黒き馬、世紀末を駆ける   作:馬券童貞は東京優駿に捧げた男

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第5話投稿です。
今回はコスモス賞です。


第5話 コスモス賞

1カ月ぶりの札幌、前来た時よりは少し涼しいかな?

天気は良いし、きっと馬場の状態も良いだろう。

今日のレース、一番大きなレースは自分が走るコスモス賞。

9レース目という事なので、暫く先の出番になる。

……良馬場とはいえ、9レース目になると芝も荒れてくるだろう。

コース取りは大事にしないといけないかな?

 

『ねぇねぇ、君、そこの黒い君!』

『……自分、かな?』

『そうそう!』

 

そんな事を考えていると、話しかけられた。

栗毛の馬だ。

 

『トレセンで遠目で見た事あったから、声をかけたんだ』

『同じトレセンの馬なんだね、君は。ブラックテイルだよ』

『自己紹介ありがとう!僕の名前は、ノボグローリー!』

 

ノボグローリー、という名前らしい。

元気な馬だ。

 

『僕ね、今日初めてレースに出るんだー!』

『そっか、新馬戦に出るんだね』

『そうそう!えっと、ブラックテイルは?』

『好きに呼んでよ、俺もそうさせて貰うから……自分は、コスモス賞、っていうレースに出るんだ』

『そうなんだ!じゃあ、テイルはレースに勝った事があるんだね!凄い凄い!!』

 

うぅむ、今まで話した事のある馬とは、また違ったタイプの馬だなぁ。

 

『ねぇねぇ、何かこう、勝つ方法?みたいなのって、あるかな?』

『勝つ方法?』

『僕ね、父さんが凄い馬だって聞いたんだ。それで期待されてるんだけど……だから、今日のレース、というか、出るレースには頑張って勝ちたいんだ!』

『父さんの、名前は?』

『僕の父さんはね、トウカイテイオーって言うんだ!』

 

『ブフォッ』と思わず吹き出してしまう。

トウカイテイオーと言えば、競馬について全く知らない素人、前世の自分でも聞いた事のある名前の馬だ。

勿論、名前しか知らないけれど……素人ですら聞いた事がある、それ位には有名な馬。

その子供って事は、将来凄い馬になる可能性があるのでは……?

 

『そっか、凄い馬の子供なんだね』

『そうなんだー……で、何かレースに勝つ方法って無いかな?無いかなぁ?』

『うーん……あくまでも、自分はこう思う、ってだけだから、参考程度に聞いてね』

『うん!』

『自分に乗ってくれる人を信じて走る事。あとは、勝ちたい、って気持ちを大切にする事、かな』

『勝ちたい気持ちを大切に、っていうのは分かるけど……乗ってくれる人を、信じる?』

『乗ってくれる人は、君を勝たせたいと色々考えてくれる。だから、その気持ちを信じて、指示には従う事。自分は、それを大事にしたいと思ってるよ』

 

あくまで、持論だけどね、と付け加えておく。

誰も、『自分の乗っている馬を負けさせたい』と思いながら乗っている訳では無い。

勝たせたいと、そう願って乗ってくれているだろう。

だから、鞍上を信じて走る。これは、大事にしたい。

 

『……うん、分かったよ。僕、頑張る!』

 

グローリーが笑顔で言う。

少しでも助けになればいいんだけど、と思っていると、グローリーの奥から、ヌッと顔を出す馬が居た。

 

『良い話を聞かせて貰った。自分も参考にさせて貰おう』

『誰、君?』

『イシノフォーチュンだ。自分も、今日のシンバセンに出る……あと、君達とは同じトレセン出身だ』

『イシノフォーチュン、か。自己紹介ありがとう、俺はブラックテイル』

『僕はノボグローリー!……で、シンバセンに出るって事は、僕と走る、って事かな?』

『恐らく、な。自分も凄い父を持つんだ、勝たせて貰う』

 

黒鹿毛の馬、イシノフォーチュン。

彼もまた、凄い父を持つという。

……どんなビッグネームが出るのか、興味が湧いてきた。

 

『ちなみに、君の父親は……』

『オグリキャップ』

 

またも『ブフォッ』と吹き出してしまう。

これもまた、前世の自分ですら聞いた事のある名前だった。

なんてこった、自分の生まれた世代には、前世の自分ですら聞いた事のあるビッグネームの子供たちがこうも居るのか……怖くなってきたな。

 

『勝つのは僕だもんね!』

『いや、自分が勝たせて貰うぞ』

『ははは……どっちも、頑張ってね。応援させて貰うよ』

 

自分が勝つと相手を睨み付ける2頭に対し、自分はそう言うしかなかった。

これが、同期か……いや、怖気づくな。

自分が知らないだけで、新馬戦で戦ったオルランドレバリーやウルティマスキーの父、タマモクロスだって凄い馬なのかもしれない。

もしかしたら、他の馬の父親にも、もっと凄い馬が居たのかもしれない。

でも、自分は勝っているんだ。

父親が凄くても、自分が戦うのはその子供だ。

父親が凄くても、走っているのは、その父親ではない。

恐れるな。凄い馬の子が、凄く強い可能性は、0ではないが100でもないんだ。

……自分にも言えるんだけどね。

我が父サンデー何某、そして母父ストームキャット……その血をひいているとはいえ、そこに秘められた力を発揮できるかは、自分次第なんだ。

 

 

 

後に聞いたけど、ノボグローリーとイシノフォーチュンは同じ新馬戦で走り、ノボグローリーが勝ったらしい。

 

 

 

 

 

『天気に恵まれました札幌競馬場、本日の第9レースコスモス賞、10頭立てで行われます』

『本日の1番人気は4枠4番、マチカネカイセイ。新馬戦では最後の追い込みで後方から一気に勝利を手にしました。その末脚に今日も期待したいですね』

『2番人気には8枠8番、ブラックテイル。新馬戦では常に先頭を譲らない走りを見せてくれましたが、新馬戦から600m伸びた今日のレースではどのような走りを見せてくれるのか』

 

実況が聞こえてくる。

うーむ、自分は2番人気、か。

まぁ、これは仕方ないと言えるだろう。

1.5倍の距離で走れるのかどうか、不安に思われるのは仕方の無い事だ。

……これ、距離を不安視されてるという事は、1番人気の馬は芝1800走れると思われている、って事か。

てことは、前走は芝1800か、もしくはそれに近い距離走っている、って事だよなぁ……

 

返し馬までしっかりと終えて、待機所をグルグルしながらも考えは続く。

馬場はそこそこ荒れていた。走りにくいかもしれないな。

特に内側は、やっぱり走る馬が多いからだろう、結構荒れていた。

走りやすさをとって外の芝状態のいい場所を走るか、走る距離を短くするために内側を通るか……

鳥場さんなら、どちらを取るんだろう?

折り合いをつける為に最も重要なのは、そこの選択、かな?

 

ゲートインまで、静かに待つ。

そうしていると、鳥場さんが話しかけてくる。

 

「テイル、内側を行こう。君の脚なら、荒れた馬場でも走り切れる」

『鳥場さん……分かった』

「それと、少し試したい事があるんだ。カイセイの後ろを行こう」

『マチカネカイセイの後ろ、か……分かりました』

 

内側を通る、というのは良い。

荒れた馬場であろうと、走り切れる自信は自分にもある。

マチカネカイセイの後ろ……追込み型という話だったから、最後尾?

正直、気乗りはしないけれど……鳥場さんの試したい事、と言うのも気になるし、やってみよう。

了承の意を込めて、首を縦に振る。

 

「よし……レース中、僕の言葉に耳を傾けてくれ」

『はい』

 

口頭の指示に従う様に、と。

さて、ゲートインゲートイン。

スッと入って……今この瞬間は、ゲートが開くタイミングだけに集中する。

まだか、まだか、まだか……

 

『大外、スコアーシチー入りまして……』

 

今ッ!!

 

『スタートしました!スカイマサルオーが先頭を行きます、1馬身離れてモエギノトップー、その後ろを行きますはマチカネカイセイ!マチカネカイセイ3番手、その後ろをブラックテイルが付いています!』

 

え、マチカネカイセイが前の方!?

追込みじゃないの?

 

「カイセイの鞍上、海老名さんは先行を選ぶと思っていたんだ。このまま後ろをつけさせてもらおうか」

『分かりました!』

 

そっか、鞍上の違いがあったのか……

前の人は追込みを選んだ。けれど、今回の鞍上……エビナさん?は先行を行くのを選んだ。

そして、鳥場さんはそれを読み切ったんだ。

そういうやり方もあるんですね、勉強になります。

 

完全に後ろに入り込む。

何て言ったかな……スリップストリーム、だったか。

走る時に誰かの後ろに入り込むことで、風の影響を受けにくくして、体力を温存する走り方。

それを狙って完全に後ろに入り込む。

 

「よし、良いぞ……第3コーナー手前まで、後ろに入り込むんだ。第3コーナーで仕掛けるよ」

『第3コーナーまで……』

 

鳥場さんの指示のままに、マチカネカイセイの後ろをキープする。

 

『第2コーナー通過しまして、先頭はモエギノトップー、続いてスカイマサルオー、少し離れてマチカネカイセイ、その真後ろピッタリとついていますブラックテイル。1馬身程離れてクリアーグロー、グレイトフルウィン、エディプション、と続き、アイアイロベルタ、スコアーシチー、最後尾にヤナギゴーストとなっています!』

 

後続との差は1馬身、安心するにはちょっと短いかな?

直線を進み、あと数秒で第3コーナーという所。

鳥場さんの声を聞き逃すまいと、耳を傾ける。

 

「膨らんだ瞬間、内を突くよ」

『膨らんだ、その瞬間に……』

「まだ、まだ、まだ……今ッ!!」

『ここで、抜く!!』

 

コーナーに入り、少し外に膨らんだマチカネカイセイ。

その瞬間に、鳥場さんからの鞭が入る。

一気に加速し内側を突いて、スルリと前へと抜けていく。

 

『第3コーナー入り、おっとここで仕掛けてきたぞブラックテイル!マチカネカイセイの内を抜けて、前へと進めてくる!』

『内側はだいぶ荒れているが、荒れた馬場をものともせずに!ブラックテイル突き進む!』

 

少し走りにくいけど、これくらいなら問題なし!

力強く、1歩1歩確実に踏み締めて、前へ、前へ!!

 

『第4コーナー差し掛かり他馬も押し寄せてくるが、突き進むブラックテイルが止まらない!スカイマサルオーを抜き去って、先頭のモエギノトップーと競合うか、いや競り合わずに抜き去った!内を通って抜け出しましたブラックテイル!!』

 

スリップストリームで温存し、短い距離を走る事で温存した体力を、今ここで!

さぁ前に、前に、前に!!

 

『最終直線入って完全に抜け出しましたブラックテイル!抜かされたマチカネカイセイも前に出てきたが、ブラックテイルとの差が1馬身、いやまだ差をつけられていく!!』

 

前は常に先頭を走る方法だったけど、相手を抜き去るのも、また爽快!

鳥場さんの指示に応えられた満足感も合わさって、これはこれで楽しいなぁ!!

 

『差が2馬身ほどにもなって、しかしブラックテイル!ブラックテイルまだ余裕がありそうだ!!』

 

そこまで余裕は無いんですけどね!

所々体力を温存出来たからこそ、つまり鳥場さんのお陰ですよ!!

 

『ブラックテイル、今ゴールイン!!2着マチカネカイセイとは2馬身半の差をつけて余裕の勝利です!!』

 

2馬身半、か。

これだけ差をつけての勝利、これならテキだって信じてくれるだろう。

俺は、芝を駆け抜けられる脚を持っている、と。

クラシック路線に向けて調教しても、無駄にならない、と。

 

 

 

 

 

「鳥場さん、テイルはどうでしたか?」

「問題ありませんよ、テキ。テイルはしっかりと走り切ってくれました、まだ余裕もありそうです」

「芝1800、しっかりと走ってくれた……これは、もう迷う事はありませんね」

「えぇ……クラシック、目指しましょう」

「そうですね。では、予定通り、テイルの次走は『ラジオたんぱ杯3歳S』に」

「芝2000、皐月賞と同じ距離……テイルを、走らせてやりましょう」

「えぇ。今から3ヶ月近くあります、しっかり鍛え上げてみせますよ」

「……改めて考えると、間結構空きますね。レース挟みますか?」

「うーん……いや、ここは当初の予定通りに行きましょう。しっかりと調教して、万全の状態で挑ませましょう」

「分かりました」




コスモス賞よりもその前の方が濃くなってしまった感……申し訳ありません。
主人公と同じ歳の馬でビッグネームの子を見つけてしまったので、どうしても書きたくなってしまいました。同じトレセンの馬でしたし……

宣言通り、次回はウマ娘編を書きます。
まだ本編が序盤も序盤なので、主に主人公の所属チーム紹介みたいな内容になるかと思われます。





おまけ:主人公がテイオーやオグリを知ってた理由

友人「なぁなぁ、ウマ娘ってアニメ知ってるか?」
主人公「名前は聞いた事あるけど……」
友人「今度2期やるんだよ!主人公が俺の推しでさ、『トウカイテイオー』っていうんだけど可愛いんだ!ほら、これこれ!!」
主人公「ふーん、確かに可愛いな」
友人「ウマ娘は漫画もやってるんだけど、そっちはそっちで面白いぞ!『オグリキャップ』が主人公で……」
主人公「ほうほう……………なんか、独特なキャラだな………」

こんなやり取りが、主人公の前世であったとか。
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