黒き馬、世紀末を駆ける 作:馬券童貞は東京優駿に捧げた男
今回はウマ娘編の番外編となります。
新年度を、1つの節目を祝う、トレセン学園のダンスパーティと言うモノが存在する。
その名も『リーニュ・ドロワット』……なんというか、ちょっと言いにくい名前のイベントだ。
ものすごーく簡単に言えば、ただただダンスを楽しむだけのイベント、なのだが。
そのメインとなるのは、ペアダンス。
つまり、踊る相手―――通称、『デート』を探す事も、このイベントの醍醐味となっている。
耳をすませば、今日もどこかで『デート』の申し込みをするウマ娘達の声が響いてくる。
いやはや青春だなぁ、なんて考えてしまうのは、前世前前世含めて何十年も生きているからか。
「―――ねぇ」
恐らく、学園の何処かを探せば、この光景を恍惚とした表情で見つめるデジタルちゃんも見つけられるだろう。
あの子にとって、この光景はまさしく楽園のようなモノだろう。
「―――ねぇ、テイル」
―――さて、現実逃避はここまでにしておこうか。
自分の事を呼ぶ、その人の方を見る。
「アヤ、どうかしたの?」
「……考え事をしていたのなら、謝るわ」
「うぅん、大丈夫。それで、どうかした?」
「えっと、その……『リーニュ・ドロワット』、知っているでしょう?」
「うん、知ってる」
少し申し訳なさそうに、少し以上に恥ずかしそうに、頬を赤らめて。
リラが、自分の事を見ながら、口を開く。
「……テイル。私の、『デート』に、なって……くれ、ません、か……?」
最後の方は、もはや辺りの喧噪にかき消されそうなほど、小さな声だった。
それでも、確かに自分の耳には入ってきた。
そう、現実逃避をしていたのは他でもない、リラからのお誘いからだ。
誘い自体はとても嬉しい。
リラは身内贔屓を除いてもとても綺麗でとても可愛い少女だから、そんな子とダンスが出来るという事が嬉しくないなんて事は無い。
ただまぁ、問題があるとすると……
「……ねぇ、アヤ。アヤは、私の事を殆ど知ってるよね?」
「そのつもりよ」
「ならさ、その……言いたい事は、分かる?」
「えぇ、分かってる。それを承知の上で、誘っているの」
「そっかぁ……そっかぁ……」
―――――――自分、こういうイベントで人前に立つのはそこまで好きではないのだ。
いや、それは正確ではないか。
ウィニングライブだったりで人前に立つのは問題なく出来ているから。
なんだろうな、こう……イベントは裏方とかそっちの方が好き、と言えばいいかな?
自分から率先して盛り上げるというのは苦手で、どちらかというとその手伝いをしたりする方が性に合っている。
ウィニングライブは自分がやる事に意味があるのを理解しているので、しっかりやるけれど。
自分以外がやってくれるのならば、そっちに任せて裏方に徹したいのだ。
だからまぁ、出来る事なら『リーニュ・ドロワット』の舞台で踊る、というのは勘弁願いたい所。
……前前世でもそういうスタイルだったので、もはやこれは魂レベルで刻まれたモノだろう、たぶん。
「……駄目、かな……」
「……………」
罪悪感で胸が締め付けられる。
精神的には男性なのだ、自分は。
美少女の涙というのは、僅かに目が潤む程度のそれだけで苦しい。
うーん、うーんと悩んで、悩んで、悩む事時間にして15秒程。
そっとリラの手を握る。
「……分かったよ。一緒に踊ろう」
「良い、の……?」
「苦手は、苦手だけどね。でも、折角の機会を無駄にしたくないし……アヤが、誘ってくれたのなら」
悩んだ末に、口にしたのは、了承の言葉。
自分の事を、もしかしたら自分よりも知っているかもしれない人が、全てを分かった上で、誘ってくれた。
きっと、勇気を振り絞ってくれたのだろう。
そう考えた時、この誘いを、受ける事に決めた。
「改めて、私の方から……アヤ、私の『デート』に、なってください」
「―――はい、喜んで」
あぁ、やっぱり、この笑顔を見ると、安心するなぁ。
なんてことを考えて―――
「―――先輩」
「ぐ、グラスさん?」
「グラスワンダーさん……あぁ、そういう事、なのね?」
「えぇ、はい。先を越されてしまったみたいですが」
「えっと、それって、その……」
「『デート』に、なって頂きたく思いまして」
安心している所に、後ろから。
とても聞き覚えのある声が、投げかけられる。
前世の先輩、今生の後輩。
グラスワンダーさん。
このタイミング、そしてリラとの会話の内容、そこから察しては居たけれど……
「スぺさんやエルさんは?」
「スぺちゃんはスズカさんと踊るそうでして……エルは今回、とある人から誘われているみたいです。ヴァーミリアンさんという方みたいで」
「あ、そうなんですね……」
もしかしたら、前世のエルコンドルパサーさんと関係ある馬のウマ娘さんかもしれない。
が、今はもうそんな事はどうでも良い。重要じゃない。
「ただ、そのー……アヤからもう誘われてしまいまして」
「はい、どうやらそのようで……残念です」
本当に残念そうに、耳をペタンとして、俯くグラスさん。
グゥッ、罪悪感……
そんな自分を見て、リラが呆れたような表情をこっちに向けて、グラスさんに視線を移す。
「……グラスワンダーさん。良かったら、貴方も一緒にどうかしら?」
「それは、どういう事でしょうか?」
「テイルに2回踊って貰う、っていう事」
「アヤ!?」
「1回も2回も変わらないでしょう?……それにテイル、貴方、彼女の誘いを断れる?」
「うっ」
……御見通し、か。
グラスさんの誘いを断る事に、罪悪感を感じているのは、バレバレだったらしい。
「……グラスさん。そういう形で良かったら、ですけれど……どう、ですか?」
「お受けいたします、先輩……私の『デート』に、なってください」
「はい」
2回踊る、かぁ……
知名度がそれなりにあるだけに、視線を集めるのだろうな、と考えるとやっぱ気が進まないけれど。
リラと、グラスさんの笑顔を見ると、『まぁ良いか』と考えてしまう。
まぁ、これで終わり―――
「―――じゃあ、もう一回追加で」
「―――いえ、それに更にもう一回、お願いします」
「え?」
「あら、あら…人気ですね、先輩」
「カフェさんに、ミークさん?」
「ん。テイル、『デート』になって欲しい」
「私も、『あの子』も、テイルさんに『デート』になって欲しいと思っています」
「あと、私達以外にもまだ居るから」
……………なんで???
後日、何時の間にかエキシビションにまで発展して、自分1人で何人もの相手と踊る事になった。
観客を盛り上げる、という事だけに絞れば大成功だったけれど……
もう、疲れた。
「あぁ、疲れた……」
「お疲れ。少し、横になる?」
「うん、そうする……」
「膝、貸すわ。ほら、横になって」
「ありがとう……」
会場の外、ベンチに座っていると、隣にリラが。
ポンポンとリラが膝を叩いて誘ってくれたので、ありがたく膝枕してもらう。
「まさか、あんなに沢山居るなんて思わなかったわね」
「うん……ビックリしたよ」
「それだけ、慕われているって事よ、テイル」
「うーん、そう言われてもね」
リラの言葉に、首を傾げる。
慕ってくれている事自体は嬉しいのだけれど。
なんでだろうね?そこはちょっと分からない。
「……ホント、鈍いんだから」
「何か言った?」
「うぅん、何も……少し、寝ちゃっても良いわよ」
「そう?じゃあ、そうさせてもらうよ……おやすみ、リラ」
「えぇ、おやすみなさい、クロ」
踊った回数が2桁に突入してから数えることを放棄したくらいには踊った事もあり、本当に疲れが溜まっている。
リラのありがたい提案に乗っかって、意識を手放した。
「誰に対しても優しくて、真摯に向きあって……嫌いになれるわけ、ないじゃない」
「……そんな貴方が、大好きよ……クロ」
穏やかな表情で眠った友人の頭をそっと撫でながら、誰にも聞こえないように呟く。
10回も20回も『デート』に選ばれる程に、彼女は慕われていて。
友人として誇らしいけれど、その人望故に、今日は一緒に居られる時間は少なかった。
「……今だけは、独り占めさせて……」
ずっと、ずっと私を支えてくれる人。
今まで、そして、きっとこれからも、ずっと。
「……貴方にとっての、『
貴方の事を慕う人は、きっと、これからも増えていくだろうけれど。
その中での、1番に。
貴方の隣に、ずっと居たい。
「……私は、貴方と、輝きたいの。遠く、遠く、離れた所に居る『あの子』が見つけてくれるくらいに、輝きたい」
そっと、優しく髪に触れる。
肩よりも少し先、背中の辺りまで伸ばされた、夜闇に溶け込んでしまいそうな青毛の髪。
「―――『貴方と』、なのよ?」
手にした髪の先端に、口付ける。
そう、クロと共に、私は輝きたい。
『あの子』の事を、心から大切に思ってくれる、クロと。
「ねぇ、クロ……貴方は、どう、思ってるの……?」
眠っているから、返事なんて返ってこない。
そう分かっているけれど、聞いてしまう。
「貴方は、私の事を、どう、思って―――」
穏やかな寝顔を、覗き込む。
そのまま、顔を近付けて―――
「なんか、アヤが顔合わせてくれないんだ……嫌われるような事、しちゃったのかな……………」
「テイルさん、心当たりは?」
「やっぱ1時間も膝枕して貰っちゃったから、かなぁ。結構大変だもんね……悪い事しちゃった……」
「成程、そういう事でしたか……しっかり謝らないと、ですね」
「うん……トップロードさん、ゴメンね、愚痴なんか聞かせて」
「いえいえ!お気になさらず!!」
「私は、なんて、事を………!!!」
(お姉ちゃん……ほっぺとはいえ、随分攻めたね……)
イベントを見て頭に浮かんだものをそのまま書きました。
次回は恐らく競走馬編になります。