黒き馬、世紀末を駆ける 作:馬券童貞は東京優駿に捧げた男
会社で退職者が現れてその影響が酷く、そこに追い打ちで怪我人とかも出て仕事に追われておりました……
書きたいことは無限にあるのに書く時間と気力が……頑張って書いていきます……
「………う~~~む………」
「オペラオーちゃん、どうしました?難しい顔をして……」
「見てるのは……昨日の写真だね?」
「もしかして、上手く撮れてませんでした?」
フェアリーパークで遊んだ翌日。
学園を歩いていると、オペラオーが写真と睨めっこしているのを見つけた。
「いや、撮影自体は素晴らしいよ。このとおり、ボクの美しさが画面越しにもあふれている!……ただ、ボクが思い描く『世代の軌跡』を残すためには、1つ、大きな問題に気付いてしまってね」
「問題?それって……」
「写真を見たまえ!圧倒的なオーラを具えたボク!そしてリヴァル達!ほぉら、アヤベさんもドトウも、らしい表情だ。だが、2人は……ターフでの君たちとは違う。まるで蜃気楼の向こうにいるように、ね」
ふむ……?
ターフでの自分、つまり、レースを走っているときの自分って事か。
それと、この間の自分は違って見えた、と。
「オンオフの違いって事?」
「そうね、特にテイルはオンオフの差が激しいから……」
「それもあるだろう。けれど、もっと根本的な問題ではないかな?」
「……2人は、ボクたちの世代の中で、どんな光だろうか?僕たちのオペラにおいて、君たちが歌う主題は?……それが、見えないのさ」
―――『どんな光』、『歌う主題』、か。
……なるほどね、オペラオーが気にしているのは、『それ』か。
さて、どう答えたものか―――おや?
ふと、影が差して上を見上げると、何かが落下してきて――――
「ッ―――!!!」
―――アヤに突き飛ばされたことで、落下してきた『それ』は私の腕を掠めて地面に落ちる。
「クロッ!大丈夫!?」
「え、あ……うん、大丈夫大丈夫、なんともないよアヤ」
「―――良かった……ほ、本当に大丈夫なの?隠し事とかしてない?」
「ほんとほんと、ほんとに大丈夫だから……」
「一体何が落ちてきたんだい?……ふむ、何かのノートらしいが……」
「名前も何も書いてないですね……持ち主を特定しないと返そうにも返せませんから、ちょっと中を確認させて貰いましょうか」
「それもそうだね、では中身を拝見っ!!」
アヤに詰め寄られてペタペタと体中触られている中、オペとトップロードが落ちてきたもの―――ノートの中身を見始める。
あのノート、どこかで見たような気がするんだよなぁ……
どこだっけ、確かアレは……『アルタイル』のチームミーティングの前だったような……
―――あ、もしかして……
「―――ほう、ほうほう?」
「これは………小説、でしょうか?」
「内容を見るに、ファンタジー系統の創作小説みたいだね。『氷の国に攻め入る悪魔。だが氷の王は毅然と』―――」
「―――――ひぃやぁあああああ!!!???こ、ここ、公式バレしてるぅぅぅ!!??」
―――あぁ、やっぱり、か。
悲鳴のした方を見ると、この世の終わりを迎えたかのような絶望した表情を浮かべるデジタルちゃんと、道中転んだのか、なんだか制服に汚れを付けたドトウの姿が。
そう、ノートの既視感は……デジタルちゃんの私物として、何度か見かけた事があったからだ。
「あばばばば……終わった……デジたん終了のお知らせぇ……」
「デジタルさん!?あわわわ……わ、私がドジなせいでぇ……!」
あー……ドトウとデジタルちゃんが、窓際か屋上かでぶつかったのか、何かしらの拍子に持っていたノートが落下してきた、って流れかな?
頭上からノートが降ってきた原因はとりあえず分かったが……
「―――面白い!素晴らしい創作小説じゃないか!!デジタル君が書いたのかい?ほら、皆も読んでみたまえ!昨日の貸衣裳の人物設定にストーリーをつけてくれたんだ!!」
「……本当、ちゃんとした物語になってるわ。すごいわね……」
「デジタルちゃん、こういうの上手だよねホント」
どうやら、昨日の仮装を元に、創作小説を作っていたようだ。
先ほどオペが読んでいた部分は、リラが該当するのかな?
そんなことを考えていると、オペが何かを閃いたのか目を輝かせる。
「―――そうだ。美しいアリアは、物語の中でより輝く。役割に、心を息づかせるんだ!」
「オペ、もしかして―――」
「そのまさかさ!デジタル君、君の物語が、ボクらを頂点へ至らしめる!どうかこれを、ボクらの舞台の脚本として借りられないだろうか!?」
「―――へ?え?ぶ、ぶたい……きゃく、ほん?」
「そう!ボクたちは、世代の蹄跡を形として残したいんだ……そこで、デジタル君の物語を、劇としてクリスマスに上演するのさ!!」
―――そう、来たか。
「ちょっと、急になに……例の、思い出作りのこと?」
「その通り!"世紀末覇王"伝説に連なるなら、やはり芝居だろう?脚本が降ってきたのも、天からの啓示に違いない!この舞台を作り上げれば、必ずや!世界はボクたち世代の素晴らしさに打ち震えるだろう!」
「みんなで劇を……いいですね、それ!あ、でも、会場なんて今から押さえられるでしょうか?」
「無理ならストリートで演じたっていい!この覇王が芝居を打てば、どこであろうとそこが劇場さ!!」
フェアリーパークでの思い出作り、その延長、か。
芝居とはまた、オペらしい。
「それで、どうだろうか?デジタル君」
「い、いえこれは、単なるあたしの勝手な妄想でして……ご本人様たちに申し訳なく……舞台化なんてとんでもないと……」
「すまない、創作の自由を侵すつもりはないよ。だが……ボクたちには、君の作品が必要なんだ!」
「ひ、必要!?で、でも、その~……二次創作は人目を忍ぶものですし……公式様自ら、というのはぁ……」
デジタルちゃんは、オタクとしての矜持というものを大事にする人だ。
なので、そう答えるのはある程度予想出来た。
さて―――――
「―――デジタルちゃん。私たちの思い出作りに、協力してもらえないかな?先輩からの頼み、ってことで……ね?」
「~~~~~っ!?わ、わかりましたっ!ふ、不肖アグネスデジタル、脚本、謹んで提供いたしますッ!なんなら衣装芸術音楽諸々の裏方をやらせてくださいッ!」
「え、そ、そこまでは言ってないんだけども……」
「彼女の方から申し出てくれているんだ、ここはその厚意に甘えようじゃないか……よろしく頼むよ、デジタル君!」
「も、ももももしかしてぇ、私、オペラオーさんと同じ舞台に……?」
「…………いつも、こうなんだから……でも、クロと一緒に劇をやれる、って言うなら………」
なにやらやる気が物凄いデジタルちゃんに少しだけ不安になるが……厚意に甘えてしまって、良いのか?
うーん、申し訳ない気持ちも……
「よし、決定!早速だけどデジタル君、登場人物や話の流れを変えることは出来るかい?全員、王の役にしたいんだ。それぞれ違う国の、ね。治める国は、ボクたちのイメージに沿って―――」
そう言うと、オペがこちらを―――正確には、私とトップロードを見る。
「―――で、君たち2人は、自分で自分の役を決めたまえ」
「―――え、私が……ですか!?」
「自分の役を、自分で、ね……」
―――やれやれ、厄介な事を言いつけられてしまったな。
トップロードさんは……例えば、御者座のメンカリナン。
近すぎない距離で側に佇んでいて、突き放しても、軌道を辿るように離れ、近づき……側にいる。
それは誰に対しても同じで……当たり前のように、他人に手を貸す。
期待に応えたい―――そう言いながら、いつも、自分は後回し。
……もう少し、自分を顧みるべきでは、ないかしら……?
「うーん……私に相応しい役……太陽に、匹敵するような……」
―――オペラオーは、自分の役を『太陽の王』と定めた。
同様に、トップロードさんとクロに、自分の役と、治める国を決めるよう、言い放った。
『唯一無二の、君たちの王冠を見出してくれたまえ!』、だなんて言っていたけれど……
「あるのかな、私に……でも、オペラオーちゃんが根拠もなく言うはずないですし……うぅ~~ん……」
……真面目な人だけに、真剣に、悩んでいるみたい。
「はぁ……ねぇ。あなた、大丈夫?」
「―――アヤベさん!あの、アヤベさんから見た私って、どんなウマ娘でしょうか!?」
「え……えぇっと、そう、ね……お人好しな委員長、かしら……いつも、他人のためを考えてばかりでしょう?あなたは、もっと自分の事を考えた方が良いと思うわ」
グイ、と詰め寄られて。
その圧に負けて、思わず、口にしてしまった。
「―――確かに。私、自分の事を分かっていないのかもしれません……オペラオーちゃんに言われるまで、気づきませんでした……」
「……え?いえ、ちょっと―――」
「ありがとうございます、アヤベさん!すごく参考になりました!この機会に、自分についてもっとちゃんと考えてみます!!」
そういって、トップロードさんが立ち去ってしまって。
『失敗した』、と、いまさらになって後悔する。
「―――そういう意味じゃ、なかったんだけど……」
察しが良い時もあるけれど、真に受けやすい人でもあるのだから。
言い方に気をつけなかったのは、失敗だった。
どうしたものか、と考えながら廊下を歩いて―――
「―――やぁ、アヤベさん!今、時間はあるかい?良ければ、ボクに少し付き合わないか?」
「……生憎、暇ではないわ」
「そう言わずに、悩めるウェルテルよ……ボクは、台本通りの幕引きにするつもりはないのでね!!」
―――面倒なのに、捕まった。
「―――で?こんなところに連れてきて、どうするつもり?」
「下を見てごらんよ、アヤベさん」
屋上に連れてこられて。
言われた通り、下に目を向けると―――あれは、トップロードさんと、ドトウと、デジタルさん?
―――会話を聞く限り、どうやら、クロとトップロードさん以外の役が決まったから、その辺りを話に来たようだ。
「断っておくが、ボクは何も言っていないよ。2人は自主的に動いたんだ、トップロードさんのために、ね……やはりボクたち世代がNo.1になるためには、彼女が必要なんだ。車輪はそれだけでは走れない、回るためには車軸が必要だ……軸、なのだけれどね。本人だけが、そう思っていない」
「……言いたいことは、分かるわ」
車輪と車輪を繋ぎ、動きを合わせてくれる『軸』。
バラバラに離れないようにつなぎ留めてくれる『要』。
そういう事だろう。
―――私が、あの2人に対して抱く印象を、モノで例えたら、確かにそうなる、か。
「で、どうするの?」
「―――ボクは、待つだけさ」
「……手を貸す気はない、ってこと?」
「トップロードさんについては、ね……どんな困難が立ちはだかろうと―――彼女は、ボクの期待を裏切らない」
「……そういうこと、ね」
「それに、1番近くでトップロードさんを見てきたのは、アヤベさんだろう?……彼女のこの状況を見過ごすわけがないんだ……君に限っては、ね」
―――ホント、この人は。
歌劇の間に人生を過ごしているような、そんな人だが……『観察眼』とでも言うべきモノが、時折、凄まじいものを発揮する。
………そう、ね。
「―――テイルの事は、どう評価しているの?」
「……実は、トップロードさんについてよりも、難しいと考えているよ」
「……………………」
テイル―――クロ。私の、家族同然の、大切な人。
大切な人、なのだけれども―――きっと、彼女も、そう思ってくれていて。
思っていてくれているからこそ―――きっと、彼女の方の問題については、私が踏み込むと、頑なに答えようとしないだろう。
「……テイルについては、貴方に任せて良い?」
「――ボクで、良いのかい?」
「……………彼女の悩みを聞くには、私は『近すぎる』の」
『大切な人』だからこそ、明かしたくない……知ってほしくない悩み。
だから……断腸の思いで、オペラオーに任せることにする。
「―――――任された。テイルさんについては、ボクがなんとか踏み込んでみるとしよう」
―――――いつかは、貴方の口から直接聞かせてね、クロ。
「―――ボクやアヤベさんを『車輪』とするなら、トップロードさんは『車軸』。そう考えているんだが……テイルさん、君は、どんな存在かな?」
「―――あえてその例え方に沿うように言うなら、『グリス』とかだと思っているよ」
食堂の片隅で、ボクはテイルさんと向かい合って話す。
「『グリス』、か」
「軸の動きが円滑になるように、サポートする存在……縁の下、とでも言い換えて良い」
「―――ふぅん?」
「アヤとオペの2人だけなら、正直言ってしまうと相性は良くない。その辺り、トップロードがうまい具合に間に入ってくれている。オペとトップロードの2人だけだと、きっとトップロードはオペに合わせてばかりになってしまうが、その辺りアヤがブレーキをかけてくれる。アヤとトップロードの2人だけだと、トップロードは察しが良いから適度に距離を置いてくれるかもしれないが、その辺りオペがグイグイいって状況を動かしてくれる……君たち3人って、綺麗にかみ合ってると思うよ、本当に」
「聞く限り、トップロードさんと君が入れ替わっても同じように出来そうだが?」
「それは出来ないさ……私はどうしても、アヤを贔屓しちゃうから」
どこか、自嘲するように、吐き捨てるように、言葉を紡ぐテイルさん。
「―――ふと考えることがあるんだよ、オペ。4人の中から1人だけ―――私だけが、居なくなっても残った3人は変わらない関係で居られる、ってね」
「――――――――」
目を、見開く。
「さっきも言ったが、私はどうしてもアヤを贔屓してしまうからね。誰かが欠けたら今以上に比重が傾いて、今の関係を保てない。確信出来る」
「……ちなみに、欠けたのがアヤベさんなら―――」
「―――その時はきっと、『私』は『私』じゃない。今の関係とは、全く違うものになってるだろう」
―――ゾッとするような、寒気に襲われる。
夜闇を切り取ったような髪よりも更に深い、深淵の奥底のような、光無き瞳に射抜かれる。
―――それもほんの一瞬で、瞬きした瞬間には、いつもの穏やかな彼女がそこに居た。
「―――と、言うわけで。私は縁の下の存在、『無くなってもまぁどうにかなる程度の存在』として自分を定義している……これが、君があの時言っていた『世代の中でどんな光なのか』、『歌う主題は何か』が見えないという君の疑問に対する答え、かな」
「―――『光であろうとしていない』、『自らの主題を歌うつもりがない』」
「そんなところ」
『いやぁ言語化出来て良かった』、などと言いながらコーヒーを飲む彼女。
「……レースに出た時は、あれだけ存在感を発揮しているというのに」
「『ウマ娘』としての本能かな、レースに出るとどうしても昂ってね……正直、本当はレースを走る事すら………」
「?」
「いや、何でもない、個人的な問題だ……とにかく、そういう事。レースの時とレース以外でまるで違うように見えるっていうのは、気にしないで欲しい」
少し考えるような仕草のあと、彼女がこちらを見る。
「オペ。私は……うん、私は君たちと共に居られるだけで十分に、十二分に満足なんだ。レースを走る時は別だけれど、レース以外の時は、本当にそれだけで満足なんだよ……君たちが楽しそうにしてくれると、それで心が満たされるんだよ。君たちの側に、ただ並んで……いや、1歩くらい退いた場所でもいい、ただ近くに居られるだけで、私は満たされるんだ」
「―――――」
―――その言葉が、本心からのモノだと、分かってしまった。
ブラックテイル、君は……ボクたちを、『そう』見ていたのか。
デジタル君の言うところの『推し』という見方に似ているようで、どこか違う。
―――――『子供』を見守る、『大人』の視点。
そう、これだ。この例え方が、一番しっくりと来る。
どこか大人びた人だとは思っていたが、そこまで達観しているとは!
「―――キミは」
「ん?」
「テイルさん、キミは……レースの場『だけ』、対等で居る、と?」
「うーん……………………なんて言えば、いいのかな……ゴメン、『これ』は、説明が難しくてね……だけど、うん、君が今言ってくれた言葉が、確かに分かりやすいかもしれないね」
「と、言うと?」
「―――ターフの上なら、難しいことを考えずに君たちと向き合える。しがらみも、何も関係ない、ただのウマ娘としてターフに立ち、競争相手として君達を対等に見ることが出来る……レースの中でなら、私は『ウマ娘ブラックテイル』として、確かに個を保てる」
……どうやら、彼女の言っていることは、理解が及ばないところもあるが、彼女の『本音』らしい。
目をそらさず、まっすぐにボクを見て言い放った事から、恐らくそうであると分かる。
レースの熱に身を焦がされてない彼女は、色々と考えてしまって、自分の事を『異物』のように感じてしまう、と。
己に感じる『異物感』から、ボク達の輪の中に入るのを遠慮してしまう、と。
そういう事、らしい。
「……………そう、かい。そういう事なんだね」
「うん、そういう事なんだ」
「……君が言う、『これ』、というのは、教えてくれないんだね?」
「……うん。『これ』は、私自身の問題で……………私だけにしか、向き合えない問題だから」
「……分かった。なら、これ以上は深入りしないでおくとしよう」
―――ここが、踏み込める限度。
そう見極めて、これ以上の詮索を控えることにする。
テイルさんの抱えている問題は、ボクという光ですら吸い込んでしまう深淵であるらしい。
深淵を覗き込み、深淵に飲み込まれる覚悟は―――ボクには、出来なかった。
「―――だが」
「……だが?」
「だからといって、君が遠慮しがちで居るのを、見過ごすわけにはいかないね!」
―――そう、だからといって、ボクは彼女をそのままにするつもりはない。
「テイルさんが遠慮する理由は分かった。どうやら、君は本当に、ボク達の側にいるだけで満足しているらしい……それは分かったとも」
「だけどね、テイルさん。君は満足かもしれないが―――ボクが、ボク達が、それじゃ満足出来ないんだ」
そう、テイルさんが満足していても、ボク達が、君が一歩退いた場所に居る事に満足出来ないんだ。
君は、『自分が居なくてもきっと変わらない』なんて言ったが―――そんなことは、無い!
「ドトウは常に気遣ってくれる君に感謝していて、何か恩返ししたいと良く話している。トップロードさんだってそうさ、君の存在に助けられているといつも言っている」
「ボクだって感謝しているんだよ、テイルさん……ボクら世代で、真っ先に、かの黄金世代に挑んだ切り込み隊長。世界中から集まった強者を迎え撃った、僕たちの総大将。そして……世界に挑んだ、勇敢な友よ」
『最強世代』と名高い、1つ上の世代―――黄金世代。
その中でも、『マルゼンスキーの再来』とまで謳われた、『栗毛の怪物』―――グラスワンダー。
テイルさんは、そんな彼女を前にして、クラシックの秋に2度、戦いを挑んだ。
ボクだって秋の初戦はスペシャルウィークさんを相手に挑んだが……生憎、彼女は不調で、彼女をマークしていたボクは上手く行かず、黄金世代のツルマルツヨシさんに負けてしまった。
テイルさんは、グラスワンダーさんと真っ向勝負で挑み……結果は敗北、キングヘイローさんと競り合いの末の3着。
お互い、黄金世代に挑み敗れたが……彼女が真っ先に挑戦状を叩きつけ、共に黄金世代へと挑んでくれた事実は、心強かった。
菊花賞後には、ジャパンカップへと向かい、世界の強豪―――凱旋門賞ウマ娘、モンジューさん達、そして国内の強豪―――黄金世代達を含めたシニア級ウマ娘達を相手に、ボクら世代のダービーウマ娘として果敢に挑んだ。
またもグラスワンダーさん達黄金世代に敗れたが……強豪相手に、最終直線に単独で先頭を奪い走ってきたその姿に、どれだけ勇気づけられたか!
そして、彼女は、国内ではなく、国外に目を向けた。
ボクら世代どころか、国内の全ての期待を背負って、世界の強豪へと挑んだんだ!
誰にだって出来る事ではない、そんな選択をした彼女を、誇らしく思っている!!
―――そして、そんな彼女が、1人悩んで、ボクらに遠慮している事態を、見過ごすなんて出来ないんだ。
「―――それに、君が一緒に居なかったらアヤベさんの笑顔が曇ってしまうじゃないか。星の輝きは、太陽輝く空の中ではなく、闇夜にこそ美しく輝くものだ……『奇跡のダービーウマ娘達』、君たち2人が揃ってこそ、だよ」
そう、ボクらの中で、最もテイルさんを大切に思っている存在……アヤベさんの事は、外せないね。
知っているかい?君が居ない時のアヤベさんは、君が居る時は結構違うんだよ。
君が知っているアヤベさんは、『君が居る時のアヤベさん』だけだろうから、知らないだろうけどね。
アヤベさんの笑顔を引き出しているのは、君なんだよ、テイルさん。
「……アヤの事を引き合いに出すのは、ズルくない?」
「キミが一番気にかけている存在だ、当然引き合いに出すとも」
「……私が居る事で、アヤが笑顔で居てくれる、か。そういう『免罪符』を、くれるんだね」
「そう捉えてくれて構わないよ」
テイルさんは、アヤベさんには特別甘い。
グラスワンダーさんやマンハッタンカフェさんにもだいぶ甘いが、アヤベさんは本当に特別だ。
―――菊花賞の後、絶望しきった表情で項垂れていた君を、忘れやしないとも。
アヤベさんの笑顔を引き出せるのはテイルさんだが……テイルさん、キミの笑顔を最も引き出せるのは、アヤベさんだ。
アヤベさんの為にも側にいて欲しい、と言ったが……君自身の為にも、アヤベさんと一緒に居て欲しい。
ボクら世代の、大切な仲間が、幸せで居てくれる事。
それが嬉しいのは……君だけじゃ、ないんだ。
「……そう、だね。今は、君の優しさに甘えさせて貰おうかな」
「フフン、存分に甘えたまえ!」
「そうさせてもらうよ、オペ」
テイルさんの纏っていた雰囲気が、和らいだのが分かる。
良かった、と安堵していると、テイルさんがポン、と手を叩く。
「―――そうだ、劇の役」
「何か、思いついたのかい?」
「最初は『影の王』、とか思っていたんだけれどね。ドトウが『闇の王』って事になったらしいから、悩んでいたんだけど……うん、1つ、思いついたかな」
ボクの事を見ながら、テイルさんが言葉を続ける。
「―――静かな夜に、そっと光を照らす存在。太陽の王の様に遍く全てを照らすような存在ではなく、ただ静かに、しかし確かに存在する……王達をも見守る、『月の王』」
「……王達をも見守る存在、か。確かに、君らしい……君にしか出来ない役だ」
「納得して貰えたかな?」
「ボクの役に合わせつつ、君らしさが確かに表れているからね……良いと思うよ、ボクは」
テイルさんの言葉に、頷く。
どのような理由であれ、彼女がボク達の事をいつも見守ってくれているのは事実。
そんな彼女らしい役だ、と。
「じゃあ、デジタルちゃんにはそれで提案してくるとしよう」
「うんうん、此度の劇の脚本家が、君とトップロードさんの役が決まるのを待っているよ」
「そうだね、じゃあ今から行ってくるとして……オペ、ありがとうね」
「―――どういたしまして」
この会話の中で、一番自然な笑みを浮かべた彼女の言葉に、軽く頷く。
―――今はまだ、ボクが与えた『免罪符』の下で良い。
だが、いつか……君自身の気持ちで、僕らの側に、来てくれることを願うよ。
次回で特別番外編は終わり、競走馬編へ戻ります。