麋竺の下僕 〜ああ!曹操が後ろに!〜   作:カシオミル

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第三話 曹軍一般兵の受難

 現在、我々曹軍は本拠地「兗州」の東端、泰山郡を発ち、南に位置する「徐州」へ侵攻している。

 「徐州」は黄河の恵みを受けて繁栄しているため、多少の苦戦があるかもしれないと思われていたが、当初の予想から拍子はずれなほどうまくいった。

 陶謙の軍が広威で布陣を広げていたようだが、于禁将軍がそれをあっさり打ち倒し、徐州の中でも豊かな彭城国を占領することに成功したのだ。後から来た陶謙が主力の丹陽兵を率いて逆撃を試みるも、それも伏兵と奇襲で返り討ちにしてしまったらしい。

 

 一兵卒の自分には詳しい話は回ってきていないが、陶謙配下の闕宣が泰山郡を襲撃してきたことへの報復がこの戦いのきっかけだったそうだ。

 山がちで大した略奪も見込めない泰山郡を襲って、豊かな彭城国を失うなど馬鹿なことをしたものだと宴席で将軍が笑っていた。確かに、このまま楽勝で侵攻と略奪を楽しめると思うと、こちらとしてもありがたい限りである。

 

 そのまま時に村々を襲撃・略奪し、時に新たに陣を広げる場所を探しながら戦線を拡大していくと、奇妙な集団とぶつかることとなった。

 

 それは、兵隊と見るにはあまりに軽装で、移動慣れしていない、馬車を引いた農民達だった。

 

 先の戦いで主力を徹底的に叩き潰したことで、徐州の正規兵は壊滅し、這々の体で逃げ帰った陶謙は引きこもりになったという情報もあることから、目の前にいるのは兵隊ではないと判断された。恐らく、戦地から逃げ出そうとした地主か商人だろうとのことだ。

 どうにか体裁を整えようと長い竹槍で武装しているようだが、全く脅威ではない。腰の引けた農民兵では槍を扱うどころか、槍に振り回されるのがオチだ。襲うにはこの上ない相手と言える。

 

 相手もこちらに気づいたようだが、我々が逃亡を許すことはない。最早、開戦不可避の距離となっているからだ。

 しかも、実力差が如実に出やすい平野での戦いと来た。蹂躙できる見込みしかない。

 

 周りの将兵も同様に考えたようで、行軍と照りつける陽光の疲弊もあってか、いつもより隊列を整える速度が緩慢になっていた。

 しかし、それがまさに命取りだったのだ。

 

 こちらが戦闘態勢に移る最中、奴らが素早く竹細工で簡易な防壁を組み上げ、その後ろに隠れた瞬間から、術中に嵌っていたのだ。籠城にもならない籠城にむしろ好都合と思い、危機感どころか楽観すら抱いた次の瞬間、空を埋め尽くす彗星が降り注いできた。

 

 

 

 

 

 

 最初の一斉射で、曹軍の前線が一気に乱れた。

 それもそのはず。矢の雨どころか、流星の雨が襲いかかってきたのだから。

 しかも、腕とは比べ物にならない膂力を誇る、脚の踏み込みによって放たれた投擲だ。

 

 裕福な曹軍は尖兵までも兜鎧を身につけていたが、そんなものは大した障害にもならなかった。

 矢の貫通対策に硬さを追求した兜鎧は、流星の衝撃を吸収することなく着用者にそのまま伝え、鍛えようのない内臓へと届ける。

 先頭の兵が次々と蹲っていき、後続の兵を足止めするのが遠くからでもよく見えた。

 

 

 孫公祐様もその様子を確認できたのか、投石部隊であるこちらに近づき、話しかけてきた。

 

「対城兵器の投石機を小型化し、対人用にしたのがここまで有効とはな。曹軍と野戦でやり合う無茶に、我々が頭を悩ませた日々は無駄ではなかった訳だ。して、投擲用の石の残りはあとどれだけだ?」

 

「はい、辺りの小石を拾い集めましたが、あと2回分がやっとです。それが終わったら、例のアレを頼みに突撃するしかないでしょう。」

 

「まあ、そうなるか・・・。ここまできたら、劉玄徳様を信じるのみだな。よし!皆の者!投石を終え次第、投石機を急ぎ解体し、竹槍と籠に戻せ!」

 

 

 

 

 周囲の同輩が、鎧兜を着けていてもバタバタと倒れていく。普通ではありえない高度、ありえない飛距離で飛来する投石は、尋常でない威力と風切り音を伴って大地に吶喊する。

 

 「な・・・なんだこれウガッ!」

 

 「グアァァ!腕がっ!これじゃ剣も持てねぇっ。」

 

 「おい、しっかりしろ!くそっ鎧があっても駄目なのか!」

 

 

 前線の隊列などすっかり崩れ、攻めかかることも、速やかにに退却することもままならない。

 そうこうしているうちに周囲は打ち倒された友軍で溢れ返り、まさに地獄そのものの様相を示していた。

 自軍の後方からは、慌てたかのように返しの矢が飛び始めるが、竹を密集させた壁に阻まれて牽制にもならない。

 

 士気が大きく下がり、総崩れになるかと思われたその時、後方にいて投石と混乱から免れた将軍から指示が飛んできた。

 

「かがんで身を低くしろ!どうせすぐ石が尽きる!その時こそ奴らに目に物見せてやれ!」

 

 確かにそうだ。

 そんな大量の石なんて運搬できるものではないし、見たところそんな様子もなかった。他の無事な兵とともに指示通り身をかがめていると、須臾の間に石の雨と地獄の時間は終わりを見せた。それなりの被害は受けたが、元々の兵力差を考えれば、こちらにはまだまだ多数の兵が残っている。

 

 「見よ!投石など瞬く間に終わった!」

 

 「農民兵など恐るるに足りず!」

 

 

 「今こそ反撃の時!突撃で弱卒共を蹴散らせ!」

 

 「おおおぉ!」

 

 上級武官と将軍の声に鼓舞され、負傷を免れた同胞が次々と突撃していく。隊列もろくに組んでいなかったが、そんなことをしている間に逃げられると考えたからだろう。もう既に、農民の何人かが逃げているのが見える。自分もそれにならい、剣を構えて足を踏み出したまさにその時、先行した同胞の悲鳴が響き渡った。

 

 そちらへ目を向けると、足を押さえたり、倒れて身悶えしている仲間の姿があった。敵の姿も飛び道具も無いにも関わらず、負傷して足止めさせられているのだ。遠目からでは何が起こっているのか分からず、恐慌が曹軍全体に広がる。

 その隙はあまりにも致命的で、農民兵相手に逆突撃を仕掛けられ、先走って孤立した仲間が次々と討ち取られていく。

 

 そして、助けに向かおうとそれに意識を取られた空白の間に、赤熱する閃光が瞬き、背後から紅蓮の輝きが高熱を伴って出現する。

 今、ようやく分かった。この場から離れた奴らは逃げ出したんじゃない。ここまでの全てが囮!後方の兵糧を無防備にさせ、待機していた伏兵へ伝えて焼き払わせたんだ!

 本隊と離れきったこの時、大軍であることが自分たちに牙を向く。こいつらは俺たちを飢え死にさせる気だ!

 

 

 

 


 

<嘘のようで本当の話>

曹操は、陶謙治める徐州に攻め入ったはいいものの、兵糧が続かず、結局撤退しているぞ!

 

豊穣な土地と広い領地を得られる好機だったのに、一過性の略奪で終わってしまったんだ。

その裏には何があったんだろうね!

 

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