静まる室内。薬売りと常世の言葉に皆は困惑する。薬売りはそんなことを気にせず「何かに巻かれた痕か……」と天井に埋まっている死体を見上げている。女将と徳次も最初はモノノ怪はいないと思っているが
「ご覧なさい、この死体を」
皆が天井のそれを見て、ごくりと喉を鳴らした。そう…死体はぐるぐるにねじれている。人間には絶対にできないのだ。
「よしよし……」
女性はお腹のやや子を不安にさせない様に優しく撫でている。
「大丈夫なの」
「ええ。お腹のやや子を撫でていたら落ち着いて来たわ」
常世の言葉に女性は答える。最初は恐ろしかったがお腹のやや子を撫でている内に落ち着いてきたようだ。
「ど、どうしてそれがここにあるんだい……っ!?」
突然、女将が声を震わせて少しだけ後ずさる。
「……達磨?」
常世の言う通りそれは達磨。黄色いおくるみを巻いたやや子を模したものだった。
「どこで……これを……?」
「……?この部屋にあった物じゃないの?」
常世が女将を見ながら言う。女性も「この子の言う通りこの部屋にあったんです」と答えた。
「子供が取りに来て……」
「あーそういえば」
確かにたくさんの子供が走り回っていた。その内の誰かの忘れ物かと常世は思った。しかし
「何人も泊まっているでしょう?」
「何を言ってるんだい! 今晩の客に、子連れはそこの薬売りだけだよ!」
今日の宿にいる子供は常世だけだった。
「じゃ、じゃあ! あの足音は? 笑い声は……?女将さんと歩いていた時に聞こえてきたでしょう?」
「? 何も」
「えぇ?あ、お嬢ちゃんもしかして走り回った?」
女性が慌てて常世に聞く。
「常世」
「走り回っていません。他の子たちかと思っていました」
実際、常世は走り回っていない。だから他の子たちだと思っているのだ。
「あ、足音」
「ほら、その辺にも子供たちがたくさん……っ!」
「なんだってぇ?」
常世と女性には聞こえたのに女将たちには聞こえていなかった。
「師匠。向こうからも聞こえます」
「この子の言う通り ほら、その辺にも……っ!」
常世と女性は言うがやはり聞こえない。
「上からも――!?」
「何言ってんだい! ここは最上階だよ!?」
しかしそれ以上に驚くことがあった。
「死体が……」
「消えた」
初めからなかったかのように男の死体は跡形もなく消えていた。その時――嫌な気配が突然吹き上がるように大きくなり、その部屋の襖全てが勢いよく閉じた。
「もっと奥の方からも……あちらからも!」
「師匠!色んな所からたくさんの声が聞こえます!」
女性と常世の言葉を聞いて薬売りは大量の札を出す。
「すぐそこまで来ているぞ」
常世と女性の前に札を貼る。その瞬間
「え?赤くなった!?」
部屋が大量の帯で赤くなった。ただし
「ぎゃあああああああ」
子供達の悲鳴が響き、赤い帯が消えていった。女将と徳次は怯える。
「師匠 形はわかりますか?」
常世は薬売りに聞く。薬売りは白い花の置物に人差し指で触れた。そこには、消えた男の死体から垂れていた水のような物があるからだ。
「ここにいるのは、“屋敷に繋ぎとめられた”モノノ怪。子供……赤子の声、そして――」
薬売りは指で掬った人差し指を嗅いだ。
「羊水」
母のお腹にいるやや子を守るのが役割の羊水が男の死体にあった。
「こりゃあ――【座敷童子】だ」
カチン