ただの薬売りの弟子ですよ   作:WATAHUWA

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「常世」

「はい」

 

常世は薬売りの薬箱を持ってくる。受け取った薬売りは背負い、皆がいるところへ行く。天秤にモノノ怪との距離を測ってもらうためだ。

 

「やはりここは、龍の三角“アヤカシの海”!」

 

堂々と言う幻殃斉。その様子に常世は呆れている。

 

「どこからどう見てもそうじゃない」

「まあまあ。自信過剰な人ほどああなるのは無理もない」

 

常世に言い聞かせた後、薬売りは天秤たちが居る引き出しを開ける。一つがふよふよと出てきた

 

「加世さん」

「この子たちも元気にしてたよ」

「あ、天秤さん!」

 

天秤にも久々に会えて喜ぶ。当然疑問符を浮かべるのは幻殃斉だ。

 

「て、天秤……!? なんの“重さ”を量ろうと言うのだ?」

「これは“重さ”ではなく、 “距離”を図る天秤なの!」

 

幻殃斉でも知らない物を教える加世は自慢げだ。

 

「距離? ……一体何との?」

「この世ならざる【モノ】、ですよ」

「退魔の剣が斬るべき存在をね」

 

薬売りと常世の言葉にその場の皆は息を呑む。一応知っている加世もだ。

 

すると

 

ゴゴゴゴゴゴ

 

ぼんやりと明るかったのに暗くなってきた。

 

「何々!?」

「こういう時は」

「確認するのが一番ですよ」

 

薬売りと常世は甲板へ向かう。加世たちも慌てて追いかけた。

 

 

***

 

現れたのは貝や藤壺を混ぜ合わせたような巨大な何かだった。

 

「こ、これが船幽霊の操る “迷い船”か!? こんなに大きいなんて聞いたことがないぞ!」

「絵や文献は意味ないねェ」

「……た、確かに」

 

幻殃斉は絵や文献で迷い船とは何かと調べた。しかし空から現れてくる物はどう見ても船ではない。その為、つい常世の言葉に同意してしまう。

 

「斬って成仏させるにせよ、江戸で見世物にするにせよ、派手な方がよいのだろう」

「そうそう地味だったら面白くもないですよねぇ」

 

「……お主の【退魔の剣】とやらで、斬ってはどうか?」

 

常世が言っていた退魔の剣が斬るべき存在なら斬れるかもしれない。幻殃斉は提案する。佐々木も「ほぉ……見てみたいものよ」と言う。

 

「だ、だから言ったでしょ! 【形】と【真】と【理】が必要だって!」

「それに嘘をつく者もいるからすぐに抜けない」

「………うん」

 

常世の言葉に加世は頷く。坂井家のご隠居達は珠生のことを話すときだって嘘をついていた。そのせいで退魔の剣を抜くのが遅かったのだ。

 

「――その【形】とやらは見えてきたようだぞ」

「え?」

 

空から来る迷い船は止まった。

 

「……来る」

「え?」

 

常世が言った瞬間だった。

 

ズズズズズズズズズズズズズズ

 

「出たァ――――――!!!」

 

加世は傍にいた常世にしがみついてしまう。無理もない。現れた鮒幽霊は人の姿をしていない。骨がたくさん連なっている魚と鳥を混ぜ合わせたように見えるからだ。

「船、幽霊か……」

「違いましたね」

「退魔の剣が、鳴っていない……!」

 

示したら必ず退魔の剣は鳴る。つまり形ではないという事だ。

 

「ん?」

「?」

 

皆が慌てたり、薬売りと常世は気づく。奴らが語り掛けているのだ。

 

(仲間になれぇ)

 

     (仲間になれ)

 

(仲間になれ)

 

(……なりたくない)

 

一方、薬売りは何を求めているかを教える

 

「――仲間になれと、言っている」

「あんな姿になりたくなーいー!」

「きっと中には遭難した元人間がいるんだ。だから仲間を求めている」

「イヤ――――!!(泣)」

 

「船主! 急いで釜戸の灰を集めて持ってきてくれ」

 

 気を取り直した幻殃斉が珍しく的確な指示を三國屋に言う。

 

「は、灰ですか!?」

「そう! 急いで」

「へ、へい! 五浪丸ー!」

「あ、私も手伝う!常世ちゃんも行こ!」

 

加世は常世を連れて三國屋を追いかけた。

 

「五浪丸!急いで釜戸の灰を持ってくるのだ!!」

「へーい」

 

五浪丸は言われた通り、釜戸の灰を掻き出して持ってくる。

 

「も、持ってきましたぁ!!」

「うむ。それだけあるなら十分!次は灰の線で囲うのだ!」

 

「は、はい!」

「へい!」

 

今度は灰の線を描くために走った。

 

「ねぇ常世ちゃん。これって坂井でやった塩の線だよね?なんで灰でやるの?」

 

加世は線を描きながら常世に聞く。

 

「海は塩の元。だから海に棲むアヤカシには効かない。奴らに効くのは薪を燃やしてできた灰なの」

「そっかー。幻殃斉さんってほんとうに修験者なんだー」

 

そうしている内に灰の線を描くのが終った。

 

「これで大丈夫……なの?」

 

恐る恐る言う加世。常世の答えは

 

「微妙」

「え?」

 

微妙とはどういうことか。そう思った時だ。

 

ぴた

 

突然ぴたりと、その動きを止めた。

 

「あ、微妙じゃなかった」

 

次の瞬間だった。

 

 

ズズズズズズズズズズズズズズ

 

船の中まで入ってきた。

 

「だめええ! 効き目無ーい!」

 

常世はやっぱりかという表情。

 

「常世ちゃんどうしてなのー!?(泣)」

 

加世は泣きながら常世にしがみついて聞く。常世は薬売りの下へ連れて行きながら説明する。

 

「薪以外の物を一緒に燃やしたら魔除けの効果はないんだよねぇ。微妙って言った理由はコレ。一般人なら普通薪を束ねた縄も一緒に燃やすから」

「そんなー!!」

 

嘆く加世。一番落ち込んだのは幻殃斉だ。哀れ

 

佐々木は愛刀で船幽霊を斬る。しかし元々死んでいるため刀に海藻類がまとわりついているだけだ。

 

「常世」

「はい」

 

船幽霊のおかげで海面から浮かび上がるそらりす丸阿鼻叫喚の中、薬売りに呼ばれた常世は薬売りと元へ行った。

 

「これからオレはあるものを作りたい。そこで問題だ。この状況で作るべき薬の材料を出せ」

「分かりました」

 

薬売りは薬を調合する時は師匠らしく常世に薬についての問題を出す。常世はいつも通り、この状況で作るべき薬の材料を薬箱から出した。

 

「どうでしょうか?」

「よろしい。正解だ」

 

薬売りは常世が出した材料で薬の調合を始める。

 

「薬売りの方、何とかしてくださいまし……!!」

 

幻殃斉より薬売りの方が信頼できると思ってきたようだ。

 

「……確かに、“薬売り”こそ生業」

 

薬売りはのんびりとゴリゴリと調合をする。

 

「ねえ常世ちゃんどうして薬売りさん薬作ってるの?」

 

薬売りに頼まれて“破邪の祈祷”をする幻殃斉の横で加世は常世に聞いた。

 

 

「薬はね。人を治すだけじゃないの」

「?」

 

「アヤカシは、暗闇を伝って【こちら側】にやってくる。このアヤカシ共は、陽の光を隠せるほどに……その怨念が深まって、いる」

 

和紙に薬を入れ終わると鞠のような形になった。

 

「で、では……ワシらは取り込まれる以外にないと……!?」

「然にあらず。光は、空に在るばかりではないのです」

「加世。目を隠して」

「え?」

 

自分の目を隠す常世に言われ、加世も目を隠す。

 

「目を開けていたら――潰れます、よ」

 

 

外に向かって投げた薬売り。その紙でできた鞠は…

 

カッ

 

一気に光った。薬売りが作ったのは光玉。そのおかげで船幽霊は消え、そらりす丸は海面へ戻れたのだった。

 

 

 

 

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