麋竺の下僕 〜ああ!曹操が後ろに!〜   作:カシオミル

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第一話 絶対に集落に居座る農民〜劉玄徳の脅威になんて負けない!〜

古代中国、時は三国時代。

 

 あちこちで争いが起き、山賊海賊が当たり前のように跳梁跋扈していた。

 良好な統治に努めるべき官僚はと言えば、権力争いに明け暮れ、民からはひたすら搾取をするばかり。

 黄巾の乱が発生するのも当然のことと言えた。

 

 こうした世の中で、ある程度身の安全が保障され、食糧生産に不足しない、力のある勢力に所属できた自分は幸運というべきか。

 まあ、この徐州を治めている方が、曹なんとかに喧嘩を売ったせいでえらいことになりつつあるみたいだが。

 

 そんなことを考えながら粟(あわ)の種を蒔いた畑に満遍なく水やりをしていると、突然、下男集団の班長が声をかけてきた。

 

 

「おーい、亥幣―。ご主人様が呼んでるぞ。早く来い。」

 

 一体何だ。普段なら「怠けるな」「仕事しろ」と煩い班長が、仕事を中断させてまで呼びつけるなんて。ただ、無視すると後が怖いので、川に繋いだ水やり用の竹製の道管を近くの同僚に手渡し、畑を出る。

 

急いで下男長の元へ行くと、何人かの下男がすでに集まっていた。さらに数人の下男が集められると、主人の屋敷に引率された。道すがら軽く説明をされたが、なんでも主人が下男の一部を集めて特別なことをしようとしているらしい。

 主人はとてつもない大富豪で、その「糜子仲」という名が遠くにまで知れ渡っているほどだ。しかも浪費家ではなく、資産をさらに増やすことが趣味ときているから、莫大な元手で新しい事業を始めるのかもしれない。

 

 そう思い、話に耳を傾けていると、とんでもない内容が飛び込んできた。

 なんと、「劉玄徳」とかいう奴の手足となり、戦えというものだった。

 

 

 なんで??

 

 

 聞いた途端に思わず顔をしかめてしまったが、誰も責めることはできないだろう。なぜなら、「劉玄徳」という人物は、悪い噂が巷に溢れているからだ。

「義兄弟の誓いを交わしたあと、互いの妻子を鏖殺する」だとか、

「ならず者たちに心酔されている」だとか、あまりに香ばしい物が多い。

 なんと都に攻め上ったこともあるそうで、物騒な人種だとみて間違い無いだろう。

 

 なるべく関わり合いになりたくないと思っていた矢先になんてことだ。運が悪いにもほどがある。

 

 え?俺は名指しで呼ばれた?

 え?劉玄徳の部下と楽しげに話してただろって?

 

 いやいやいや、そんなはずはない。

 確かに主人目当てに来た客人を退屈させないよう、案内がてら話をすることはある。

 時には盛り上がることもあって、最近だと「食べて良し」「農具にして良し」「建材にして良し」の竹の良さに関して意気投合したのが記憶に新しい。

 

 まさかその客人が・・・?

 かなり知的な人で、「略奪が趣味です」みたいな粗暴な感じはしなかったし、そんな訳・・・。

 

 へ、へー。「孫公祐」というすごい教養人で、最近劉玄徳の部下になったらしいと。

 

 そうか、だからならず者の雰囲気がなかったのか。

 

 

 そうか・・・ならしょうがないな。

 

 ってなるか馬鹿!

 

 家畜になりかけのウリ坊に食べ残しや虫食いの野菜の葉をやってたら、多数の猪に囲まれたような気分だ。

 突然退路を断たれ、生死の瀬戸際に立たされてしまった。

 

 猪に囲まれた時はどうにか近くの木に登って逃げ、護身用の彼岸花の毒抜きに使った水をぶっかけて難を逃れたが、今回もどうにか回避できないだろうか。

 

 あっ、そうだ。彼岸花で思い出した!獣害・鳥害対策に彼岸花の毒を使っているが、その第一人者である自分がいなくなっても大丈夫か、という線で切りかえしてみよう。彼岸花の毒は、容量を間違えるとネズミどころか人間でも危ないからな。かく言う自分が、毒の扱いを誤って死にかけたこともある。

 毒は小鳥やネズミ、猪の襲撃を激減させ、飢餓や傷病を減らした神様ではあるが、それと同時に死を司る神でもあることには変わりない。その扱いの難しさが頭に浮かぶと同時に、苦難の道のりも思い出してしまう。

 

 当初は、配給された己の粟に毒をかけ、外に放置するとかいうことをしていたため、狂人を見るような目で見られた。排斥されなかったのは、粟を食い荒らし、糞便を撒き散らす小鳥やネズミがバタバタと死んでいくことを好意的に見られていたからだろう。

 そんな好悪を綯交ぜにした視線の中で、時には毒に苦しみながら試行錯誤を続けた結果、粟や死骸の毒抜きが可能になった。まんまとやって来た小鳥の焼き鳥をオカズに、炊いた粟を掻っ込めるようになったのだ。その内に、肉の魅力には抗えないようで、周りからコツを聞かれるようになっていき、最終的には集落全体に広まっていった。

 こちらの説明をきちんと聞かず、毒に苦しむ輩もいたが、自分の経験をもとに有効な野草を煎じて飲ませ、回復させたこともあった。

 

 現実に意識を戻すと、毒と薬草に詳しくなった自分は毒の事故の再発に備えてこの集落にいた方がいいはずだと、本当の思惑を隠しつつ迫ってみせる。

 

 ここが俺の平穏な人生を守れるかどうかの分かれ目だ。

 頼む!どうか取り下げてくれぇぇぇ!

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