黒き馬、世紀末を駆ける 作:馬券童貞は東京優駿に捧げた男
という事で当小説ウマ娘世界での3月12日です。
「―――ハッピーバースデー、アヤベさん!」
「お、おめでとうございますぅ!」
「お誕生日、おめでとうございます!アヤベさん!!」
―――3月12日。
それは、私、『アドマイヤベガ』の誕生日。
こうして、祝われる事も、予想はしていた。
だからこそ、私は、こういうのだ。
「ありがとう。でも、御免なさい…あまりその、祝われるのは、あんまり」
「分かっているとも。何度も言葉をかけ、そして同じことを言われているからね!……だけど、アヤベさんの誕生日を祝いたい気持ちは抑えられなくてね!だから、せめて言葉を贈る事だけは許して欲しいね」
「本当はすっごく、すっっごく祝いたいんですけれどね!」
少しばかり、罪悪感を覚えてしまう。
―――けれど、こればかりは、譲れないのだ。
私にとって、今日は2つの意味を持つのだから。
1つは、私の誕生日。
そして、もう1つは―――『あの子』が、遠く、遠く離れた場所へと、旅立ってしまった日。
『あの子』の、命日なのだから―――
――――――――――――――――――――
『―――祝わないで。私が生まれた事を……【あの子】が旅立った日を、祝わないで』
『あの子』という存在を教えて貰った直後の誕生日。
私は、両親にそう言った。
私の誕生を祝うという事は、それはつまり、『あの子』が旅立ってしまった事を祝福する事になる。
それは、違うのだ。だから、祝わないで欲しい。
そう、親に強請った。
『でも…』
『しかし、お前が無事に生まれてくれた事、そして無事に成長した事を祝いたい、それは本当なんだ』
『ん……』
親の気持ちも、分かる。
けれど、譲りたくなかった。
親も、私の気持ちは分かってくれたのだろう。
けれど、親もあまり譲りたくなかったのも、分かった。
『―――じゃあ、間を取ろう』
『テイルちゃん?』
『アヤの気持ちも、アヤの両親の気持ちも、どっちも大事。だから、間を取りましょう』
仲裁してくれたのは、クロだった。
私の誕生祝いに来てくれたクロとクロの家族も、その場に居て。
真っ先に動いたのは、彼女だった。
『まず、アヤの両親の気持ちを汲み取って、でもアヤの気持ちも尊重して……あまり騒がずに、程々にお祝いをする。それと同時に―――【あの子】の冥福を、祈りましょう』
提案された折衷案は、確かに妥協点として見事なモノだった。
余り派手には私の誕生を祝わず、その分を、『あの子』への祈りに充てる。
『―――アヤ』
『テイル……』
『私もね、本当は、君が生まれてきてくれた事と、私と出会ってくれた事、全てを祝いたい』
『でも』
『うん、分かってる。アヤが此処にこうして居るのは、【あの子】が旅立ってしまった事と、密接に繋がっている……だから、一緒に祈らせて欲しい』
私に向けられた視線は、穏やかで、優しいモノ。
『【あの子】が、どうか安らかに過ごせます様に。そう、一緒に祈らせて欲しいんだ』
『一緒に、祈る……』
『そう。君が、【あの子】の事を重く受け止めている事は、良く分かってる……だから、君と一緒に、祈らせて』
ギュッと、手を握られる。
暖かくて、落ち着く、クロの温もりを感じ―――同時に、その手が震えているのも、感じた。
『―――頼むよ、アヤ』
『……………分かった』
珍しく、懇願するように囁かれて、私は『折れた』。
途端、クロの表情が、明るくなって。
『ありがとう、アヤ。御二人も、それで大丈夫ですか?』
『……えぇ、分かったわ』
『祝う分の熱量を、祈りに注ぐ、か……うん、分かった。どちらも大事な事だからね』
『じゃあ、これでこの問題は解決、という事で』
ポン、と手を叩いて、『話は終わりだ』と告げるクロ。
そんな彼女は、私の両親に向けていた視線を、こっちに向けて。
『改めて―――ハッピーバースデー、アヤ。君が無事に生まれ、出会ってくれた事に、感謝を』
そう言って、私に花束を差し出してくれた。
今でも覚えている。
9種の花で構成された花束。
白のクリスマスローズ、緑のラナンキュラス、白のマーガレット、白の君子蘭、黄色のシンビジウム、白のクレマチス、白のカランコエ、赤のゼラニウム、赤のオステオスペルマム。
全体的に白で構成されていて、だから黄や赤の花が映える、そんな花束。
『嫌、だったかな?』
おずおずと手を伸ばし受け取った私を見ながら、そんな事をクロが言ったのも、今でも覚えてる。
どこか不安げで、自信の無い、普段では考えられない姿。
『―――そんな事、無いわよ』
『あ、アヤ!?』
ギュウッと抱き付いて、私は囁いた。
『ありがとう、クロ』
『……どういたしまして』
―――真っ赤になった顔を、見られたくなかったから。
――――――――――――――――――――
「―――――」
「―――――」
―――2人並んで、星空の下、祈る。
トレセン学園、栗東寮の屋上。
入学してからは、こうして祈りを捧げるようにしてきた。
どうか、貴方が安らかに過ごせます様に。
どうか、私の活躍を―――私達の活躍を、見てくれています様に。
「―――リラ」
「―――えぇ、もう大丈夫」
隣で共に、静かに祈りを捧げてくれた、大切な人。
そんな彼女は、私に確認を取った後、ちょっと距離を取る。
「祈りの後は、君を祝う時間だ」
ゴソゴソと、足元に置いていた袋を漁り、中から取り出したものを、私に差し出す。
「ハッピーバースデー、リラ」
「ありがとう、クロ……あの日から毎年、プレゼントもずっと」
「最高の親友の誕生日、だからね。当然、祝わないと」
「ッ……本当に、ありがとう」
サラッと、何でも無いように言われた言葉。
それが、とても嬉しくて。
頬が熱くなるのが分かって、思わず俯いてしまう。
「にしても、何時も聞くんだけれど……花束で、良いの?もっとこう……」
「―――これが、良いの」
「んむっ」
クロの言葉を、彼女の唇に指を当てて遮る。
「これが、良いのよ」
食べ物は、違う。服も、装飾品も違う。
全て、『あの子』と共有出来ないから。
最初に送ってくれた、花束というプレゼント。
これが、一番良いのだ。
花瓶に飾る、という形で供花に出来るから。
花の香りは、祈りと共に、きっと『あの子』に届くから。
だから、これが良い。
「―――分かったよ、リラ」
「我儘を言って、御免ね、クロ」
「こんな可愛い我儘なら、幾らでも」
「―――じゃあ、もう少しだけ」
左手で花束を持ち、右手を差し出す。
「もう少しだけ、一緒に居て?」
「……それだけ?」
「それが、良いの」
「……うん、分かったよ、リラ」
差し出した手を、クロが優しく握る。
自然と、指を絡め、強く握りあう。
「君の気が済むまで、ずっと」
「―――えぇ、ずっと、ね」
『―――お誕生日、おめでとう』
『―――祈ってくれて、ありがとう』
『―――どうか、貴方が幸せに過ごせます様に』
花束は『3月に咲く花』の中から花言葉を重視して選びました
幼少期、花束を買う時の一幕
「すみません、誕生日に花束を贈りたいんですけれど」
「あら、小さいのに偉いわねぇ。どんな人に贈るの?」
「そう、ですね―――世界一大切な人に、です(ウマ娘の顔面偏差値から放たれる慈愛の笑み)」
「あら、あらあら……えぇ、分かりました。それじゃあ、素敵な花束を贈らないとですね。花束の本数はどうしましょうか?」
「あまり多すぎない方が良いかなとは思ってますけれど、少なすぎても……」
「じゃあ、9本にしましょうか」
「じゃあ、それでお願いします…?」
「―――最近の子って、随分進んでるのねぇ……」