同室の、とっても大事なルームメイトの名前を呼ぶ。
違和感は、彼女のベッドから。
私の知っている彼女が包まっているにしては、その掛布団の膨らみが小さい気がした。
「テイル……?」
返事も無く、ピクリとも動かない。
いや、元から彼女は寝相がすごく良いし、寝息もすごく静かだけれど。
なんだか、嫌な予感がして、少し申し訳ないけれど、布団を剥がす事にする。
「テイ、ル………………え?」
思わず、目を見開いた。
だって、掛布団を剥がしたそこに居たのは、いつものルームメイトじゃなくて。
どこか面影を感じるけれど、余りにも小さい、ウマ娘の少女が、そこにいて。
「ン、ンン……寒い……………」
ぶかぶかの寝間着の中で、小さなウマ娘が、うっすらと目を開いて。
私を見て、目を見開いて。
「……………え、っと………ど、どちらさまでしょう、か……?」
思わず頭の中がフリーズしてしまうような衝撃を受けて、それでも何とか言葉を紡ぐ。
「わ、私は、ハッピーミーク……あなた、は?」
「えっと……ブラックテイル、です」
「………テイ、ル?ルームメイトの、テイル……?」
「え、ルームメイト……?ど、どういう事、ですか?」
―――どうしよう、今度こそフリーズしそう。
少なくとも、私にはこの状況が全く分からない。
誰か、誰かに助けを―――あ、そうだ。
「ちょっと待ってね」
「え、あ、はい……」
ポチポチとスマホを弄り、ある人に電話。
きっと彼女なら起きてる―――あ、繋がった。
『ハッピーミークさん?珍しいわね、貴方が私に連絡なんて―――』
「テイルの件で緊急事態、急いで部屋まで来て欲しい」
『―――分かったわ。すぐに向かう』
「ん、お願い」
テイルの事になれば、『彼女』は協力してくれる。
その判断は、正しかったらしい。
「―――テイルに、何が?」
「見てもらった方が、早いと思う……私も、よく分かってないから」
「……中に、入るわね」
目の前のウマ娘、ハッピーミークさんが頷くのを見て、部屋に入らせてもらう。
緊急事態、とまで言っていたが、一体何が――――――
「え、あれ、えっとぉ……」
―――どう、して。
だって、え、あれ?なんで?
目の前に居るのは、ハッピーミークさんのルームメイト……私の大事な、最愛の友人の、はず。
いや、分かる。目の前に居るのは、家族同然の大親友、『ブラックテイル』。
ただ、どうして―――――
「―――クロ」
「―――その呼び方、は……リラ!?」
―――どうして、小学生低学年の頃の姿をしているの???
ぶかぶかの寝間着―――いや、クロが普段使っていた寝間着なのだけど、推定小学2年生くらいのクロにとってはあまりにも大きすぎてぶかぶかになっているだけ―――に苦労しながら、ずり落ちないように抑えながらトテトテと歩いてくるクロを、思わず抱きしめる。
「クロ……クロ、なのよね?」
「リラ、なんだよね?どうしてそんなに大きくなって……」
「うぅん、違う、違うの……きっと、逆なの」
「逆、って……私が小さくなってる、って事?」
「うん、そうよ。私、貴方と一緒に入学して、もう高等部になったのよ……だから、貴方が幼くなってる、きっとそう」
幼いクロを抱きしめて、とりあえずベッドの上に座らせる。
ついでにササッと適当な上着を羽織らせて、寝間着がずり落ちて色々さらけ出さないようにしてあげる。
「うーん……にわかには信じられないけれど……リラの言う事だ、きっとそうなんだろうね……」
「信じて、くれるの?」
「リラは、私に嘘をつくの?」
「……本当に必要な時は、つくかも、しれないけれど……」
「今はその時じゃない、でしょ?」
「……ありがとう、クロ」
「どういたしまして、リラ」
―――あぁ、変わらないな、クロは。
優しくて、賢くて―――私の事を、どこまでも信じてくれる。
姿は変わっても、彼女は、やっぱり、私の大切な人なのだ。
「えっと、それで……ハッピーミークさん、貴方がえっと、小さくなる前の私のルームメイトって事なんだね」
「うん……昨日の夜、寝る前までは、テイルは大きかった。朝、目が覚めたら、テイルが小さくなってた」
「そうなんだ……うーん私が高等部まで育った後、か……ふーむ……」
顎に手を当てて、色々考えてるみたい。
―――かわいい。
おっとイケないイケない、今は真面目に考えないと。
「クロ、貴方の記憶は……」
「うーんと……ちょっと前にリラと、夜空の下で『約束事』をした、って言えば―――」
「―――分かった。その辺りの頃の貴方なのね」
どの頃のクロなのか、とりあえず把握した。
星空の下、誓いを立てた、あの頃のクロ。
だとすると、随分と前で―――どうして、そんなに幼くなってしまったのか。
「ハッピーミークさん。昨日のクロ……テイルは、何か変わった事とかしてなかった?」
「テイルが、変わったこと……1つだけ?」
「何かしら」
「―――アグネスタキオンが部屋に来て、お茶してた、って言ってた」
「―――怪しいわね。直接捕まえてくるわ」
「カフェさんも呼ぼう。たぶん協力してくれる」
「クロ、ちょっと待っててね。元凶と思しきヤツを捕まえてくるから」
「え、あ、うん……行ってらっしゃい」
ハッピーミークさんの言葉で、即座に部屋を出る。
アグネスタキオン―――学園屈指の問題児の1人、マッドサイエンティスト。
彼女とクロがお茶をする、というのは、実は少なくないのだけれど。
こんな怪奇現象の前に、となると……怪しい、怪しすぎる。
捕まえて、話を聞かないと。
「アグネスタキオンに、カフェ……マンハッタンカフェの事か?」
「サンデー産駒の後輩達、ねぇ……『スタリオン』じゃぁ可愛い後輩だったけど、今生どうなってるのやら……」
「ていうかリラ、すっごい美人に育ってるじゃん……ダメダメドキドキするな彼女はリラ彼女はリラ前世の親友前世の親友馬馬馬馬馬馬馬馬思い出せ思い出せ前世のリラは馬前世のリラは馬前世も同性今生も同性……………よし、少し落ち着いてきた。牡馬の頃のリラを思い出せば落ち着ける」
「―――いやぁ、本当に、本当に申し訳ない。信じてもらえるかどうかは別として、私から言わせてもらいたいのだが、今回の件は確かに原因は私にあるが意図して起こしたものではなく事故によるものだ」
「事故、ですか」
「あのーマンハッタンカフェさんどうして私を膝の上に座らせているんでしょう?」
「すみません、余りに可愛かったもので、つい」
膝の上にクロを乗っけた状態で、マンハッタンカフェさんがアグネスタキオンを睨みつける。
視線で射殺す、と言わんばかりの絶対零度の視線を、少し冷や汗をかきながらもアグネスタキオンは冷静に受け流す。
「まず結論から言おう。今回ブラックテイル君に起きている現象は私の開発した薬によるものだ。怪我の治療に使うことを想定して作った薬なのだが、いわゆる『若返り』のような薬が出来てしまってねぇ……マウス実験の結果から考えるに、1日・2日くらいで元に戻ると思うよ。偶然に偶然が重なって出来た、現状再現不可能な薬なのだが、余りの効果の凶悪さからどこかに廃棄しようとしてたところを、途中ブラックテイル君からお茶に誘われてしまってねぇ。ホイホイついて行って話し込んでしまったのだが……気化した薬を吸ってしまったか、あるいは私の白衣にしみ込んだ成分が揮発してそれを吸い込んだか、なにかしらで彼女の体内に薬が入ってしまい、今朝になって効果が発揮されたと考えらえる」
「嘘をついたりは……」
「しないとも!ブラックテイル君には些か以上の恩があるんだ、彼女に迷惑をかけた申し訳なさは流石の私も今感じているんだよ?だから知っていることと考えられる範囲の事を素直に答えているのさ……ちなみに、いわゆる解毒薬的なものを作ることは申し訳ないが出来ない。先ほども言った通り、偶然に偶然が重なって出来た再現不可能な薬でね。時間経過で効果が切れるのを待つしかない」
ふんふん、と頷く仕草を見せるクロ。
マンハッタンカフェさんが、そんなクロの事を優しく抱きしめている。
……後で、私もしようかしら。
「というわけで、申し訳ないが君には不便をかけてしまうね、ブラックテイル君。詫びと言ってはなんだが、その体で過ごすことになってしまう君の助力をするとしよう」
「助力?」
「そう、少しばかりではあるけれどね……君、その体で過ごすための衣服は、まぁ持ち合わせてないだろう?」
「まぁそうなるかな?」
「そんな君に服を提供してくれるだろう、口もそれなり以上に固いウマ娘に心当たりがある。彼女に協力を依頼して、衣服を提供してもらえるよう私から頼んでみるとしよう。早速だが電話させて貰うよ……あーもしもしフラワー君、私だ、アグネスタキオンだが……」
有無を言わさず、勝手に電話をかけ始めるアグネスタキオン。
……まぁ、彼女の態度からして、申し訳なさを感じている、というのは……嘘では、ないだろう。
私の知る限り、ではあるけれど、申し訳なく思ってないのなら、ここまで素直に協力したりするようなウマ娘じゃない。
そんな彼女が、わざわざ他人を頼ってまで協力しようというのだから、まぁ少なくない恩を感じている、というのは本当だと思う。
それに、電話をかけている相手というのも、恐らくはニシノフラワーさん。
ある程度以上に口が堅く、快く協力してくれる、というのも想像がつく相手。
だからまぁ……アグネスタキオンも、悪気は無かったというところを考慮して、今回ばかりは許してあげることにする。
「―――そう、ブラックテイル君、彼女の部屋まで来てもらえると助かるよ……うん、そうそう、制服一式と、寝間着と私服各1セット、下着類は2セット程……うん、本当に申し訳ないが、急ぎ目で来てくれると助かる。お礼は今度しっかりとするとも、約束しよう。事情については部屋に来てくれた時にする、今回ばかりは急を要するのでね……済まないね、よろしく頼むよ」
「……ニシノフラワーさん、ですか」
「彼女なら協力してくれる、そういうある種の確信があったのさ。彼女の事だから、恐らく30分もしないうちに来てくれるだろう……とりあえず衣服については解決したと思うから、申し訳ないが薬の効果が切れるまではなんとか過ごしてほしい」
「まぁ、君に悪意はなかったのと、解決の目途が立っているという辺りを考慮して、とりあえず許すけれど……アグネスタキオンさん、君、いつもこういうトンチキな薬を作っているのかい?」
「トンチキとは失敬な!今回の薬についてもいわゆる再生能力の増強を可能にする薬になる予定だったのだよ!!ただ、幾つかのアクシデントの果てに偶然にも効能が超絶強化されすぎてしまった結果として『若返り』にまで至ってしまっただけなんだ……冷暗所で安置しておく予定が運搬中に足元を通り過ぎた虫に驚いて予定外の衝撃が加わった、までなら何とか耐えられたかもしれないが、偶然居たポッケ君の130デシベルにも達する悲鳴で更に振動して変に反応してしまったのが本当に想定外だったんだ。しかもその振動で跳ねたいくつかの薬の水滴が混ざり合ってしまって、そうして生まれたのが今回の薬というわけだ」
……聞けば聞くほど、本当に様々な偶然が重なりあって生まれた『奇跡』の薬だった、というのが分かる。
「そういえば、御覧のとおりブラックテイル君はこんなにも小さくなってしまったが、チームの用事なんかは大丈夫なのかな?昨日話していた時に聞いたが、今日はグラスワンダー君と一緒にトレーニングするとか言っていたと思うが」
「……ハッピーミークさん、聞き覚えは?」
「確か、そんな事を言ってた気がする……」
「ぐ、グラスワンダーさん……先輩と会ってるのか未来の自分は……しかもトレーニング出来る程度には良好な関係を築けているんだな、それは良かった……」
「……テイル?」
「な、何でもないですよハッピーミークさん……えっと、とりあえず事情説明する必要がありますので、どなたか連絡を取っていただけませんか?」
「ふぅむ、ならその役も私がやるとしようか、えーっとどれどれ、あぁあったあった連絡先……あー、もしもしグラスワンダー君、私だ、アグネスタキオンだ。朝早くに済まないが、単刀直入に言おう、速やかにブラックテイル君の部屋に来てもらいたいんだ……うん、私のミスに巻き込んでしまってね、少々厄介なことになっている。その辺り事情の説明をしたいので―――あぁうんすぐに来てくれるんだね、分かった、私含め数人が居る、私も逃げないから安心したまえだから明らかに薙刀を持ち出す音が聞こえてくるがそれを持ち出す必要は無いとりあえず落ち着いて欲しい―――」
……電話の向こうで何が起きているのか、だいたい予想がつく。
グラスワンダーさん。チーム『アルタイル』所属の、クロの後輩。
クロの事を物凄く慕っているウマ娘で―――普段は大人しいが、怒ると怖い、そういうタイプの典型的な例と言える。
美浦寮所属で、確か所属はクロと同じ階の少し離れた場所だから―――あぁ、ドタドタと走ってくる音が聞こえてきた。
「―――先輩!!アグネスタキオンさん、一体先輩に何、を………」
制服を着て、手には薙刀を持ったグラスワンダーさんがドアを壊さんばかりに荒々しく開けて入ってくる。
ざっと部屋の中を見渡して、どうやら小さくなったクロを見つけたらしい。
その目は大きく見開かれ、手にしていた薙刀がカランと音を立てて落ちる。
「―――あの、そちらの小さなウマ娘さんは……マンハッタンカフェさん、もしかして……」
「……貴方の考えている通りかと。テイルさんです、小学生頃の記憶と姿なのだとか……小さくて、可愛い……抱きしめると温かい……」
「―――――」
……見せつけてくれるじゃない、マンハッタンカフェさん。
この数分、ずっとその場所を譲っていたのだ、そろそろクロを取り返し―――
「―――か、かわ……」
「あ、あの、グラスワンダーさん……?」
「か、可愛い……!ま、マンハッタンカフェさん、あの、あのっ!!」
「……まぁ、暫くこうしていましたので、お譲り致します」
「ありがとうございます!」
あぁ……グラスワンダーさんが、正面からギュウッと抱きしめていく。
ベッドの上に押し倒す勢いで抱き着いており、クロが気合で耐えたのが見えた。
「え、あの、グラスワンダーさん……です、よね?」
「はい、はい!貴方の後輩、グラスワンダーです!あぁ、小さな先輩、すごく可愛い……!普段の知的な姿ももちろん素敵ですが、今の姿はこれはこれで……!」
「ぐ、グラスワンダーさんが、後輩……い、今の私は小学生なので、えっと……ぐ、グラス先輩と呼んでm「わ、私が先輩……!はい、お好きなように呼んでください!」あ、じゃあ……グラス先輩?」
「――――――ッ!!し、幸せです……!」
―――何というか、意外,というべきかしら。
どちらかというと大人しい部類の彼女が、こうも荒ぶるとは。
恐るべし、小さなクロの魅力。
「グラスワンダー君、状況は見てのとおりなんだが―――」
「―――分かりました、先輩は責任をもって私が育てます」
「―――おや?おやおや??」
「アグネスタキオンさんの薬のせいで小さくなってしまった、そこまで理解しました。しかしここに居るのは幼いころの先輩を誰よりも知っているアドマイヤベガさんと、チーム『アルタイル』でずっと先輩を見てきた私です。先輩を正しく導き、立派なウマ娘に――――――」
「待て待て最後まで話を聞き給え、この状態は早ければ明日、遅くても明後日には治るのだよ、それまで暫くはこの姿で居てもらうことになるがね」
「―――あ、あら、そうなんですね?」
ギュウッと抱きしめながら、グラスワンダーさんがアグネスタキオンの方を向く。
「君、確か昨日ブラックテイル君となにか約束事をしていただろう?そこらへんに影響があるだろうからと私の方から連絡して事情説明をしようと思ったんだ」
「えぇ、確かに今日は併走をお願いしていました……ですが、そうでしたか、明日か明後日にはもう治る……」
「うんうん、そういう事だ。想定される範囲は恐らくそれくらい、まぁ多分明日だろう。それまでは不便をかけてしまうが、今回は本当に故意的に起こしたモノじゃないんだ、許してくれとまでは……言いたいところではあるのだが、起こってしまった事が事だけに、言いにくい所ではあるね。思いつく範囲でのサポートはさせてもらった、後は衣服の提供者であるフラワー君に事情説明を私からもする予定だ。チームトレーナーなどに説明が必要なら私の方からするが……アルタイルは確か、明日まで休みで明後日から活動再開だったと記憶している。もし明後日まで治らなかった場合は私の方から君たちのトレーナーへ連絡するよ」
「……分かりました。貴方がそこまで協力的という事は、事故でこうなった可能性が少なくない証拠と考えられますから」
「うーんこの普段の私への信頼!」
大げさに反応して、アグネスタキオンが立ち上がる。
「まぁ、今回は本当に申し訳なく思っている、それは本心だと言わせてもらうよ。何か困ったことがあったら言ってくれたまえ、可能な範囲で協力しよう」
「うん、分かったよアグネスタキオンさん……こういう薬を作るなって言ったら……」
「あくまで協力するのは『可能な範囲』、さ」
「あぁやっぱり……最低限踏み外しちゃいけない道を踏み外さないでくれ、とりあえずそれを覚えていて欲しいかな」
「善処するとしよう」
「そこは確約してほしいかな……」
「ふーむ、見る限り小学生低学年、よくて3年生くらいまで幼くなったと思われるが……それでいてあの知性、そして人の良さ……ふーむ、相変わらず興味が尽きない相手だよ、君は」
「―――ブラックテイル、君は、本当に我々と同じ存在なのか?そんな疑問がどうしても頭を離れない」
「我々学生と同じ存在と断定するにはあまりにも君は人として出来過ぎている。しかし大人というには少し首を傾げざるを得ない……不思議な存在だ、君は。成熟しすぎた人間性と、我々現役のウマ娘の身体、本来両立し得ないだろうモノを、君は両立しているように見える。しかし些か『欲』に振り回されている節も見受けられる時がある……面白い存在だ、見ていて飽きないよ本当に……」
「それにしても、今回の件は本当に偶然起きたモノだったが……いやはや、色々知ることが出来た、これは良い収穫だったねぇ」
「小学生の頃には、すでに私の知るブラックテイルとほぼ近しい存在になっていた、とは……君の正体は、ただの賢い少女なのか、あるいは……君の身体を隅から隅まで調べたくなるねぇ……フフフ……」
「リラも私を膝の上に乗せ始めたんだけど、そんなに面白い?」
「面白い、というよりは……懐かしいわ、小さい頃の貴方が……」
「懐かしい、か。まぁ、今の君は高等部だって話だもんね、もうずっと前の事になるのかな」
「えぇ、そうね……でも、貴方は変わらないわね……姿は確かに大きくなったけれど、内面は昔から変わらない。優しくて、賢くて、真面目で、でもちょっと変わったところもあって……」
ニシノフラワーさんの制服を借りたクロを、膝の上に乗せて。
私は、学園の食堂に来て、2人で話をしていた。
「リラは……うん、本当に綺麗だね、美人さんだ」
「ク、クロ……あ、ありが、とう」
「幼馴染として誇らしいよ。こんな綺麗なウマ娘が幼馴染だなんて、未来の自分は幸せ者だ……隣に立つ存在として、私はどう育ったのやら、気になるような、気にしちゃいけないような……」
「写真とか、見てみる?」
「うーん……いや、辞めておくよ。未来の君を先に見られただけで満足しておく」
変な所で控えめな所も、昔から変わらない。
控えめ、と言うか……どこか、一線を引いている、ような。
昔は思い浮かばなかったけれど、今思うと、そんな風に感じる。
「リラ、私以外に友達は出来た?」
「そう、ね……貴方と並ぶほどの人は、居ないかもしれないけれど。友達、って、言える人は、居るわ」
「それは良かった……君がそう言えるほどの人が居るのなら、心強いね」
「貴方は……未来の貴方は、私よりもずっと、沢山の友達に囲まれてるわ」
「そうか、そうか。きっと良い人なんだろうね、私と友達になってくれるっていうくらいだ」
どこか、価値観がずれている、とも言えるだろう。
クロは、周りを過大評価している節がある……いや、逆か。
クロは、自分を過小評価しすぎている……うん、これが正しいのだろう。
幼いころから、ずっと。
どうも、私にとって大切な存在であるこの人は、自分の価値を、分かっていない。
「……クロ」
「どうかした?」
「……うぅん、呼んでみただけよ」
「そっか」
本当は、聞いてみたい。
『どうして、そうも自分の価値を低く見ているのか』、と。
聞いてみたい気持ちは、確かにあって。
でも―――聞いて、もしも……もしも、の、話だが。
もしも、拒絶されたら―――――私は、耐えきれない。
その確信が、聞くのを躊躇わせる。
私自身が……私の心の奥底、『魂』とでもいうべき所が、拒絶を恐れてしまう。
少し、抱きしめる力を強くする。
「リラ……?」
「……少し、こうさせて」
「……うん、良いよ。君の好きなようにして」
「うん」
何も聞かずに、甘えさせてくれる。
昔から変わらない、その優しさに浸りながら。
『いつか、いつか、一歩踏み込んで、聞かないと』―――そう、心の中で決める。
―――『
クロの事を、もっと、もっと……全てを、知りたい。
(未来でもリラは甘えん坊さんなんだねぇ……にしてもちょっと自分にべったりしすぎじゃないか?学園で友達が出来たって話だけれど、うーん?……いやもしかすると自分がリラを構い過ぎたか?未来の自分の方がもしかしたらリラにべったりしすぎて、リラが仕方なく付き合ってくれているだけの可能性もあるんじゃないか?うーむ不安になってきたぞ?未来の自分は『初志貫徹』出来ているか……?)
(―――トゥインクルシリーズでやることをやり切った後、お前にはやらねばならないことがあるだろう、ブラックテイル)
ブラックテイルの異質さが際立つ、そういうお話。
もしかするとこの話は続編上げるかもしれません、その前に競走馬編を挟みますが。
次回は競走馬、ブラックテイルのイギリス遠征編です。