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ざあああぁぁぁぁ
とある雨の日、薬売りと常世は華やかな番傘を差しながら歩いていた。
「さてそろそろ見えるぞ」
「あ、確かに」
二人の視線の先にあったのは橋の向こうにある旅籠「万屋」。番傘を買った時、「この辺りで旅籠ありますかね」と聞いたら、売り子が教えてくれたのだ。
「少々古いですが大きいですねぇ」
「昔からあった建物を旅籠にした。そういうところだろ」
二人はカランコロンと下駄を鳴らしながら橋を渡り、旅籠へ向かった。
ぎいいぃぃぃ
常世がガラスをはめた扉を開ける。しかし薬売りは入らない。
「お嬢ちゃん1人か?ここは旅籠だぜ?早く父ちゃんたちのトコへ帰りな」
「え?父ちゃんはいないよ。師匠だけ」
番頭の男に言われ、常世は後ろにいる薬売りを見る。
カタカタ
「!」
退魔の剣が音を鳴らした。
(居るんだね)
カタカタ
「……薬売りさんよぉ、うちは間に合ってるぜ?そんなとこいられちゃあ客が寄り付かねえ。お嬢ちゃんを連れて他をあたってくんな」
商いに来たと勘違いしているようだ。
「いえいえ、宿を一晩……お願い、したく」
帳場に居る老婆。おそらく女将は薬売りを見て頬を赤く染めた。
「師匠。罪な男」
若い娘から老婆までうっとりさせる薬売りの容姿に常世は呟く。退魔の剣もそう思ったのかカタカタと音を鳴らした。
「ところであんたら薬売りなんだろ?」
「ええ そうです」
「何かお求めですか?」
常世の問いに「歳のせいか腰が痛くってねぇ」と言う。
「何かいい薬あるかい?」
「それではいい薬がありますよ」
こうして今夜は女将相手に商いをすることになった。
***
上の階で薬売りは腰に効く薬を出し、説明をする。
「これは漢方です。この
そう言って漢方を勧める薬売り。しかし女将は悩んでいる。
「でも…苦いんだろ?」
「そりゃ 漢方ですから」
苦い薬は苦手のようだ。
「女将。まずい薬は良薬だと言いますよ」
「常世。『良薬は口に苦し』だ」
「あはは。確かにねぇ。他には?」
常世のボケと薬売りのツッコミに笑いながら他にどんな薬があるかを聞く。
「……女将さんが、この宿を?」
この旅籠にいるだろうモノノ怪がすぐに切れるようこの旅籠について聞く薬売り。
「……まぁね。建物自体は、私が娘時代からあるもんだよ」
「よく壊れないね」
常世の問いには「壊れかけてるところはちゃんと修理してんのさ」と教える。
「宿にする前は……なんだったんですかい?」
「どうだったかねぇ? 年の所為で忘れちまったよ」
その様に話しているとだ。
「ごめんください!」
突然、土間から若い女性の大声が聞こえた。吹き抜けだからよく聞こえる。桃色の手ぬぐいを被った女性は必死にお願いする。しかし番頭曰く帳場はもう閉めたそう。
「もしかして……?」
「最後って私達?」
「そう、お宅らで満室さ」
女将の言葉を聞いて常世は(悪いコトしたなぁ)と思っている。
「実は私、追われているんです!見つかったら……命がありません!」
女性は手ぬぐいを外す。金色の髪に、青い瞳。
(異人?)
薬売りが唐人膏について説明していると女将が席から立ちあがった。
「うるさいねぇ。薬売りさん、唐人膏ってやつを買うから他の奴には売らないでおくれ」
「分かりました」
それを聞いて女将は土間へ向かった。そうしている内に「あんた身重なのぉ!?」と驚く番頭の声が聞こえた。
「追い払っちゃうんですかね」
身重を冷たい雨が降る外に長時間いさせたらやや子が流れてしまうだろう。常世は心配してしまう。
「おやおや。俺達以外の者を心配するなんて珍しい」
「坂井の奴らは協力してくれなかったからです!」
そう話していると「えぇえぇえ!! あの部屋ですかぃ!?」と驚く番頭の声が聞こえた。あの部屋は分からないが女性を入れるのを女将が許してくれたようだ。にしても
「気になりますね」
モノノ怪の真が部屋にあることもあるのだ。
「貼りに行くぞ」
「はい」
お札を貼りに行くことにした。