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エアコンの無い部屋でせめて換気ができるようにと大きく構えられた窓からは、騒がしい程に光が差し込んでくる。
夏場は容赦の無い太陽光に晒され、とてもではないがカーテンを開けてはいられない。
閉め切った部屋の中、夏休みの課題に追われ、2人揃って死んだ目をしていたあの兄妹を思い出す。
ラクガキの跡が残ったちゃぶ台はあの頃のままで。
部屋の中、呼吸もせずに眠る兄の方が、静かに月明かりに照らされていた。
「……あんなに煩かったのに、聞こえないと寂しいもんだね」
寝つきが悪く、唸り声のような寝言をよく上げていたのを思い出す。
大抵の場合、くっつき虫の妹に体を圧迫されていたのが原因だったりするのだが。
「ふふ、ずーっと仲良しさんで、素敵な兄妹だねぇ」
「……素敵な兄妹だったねぇ」
そっと、動かない頬に触れる。
アーティファクトの副作用で色が抜けていたのは髪だけではない。
肌色も、健康的な肌色は見る影もなく、まるで女性のように、あるいは―――――と、考えるほどに、白い。
「ねぇ」
「翔くんはさ、頑張ったよ」
「最後まで投げ出さずに、やらなきゃいけないことを、ちゃんと最後までやった」
「……」
「最後まで、私に「助けて」って、言ってくれなかったね」
「何かできること無いって聞いた時、無いって言われて、ほんとに悲しかったんだからね?」
「まー最後は、先生様の大活躍で、大大逆転を決められた訳だけど」
「……」
「感謝してよ、コース料理くらいご馳走してくれないとワリに合わないかも」
「感謝、して」
「ねぇ」
異世界人さんが言うには、肉体は生きているらしい。
正確に言えば、生きている“フリ”をしているのだとか。
血液が流れ、アーティファクトが生み出した栄養を全身に回している。
手の平に耳を当てれば、溶岩が唸るような、地響きのような、そんな音が聞こえた。
けれど、どれだけ探しても心音はせず。
呼吸音は聞こえず。
ただ朽ちない状態を永遠に保つだけ。
「ねぇ」
気丈なつもりだった。
私は先生で、大人だから。
だから、動かない頬に涙が伝った時。
決定的な何かが決壊した。
「………………………………ぅ、ぇ……」
「ぅ……っ、ぅぅ……っ」
愛せるか、と聞かれた。
そんなの。
「……愛してるに、決まってるでしょぉ…………」
それは、きっとあの人が望んでいる物ではない。
友達として、孤立しがちな手の掛かる弟として。
でも、1度関わった人は本当に大切にして、頼み事を断れなくて。
不器用で、真っすぐな彼に。
新海翔という青年に。
「死んで欲しくないに、決まってるでしょぉ……!!」
愛せるか、と聞かれた。
それは、愛されることができるかと、そういう意味でもあって。
翔くんには、愛する人が居たと。
居て、居なくなったと。
そんな彼から、その絶望から、救えるかと。
「…………グスっ、ふ、ぅ……」
無理やりに息を整える。
私が折れてはいけない。
全てを投げ打って、全てを救った彼を。
「翔くん―――――まだ、自分の気持ちは分からないけど」
「でもきっと、きっとね」
「……きっと、好きになるよ」
どんな手を使ってでも救おうと、決めた。
そこが限界だった。
怒涛の如く押し寄せる疲労に流されながら、せめてこの手だけは離すまいと握りしめる。
夜に怯える子供のように、月明かりの下で身を寄せ合い。
私の今日は、急速に閉じ始めた。