麋竺の下僕 〜ああ!曹操が後ろに!〜   作:カシオミル

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第八話 竹は万能です。いや本当に。

 

 

 場所は「徐州」の川沿いの廃村。

 曹操の襲撃で無人となっていたが、今、劉備一派の仮拠点へと姿を変えていた。「兗州」から送られてくる、荷と情報の精査のためだ。

 

「竹の船団が到着しました!数は十です!」

 

「曹軍が北西に向けて進軍を始めた模様!」

 

 竹の筏が上流側の「兗州」から流れ着き、川岸に列を作って並び始める。物資と情報が続々と雪崩れ込み、元廃村とは思えぬ様相を示していた。

 

 

 

「しかし、よかったのでしょうか?敵に粟を送って。」

 

「ええ。飢えた集団が何より恐ろしいのは黄巾軍を見てもわかるでしょう?余っていた粟で敵兵の戦意を削ぎ、包囲網形成の時間を稼げたなら悪くありません。」

 

 コクゾウムシも仕込みましたし。そう呟いて孫公祐は部下から木簡へ視線を戻した。

 

 先だっての「兗州」は敗戦直後ではあるものの、餓死目前ではない状態。

 そんな中で戦争を強行すれば、更なる敗北の危険がある上に人心は離れていく。逆に、勢力の回復に手をかければかけるほど、知らぬ内にコクゾウムシで食糧を損耗させられる。

 それを思えば、戦端を開くのは今しかなかったのだろう。曹孟徳も全てを看破していた訳では無いようだが、流石というべきか。

 

 しかし、だとしてももう遅い。簡易といえど包囲網なのだ。

 さらにそれを為すにあたり、北東の公孫家、西の呂奉先、南西の袁家と、我々山賊上がりとは一線を画す勢力が揃い踏みと来た。

 個人の武勇頼りという点で突破口となり得る呂奉先を討ち取ることにしたようだが、彼の持つ武力は尋常ではなく、決して容易なことではない。

 

 

 

 

「大変だ!北西じゃない!こっちに曹家の軍が来るぞぉ!」

 

 偵察部隊の狼煙を確認したのだろう、最後に来た筏の人夫が拠点へと飛び込んで来た。

 

 その一報は数瞬と経たず陣内を大きく震え上がらせる。

 無理もない。宦官の家系でありながらその武で以って「兗州」を手にし、王朝も傾けた黄巾軍すら斥ける曹孟徳の脅威は衆目の知るところ。それを前に平静を保つことは困難だろう。

 

 

「馬防柵があるのですぐには来ません!予定通り撤退します!残った食糧を持って、今来た竹の船団に乗り込んで下さい!」

 

 

 そう、かつてならいざ知らず、今は馬防柵がある。

 「兗州」と「徐州」を隔てる山より繋がる林道に、「兗州」からもかき集めた竹の杭が幾多も柵状に立ち並ぶ。

 

 これは、人通りの少ない川辺に竹筒の漁獲罠を沈める際、その足で設置されたものだ。どちらも閑所でなければ困る上、定期的な確認が欠かせないために一纏めの作業として扱われていた。

 当初、罠はおまけで、馬防柵の端材で罠を作っていたというのは余談だ。

 

 

 (なるほど・・・やはりそう来ましたか。)

 

 孫公祐にとって、ある意味予想通りの展開となった。前回負けたと言えど、曹孟徳が弱りきった「徐州」を放置する訳がない。陽動で呂奉先を牽制しつつ、徐州勢を油断させるのが目的だったようだ。

 

 

 それでも、さっと逃げれば済む話ではある。焦土作戦は褒められたものではないが、既に焦土と化している場合なら話は変わってくる。作物を栽培している訳ではなく、家畜もいない身軽な状況であれば、故郷でも無い土地を捨てるのに躊躇いはない。

 むしろ食糧があると思わせて誘き寄せた上で、飢餓と疲弊で弱体化を強要できるなら、わざわざ仮拠点を建てて活動した成果があるというもの。

 

 

 あとは、手薄になった「兗州」を呂奉先が襲い、粛清を恐れた曹孟徳の部下、陳公台達の内応と合わせて早期制圧を仕掛けるだけ。

 その後、孤立し食糧も切れた曹孟徳を、焦土で挟み撃ちすれば作戦は成功裡に終わる。

 人夫が見た狼煙は、こちらへ曹孟徳の接近を知らせるためだけのものではない。呂奉先に曹孟徳の隙を知らせるためのものでもあるのだ。

 

 

 因果は巡る。曹孟徳はその残忍さによって死地を招く。

 徐州下邳国で行われた虐殺が、今度は曹孟徳を追い詰めるのだ。

 

 

 

「あ、孫公祐様、メンマ(竹の発酵食品)食べます?」

 

「ええ、頂きます。食べれる時に食べておきましょう。」

 

 


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