ただの薬売りの弟子ですよ   作:WATAHUWA

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甲板に来た薬売り達。たくさんの鬼火が浮いていた。

 

「お、鬼火がこんなに……!?」

「明るいのは良いが面妖な……」

 

怯える者もいるし、怯えていない者もいる。

 

「かなりいますね師匠」

「ああ」

 

常世と薬売りは慣れているため怯えていないほうだ。

 

「やはりこの後か」

「何が出るんでしょうね」

 

菖源の悲鳴の後、浮いていた天秤は畳に落ちた。それを見て薬売りが「少々、厄介だ」と常世に言った。なのでこれから少々厄介な物が現れるんだろう。

 

べん

 

『!』

「……琵琶?」

 

常世の言う通り、どこからともなく琵琶の音が聞こえてきた。さらに聞こえてくる琵琶の音。

 

「舳先の方から、何か来る!」

 

幻殃斉の言う通り舳先から何かが来る。琵琶の音もそこから聞こえてきた。

 

「ひぃ!!何アレ!?」

 

加世は常世にしがみつく。そいつは着物を着た恐ろしい顔の魚。人間の様に胡坐をかき、琵琶を鳴らすその姿は恐ろしい。加世が怯えるのも無理もない。

 

「あ、あれはアヤカシ……!?」

 

怯える三國屋

 

「一太刀で斬れそうだ」

 

刀を構える佐々木に幻殃斉が言う。

 

「あれは“海座頭”だ。刀で斬れる手合いではない」

 

海の上を歩き回り、漁師を脅かしたり、海を行く船を手招きして船を転覆させたり、時には船を丸ごと飲み込んでしまう。座頭姿で海上に現れて人を脅かすという説もある。ただし、海座頭が言った言葉に対して素直に応えれば姿を消すのだという。それも知っているため、幻殃斉は「『この旅の行先に何があるかわからない。それが一番怖い』と答えればよいのだ」と怯える三國屋を中心に教えた。

 

 

「船の者達に問う」

 

実際、海座頭は不気味な声で聞いてきた。

 

「一人、一人に問う……答えねば、生きた亡者となって永久に――この海をさまようであろう」

「おお、問うがいい! ……良いな?」

 

幻殃斉は三國屋に言う。

 

「お前が恐ろしいことは、なんだ?」

 

ドスのきいた声で問う海座頭。

 

「あ、あぁ……わわ、私はっこの旅の先に何があるか、わ、わからな――っ!!」

 

 

三國屋は恐怖のあまり答えられない。

 

「師匠まずいですね」

「ああ。彼は間違いなく本当の恐ろしいコトを言う」

 

実際、「お前が“本当に恐ろしいこと”はなんだ?」と急かすように海座頭が聞くとだ。

 

「本当は……っ、金を全て失い、一文無しになってしまうことにございます!!」

 

本当の事を言ってしまった。

 

「わあ。三國屋さん本当の事言っちゃった!」

 

不安げに見る加世。すると琵琶の音が鳴った瞬間、三國屋が苦しむ。

 

「三國屋さん!?」

「しっかりしろ!」

 

加世と幻殃斉が言うが聞こえていない。なぜか「な、南蛮渡来の大事な金魚が……!!」と言う。

 

「え?あの金魚?」

 

三國屋はショックを受けるあまり「大金を払って船の造作を変えてまで運んできたのに……いぃぃ……!!」と膝をついてしまった。

 

「えー?どういうこと?」

 

疑問符を浮かべる加世。そんな加世に薬売りと常世は言う。

 

「様子からして恐ろしい幻を見せられたのだろう」

「金魚がって言ってたから生簀の金魚が全部死んだってことだね」

 

「お前が一番、恐ろしいことはなんだ?」

 

動じない佐々木は、簡単にそれを言ってのけた。

 

「この世に怖いものなど……俺にはない」

 

その様子に加世は「……あり得そう」と呟いてしまう。佐々木曰く腰の刀を手に入れてからは百人斬って来たそうだ。佐々木は海座頭を斬ろうしたが

 

べん

 

「う、うわあああ!!」

 

なぜか恐怖の悲鳴を上げながら床を刺していた。言葉からして今まで斬ってきた人たちの亡霊に襲われているのだろう。とうとう佐々木は倒れてしまった。本当の事を言ってもウソを言っても恐ろしい幻を見せられるという事だ。

 

「女ァアアア!!」

「うぇっ!?」

 

今度は加世だ。しかし加世にとって今は海座頭が怖い。

 

「無理もない」

「見た目があれですからね」

 

薬売りと常世は納得する。加世は「でも何だろう……私が一番怖いことって……」と素直に考える。その結果

 

「え、えと……私はまだ、素敵な恋とかもしてないし、これからきっと楽しいことだっていっぱいあるはず……! 幸せな結婚して、かわいい子供とか出来て…………でも、そんなこれからのこと何も経験しないで死んじゃうってことが一番怖いのかな」

 

これからあるだろう女の子らしい幸せを経験する前に死ぬ。確かにそれも怖い物だろう。

 

べん

 

「うぅ、ぁああ、ぁあああ!!!」

 

お腹を押さえ苦しむ加世。少しすると落ち着いたが足元を見てふらつく

 

 

ガシ

 

倒れる前に薬売りが受け止めた。

 

「加世!…加世!」

 

常世はぺしぺしと加世の顔を軽く叩く。そのおかげで意識は戻ったのか

 

「いやああああ!! わ、私もう結婚なんてしない! 子供なんて絶対産みたくない!!」

 

錯乱するほど恐ろしい幻を見てしまったようだ。

 

「落ち着いて。海座頭が見せるのは“幻”。悪い夢を見たに過ぎない。加世さんの【真】は、何も変わらない」

「師匠の言う通り。加世は素敵な恋をしていいし、結婚して可愛い子を産んでもいいんだよ」

「っ……薬売り、さん。……常世ちゃん」

 

薬売りと常世のおかげでなんとか落ち着いてくれた。

 

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