黒き馬、世紀末を駆ける   作:馬券童貞は東京優駿に捧げた男

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投稿遅くなり申し訳ございません。
今回は、ウマ娘ブラックテイルのジャパンカップとなります。



ウマ娘編現役期 ジャパンカップ

『モンジュー』

『ブラックテイル』

『ようやく、ようやくだ。ようやく貴方と走れる』

 

―――ジャパンカップ当日。

短いながらも、充実した日々を過ごし、遂にその日がやってきた。

自己分析の域を出ないが、体調は良好、足の疲労等も問題ない。

 

目の前に立つのは、異国の同期。

日本に来てから、なんやかんや、世話になる機会が多かった、漆黒のウマ娘。

 

『―――体調は、どうかな?』

『良好だ。充実した日々を過ごせたお蔭だ』

『そう、それは良かった。ルドルフの協力のお蔭ですね』

『……君も、だろう?』

『何の事でしょう?』

『シンボリルドルフ本人から聞いている。海外から来たジャパンカップ出走者の支援等は、君が言いだした事なんだろう?』

 

私の言葉に、視線を逸らし口笛を吹き始めるブラックテイル。

 

『―――始まりは、スタネーラの勝った時のレースを、君とシンボリルドルフが見た時。そこから、カツラギエースの時、シンボリルドルフの時と、君はジャパンカップを―――もっと言うなら、【日本のレースに参加する為海外から来たウマ娘】を見てきた。そして君は時の生徒会長、シンザンに直訴した、と……そう聞いている』

『あー……若気の至り、ってヤツなので掘り下げないで貰えると……』

 

―――そう。私が世話になった東京のガイドマップなどは、全て彼女の直訴から生まれたモノだったのだ。

目の前の彼女は、自分が見てきた【海外から来たウマ娘】が日本で過ごす中で感じて来た不満を、問題を、洗い出し、解決策を模索し……己の考えを纏めた書類を片手に、生徒会室に、もっと言えばその先、URAへと叩きつけたという。

 

時差の問題、気候の問題、バ場の問題、トレーニングの仕方の差―――果てには、ウマ娘の出身国固有の問題、信仰する宗教の問題まで、全て事細かに調べ、問題点を洗い出した。その努力の結晶が、私がこうして体調、精神ともに万全の状態でジャパンカップに挑める『今』に繋がっている。

 

『―――感謝を、ブラックテイル。貴方のお蔭で、私は……私達は、全力をこのレースで出せる』

『買いかぶり過ぎですよ、モンジュー』

『謙遜も程々にした方が良い。君の活動は、確実に成果を出している……少なくとも、私がこうして、欧州で走っていた時と同じ位万全の状態で挑めるのは、君のお蔭だろう』

 

私の言葉に、ブラックテイルが、目を見開く。

深海の如き、深い蒼の瞳が、私を見つめる。

 

『―――欧州で走っていた時と、同じ位、ですか。それは……えぇ、それは良かった』

 

視線が、変わる。

まるで、何処か遠くを見ているような……しかし、確かに、私を見ている、ような……

その視線に―――何故か、懐かしさを感じてしまう、私が居た。

 

 

 

 

 

『―――世界の頂に立つウマ娘、モンジュー参戦!エルコンドルパサーをも差し切った凱旋門賞ウマ娘は、ここ東京レース場でどのような走りを見せてくれるのでしょうか!』

『第19回ジャパンカップ、出走取消1名ありましたが、間もなく開催されます。細江さん、今日もよろしくお願いします』

『はい、よろしくお願いします』

『今日の展開、どう予想されますか?』

『そうですね、アンブラスモアさんが逃げを打つとは思うのですが、それを前提に他のウマ娘がどう出るか、そこに駆け引きが生まれると思いますね』

『なるほど!今回のジャパンカップ、英・愛・独・仏・日と5か国のダービーウマ娘が揃った豪華メンバーでの開催!集まった海外の強豪を迎え撃つのもまた実力者揃い、誰が勝っても可笑しくありません!』

『凱旋門賞ウマ娘が勝つのか、それとも他の実力者がそれを打ち破るのか、楽しみですね』

『さぁ第19回ジャパンカップ―――今、スタートしました!!!』

 

 

ゲートが開かれる。

それとほぼ同時に1人、『漆黒』が躍り出る。

 

 

『―――おっとこれは!?先頭取ったのはブラックテイル!?ブラックテイルが先頭!アンブラスモア二番手、少し離れてスティンガーとインディジェナス、そのすぐ後ろにステイゴールドといった形!!』

『逃げも出来るとは分かっていましたが、この大一番で……展開が読めなくなりましたね』

『いきなり波乱の展開、主導権を握ったのは今年の日本ダービーウマ娘、ブラックテイルです!!』

 

 

―――ここで、逃げるか!

彼女のレースは、何度も、何度も動画で確認していた。

どちらかと言うと好位抜出を得意としているが、逃げも出来るというのは分かっていた。

だが、この大一番で逃げるか!

 

ブラックテイル、そしてもう1人、アンブラスモア。

彼女達が逃げ、少し離れた場所に2番手集団といった形か。

……ステイゴールドというウマ娘……なんだあの雰囲気は、少し近寄りがたい……

好位についている彼女の後ろ側、後方集団に混ざる事にする。

 

「―――抜け出せ、ないッ!」

「暫く付き合って貰いますよ、アンブラスモアさん」

 

身体の使い方が上手い。

アンブラスモアを抜かせないよう、器用に立ち回って、先頭をキープしている。

アンブラスモアも抜け出そうと速度を上げているようだが……それにすら対応している。

 

(こうなったら流れが早くなりそうだな。上手く周りに合わせ、足を溜めよう)

 

逃げるウマ娘の競り合いに付き合ってはいけない。

慣れないペースは容赦なく体力を削り取る。

2人のうちどちらかが諦めるか、諦めずに互いに沈むか……そこに注意しながら、周りに合わせる方向に動く。

 

 

『さぁ改めて先頭から見て行きましょう。先頭はブラックテイル、半バ身程離れてアンブラスモアが追走していきます。3バ身離れてスティンガー、そこから開いてインディジェナスここで1000m通過しました59秒といった具合、インディジェナスのすぐ後ろにタイガーヒル、ステイゴールドと続きます。1バ身離れてオースミブライト、やや後ろにハイライズ、11番フルーツオブラブ、そして注目の面々、3番人気グラスワンダーが居てそのすぐ後ろにラスカルスズカ、やや離れて2番人気、日本総大将スペシャルウィークが此処に居ます!』

 

 

ペースは……日本のレースの並程度、といった具合か。

これでは、逃げ2人の潰しあいとまでは発展しないだろう。

となると、問題なのは前残りの展開にならないようにする事、つまりは仕掛け時……

 

(日本の芝への適応はそれなり以上に出来ている、それを考慮するならば―――最終コーナーの差し掛かり、そこがポイントだな)

 

日本の芝は、欧州と比べ『軽い』。

その為、レースの流れが早くなりやすい。

そうした特徴、そして自分の脚質、それらを考えるなら、仕掛け時はブラックテイルが最終コーナーに差し掛かった辺り、そこで上がるべきと判断する。

 

(差し寄りの位置に居るスペシャルウィーク、彼女の上がるタイミングも見ておかなくては……!?)

 

 

 

 

 

―――――今まで、無意識に『前世の走り』をしていた。

それに気が付いたのは、菊花賞の後……『先輩』に怒られた、あの日の後だった。

 

未来を変えようと思っていたのに、過去をなぞってしまっていた。

これでは、変えたくても、何も変わらなくて仕方の無い事だろう。

―――だから、今、この瞬間から!!!

 

(走ってやるさ、『ウマ娘ブラックテイル』のレースを!!!)

 

 

『さぁ間もなく第3コーナー……え、ここで!?ここで仕掛けるブラックテイル!?』

 

 

―――さぁ、御覧じろ!

これが『私』の走り!これが『この』ジャパンカップでの走りだ!!!

 

 

『これはダービーの再現か!?府中第3コーナーから1000m、超々ロングスパートです!!!』

『彼女なら走れる、それは分かっていますが……』

 

 

「これは、ダービーの……!?」

「先輩、ここでやってきますか!」

「動画は見てたけど、本当にやるなんてー!?」

 

―――あぁ、なんだろうな。

無意識に纏っていた『枷』が外れたような、そんな開放感!

これが、これが、『(ウマ娘)』の、走りだ―――!!!

 

 

 

 

 

(どうする、どうする、どうする―――!?)

 

想定よりもかなり早いスパート。

いや、想定はしていなかった訳では無い。

だが、本当にこの場でやるとは思っていなくて、一瞬頭が真っ白になってしまった。

 

(間違いなく彼女は走れる!ダービーの時と同じだ、彼女はこのまま走り切れる!)

 

約1000mにも及ぶ超ロングスパート。

何も知らないで聞いたら、自殺行為としか考えられない行為。

だが、彼女は出来る、出来てしまうのだ。

彼女はそれを、最高の舞台で―――ダービーの舞台で、証明したのだから!

 

(―――2分25秒台。芝2400mをそれで走り切る為のタイミングは、何処だ!?)

 

そう、日本のレースは『早い』。

今年の日本のダービーは2分25秒2、レコードタイムでの決着と聞く。

それに対し、私が先日勝利した凱旋門賞のタイムは―――2分38秒5。

タイムにして13秒以上の差。

何もかもが違うレースにおいて、今年のレコードタイムを走るウマ娘に対し、仕掛けるタイミングが分からない。

悩み、考え―――情けないが、他者に委ねる事を選択する。

 

(―――スペシャルウィーク、君に合わせる!)

 

分からない以上、仕掛け時を分かっているウマ娘に合わせ、地力の比べ合いに持ち込む。

それこそが勝つための唯一の手段と判断し、神経を私の前、スペシャルウィークに集中させる。

一挙一動を見逃すまいと集中し……彼女が、身体を外に出したのを、確認する。

 

(ここかッ!!!)

 

合わせ、私も動く。

動くタイミングさえ分かれば、後はそこから瞬時に己の走りを最適化させるのみ。

 

(グラスワンダーも出てきたか!)

 

青い勝負服、グラスワンダーも仕掛けて来たのを確認する。

他人任せという情けない選択肢だが、結果としては最善手だった。

仕掛け時を間違っては、彼女達との競い合いに参加すら出来なかったはずだ。

 

 

『さぁ第4コーナー府中の坂を駆け抜けるブラックテイル!アンブラスモアも遅れてスパートをかけていく!後続勢が慌てて出て来る最初に来るのはスペシャルウィークだ!モンジューとグラスワンダーも仕掛ける!!』

 

 

スペシャルウィークを先頭に、少し後ろ、外に私、内にグラスワンダーの一塊。

前を行くウマ娘達を抜き、一気に上がっていく。

どうするかの判断に手間取っていたのだろう他のウマ娘達も、慌ててスパートをかけ始めるのが見える。

 

(―――だが、恐らく彼女たちは間に合わない!)

 

直感めいたものを感じる。

恐らく、今からスパートをかけ始めたウマ娘達じゃ、届かない。

先頭へ―――『漆黒』へと届くのは、私達3人だけだ、と。

 

 

『最強の3人だ!最強の3人がぐんぐん上がってくる!しかし先頭まではまだ差がある!『漆黒』までは、まだ差がある!!今先頭ブラックテイルが、最終直線に差し掛かります!!!』

 

 

差を詰めて、追い上げる。

だが、まだそれなり以上に差がある中、ブラックテイルが最終直線に差し掛かる。

東京レース場、500m以上も続く、高低差2mの上がり坂を含めた正念場。

今、ブラックテイルが、そこに1歩足を―――――

 

―――――ゾワリ、と、悪寒が身体中を駆け巡る。

『ナニカ』が、起きる。

頭ではない、身体でも無い―――もっと奥底、『魂』が、警鐘を鳴らす。

なんだこれは?何が、一体何が起きると言うのだ、この恐怖にも似た悪寒は―――!!!

 

1歩が何分にも感じられるような、極限まで引き伸ばされた感覚の中、必死に思い出す。

何か、この『魂』から来る警鐘の原因は何かと必死に考えて、考えて―――1つだけ、思い出す。

 

それは、凱旋門賞の舞台。

かつて見た、地面が爆発するような末脚で、『踊る様に』軽やかに全てを抜き去った1人のウマ娘の走り。

それを見て感じ、思わず口にしてしまった、1つの言葉。

 

 

『―――――世界が、変わる』

 

 

 

『THE TRINITY』

 

 

 

「―――――ォオオオオオオッ!!!!!!」

 

―――『黒』が、溢れ出る。

揺らめく『黒』がブラックテイルに纏わりつき、1つの形を成す。

人にあらず、それは四足の獣のようで……しかしてそれは、私の知らない生き物の形をしている。

長い首、靡く尾を持つ『ソレ』を、走っている全員が幻視する。

 

『―――【領域】!!!』

「これが、ブラックテイルさんの…!!」

「分からないけど、初めて見るけど……懐かしい……?」

 

一瞬、確かに私達が幻視した『ソレ』が、彼女の身体に吸い込まれる。

溢れ出て、纏わりついていた時よりも、明確に勢いを増した『黒』を纏い、彼女が踏み込む。

メリッ、と、ターフに蹄鉄がめり込む音が、聞こえてくるほどの踏み込み。

―――地面が、爆発したかと一瞬錯覚した。

 

 

『―――加速!加速!!加速したぁ!!!ブラックテイル、脚色は衰えないどころか!まだ伸びる―――!!!』

 

 

『化け物が……!』

 

最早、なりふり構っていられない。

ここで全力を出さずに、何時出すのか!

今ここでこの2人を追い越して、彼女の背中を追わねば―――

 

「――――――フフ、フフフッ……!!!」

 

―――己の身体が、左右に切り裂かれたと、錯覚した。

 

「凄い、けれども―――まだ、まだ届く!!!」

 

―――天駆ける流星に、撃ち抜かれたと、錯覚した。

 

「ごめんなさいね、モンジューさん―――ここからは、逢瀬の時です!!!」

「負けない、私は―――日本一のウマ娘になるんだからぁぁぁ!!!」

 

 

『精神一到何事か成らざらん』

『シューティングスター』

 

 

『【領域】の、ぶつかり合い―――!!!』

 

闇を切り裂き、撃ち抜き、加速していく2人。

負けていられない、そう思い足に力を込めるが……

 

(駄目、か……口惜しい!!!)

 

悔しい事に、これ以上を出せない。

―――何かが、足りないのだ。

エルコンドルパサーと競い合い、凱旋門で至った己の【領域】。

そこに、今この瞬間、たどり着けない。

 

(あの3人との差が、縮まらない……!)

 

アウェーの差……否、それはエルコンドルパサーの存在があるから否定だ。

何が、何が足りないと言うのか―――!!!

 

 

『モンジューの伸びが苦しい!追い上げてくるのはやはりこの2人!!スペシャルウィークだ!!グラスワンダーだ!!スペシャルウィークがやや有利だ!!』

『ブラックテイルも驚異の粘りを見せていますが…!』

 

 

「抜かせてたまるかァァァ!!!」

「いえ、抜かせて貰いますよ……!!!」

「勝つのは、私だァァァッ!!!」

 

 

『―――スペシャルウィークだ!!スペシャルウィークだ!!!勝ったのは日本総大将、スペシャルウィークです!!!』

『スペシャルウィークが秋の天皇賞からの勢いのまま、ジャパンカップを制しました!』

『見事な末脚でしたね……』

『実に見事な差し切りでした!グラスワンダーが半バ身差で2着、3/4バ身差でブラックテイルが3着となりました!凱旋門賞ウマ娘モンジューは伸びきれず4着、5着インディジェナスという結果です!!』

『上位3着までを日本のウマ娘が独占、去年に続いての好成績となりましたね!しかも昨年と違い、日本生まれ日本育ちのスペシャルウィークさんが1着というのも、日本のウマ娘レース発展の証と言えるでしょうね』

 

 

 

 

 

「―――変わ、った。変わった、んだ」

 

―――前世、自分が走ったこのレースは、自分と先輩の間に、1馬身の差が存在していた。

しかし、今、このレースでの差は、3/4バ身。

1/4バ身、言葉にすれば、それだけしか変化していない。

でも、この1/4バ身は……今、この瞬間、『世界』に抗えた、確かな証だ。

 

「それに、確かに分かった。あれは、あの感覚は、間違いない……【領域】、あれが自分の……!」

 

ダービーの時とは違い、確かに実感した。

己の走りの限界を、打ち破った感覚。

間違いなく、【領域】と呼べるそれであった。

グッ、と拳を握り、その感覚を思い出し―――

 

「―――先輩、お疲れ様です」

「グラスさん……ありがとうございました、胸をお借りいたしました」

「いえ、此方こそ」

 

スッ、と自分の前に、グラスさんが来る。

 

「……先輩、見事な走りでした」

「いえ、まだまだです……貴方に、スペシャルウィークさんに、勝てませんでした」

「フフッ、もしほんの少しでも油断していたら、私もスぺちゃんも差し切れなかったですよ、きっと……それだけ、貴方の走りは素晴らしかった」

「お褒め頂き光栄です」

 

握手して、辺りを見渡す。

すると、1人、こっちに近づいて来るのが見えた。

彼女とは自分も話をしたかったので、こちらからも近づく。

 

『モンジュー』

『……ブラックテイル』

『1ヶ月程で、日本のレースを始めて走ってこれだけ……素晴らしい』

『だが、負けは負けだ……悔しいな』

 

実際の所、1ヶ月ほどしか日本の芝への適応期間が無かったにも関わらず、4着まで来ている辺り、モンジューの持つ能力は恐ろしいモノだ。

もしこれが適応期間がもっと長かったら……いや、考えないでおこう。

 

『モンジュー』

『なんだ?』

『―――次は、私がそちらに伺おう』

『―――それは』

『誰にも話してない、内緒の話だけど……欧州遠征を視野に入れている』

 

自分の言葉に、モンジューが目を見開く。

少しして、下を向き、肩を震わせる。

 

『―――ク、ククッ……アッハッハッ!!そうか、そうか!!今度は君から来てくれるのか!!!』

『あぁ、そう考えてる。最初からフランスに行くか、それとも別の所を挟むかは悩んでいるけれど……最終目標は、【開かずの扉】だ』

『それは楽しみだ!!そうだな、その時は君にお見せしよう!私の、本当の力を!!』

『楽しみにしているよ、モンジュー』

『あぁ、私も君と再戦出来る日を楽しみに待っているよ、異国の友!』

 

握手を、と思って手を差し出そうとしたけれど、それよりも早く、モンジューが抱きしめて来る。

―――チュッ、という音と、頬に柔らかなナニカが触れる感触。

 

『モ、モンジュー!?』

『チークキスさ、海外じゃあ普通だぞ?』

『此処は日本だ!と言うか、触れないようにするのが普通じゃあないのか!?』

『細かい事は気にしないでくれ!……君からは、してくれないのか?』

『……あぁ、もう、仕方ないな』

 

軽く頭を掻いた後、頬に触れる寸前まで唇を近付ける。

音だけのモノで済ませ、そっと離れる。

 

『これで勘弁してよ』

『勘弁も何も、満足だ……次走る時は、欧州で』

『うん、次は欧州で』

 

 

 

「セ・ン・パ・イ?」

「―――――グ、グラス、さん?」

「頬にキスマークをつけて、まぁなんてお熱い……」

「い、いえ、あの、その……御免なさい」

「いえ、いえ、なにも責めてなんかいませんよぉ?」

「頬を膨らませて言われても……」

「―――フンッ」

「あのホント御免なさい許してくださいグラスさぁん……」

 




『THE TRINITY』

「ブラックテイル」は人である(人であった)
「ブラックテイル」は競走馬である(競走馬であった)
「ブラックテイル」はウマ娘である

人の頃から数え、合計数十年分の生によって得た「冷静な判断力」
競走馬時代の走りによって理解している、「己の最適な走り」
ウマ娘として生まれた事によって得た、「強靭な身体」

これら全てが噛みあったその時にたどり着いた、『人、競走馬の生を経験したウマ娘ブラックテイル』の領域。
―――これより先の未来は、『競走馬ブラックテイル』の歩みとは同じになる事は無い。



次回から競走馬編に戻る予定です。
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