黒き馬、世紀末を駆ける 作:馬券童貞は東京優駿に捧げた男
今回はウマ娘編の過去、ダービーの話です。
【今年は】クラシック戦線を追いかけようPart○○【どうなる】
1:名無しの後方彼氏面
ダービーに合わせて新スレを立てておく
2:名無しの後方彼氏面
有能か?
3:名無しの後方彼氏面
これは間違いなく有能
4:名無しの後方彼氏面
出来る>>1だ、褒めてやる
5:名無しの後方彼氏面
今から楽しみでヤバイ、昨日眠れなかった
6:名無しの後方彼氏面
ダービーはやっぱ特別感凄いよな
7:名無しの後方彼氏面
眠れなかったニキ、仮眠とっとけ。
寝落ちで見過ごしたとかあったら後悔するぞ
8:名無しの後方彼氏面
楽しみなのは同意だが、机に突っ伏して10分目を閉じるだけでも少しは休めるぞ
9:名無しの後方彼氏面
優しい
10:名無しの後方彼氏面
やさしいせかい
11:名無しの後方彼氏面
やさいせいかつ
12:名無しの後方彼氏面
ここまでテンプレ
13:名無しの後方彼氏面
ここまで天ぷら
14:名無しの後方彼氏面
ウイ、ちょっと頭を休ませて来る
俺はトップロードがダービー取る瞬間を見逃したら死ぬからな
15:名無しの後方彼氏面
なるほどトプロ推しか、ゆっくり休め
だがダービー取るのはオペラオーだがな!
16:名無しの後方彼氏面
は?ダービー取るのはアドマイヤベガ一択なんだが???
17:名無しの後方彼氏面
ニシノセイリュウちゃんだルルォ!?
18:名無しの後方彼氏面
薔薇一族信者ワイ、薔薇一族の悲願をロサードちゃんが叶えると信じてる
19:名無しの後方彼氏面
ブラックテイルがチームアルタイルにダービーレイを持ち帰ってくれるって決まってるんで
20:名無しの後方彼氏面
うーんこの
21:名無しの後方彼氏面
まぁ誰にだって推しが居るからこうなるわな
22:名無しの後方彼氏面
これを見るのもスレの醍醐味でしょ
23:名無しの後方彼氏面
それもそう
24:名無しの後方彼氏面
推しに勝って欲しいと願うのは当然
25:名無しの後方彼氏面
クラシック路線は特になー
推しの子にとっても1度だけしか出られないレースだし
26:名無しの後方彼氏面
シニア級レースとは違って本当に生涯1度切りのチャンスだからな…
27:名無しの後方彼氏面
1番速いウマ娘が勝つ皐月賞
1番幸運なウマ娘が勝つダービー
1番強いウマ娘が勝つ菊花賞
全てを制覇すると3冠ウマ娘を名乗れる……改めて見ると3冠ウマ娘ってやべぇなこれ????
28:名無しの後方彼氏面
それはそう
29:名無しの後方彼氏面
無敗3冠はただ1人しかいないっていう事実
30:名無しの後方彼氏面
そもそもミスターシービーの3冠達成が前の3冠ウマ娘誕生からかなり間が空いてるし…
31:名無しの後方彼氏面
セントライト~シンザンだけでもかなり間が空いてたしな
3冠達成のうえGⅠ2勝加えた5冠ウマ娘のシンザンから暫く空いて、ミスターシービーが久々の3冠
そして翌年現れるのが史上初の無敗3冠からの7冠ウマ娘よ
32:名無しの後方彼氏面
そしてまた暫く空いてナリタブライアン…で、そこからはまだ出てきてないからな3冠ウマ娘は
33:名無しの後方彼氏面
毎年期待がかかるのがクラシック2戦目よ
そして2冠達成した先にはもっと期待がかかるのが3戦目の菊花賞
34:名無しの後方彼氏面
皐月賞の末脚があればダービーも狙えそうだが、どうなるか
35:名無しの後方彼氏面
まだ数時間あるとかマ???
36:名無しの後方彼氏面
早く始まらないかなー
606:名無しの後方彼氏面
ダービーのお時間だゴルァッ!!!
607:名無しの後方彼氏面
入場始まったぞー!!!
608:名無しの後方彼氏面
待ってました!!!
609:名無しの後方彼氏面
入場がはじまった、という事はつまり
610:名無しの後方彼氏面
あ、やっぱりこうなるのね
611:名無しの後方彼氏面
い つ も の
612:名無しの後方彼氏面
し っ て た
613:名無しの後方彼氏面
この世代はこれを見るのも楽しみまである
614:名無しの後方彼氏面
自分の知ってる入場とは違うんだよなぁ…
615:名無しの後方彼氏面
実況の人も微笑ましいモノを見ている声色なの草なんよ
616:名無しの後方彼氏面
1人1人入場して、張り詰めた雰囲気の中ゲート入りを待つのが入場だと思うんだけど、俺の認識可笑しい?
617:名無しの後方彼氏面
>>616 可笑しくないから安心してくれ
618:名無しの後方彼氏面
なんで17人が1人を囲む形で全員和気藹々としてるのか、これがワカラナイ
619:名無しの後方彼氏面
もうこの世代の定番として定着してるからね、仕方ないね
620:名無しの後方彼氏面
1人1人に丁寧に対応するブラックテイル好き
621:名無しの後方彼氏面
浮かべてる笑顔が保護者のそれなんよ
622:名無しの後方彼氏面
少なくとも全員軽い挨拶くらいはするし、なんだったら仲の良い相手とは互いに意気込みを語ったりするのがこの世代のレース前よね
623:名無しの後方彼氏面
今までの世代とは違いすぎて脳みそこわれる
624:名無しの後方彼氏面
特にクラシック路線はブラックテイルがそのスタイル確立したから全員そういうスタイルになっちゃったっていう
625:名無しの後方彼氏面
前世代だとグラスワンダーもそうじゃない?
626:名無しの後方彼氏面
グラスワンダーはなんかのインタビューで「先輩から『相手への礼を忘れないように』と言われていますので」って言ってたな
627:名無しの後方彼氏面
はえー
628:名無しの後方彼氏面
>>626 その「先輩」がブラックテイルなんだよなぁ…
629:名無しの後方彼氏面
>>628 チームの先輩後輩だったわそういえば
630:名無しの後方彼氏面
元々礼儀正しい子が、先輩からそう教わったらそうなるか
631:名無しの後方彼氏面
ホントブラックテイルの事好きだよねグラスワンダー
632:名無しの後方彼氏面
先輩として尊敬してるって話は色んな所で話してるしな
633:名無しの後方彼氏面
ブラックテイルの方も彼女に恥じぬ先輩でありたい、って常々語ってるし…
634:名無しの後方彼氏面
おっとグラスワンダーの話はそこまでだ
今はブラックテイル達の世代の時間だ
635:名無しの後方彼氏面
おや、アドマイヤベガの様子が…?
636:名無しの後方彼氏面
>>634 すまんね、アルタイル推しなもんでな
ちょい自重するわ
637:名無しの後方彼氏面
アドマイヤベガとブラックテイル、話長くね?
638:名無しの後方彼氏面
しっかり話し合ってるな
639:名無しの後方彼氏面
ホープフルの頃からそうだけど、この2人は特に仲良さそう?
640:名無しの後方彼氏面
ファッ!?
641:名無しの後方彼氏面
ほわぁっ!?!?
642:名無しの後方彼氏面
ヒョエッ!!!
643:名無しの後方彼氏面
アッアッアッ
644:名無しの後方彼氏面
猫に襲われてテレビ見れなかった!
今の一瞬で何が!?
645:名無しの後方彼氏面
え、ちょ、ま
646:名無しの後方彼氏面
>>644 あとで録画とか見ろと言いたいが
ブラックテイルとアドマイヤベガがデコをくっつけたっぽいけど、角度的にキスしているようにしかみえなかった
647:名無しの後方彼氏面
観客席からも黄色い悲鳴飛んでて草……いや草はえねぇわ
648:名無しの後方彼氏面
>>646 マジ!?推しと推しがそんな事してたの!?!?あとで録画見るわ絶対見るわ
649:名無しの後方彼氏面
いやぁ驚いた
650:名無しの後方彼氏面
解説の細江さんの「あらあら…驚き、ましたね」が全てを物語ってるわ
651:名無しの後方彼氏面
現地民だけど隣でピンク髪のウマ娘が昇天してるんだが……
652:名無しの後方彼氏面
凄く良いモノを見たというか、イケないモノを見たような……
653:名無しの後方彼氏面
>>651 その子レース場の常連の子だわ多分、俺も何度か見たことある(昇天してるの
「―――テイル」
「アヤ」
「……皐月賞では、不甲斐ない走りをしたけれど……今日は、今日こそは、全力で」
「―――あぁ、そうだね」
コツン、と、互いの額をくっ付けて。
―――吸い込まれそうな、深い蒼の瞳を、真っ直ぐに見つめる。
「互いに、全力で」
「うん、全力で」
皐月賞では、私の体調不良で、競い合う事すら叶わなかった。
遥か前方を力強く走る漆黒を、ただ後方から見ているだけ。
―――だけど、今は、違う。
体調は万全、例え誰であろうと、差し切ってみせる。
それだけの自信が、私にはある。
「……リラ。今日をずっと待ってた」
誰にも聞こえない程の小さな声で、クロが囁く。
「えぇ、私もよ、クロ」
私も、周りの誰も聞き取れない程の小さな声で、囁く。
幼い頃、2人で星空の下、誓った夢が1つある。
『【あの子】に胸を張れるウマ娘になる道のりを、共に駆け抜けよう』、と。
本格化が同時に来たのも、互いに王道のクラシックレースへの距離適性があったのも。
全ては、全力でぶつかり合うこの日の為に、神様がくれた贈り物だと思うから。
全力でぶつかり合って、栄冠を勝ち取ったその時に。
きっと―――きっと私は、【あの子】に胸を張れる、その筈だから。
「―――貴女を、差し切ってみせる」
「―――君から、逃げ切ってみせる」
同じタイミングで、似たような言葉を口にして。
お互いに笑ってしまう。
笑った後には、互いに向ける視線は、友人へ、幼馴染へ向ける親愛のソレではなく、1人のライバルへ向ける物へ。
無言で、互いに背を向ける。
―――次に、言葉を交わすのは、ゴール板の向こうで。
言わずとも分かる。
だからこそ、さっきの啖呵から、私達は【幼馴染】から【ライバル】に変わったのだ。
時間が来るまで、レースへと意識を集中させる。
―――恐らく、最大の敵はクロ。
トップロードさんやオペラオーも警戒すべき対象ではあるが、クロより優先度は落ちる。
身内贔屓ではない。
蒼の瞳に込められた闘志の炎は、誰よりも強く燃え上がっていた。
……本人に言った事はないけれど。
闘志の炎を燃やした彼女の瞳が、とても好き。
―――まるで、青く輝く恒星のようで。
それほどまでに、強く、強く、燃え上がらせてくれているのだと、分かるから。
……まぁ、その。
クロが闘志を燃やしている時、というのは。
何をしてくるか、分からない、のだ。
勝つために、全力をもって潰しに来る彼女を、予想出来る自信は、あまり無い。
ホープフルステークスでは、【意図的に周りのペースを狂わせてスタミナ切れを狙い、垂れるウマ娘で壁を作って距離を離す】という作戦までしてきた人だもの。
何をやってくるのやら……怖くもあり、楽しみでもある。
ゲート入りが始まる。
全員が全員、ダービーの出走権を手に入れた猛者の集まり。
誰もが皆、静かにゲートへと入っていく。
私も、それに続いて入っていく。
『―――最後、大外18番イシノフォーチュン入りました。さぁ、日本ダービー、スタートしました!!』
ゲートを出た瞬間に、視線を左右に動かす。
1人一気に先頭を奪い取ったウマ娘、そしてその後に続く2人のウマ娘が居て。
そして、先頭から数えて4人目に、漆黒の勝負服が続くのが見える。
目立つのはやはり、その色。
色白の肌、白の蝶ネクタイ、そして白いシャツが、余計にその『漆黒』を際立たせる。
誰が言ったか、『夜闇を切り取ったような、あるいは深海の奥底をくみ取ったような』、そういう黒。
ジャケット、スラックス、エナメルのストレートチップと、勝負服の大半が黒いのだから、第一印象はそこに集中してしまう。
色の次に目立つのは、ジャケットの形状だろうか。
前合わせはウエストに合わせて切られていて、後部は長く伸びている。
伸びた後部は左右の2つに分かれていて、風に靡くそれは飛燕の尾のよう。
クロから教えて貰ったが、『燕尾服』という礼服のそれを模したそうだ。
そして最後に、白のシャツや黒のジャケットなどの他、端々に使われている別の色に気付く。
胸ポケットから僅かに出るポケットチーフの黄色。
そして、手袋に使われている深い蒼。
漆黒の勝負服には、些か派手に感じるその色だけれど……何故だろうか、『ブラックテイルの勝負服』として見ると、違和感が無い。
黒と、黄色と、青。
それ以外似合わない、そう感じてしまう色の組み合わせ。
『さぁ先頭はワンダーファング、ワンダーファングが逃げて行きます!皐月賞に出走できなかった無念を晴らさんとばかり、先頭を奪いました!マイネルタンゴ、ヤマニンアクロが続いて行きます!その後ろ、漆黒の勝負服!ブラックテイルが2人の後ろを進んでいきます!』
『注目のナリタトップロード、テイエムオペラオーが中団、アドマイヤベガは思い切って大きく後ろといった具合であります!!』
『アドマイヤベガ、彼女の脚質には合っていますね。後半の末脚に期待出来ますよ』
全体の位置を大まかに把握して、後方へ、脚を溜めつつ下がっていく。
私の脚は、テイルとは真逆で、末脚に長けている。
終盤まで溜めて、最後、一気に解き放つ。
それこそが私の勝ち筋。一瞬の輝きに、全てを込めて走るのだ。
『改めて先頭から見て行きましょう。先頭は依然変わらずワンダーファング。その後ろマイネルタンゴが2番手といった形。2バ身程離れてヤマニンアクロ、その後ろピッタリと、マークしていますのはブラックテイル。後ろにはマルツブオペラ、チョウカイリョウガが横並び、13番タイクラッシャーがその後ろ、斜め後ろにイシノフォーチュン、ペインテッドブラックが続きます!』
イシノフォーチュンさん……最近勢いに乗ってる人ね。
ダービートライアル、プリンシパルステークスで見せたごぼう抜きは記憶に新しい。
今日はやや前目、といった具合みたいね。
……クロと、とても仲の良い人、なのよね。良い人なのは確か。
と言うか、クロと仲良くない人なんて、この中に居ないのだけれど。
『向こう流しに入りましたが依然縦長の展開!ワンダーファングはまだ先頭!マイネルタンゴが2番手、3バ身離れてヤマニンアクロでその後ろ!後ろには変わらずピッタリと、影のように追従するのがブラックテイル!!』
仕掛け時を、見極めないといけない。
早すぎれば脚がもたず沈む。
遅すぎれば伸びきれず負ける。
だからこそ、大事なのは脚がもつ限界のタイミング。
さて、どうするか―――
『少し離れてチョウカイリョウガ、マルツブオペラが並んで追走!また少し離れてタイクラッシャー、その後ろペインテッドブラックそして皐月賞ウマ娘テイエムオペラオーはこの位置―――――おっとここで?ここで仕掛けて来たぞブラックテイル!?』
―――ここで、仕掛けた!?
クロが、やや外に持ち出して、位置を前へと進んでいくのが見える。
まだ、第3コーナーに入りだしたあたり。
先行策を取っているクロが仕掛けるには、やや早い様な……
『ヤマニンアクロ抜き去って、グングン前に行きますブラックテイル!仕掛けるには早くないか!?これはどうなんだ!?府中の坂を一気に駆け抜けていく!!!』
―――走り切れるのか?
疑問に思うのは、この1点のみ。
この位置で、彼女は走り切れるだろうか?
走り切れると判断するなら、追いかけるのは今しかない。
スタミナが持たずバテると判断するなら、まだ追うべきでは無い。
判断するまでにかけられる時間はほんの僅か。
決めるならば、直ぐに決めなければいけないだろう。
「―――――ッ!!!」
先にカーブを曲がり始めた、クロの顔。
ほんの僅か、漆黒の髪の奥、蒼の瞳。
その奥底、闘志の炎が、一際強く燃え上がるのが、見えた。
―――それに気付いた瞬間に、私は脚に力を込め始める。
『さぁ府中の坂を下り切り、第4コーナーコーナー入ったこの位置で、先頭遂に変わったブラックテイル!!ブラックテイル先頭、ブラックテイル先頭だ!!!』
あれは、やり切ると決めた顔だった。
走り切れる、そう思ってなければ、あの闘志は宿らない。
故に、仕掛けるなら今しかないと判断。
外へと抜け出して、一気に私も前へと進む。
前を突き進むクロのコーナリングは、相変わらず綺麗なモノで。
普段よりもややストライドを短くした、ロスの無い最内を行くための走り。
最内、荒れたバ場を、その脚力を持って踏み均し走破していく。
バ場の不利は、脚でもって捻じ伏せてしまう。
最内を進む事は、クロにとってスタミナ温存出来たという有利にしかならない。
『最内進むブラックテイル!後ろワンダーファングマイネルタンゴ、後続も迫ってきている!!先頭はブラックテイル!しかしナリタトップロード、テイエムオペラオー外に持ち出している!そして大外、大外アドマイヤベガ!!』
私が動き、前に進んだことで他も気付いたのかもしれない。
【ブラックテイルは、第3コーナーからゴールまでロングスパートをかけて走り切るつもりだ】という事に。
しかし―――気付くのが、遅い。
もう、彼女たちのタイミングからでは、遅いのだ。
大外から一気に加速していく。
ジリジリと、差を詰めていく。
しかし、やはりクロも沈むことなく突き進んでいく。
『さぁ最後の直線だ!ブラックテイル単独の先頭、追いかける後方勢!!ナリタトップロードテイエムオペラオー!!2人のやや内からこれはイシノフォーチュンだ!そしてアドマイヤベガ!アドマイヤベガが外から一気に上がって来た!!!』
「アヤベさん、速いッ!!!」
「クッ、仕掛けるタイミングが遅かったか!?」
前の人たちを抜き去って、残るはテイルのみ。
まだ、まだテイルの背中は遠い。
しかし、府中の直線は長い。まだ、詰められる!!!
「―――――クロォォォ!!!」
「―――――リラァァァ!!!」
共に、叫ぶ。
幼い頃から全てを共にしてきた、人生の相棒。
共に歩もうと、共に駆け抜けようと言ってくれた、大切な人。
そして―――『あの子』と同じ位に大切な、最愛の人。
最も大切な人だから―――だからこそ!!!
「「『君』には、負けたくない!!!!!」」
―――――全てが、灰色に変わる。
音も聞こえない、極限の集中。
でも、そんな灰色の世界で、ただ1人。
私の前に、『漆黒』だけが、輝いている。
その背中に、追い付く為に……!
『―――行って、【兄さん】』
―――背中を、押された、気がした。
優しく、温かなナニカが、身体中に広がっていく。
まるで、己が恒星の如く燃えているかのような感覚。
「―――ァァァアアアッ!!!!!」
地面を、抉り取る勢いで踏みしめて、駆け抜ける。
距離が、縮まる。
3バ身、2バ身、1バ身―――
「―――負け、るかァッ!!!!!」
―――【黒】が溢れる。
烈火の如く揺らめく【黒】を身に纏い、彼女の走りが更に力強くなる。
1歩1歩、蹄鉄の跡を刻み込むかのような走り。
半バ身まで近づいた。
だけど、その半バ身が、何よりも遠い……!
『ブラックテイル僅かに先頭!喰らいつくアドマイヤベガ!間からナリタトップロードだ!テイエムオペラオーだ!!しかし2人が譲らない!2人のデットヒートが止まらない!!』
「まだ、まだァァッ!!!」
「ッ!?」
限界寸前まで力を込めて、末脚を発揮する。
ここで出し切らないで、何時出し切るというのか。
私も、クロも、極限まで出し切って!
その先にある栄冠を掴んでこそ、『あの子』に捧げるに相応しいモノになる!!!
「こっち、もォッ!!!」
「ッ!」
やっぱり、まだ出せるんじゃない!
私のが抜く為の末脚ならば、クロのは抜かせない為の最後の粘り!
文字通りの、死力を振り絞って繰り出した、互いの最後の一手。
これで、勝負が決まる!!!
クビ差、ハナ差……並んで、並んで――――――!!!
『なんと激しい先頭争い!!!並んだ!!並んだ!!互いに譲らずゴールインッ!!!』
『完全に、完全に並んでの決着となりました!!青い星が闇を貫いたのか!?闇が星の輝きを包み込んだのか!?写真判定となります!!!』
『2バ身ほど離れて3着にナリタトップロード、4着は半バ身差テイエムオペラオー!1バ身離れての5着にイシノフォーチュンが入りました!!!』
視界がぼやける。
息が苦しい。
脚の感覚がない
まわりのおとがとおい
あれ せかいが かたむいて ―――――
「リラッ!!!」
だきとめてくれた
あたたかな手
視界を埋め尽くす『黒』
「……クロ」
「大丈夫!?」
「う、ん、だいじょう、ぶ」
「本当!?だって今倒れかけて……!」
「あ、うん……だいじょうぶ、だから」
「……駄目、まだ離さない」
「んむぅっ」
ギュウッ、と力強く抱きしめられる。
クロの胸に、頭が押し付けられる……あったかい。
「―――やれやれ、この僕を負かしたのだから、もっとシャンとしないか、アヤベさん」
「オペラオー……」
「いえいえ、全力を出し切った証ですよ。ね?」
「トップロードさん……」
気が付いたら、私とクロが、他の人達に囲まれていた。
―――そっか、終わったんだ。
「結果、は」
「……まだ、出てないみたいですね」
「2人の写真判定、ではあるみたいだけれどね」
「いやぁ並んだのは分かるけど……どうなるかな」
そう、そうだ。
私は、確かにクロに並んだ。
それは確かで―――その先は?
抜かした、訳では無い。
並んだ……けれど、その先はどうなったんだろうか。
「ところで、気になっている事があるんだが、良いか?」
ふと、そんな事を呟いたのはイシノフォーチュンさんだった。
「『クロ』と『リラ』って、なんだ?」
「「 あっ 」」
思わず、私とクロが同じ反応をする。
2人だけの、秘密の呼び名。
しかし、最後の直線、昂った心が、思わず叫んでしまっていたのだ。
クロも同じらしい。
互いに視線を合わせ……クロが、イシノフォーチュンさんの方を見る。
「子供の頃からの呼び名、なんだ。2人だけで使ってる、特別な呼び名」
「そう、なんだな……私も呼んだら駄目か?」
「うーん……ゴメンねイシノさん。これは、アヤだけの特別だから」
「……分かった。その呼び名を使うのは2人だけ、だな」
ホッ、と溜息を零す。
『クロ』という呼び名は、特別だから。
それを、他人に奪われるのは……気分が良くない。
「あと1つ気になったんだが……最後の直線、アレは……『
「最後の直線?」
「あぁ。アヤベは、まるで夜空を駆ける流れ星みたいだった。テイルは、なんというか……不気味な『闇』そのものだった」
「「 あぁ~ 」」
イシノフォーチュンさんの言葉に、皆が『分かる』と言いたげに頷く。
『領域』というモノが、ウマ娘達には存在する―――そういう話は、聞いた事がある。
曰く『時代を作るウマ娘は必ず入る限界の先の先』、との事。
私が聞いたのは、クリークさんから、だったはず。
「オグリさんから、話として聞いてはいた。だから、何となく分かるんだ。『あぁ、あれがそうなんだ』って」
……そういえば、この人が所属しているチームは『シリウス』だった。
あのオグリキャップさんが所属しているチーム。
なるほど、そういう繋がりがあったか。
ただ―――
「……無我夢中だったから、確信はないわ」
「む、そうか」
「えぇ……もしかしたら、そうなのかもしれないけれど」
「私も、アヤに負けたくないって一心で走ってたからなぁ……」
「そうか。どんな感じだったかとか、そういうのを聞きたかったが……覚えてないなら、仕方ないな。どういうモノかこの目で見られただけ、良かったと思う」
クロに、負けたくない。
この舞台で、あの子に誇れる私になる。
その気持ちだけで、最後の直線は走っていたのだから、何も覚えていないのだ。
少し残念そうな表情を浮かべるイシノフォーチュンさんには申し訳ないけれど。
「……ねぇ、流石に長くない?」
「長いねー」
「それだけ接戦だった、と言う事でしょうけれど……」
「確かに長いねぇ」
周りに声で、気付く。
テイルに抱き留められ、こうして話をして…結構、時間が経っているはずだけど。
まだ、写真判定が続いている。
「―――変わらないのか、やっぱり」
「……テイル?」
「え、あー……どうかした?アヤ?」
「いえ、その……テイル、何か言わなかった?」
「―――何も言ってない、よ?」
「そう……?」
何処か遠い所を見るような、そんな眼のテイルが、何かを呟いた……そんな気がしたけれど。
声をかければ、何時ものテイルがそこには居て。
何も言ってない、と言われてしまうと……それ以上、踏み込めなかった。
「アヤ、もう立てる?」
「え、えぇ……大丈夫。ありがとう、テイル」
「どういたしまして」
少し名残惜しいけれど、テイルの抱擁から解放してもらい、隣に立つ。
……まだ、写真判定は終わってない。
本当に、長いわね……どうなるのかしら。
「―――たぶん、そろそろかな」
「?」
また、テイルが何かを呟いて。
そっちを見て、確認しようとして―――
『長らくお待たせいたしました。写真判定の結果をお伝えいたします!』
『クラシック戦線2戦目、名誉あるダービーウマ娘の座を勝ち取ったウマ娘が、今表示されます!!!』
―――遂に、発表される。
意識は電光掲示板と、実況の声に割かれてしまう。
……『あの子』へと捧げる、栄冠を勝ち取りたい。
クラシック3冠の中でも、最も名誉ある、ダービーの冠を。
『―――こちらです!!!』
1
同着
2
「―――――これ、って」
思わず、自分の番号を確認する。
自分の番号は、2番。
そして、隣に立つクロの番号は、1番。
1番と、2番の、同着。
『―――同着!なんと同着です!!URA史上初、GⅠレースでの1着同着判定です!!!』
『1着の同着判定!これは、世界的にも例が少ない出来事ですね。ましてやGⅠレースで、となると…』
『まさしくこれは奇跡のレースです!今この瞬間、同じ年に2人のダービーウマ娘が誕生しました!!!』
「同、着……私と、貴方、が」
「―――みたい、だね」
「どっちが勝った、とかじゃなくて……私と貴方で、一緒に、勝った……?」
「うん、そう、だね……私達が、今年のダービーウマ娘、みたいだね」
現実味が無くて、クロに確認してしまう。
1つの冠を、取り合うモノだと思っていた。
例え大切な人であろうと、渡したくないと、そう思って走った。
でも、結末は違くて。
死力を振り絞った、その先に―――互いの手に、栄光あるダービーの冠が、1つずつ握られていて。
「―――――本当、なのね。私と、貴方が……一緒に、ダービーウマ娘に」
「うん、本当だよ、アヤ……私達2人で、ダービーウマ娘だ」
「私、が……テイル、と」
まるで、夢を見ているかのようで。
現実味が無くて、どうしても疑ってしまう自分が居る。
そんな私の手を、クロが優しく握る。
『この記録はアイネスフウジンが記録した2:25:3を0.1秒更新するレコードとなりました!』
『全力で競い合ったからこそのレコード、という事でしょうね』
「アヤ……いや、もうここでは隠さなくていいよね。ねぇ、リラ」
「……クロ」
「―――手を、振ろう。観客のみんなに……空の向こう、『あの子』に見えるように」
「……見える、かな」
「見えるよ、きっと……私達は今、誰よりも輝いているんだから」
そう言って、クロが大きく手を振る。
それに合わせて、私も手を振る。
湧き上がる歓声、だけど、私の願いは、祈りは、ただ1つ。
『どうか、あの子が見てくれていますように』……そう願って、手を振る。
―――私の、私達のダービーは、こうして終わりを迎えた。
『おめでとう、【兄さん】……おめでとう、【兄さん】の大切な人』
『【僕】は見てたよ、ちゃんとね……最高に、輝いてたよ、2人とも』
『―――【兄さん】。貴方は、貴方の道を、歩んで。誰かの為じゃない、貴方だけの道を』
『―――【兄さん】を、支えてくれてありがとう』
『―――貴方もどうか、迷わず走って。【過去】に囚われずに、思うままに』
ダービーのお話、そして『誰か』の話でした。
次回はダービー後の掲示板を予定しています。