叫んだ薬売り。当然退魔の剣は抜けなかった。薬売りの着物を掴んだ常世。
そして
ドゴォ!!
「「が…!!」」
化猫の攻撃を喰らい、奴が生み出した、空間へ……飲まれた。
ふわ…
(温かい……師匠の手?……違う。女の人のような)
常世はそっと目を開ける。そこに居たのは美しい女性
(……珠生さん?)
愛おしそうに常世の頭を撫でる珠生。とても心地よい
アアアアアアアアアアアアアア
(はっ)
隣には薬売りと加世。反対隣には小田島が居た。目の前にあったのは過去の光景。珠生はやはりご隠居に酷い目に遭わせられていた。唯一の癒しはこの隠し部屋に住み着いていた仔猫。珠生は自分の食事をすべて仔猫の与えていた。仔猫は珠生が大好きだった。しかし青年時代の伊國に襲われた。すべての食事を仔猫に与えていたためやつれた珠生を襲ったのだ。伊國が悪いのにご隠居は珠生を殴った。怒ったのは大きくなった猫。爪で攻撃した。そして猫は外へ走る
――お前は、外の世界に……。――ねこ、ねこ……お逃げ……。可愛い、可愛い、ねこ……一人で、やっていくんだよ……。
珠生の願いをかなえるためにかなえるために
「さようなら」
こうして珠生は亡くなり、遺体は笹岡が井戸に捨てたのだった。
「……ひどい…ひどすぎるよぉ」
現実に戻った薬売り達。薬売りと化猫以外は階段に居る。過去の光景を見た加世は涙を流す。せっかくの婚礼だったのに誘拐され、ひどい目にあわされた珠生。そんな珠生を癒してくれた猫。自分を大事にしてくれた優しい珠生が暴行され、それが原因で死んだなら恨むだろう。モノノ怪になるだろう。小田島もまさかモノノ怪になる理由がこんなにも残酷で悲しすぎることに俯いてしまう。常世は加世を優しく撫でた後、薬売りと化猫がいる隠し部屋を見る。化猫は過去の事を思い出してしまったのかボロボロ涙を流していた。
「化猫よ。お前の【真】と【理】……しかと、受け取った お前を為したのは、人ではあるが……人の世にある物の怪は、斬らねばならぬ。」
薬売りはそう言って、退魔の剣を宙に掲げた。
「真と、理によって……剣を、解き放つ。」
「師匠」
「え?」
常世の言葉に加世と小田島は部屋へ向かう。そこには抜かれた退魔の剣を持って化猫と戦う見知らぬ男。
「だ、誰だあいつ!」
「薬売りさんはドコ!?」
見知らぬ男が居て代わりに薬売りが居ない。そのことに小田島と加世は慌てる。しかし常世は気にしていない。
「あの人が師匠だよ」
「「え!?」」
小田島と加世は驚く。白くて長い髪、褐色の肌、黄金色の着物を纏っている男が薬売りなのだ。常世は説明する。
「師匠は形、真、理を示して退魔の剣を抜いた。退魔の剣を抜いた師匠はなぜかあの姿になる。そしてあの姿になった師匠は強い」
そうしている内に化猫は倒された。常世は薬売りの下へ走る。
「師匠!」
「常世」
「………化猫は本当は可愛かったんですね」
「そうだな」
二人の視線の先には猫の亡骸。珠生が可愛がっていた猫だ。
「常世ちゃん!」
「薬売り!」
「終わりましたよ」
「化猫はこの通り」
そう言って猫の亡骸を持ち上げる常世。
「………本当はこんなにも可愛かったんだね」
加世は常世と同じ事を言う。
「墓を作ってあげたいんだけどどこかいいところあるかな」
せめて悲しい思いをした猫のために墓を作ってあげたい。そんな常世に小田島が提案する。
「………珠生さんが捨てられた井戸の近くはどうだ?」
これからは珠生の傍に。そう願っての事だ。こうして坂井の化猫騒動は終わった。
「師匠、師匠。門を出る時、声が聞こえたんですよ!」
「声か」
「すごく楽しそうな声。珠生さんと猫ですかね」
「そうだな。きっと」
きっとあの世で幸せに暮らしているだろう