黒き馬、世紀末を駆ける   作:馬券童貞は東京優駿に捧げた男

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七夕の日に番外編を書かねば、その一心にて書かせて頂きました。



特別番外編  『7月7日』

『リラ、あの星が【ベガ】、君と同じ名前の星』

『うん』

『あの星から始まって、こうやって繋ぐと【琴座(リラ)】』

『だから、私に【リラ】って?』

『うん、そう』

 

―――幼い頃の事。

だけど、今でも鮮明に思い出せる。

 

『それで、天の川を挟んで向こうに輝くのが【アルタイル】』

『アルタイル……』

『そう。あの星からこうやって繋ぐと、【わし座】』

 

透明な下敷きに、点と線で描かれた星座。

夜空に向かって掲げながら、私に教えてくれた。

 

『それで、【ベガ】からみて下の方、あそこにあるのが【デネブ】で、こう繋げると【白鳥座】』

『へぇ……』

『それで、【ベガ】と【アルタイル】、そして【デネブ】を繋げると、【夏の大三角】って言うんだよ』

『3つの星で、1つなのね』

『そう』

 

まだ幼い頃、だというのに、クロは物知りで。

星の名前も、星座の繋ぎ方も、最初に教えてくれたのはクロだった。

 

『あの星が【(ベガ)】なら……【あの子】は、どっちなのかしら?』

『それは……そう、だね、きっと【デネブ】かな』

『どうして?』

『【デネブ】はね、3つの星で実は1番大きくて、1番明るい星なんだ。きっと私達が見つけやすいように、光っているんだよ』

『そう、かな……もしそうだとしたら、貴女は【アルタイル】?』

『―――そうだね。君と【あの子】の関係に混ざって良いのなら』

 

変な所で、彼女は一歩退いた立ち位置に収まろうとする。

あの時も、クロはそうした。

だから、私は彼女の手を取って、こう言った。

 

『クロ、貴女が混ざらないなんて嫌だからね』

『リラ……?』

『ずっとずっと一緒に過ごしてきた。【あの子】の事を心の底から悲しんでくれた。貴女はそう言う人でしょう?……【あの子】もきっと、貴女を拒まない。受け入れてくれるわ』

『そう、かな……そうだと、良いけれど』

 

困ったように笑うクロ。

そんな彼女を見て、私は更に言葉を繋げた。

 

『クロ、貴女は言ったわよね?【3つの星で1つ】、って』

『う、うん』

『だったら、1つも欠けて良い筈が無いじゃない。私と、あの子と、そして貴女。3人で、1つ……それじゃあ、駄目、かしら?』

『……良いの?』

『勿論よ……大切な人だもの、貴女は』

 

最後の言葉は、どうしても恥ずかしくて、視線を逸らしてしまったけれど。

言うべきことは、全て言いきった。

物心ついた時からずっと一緒に育ってきた、とても大切な人。

そんな彼女だけが、1歩離れた場所に居るなんて、私が許さない。

そう言い放つと、クロは嬉しそうに、恥ずかしそうに、顔を少し赤らめて。

 

『……ありがとう、リラ。私も、君の事をかけがえのない存在だって思ってるから……嬉しい』

 

そう、星空の下で、笑って答えてくれた。

 

 

 

 

 

「―――これ、夜間の外出申請」

「『天体観測の為に登山予定』、ね……1人?」

「分かっているでしょう?……もう1人、居るわ」

「だよね、知ってた……行ってらっしゃい」

「えぇ」

 

寮長、フジキセキさんに紙を手渡して、私は寮を出る。

7月7日―――七夕の日。

私は、『彼女』と、星を見る。

それは、あの日……『夏の大三角』を教えて貰ったあの日から、毎年、欠かさずに行っている事。

 

リュックの中には、お気に入りのクッションを2つ。

それと、サンドウィッチの入った容器。

あとは虫よけとか、そういう登山用品。

 

歩いて少し、反対側、つまり美浦寮から1人、近づいて来る。

青毛の髪を靡かせるそのウマ娘は、私を見つけると、微笑んでくれる。

 

「リラ」

「クロ……行きましょうか」

「うん」

 

家族同然の、大切な人。

クロ……ブラックテイル。

彼女と、今日は、星を見に行くのだ。

 

 

電車を使って移動して、そこから更に歩いて、山を登る。

星を見るには、都会の光は眩しくて。

だから、こうして自然に囲まれた場所へと移動する。

歩く事暫く、都会の喧騒も、摩天楼の輝きも、遠く離れた静かな場所。

トレセン学園に入学してから、私達が星見に使っている場所へとたどり着く。

 

「ここは変わらず綺麗なまま、だね」

「えぇ……クロ、シート敷くから」

「うん」

 

シートを敷いて、四方を固定。

持って来たクッション―――持ち運びの都合上大きさは妥協せざるを得なかったけれどもその中で最も手触りとふわふわ具合が良かったモノを厳選した―――を置く。

そして、2人並んで座る。

 

「うん、さすがリラ。良いクッションだね」

「当然よ……クロ」

「今出すよ」

 

短い言葉で、何を求めているのか、クロは察してくれる。

クロのリュックから取り出される保温ボトル。

紙コップに注がれたコーヒーの香りが、フワリと漂う。

 

「どうぞ」

「ありがとう」

 

彼女の好みでは無く、私の好みに合わせて淹れ方をされたコーヒー。

やや酸味があって、濃すぎず、飲みやすい味わい。

一口飲めば、心も、身体も、ホッとする。そんな味。

 

「……どうする?」

「今回は、チェスにしない?」

「えぇ、良いわ」

 

私達が天体観測をする際は、星が見えるよりも前にここに来る。

そして、こうして穏やかな時間を共有する。

自然と、そう決まっていた。

 

コーヒーを飲み、サンドウィッチを摘まんで。

時には読書で、時にはボードゲームで、時には他愛ない会話で。

2人だけの、誰にも邪魔されない、そんな時間。

そんな時間が、私は好きだ。

 

2局、3局と対戦していると、辺りは暗くなって。

2人で並んで、星空を見上げる。

 

「―――【ベガ(わたし)】が居て、【デネブ(あの子)】が居て、そして【アルタイル(あなた)】が居る」

「そうだね……この日は変わらず、あの場所で、輝いている」

「えぇ……何時もの場所で、輝いてくれている。1番大きくて、1番明るい……」

 

【デネブ】を指さして、言う。

遠く離れていても尚、他の1等星と変わらない位に輝いている綺麗な星。

かつて、クロはあの星を【あの子】だと言った。

遠く離れた場所で、私達を見守ってくれているだろう、と。

私達が見つけやすいように、綺麗に輝いてくれている、と。

 

「……ねぇ、クロ」

「どうしたの?」

「クロは、【アルタイル】で良いの?」

「?」

「だって、【アルタイル】は彦星で、彦星は、織姫と……【ベガ(わたし)】と、この日だけしか」

 

子供の頃は知らなくて、でも、今は知っている。

七夕の話……織姫と彦星の物語。

2人は恋に落ち、結ばれ、引き裂かれ、1年に1度しか会う事を許されなくなる。

恋に落ちる、という所は、その……そこは、別として。

いずれ別たれてしまうかも、という事を考えると……怖く、感じてしまう。

 

不安に思っている私の手に、そっとクロの手が添えられる。

 

「リラ、大丈夫だよ」

「クロ……」

「織姫と彦星が、どうして別たれたか、知ってる?」

「……結ばれた後、遊び呆けてしまったから」

「うん、そうだね」

 

添えられていた手が、少しだけ離れて、ギュッと握られる。

 

「織姫と彦星は恋に落ち、結ばれて、その喜びから遊び、怠けてしまった。だから神の怒りを買い、離ればなれにされた」

「……うん」

「なら、怠けず努力し続ければ良いんだ。そして、リラが頑張っているのは誰よりも私が知っている」

 

握られた手が少し動き、指と指を絡めるように。

クロの手が、『離さない』と言わんばかりに、ギュウッと強く、私の手を握る。

 

「君に負けない位、私も頑張る……そうすれば、きっと私達は別たれない」

「……うん」

「大丈夫だよ、リラ―――死が二人を別つまで、私達は一緒だ」

「―――――」

 

―――嗚呼、なんて、ズルい。

そんな言葉を、真っ直ぐ見つめながら、言うなんて。

 

「―――えぇ、クロ。死が二人を別つまで、ね?」

 

『死が二人を別つまで』

デネブ(あの子)】の見守る中で、そう言ってくれた。

それが、何より嬉しくて。

 

(クロ、その言葉の意味を、本当に分かって言ってるのかしら?)

 

『死が二人を別つまで』―――それは、神前での愛の誓いだというのに。

どういう意味で、この言葉を使ったのだろうか……

少しだけ疑問に思って、でも、深く考えない事にした。

今はまだ、この嬉しさに浸っていたいから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(なんかで聞いた言葉なんだけど……なんだったかなぁ?でもまぁ、死別以外でリラとの関係を断とうとは微塵も思わないし、間違った使い方じゃない、よね?……いやまて前世がどう終わったかは別として来世である今も関係が断たれてない事を考えると死んでも別たれてないって事なのかこれ?……………うん、深く考えない事にしよう!)




反省はしていますが後悔はしていません。

アヤベさんの季節ボイス、良いですね……
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