すると加世は何かを思ったのか薬売りと常世に聞く。
「“アヤカシ”とかが出たら、薬売りさんと常世ちゃん……またその【退魔の剣】で斬っちゃうんですか?」
また現れたら退魔の剣に形、真、理を示して斬ると思ったようだ。しかし
「……どうして?」
「なんで?」
薬売りと常世は疑問で返した。
「ど、どうしてって……だってぇ!」
化猫の時のことがあったから、聞き返されるなんて思っていなかったのだろう。慌てる加世に常世は言う。
「さっきの場合、加世の問いが間違っているの」
「間違っている?」
常世は説明した。
「師匠が斬るのは“モノノ怪”。加世が言った“アヤカシ”は斬らない」
「“アヤカシ”とは、この世ならざるモノこと。アヤカシなぞ……八百万もあるのだよ。片っ端から斬ったって、きりがない」
常世と薬売りの言葉がよく分からなかったのか「“八百万”は神様の数でしょう?」と加世が言う。
「同じような物だ」
「“八百万”は無数って意味。“アヤカシ”にも使えるの」
「しかし――【モノノ怪】は違う」
「?」
【モノノ怪】は違うと言う言葉に疑問符を浮かべる加世。
「常世ちゃんどういうこと?」
加世はいつも薬売りの傍にいる常世に聞く。
「“モノノ怪”と“アヤカシ”の違いはね」
常世が“モノノ怪”と“アヤカシ”の違いについて説明しようとした時だ。
「お主の、その【退魔の剣】なる物……ちと抜いて、見せてはくれまいか?」
乗客の1人である佐々木が話しかけてきた。髪で隠れてわかりにくいが、滝のような汗をかいていて呼吸も荒い。
「いぃ…」
その様子に加世はドン引きである
「と、常世ちゃん。佐々木さんって危ない人?」
「この人、刀剣類の蒐集が趣味なのかもね。………そして物珍しい刀剣を見ると興奮する悪癖が……」
怪談の様に言う常世。怪談らしい声色が怖かったのか「ひい!」と声を上げた。実際、滝のような汗をかいていて呼吸も荒い。あり得そうな話だ。なので加世は怯える。一方、薬売りは素直に「……抜けません」と答える。
「こいつを抜くには、モノノ怪の【形】と【真】と【理】が、必要なんですよ」
「フンッ。勿体付ける奴に限って、大した霊力はないもんだ」
最下層の方から幻殃斉の声が聴こえてくる。
「それにくらべて私は――」
「………加世。“モノノ怪”と“アヤカシ”についてはあいつが居ないときね」
「えぇー?」
常世の言葉に少々不満気な加世。でも理由はある。
「師匠をバカにするやつに聞かせるのイヤ」
「……あー」
常世の説明に加世は納得した。
ー当夜ー
空は雲に覆われて星は見えなくなっていた。星が無いと方角が分からないのである。でもそれについては大丈夫。三國屋曰く羅針盤は常に北を指している。これを頼りに“鬼門の方角”を目指せば、星が見えずとも正しい方向に進めるそうだ。
「薬売りさん、常世ちゃん。おやすみー」
「おやすみ」
「お休みなさい」
そろそろ眠くなる。なので皆は自分の寝る場所へ向かった。常世も自分が使う布団を敷く。
「師匠、お休みなさい」
「はいはい。お休みなさい」
布団に入って目を閉じる常世。薬売りは隣に寝っ転がり、胸元をポンポン軽く叩いて寝かしつける。
「………すー」
寝始めた。その様子を見た薬売りは常世を起こさないよう静かに起き上がり、甲板へ向かった。
「……風が、止んだな」
甲板でそう呟く薬売り。薬売りの言う通り風が止み、少しずつ大きな雲がそらりす丸の周りに来たのだった。